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番外編【卒業シーズン】4楽しい思い出
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「こういうのだろうか……」
大鷹さんと卒業旅行について話した次の日、夕食後の時間を私は自室でパソコンに妄想を打ち込むことに費やしていた。
「この後、大鷹さんと河合さんの海外の旅行先に木下って女性が現れて、まさかの泊まる宿もスケジュールも同じっていう、偶然にしては出来過ぎの展開となって……」
トントン。
「どうぞお」
ノックをして入ってきたのは大鷹さんだ。慌ててパソコンの画面をスタート画面に戻して、平静を装って入室を許可する。部屋に入ってきた大鷹さんは何やら深刻そうな顔をしている。
「くつろぎ中のところ、すみません。昨日の件で謝りたいことがあって……」
「ああ、昨日の事ですか?構いませんよ。そもそも、嫌な事を思い出させてしまった私にも責任はありますし」
「いえ、そのことですが、面白い思い出があったことを忘れていました。これなら紗々さんに話しても気分も悪くならないので大丈夫です」
昨日の事をかなり気にしているようだった。誰だって思い出したくないことなどあるものだ。それをいちいち追及して無理に話させようとするのは鬼畜の所業だ。私はそこまで非道な人間ではないので、そんなことを大鷹さんに要求することなどない。
「まあ、大鷹さんが言うのなら、聞いてあげましょう。でも、本当に無理はしないでくださいね。リビングに行きますか?」
「そう、ですね。お茶でも準備しましょう」
「お願いします」
私たちは自室を出てリビングに向かった。
「それで、卒業の思い出ですけど、大学の友達とも一緒に旅行に行きましたが、家族ともせっかくだし、一泊二日で近場に旅行ということになったんです」
「ほう」
大学の友達との話ではなかった。かくいう私も、家族と卒業旅行も兼ねて、大学4年生の3月に旅行に行っている。それは単純に旅行するような友達がいなかったという理由だ。大学卒業を機に、社会人となって実家を離れて一人暮らしをすることになる人も多いので、案外、家族で一緒に行く最後の旅行ということで計画する人も多いのかもしれない。
「亨と両親、ついでに守と千沙さんの5人で行ったんですけど」
その時の事を思い出したのか、テーブルの正面に座る大鷹さんは懐かしさに浸っている。これは確かに悲しいトラウマ級の話しではなさそうだ。私は黙って頷いて、話の続きを促す。
「そこで、見ず知らずの男性に話しかけられまして、その男性がいろいろと面白い話を聞かせてくれました」
「……。どういう状況ですか。それ」
「静岡の温泉が有名な場所に行ったんですけど、そこで僕が温泉の湯船につかっていたら、男性に声をかけられたんです。その時に親しくなって、それで」
なんだかよくわからないが、見ず知らずの人に話しかけられて、その後親しくなって、盛り上がれるものだろうか。まあ、婚活なら見ず知らずでも盛り上がれるから、同じようなものか。いや、あれは事前情報があるので完全な見ず知らず、という訳でもない。頭が混乱していると、大鷹さんに苦笑される。
「ごほん、大鷹さんは、男性からもモテる、ということですか?」
とりあえず、いったん落ち着くために、大鷹さんが淹れてくれたルイボスティーを口に含む。咳ばらいをして、大鷹さんの話しを整理するために口を開く。女性にモテモテなことは知っていたが、まさか男性からもモテるとは。まったく意外ではないのが恐ろしい。つまり、大鷹さんは男女問わずモテるということだ。
「いえ、まあ……。そういうことになります、かね?声をかけられたときは驚きましたが、何やら相談があったみたいで」
ここで大鷹さんもルイボスティーを口に含む。さて、この後の展開を予想してみよう。
① 男の相談内容は彼氏とのことで、イケメンな大鷹さんに恥を忍んで、どうやったら彼氏と末永く一緒に居られるか聞いてきた
② 実は彼女と一緒に旅行に来ていたが、大鷹さんに一目ぼれしてしまったらしい。大鷹さんを見かけたら、声をかけて欲しい。一言でもいいから、彼と話してみたいとお願いされた。付き合う気はないので安心して欲しいと言われた。
③ 単純に男が大鷹さんに一目ぼれして、入浴中にナンパした
さて、どれが正解だろうか。そもそも、初対面の人に声をかけるなど、私からしたらかなり難易度が高い。私では大鷹さんに声をかけることはできなかっただろう。その点については男のことを評価したい。
予想をしていたが、大鷹さんが一向に口を開かない。これでは答え合わせができない。
「大鷹、さん?」
「ああ、あの時はかなり驚きましたが、今思えば、かなり切羽詰まった状況だったのでしょう。つい、思い出に浸ってしまいました。それで、男が話しかけてきた理由ですが……」
