7 / 9
7
しおりを挟む
「―アレ? 開けちゃったんだ?」
「ひっ…!」
金庫に集中していたせいで、彼が戻って来たことに気付かなかった。
気力を振り絞り、ゆっくりと振り返る。
お風呂上りの彼は、笑みを崩さない。
それがとても恐ろしかった。
「何でっ…どうしてキミがボクの物を持っているんだ!」
しぼり出すように言った言葉は、思ったより小さかった。
声が、出ない。
思わず喉を撫でた。
「何でって、欲しかったからだよ」
彼はあっさり言った。
「じっじゃあ、あのイジメの数々も…」
「そう、オレが犯人」
目の前が一瞬にして、黒く染まった。
―絶望。
そうか…。
コレが絶望、か。
「なんっで…どうしてっ…!」
出た声はすでにかすれていた。
「だってガマンならなかったから」
そう言って彼は一歩前に出た。
思わず後ずさる。
「ガマンって何が…」
「お前が他の人を頼るのが」
「何を…」
何を言っているのか分からない。
「だって3年もガマンしてたんだぜ? 子供だったらしょーがないってさ。だから同じ高校に入れるって分かった時は、飛び上がって喜んだんだ」
彼はどんどん歩みを進める。
ボクはどんどん後ろに下がる。
「けれど高校じゃあクラスが別になっただろう? それでオレより仲良いヤツがお前にできるのが、許せなかった。ガマンできなかったんだ」
彼は笑顔を浮かべているものの、その眼は狂気がにじみ出ている。
「だからイジメた。周囲の人間を使わなかったのは、関わらせたくなかったんだ。オレとお前のことに」
「分からない…キミが何を言っているのか、分からないよ!」
ボクはノートを抱えたまま、叫んだ。
「まあお前には理解できないかもな。こういう歪んだ感情はさ」
彼は肩を竦めた。
「オレはお前に頼られたかった。唯一の存在でいたかったんだよ」
「なら何もこんな方法を使わなくてもよかったじゃないか! こんなことをしなくても、ボクにとってキミは特別な存在だったのに!」
「特別と唯一は違うよ。オレはお前に、オレだけを見ていてほしかったんだ」
「見てたし思ってたよ! 例えボクにどんな友達ができたって、キミはボクの唯一の存在だったのに!」
両目が熱くなる。
ボクの思いは彼に伝わっていなかったのか?
こんなに近くにいたのに!
「それでもオレの他に仲良いヤツができれば、オレを思う気持ちは減るだろう? それもイヤだったんだ」
ついにボクの背は壁についてしまった。
やっヤバイ、逃げなきゃ!
そう思うけれど、体が言うことを聞かない!
全身がガクガクと震える。
怖いっ…!
「そんなに脅えるなよ」
彼はそんなボクを見て、苦笑した。
「お前自身を傷付けるようなことはしなかっただろう? それどころか、お前に何かしようとする奴らを消してきたし」
「消したって…」
「ああ、だから生徒会長なんかやってたんだ。権力というのは、持ってた方が何かと得だからな。お前に何かしようと思っている連中を、簡単に消せるぐらいは役に立つものだった」
「…あっ」
思い当たることがあった。
ボクも生徒会書記を二期に渡って務めてきたから、それなりに学校の情報には詳しかった。
彼が会長をしている間に、数人の学生が退学になっていた。
その学生達はガラが悪く、よく人を脅したりイジメをしていた。
だから退学の理由も、素行の悪さからだと聞いていたけれど…。
多分、彼等はイジメを受けているボクを見て、自分達もと考えたんだろうな。
「ひっ…!」
金庫に集中していたせいで、彼が戻って来たことに気付かなかった。
気力を振り絞り、ゆっくりと振り返る。
お風呂上りの彼は、笑みを崩さない。
それがとても恐ろしかった。
「何でっ…どうしてキミがボクの物を持っているんだ!」
しぼり出すように言った言葉は、思ったより小さかった。
声が、出ない。
思わず喉を撫でた。
「何でって、欲しかったからだよ」
彼はあっさり言った。
「じっじゃあ、あのイジメの数々も…」
「そう、オレが犯人」
目の前が一瞬にして、黒く染まった。
―絶望。
そうか…。
コレが絶望、か。
「なんっで…どうしてっ…!」
出た声はすでにかすれていた。
「だってガマンならなかったから」
そう言って彼は一歩前に出た。
思わず後ずさる。
「ガマンって何が…」
「お前が他の人を頼るのが」
「何を…」
何を言っているのか分からない。
「だって3年もガマンしてたんだぜ? 子供だったらしょーがないってさ。だから同じ高校に入れるって分かった時は、飛び上がって喜んだんだ」
彼はどんどん歩みを進める。
ボクはどんどん後ろに下がる。
「けれど高校じゃあクラスが別になっただろう? それでオレより仲良いヤツがお前にできるのが、許せなかった。ガマンできなかったんだ」
彼は笑顔を浮かべているものの、その眼は狂気がにじみ出ている。
「だからイジメた。周囲の人間を使わなかったのは、関わらせたくなかったんだ。オレとお前のことに」
「分からない…キミが何を言っているのか、分からないよ!」
ボクはノートを抱えたまま、叫んだ。
「まあお前には理解できないかもな。こういう歪んだ感情はさ」
彼は肩を竦めた。
「オレはお前に頼られたかった。唯一の存在でいたかったんだよ」
「なら何もこんな方法を使わなくてもよかったじゃないか! こんなことをしなくても、ボクにとってキミは特別な存在だったのに!」
「特別と唯一は違うよ。オレはお前に、オレだけを見ていてほしかったんだ」
「見てたし思ってたよ! 例えボクにどんな友達ができたって、キミはボクの唯一の存在だったのに!」
両目が熱くなる。
ボクの思いは彼に伝わっていなかったのか?
こんなに近くにいたのに!
「それでもオレの他に仲良いヤツができれば、オレを思う気持ちは減るだろう? それもイヤだったんだ」
ついにボクの背は壁についてしまった。
やっヤバイ、逃げなきゃ!
そう思うけれど、体が言うことを聞かない!
全身がガクガクと震える。
怖いっ…!
「そんなに脅えるなよ」
彼はそんなボクを見て、苦笑した。
「お前自身を傷付けるようなことはしなかっただろう? それどころか、お前に何かしようとする奴らを消してきたし」
「消したって…」
「ああ、だから生徒会長なんかやってたんだ。権力というのは、持ってた方が何かと得だからな。お前に何かしようと思っている連中を、簡単に消せるぐらいは役に立つものだった」
「…あっ」
思い当たることがあった。
ボクも生徒会書記を二期に渡って務めてきたから、それなりに学校の情報には詳しかった。
彼が会長をしている間に、数人の学生が退学になっていた。
その学生達はガラが悪く、よく人を脅したりイジメをしていた。
だから退学の理由も、素行の悪さからだと聞いていたけれど…。
多分、彼等はイジメを受けているボクを見て、自分達もと考えたんだろうな。
4
あなたにおすすめの小説
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
この変態、規格外につき。
perari
BL
俺と坂本瑞生は、犬猿の仲だ。
理由は山ほどある。
高校三年間、俺が勝ち取るはずだった“校内一のイケメン”の称号を、あいつがかっさらっていった。
身長も俺より一回り高くて、しかも――
俺が三年間片想いしていた女子に、坂本が告白しやがったんだ!
……でも、一番許せないのは大学に入ってからのことだ。
ある日、ふとした拍子に気づいてしまった。
坂本瑞生は、俺の“アレ”を使って……あんなことをしていたなんて!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる