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流石に普通サイズの馬車に、人間五人と獣二匹で乗ると少々狭く感じる。

「あ、あの……ヴィレーム様」

「ん?」

「恥ずかしいのですが……」

ヴィレームは、狭いからと言う理由でフィオナを自らの膝の上に乗せた。

「ほら、この人数だと狭いし。それにアトラスだってブレソールの膝に乗っているし。全然恥ずかしい事じゃないよ」

ヴィレームは、至極当然とばかりに満面な笑みで話す。
彼の言葉にブレソールを見ると、確かにアトラスを膝に乗せている。何故飼い主であるシャルロットではなく、ブレソールの上かと言うと、シャルロット曰くデカくて重いから潰れる、からだそうだ。ただブレソールは下に見られているのか、アトラスは偉そうにふんぞり返りながら座っている。

「アトラスは、鳥ですからっ」

それに、そもそもおかしい。正面を見ると、フリュイは一人分の席を占領しているし、その隣のオリフェオなど二人分の席を占領していた。その向かい側には四人と一匹で座っていると言うのに……この差は一体……。

「もしかして……僕にこういう風にされるの、嫌だった?」

眉根を寄せしゅんとなるヴィレームに、フィオナは言葉が詰まる。
そう言う聞き方も、その顔もズルい……。そんな風に言われたら、嫌なんて言える筈がない。

「嫌、じゃない……です」

きっと今顔は真っ赤になっていそうだ。フィオナは熱が一気に顔に集まるのを感じた。








「成る程。それはまた興味深いですね、ヴィレーム様?」

程なくして、屋敷に帰宅したフィオナ達は早速ことの経緯をヴィレーム達にも話した。するとクルトが眉を上げる。

「……心臓だけが抜き取られていたと聞いた時から、嫌な感じはしていたんだ」

ヴィレームは意味ありげに話している。何かを知っているのだろう。

「フィオナ、君の弟はきっと……」

そこまで言うと、言い辛いのか口を閉じてしまった。

「勿体ぶらないで、さっさとお話しなさいませ」

シャルロットが急かすが、ヴィレームは黙りだ。その様子を見たクルトはため息を吐く。

「フィオナ様の弟君は、古代魔法を使っているかと思われます」

「古代魔法?」

「はい。古い文献で見た記憶があります。魔力は生物の心の臓に集まるとされ、それを食らえば相手の魔力を自らの身体に取り込む事が出来ると。ただ、古代魔法は危ういものが多く、我が国でもそうですが、大半の魔法を扱う国々では、古代魔法は今は禁止されております。ただ、それをどの様な経緯で知ったのかは分かりませんが……」

魔法を実際に目の当たりにした今でも信じ難いのに、更に古代魔法?もう何がなんだか分からない……。フィオナは頭がついていかず困惑する。ただ分かる事は一つだけある。ヨハンが古代魔法なるものを使い、学院の生徒等の心臓を抜き取り……そして。

「心臓を、ヨハンが……食べ、た……?」

余りの事実に、目眩がする。全身が煩いくらいに脈打ち、冷たい汗が伝うのを感じた。

「フィオナ」

足元がフラついた。するとヴィレームに肩を抱かれ、引き寄せられた。何時もならばそれだけで安心が出来て、動揺や不安などは吹き飛ぶ。だが、今は無理そうだ。

「ヴィレーム、さまっ……弟が、ヨハンがっ、心臓をっ」

縋り付く様にして、彼に身を寄せる。

「フィオナ、落ち着いて」

落ち着かせる為に、彼が優しく背や頭を撫でてくれる。心地が良い……だが動悸は治まりそうにない。その為、フィオナが落ち着くまで暫し話は中断された。

ーもう直ぐ、手に入る予定だから……ー

ふと、あの時のヨハンの言葉が蘇る。フィオナはハッとした。あれは一体どういう意味だったのか……。また誰かを殺めるつもりなのか……肌が一気に粟立つ。そして、少し冷静さを取り戻した。

「ヴィレーム様……ヨハンが……もう直ぐ手に入るから大丈夫って、話してたんです。その時は何の事か分からなかったんですが、また誰かを殺めて心臓を……」

「彼は今何処に」

ヴィレームが眉根を寄せる。

「屋敷に帰ったんじゃないか?休校になったしな」

ブレソールが話すには、ヴィレームとブレソールが屋敷を出た時、丁度学院からの通達を受け取ったそうだ。だから今朝、幾ら何時もより早かったといえ生徒が誰も居なかったのかと、フィオナは合点がいく。そこで、そう言えば……と思った。

「オリフェオ殿下は、休校になった事は知らなかったんですか?」

フィオナ以外にいた生徒はヨハンを除けばオリフェオだけだ。

「最近はかなり早く登院していたからな。知らせは知らん。……犯人を見つけてやるつもりだったが、まさか自分だったとはな。笑えない話だ」

オリフェオは淡々と話し鼻を鳴らす。その言葉に、フィオナの心臓が跳ねた。気が動転していたとは言え、オリフェオに話す事ではなかった……。確かにオリフェオは、身体を乗っ取られていた。本来なんの責任も罪もない。だが、本人にしてみたらそんな簡単な話では済まないだろう。何しろ自分の身体を使い殺人をさせられていたのだ。しかもその中には、彼にとって大切な友人も含まれている……。その友人の無念を晴らそうと、犯人を自ら探していた結果がこれだ。

完全に配慮が足りなかった。自分の事ばかりで、なんて酷い人間だろう……フィオナは、唇を噛む。

「申し訳、ございません……私が、お話したばかりに……」

「乗っ取られたとはいえ、私の身体を使ったんだ。私には知る権利がある。お前の謝罪はいらん。寧ろ、知らせないで後から知る事になっていたら、ただでは済まなかったがな」

以前は王族なんて傲慢で我儘、人から指図される事が嫌いで、人の意見を聞かない、などと考えていた。確かに口も態度も悪い。だが彼は優しく思い遣りもあり、強い人だとフィオナは思い直し感嘆した。



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