結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

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番外編【卒業シーズン】5面白い経験をしました(大鷹視点)

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「男が話しかけてきた理由ですが……」

 オレは、大学4年生の卒業旅行も兼ねて家族と行った温泉での事を思い出す。紗々さんが卒業旅行の思い出を聞いてきたので話している感じだ。とはいえ、友達と行った旅行ではトラウマ物の体験をしたので、そちらの方は話すことができなかった。思い出すだけで吐きそうになる。

 しかし、家族旅行の方は良い思い出だ。まさか、オレがあんな相談を受けるとは思いもしなかった。すでに10年前になる話なので、他人に話しても問題はないだろう。他人と言っても、紗々さんはオレの妻なのだから。


 あの日、オレは弟の亨と一緒に露天風呂の湯船に浸かっていた。父親は暑がりなので、早々に湯船から上がって出ていった。ちょうどタイミングがよかったので、露天風呂にはオレと弟の2人きりの貸し切り状態だった。

「いよいよ、兄貴も新社会人か。会社でも、どうせモテモテなんだろうな」

「オレは嬉しくない」

「うわあ、モテ男の嫌みな発言だな。とはいえ、モテすぎると大変なことはわかった。それは必ずしも兄貴のせいじゃなかったわけだが……。いや、兄貴の容姿のせいでもあるか……」

 オレは4月から新社会人として実家を出てひとり暮らしを始める。すでに大学からひとり暮らしはしていたが、4月からは親からの仕送りはなく、自らが働いて稼いだ給料で生活することになる。家族と一緒に旅行に行くのも、大学以上に減ることになるだろう。

 せっかくの旅行なのに、モテるのがどうとかいう話をしていても面白くない。もっと楽しい話題で盛り上がりたい。なぜ、弟は面白くもない話題を取り上げるのか。

「兄貴がモテ男だということは置いておくとして。兄貴、どうして河合さんと別れることにしたんだ?仲が悪くて別れたわけじゃないだろ?」

 こういう空気が読めないところが、弟のモテないところだろう。容姿以前の問題である。誰だって、触れて欲しくない話題がひとつや2つあるのに、弟はそのどちらにも踏み込んでくる。

「河合江子とオレは近すぎた。お互いにもっと良い相手がいると思ったから別れただけだ。特に未練はない」

「近すぎたって……。兄貴たちが納得しているのならいいけど。兄貴って、どんな相手と結婚するんだろうな。河合さんがダメなら、どんなタイプだろう。やっぱり、美人で気が強いタイプとか、可愛らしい乙女なタイプとか、はたまた逆に陰キャのオタクとか……。最後のは、あり得ないか」

 風呂で弟の脳みそはふやけてしまっているようだ。弟の発言にあいまいに笑うしかない。そろそろ出たほうがよさそうだ。オレが湯船から上がろうとしたところで、露天風呂につながる扉が開いて、1人の男性が入ってきた。色白の線の細い、気弱そうな男性だ。

 ちょうどよい。貸し切り状態ではなくなった。

 弟に視線を向けると、弟もオレの意図に気付いたのか、湯船のふちに歩いていく。一緒にその場から離れようとしたら、まさかの声をかけられてしまった。

「あの、ぶしつけな質問なのですが、あなたたちの関係って……」

「はあ?兄弟に決まってんだろ?そっちが兄貴で俺が弟。なんか文句でもあるのかよ?」

 突然、赤の他人から声をかけられたと思ったら、何てことはない。オレたちの関係を聞かれただけだった。しかし、気になったとして、初対面の人にいきなりする質問ではない。弟はオレと似ていないせいで兄弟だと思われないことを案外気にしている。