大鷹さんが口にした内容は、まさに小説でしかありえないような事だった。これは第三者から見たら、かなり興味深い内容だ。楽しいかと言われたら、まあ楽しいと言えるだろう。
大鷹さんと卒業旅行について話した次の日、夕食後の時間を私は自室でパソコンに妄想を打ち込むことに費やしていた。
「この後、大鷹さんと河合さんの海外の旅行先に木下って女性が現れて、まさかの泊まる宿もスケジュールも同じっていう、偶然にしては出来過ぎの展開となって……」
トントン。
「どうぞお」
ノックをして入ってきたのは大鷹さんだ。慌ててパソコンの画面をスタート画面に戻して、平静を装って入室を許可する。部屋に入ってきた大鷹さんは何やら深刻そうな顔をしている。
「くつろぎ中のところ、すみません。昨日の件で謝りたいことがあって……」
「ああ、昨日の事ですか?構いませんよ。そもそも、嫌な事を思い出させてしまった私にも責任はありますし」
「いえ、そのことですが、面白い思い出があったことを忘れていました。これなら紗々さんに話しても気分も悪くならないので大丈夫です」
昨日の事をかなり気にしているようだった。誰だって思い出したくないことなどあるものだ。それをいちいち追及して無理に話させようとするのは鬼畜の所業だ。私はそこまで非道な人間ではないので、そんなことを大鷹さんに要求することなどない。
「まあ、大鷹さんが言うのなら、聞いてあげましょう。でも、本当に無理はしないでくださいね。リビングに行きますか?」
「そう、ですね。お茶でも準備しましょう」
「お願いします」
私たちは自室を出てリビングに向かった。
「それで、卒業の思い出ですけど、大学の友達とも一緒に旅行に行きましたが、家族ともせっかくだし、一泊二日で近場に旅行ということになったんです」
「ほう」
大学の友達との話ではなかった。かくいう私も、家族と卒業旅行も兼ねて、大学4年生の3月に旅行に行っている。それは単純に旅行するような友達がいなかったという理由だ。大学卒業を機に、社会人となって実家を離れて一人暮らしをすることになる人も多いので、案外、家族で一緒に行く最後の旅行ということで計画する人も多いのかもしれない。
「亨と両親、ついでに守と千沙さんの5人で行ったんですけど」
その時の事を思い出したのか、テーブルの正面に座る大鷹さんは懐かしさに浸っている。これは確かに悲しいトラウマ級の話しではなさそうだ。私は黙って頷いて、話の続きを促す。
「そこで、見ず知らずの男性に話しかけられまして、その男性がいろいろと面白い話を聞かせてくれました」
「……。どういう状況ですか。それ」
「静岡の温泉が有名な場所に行ったんですけど、そこで僕が温泉の湯船につかっていたら、男性に声をかけられたんです。その時に親しくなって、それで」
なんだかよくわからないが、見ず知らずの人に話しかけられて、その後親しくなって、盛り上がれるものだろうか。まあ、婚活なら見ず知らずでも盛り上がれるから、同じようなものか。いや、あれは事前情報があるので完全な見ず知らず、という訳でもない。頭が混乱していると、大鷹さんに苦笑される。
「ごほん、大鷹さんは、男性からもモテる、ということですか?」
とりあえず、いったん落ち着くために、大鷹さんが淹れてくれたルイボスティーを口に含む。咳ばらいをして、大鷹さんの話しを整理するために口を開く。女性にモテモテなことは知っていたが、まさか男性からもモテるとは。まったく意外ではないのが恐ろしい。つまり、大鷹さんは男女問わずモテるということだ。
「いえ、まあ……。そういうことになります、かね?声をかけられたときは驚きましたが、何やら相談があったみたいで」
ここで大鷹さんもルイボスティーを口に含む。さて、この後の展開を予想してみよう。
① 男の相談内容は彼氏とのことで、イケメンな大鷹さんに恥を忍んで、どうやったら彼氏と末永く一緒に居られるか聞いてきた
② 実は彼女と一緒に旅行に来ていたが、大鷹さんに一目ぼれしてしまったらしい。大鷹さんを見かけたら、声をかけて欲しい。一言でもいいから、彼と話してみたいとお願いされた。付き合う気はないので安心して欲しいと言われた。
③ 単純に男が大鷹さんに一目ぼれして、入浴中にナンパした
さて、どれが正解だろうか。そもそも、初対面の人に声をかけるなど、私からしたらかなり難易度が高い。私では大鷹さんに声をかけることはできなかっただろう。その点については男のことを評価したい。
予想をしていたが、大鷹さんが一向に口を開かない。これでは答え合わせができない。
「大鷹、さん?」
「ああ、あの時はかなり驚きましたが、今思えば、かなり切羽詰まった状況だったのでしょう。つい、思い出に浸ってしまいました。それで、男が話しかけてきた理由ですが……」
大鷹さんが口にした内容は、まさに小説でしかありえないような事だった。これは第三者から見たら、かなり興味深い内容だ。楽しいかと言われたら、まあ楽しいと言えるだろう。
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