 オレにされた質問なのに弟が答える。

「す、すみません。ご兄弟でしたか……。あの、もうひとつ、質問よろしいでしょうか」

「ムリだね。俺達、もう風呂出るから。行こう兄貴。これ以上、ここに居たらのぼせる」

「ああ、そうだね。すみません。お先に上がらせていただきます」

 オレ達は男の質問に答えずに風呂から上がった。


「あの男性、オレ達に何の用事だったんだろうね」

「どうせ、ロクでもないことに決まってる。見ず知らずの奴が兄貴に声をかけるなんて、ほとんどがナンパ目的だろ」

 風呂から上がり、脱衣所で服を着ながら、先ほどの男性について話しあう。弟の言葉に反論できない自分が嫌になる。今までの経験上、弟の言うことは間違っていない。とはいえ、なんとなく今回の男性は、ナンパ目的でオレに声をかけて来たのではない気がした。

 その日は、そのまま普通に一日が終わった。


 次の日、オレ達が旅館の朝食を取っているときだった。

「あの、昨日の方、ですよね?少し、お話よろしいですか?」

 昨日の男性がオレ達のテーブルにやってきた。男性はひとりではなく。隣に女性を連れていた。2人は色白なところも、気弱そうなところもよく似ていた。

「お前は、昨日の!」

「昨日はその、兄が失礼しました。ええと、私からもお願いします。少しでいいのでお時間をいただけませんか?」

 女性からもお願いされてしまった。律儀に頭を下げている。これは断れる雰囲気ではなかった。



※※※
「という感じで、仕方なく彼らの話を聞くことになりました」

「それで、肝心の話しの内容は?」

 大鷹さんの話しはとても面白い。そして、ここからが話の本筋だ。彼らの話しこそ、今回の重要ポイントだ。

「簡潔に言うと、【今日一日、私たちとデートして欲しい】とのことでした」

「デート?」

「はい、なんでも、彼らには好きな人がいるのですが、たまたま同じ人を好きになったらしくて」

「はあ」

 兄妹で同じ人を好きになる。二次元だとよくある設定である。現実でそのようなことが起きるとは。とはいえ、兄と妹ということはどちらかが同性愛者ということになる。

「その人がまったく自分たちに振り向いてくれなくて、イケメンとデートしているところを見せたら、ヤキモチを焼いてくれるのかと思ったとのことでした」

 なんとまあ、自分勝手な理由で大鷹さんに話しかけたものだ。

「それで、大鷹さんはその話に乗ってあげたと」

「まあ、次の日の予定は絶対に見たいという観光地でもなかったので」

 その後の展開も簡潔に大鷹さんは話してくれた。

 話しかけてきた男女の兄妹と一緒に宿を出た大鷹さんは、彼らの指示のもと、恋人の聖地と呼ばれる公園に行ったり、近場の美術館を見学したりしたそうだ。2人が気になる人はどんな相手か気になった大鷹さんだが、すぐにどんな相手か知ることになったらしい。

「振り向いてくれないと言いながらも、彼は一途に彼らを愛しているようでした。とはいえ、驚きだったのは、彼には双子の姉がいた事でした」

 カオスな展開となってきた。この先の展開が気になり過ぎる。黙って話の続きを促す。

「彼らは双子の姉の存在は知らなかったようです。僕たちの後を相手がつけてきていることには気づいたのですが、彼は双子の姉と追跡していたみたいで、そこから一悶着ありまして」

 つけていた相手に兄妹は気づいて接触した。そうしたら彼に双子の姉がいた。彼らは男女の双子だったが、驚くほど良く似ていた。

「タイプとしては、色白兄妹とは違い、こちらは健康的に日焼けした小麦色の肌に、気の強そうな感じのまったく兄妹とは正反対の姉弟でした」

 ずいぶんとフィクションじみた話だ。これが現実の話だとは到底思えない。とはいえ、大鷹さんが嘘を言うとも思えないので本当なのだろう。

「こうして、僕を置き去りにして、4人は勝手に親しくなり、僕の元を去っていきましたとさ」

「大鷹さんを放置……」

「僕も置いて行かれたことには正直、とても驚きました。でも、彼らが仲直りして新たな絆を築けたのは良かったと思います」

 こうして、私は大鷹さんの奇妙な卒業旅行?の思い出を聞き終えた。

 世の中、面白過ぎる。そして、卒業についての話を聞きたかったのに、肝心の卒業の件についてはまったく触れることがなかったことを後日、思い出すのだった。


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