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1 密令と敵騎士
4 気に食わないアルファ
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オメガ呼ばわりされた。
平民は十歳頃から大人を手伝い始めるが、発作中ろくに働けず、男根を求めて周りの男も巻き込むオメガは、平民の間であまりよく思われていない。
平民出身の自分にことさら効く蔑称である。
(誰だ、品位に欠ける者は)
平静を保ちつつ、碧眼に軽蔑を込めて振り返る。
プナイネン公ルドルフが、新しく仕立てたらしい馴鹿毛皮の外衣を見せびらかすように立っていた。
(見るからに、だな)
プナイネン家は、ソコロフ派の筆頭だ。空位前には王を輩出したこともある。
ルドルフは昨秋急死した父親からプナイネン公を継いだばかり。ソコロフ公に挨拶でもしにきたのか。
「レクスに媚売りか?」
同じ金髪でもレクスより赤みがかった直毛を掻き上げ、赤い双眸を向けてくる。
くしくもレクスと同い年で、双璧の美丈夫と御婦人たちには評判だ。話術に限ればルドルフのほうが巧みらしいが、笑うと片側だけ口角が上がるのが尊大に感じられた。
まさに今、その表情になっている。
「何か御用ですか」
揶揄は黙殺し、冷たい声で問う。
ルドルフもアルファだ。
レクスの前では自律したものの発情発作が疑われる今は、長々と相手をしたくない。
「ああ。暇ならおれと褥を共にしろ」
「っ」
一歩踏み出され、つい半歩後退した。悔しいがルドルフはいかにもアルファな骨太の長身で、威圧感がある。
滲み出る情欲もおぞましい。
(褥を共に、だと?)
彼がオメガに次々手を出している、という噂は本当らしい。
酷いのはその始まりだ。
アルファかどうかは、発作中のオメガに誘発発情するまでわからない。
貴族の子女は自身が体質持ちである可能性も見込んで慎み深く行動するものだが、彼ははじめて誘発発情した際、その場でオメガを組み敷いた。
『自分は家を継ぐんです、やめて……やめ、て』
相手は小貴族の公子だったという。家の格の違いで不問に付された。
(今も、オメガを性具くらいにしか思っていまい)
レクスとは大違いだ。だが悲しいかな、ルドルフのような価値観のほうが多数派である。
体質を持たない者が大多数ゆえ、アルファはオメガを選り好みできない。しかし正妻には家格や容姿が相応しくないとごねる者もいる。
そこでオメガを見かけたら手をつけておき、生まれた子がのちにアルファと判明したときだけ引き取ることもめずらしくない。
(オメガの尊厳は、無視されている)
そんなオメガでも責務を果たせると証明するため、ひいてはオメガに生まれた自身を肯定するため、こうしてアルファの目にも晒される騎士団に飛び込んだのだ。
気高くかつ冷ややかな笑みを浮かべる。
「わたしを呼ばずとも、お相手は足りておりましょう」
きっちり意趣返しして、踵を返した。
背後で「な、」と口ごもっているが、聞かない。
そのまま玄関ホールを出る。城下の自宅へ帰ろうと、白毛の馴鹿に跨った。
小柄だが小回りが利く。ヴィトと名づけて親しんでいる。相棒と言っていい。
(今夜も冷えるな)
夜風を防ぐべく、外套の帯革を締め直したとき、ふとエリセイが思い出された。
後から思うと、面映ゆいくらい優しく抱き留められた。腕の中は暖かく、安心感があった。
自分のものより一回り大きい外套は、おせっかい過ぎるほどだった。
ルドルフと身体つきが似ているが、印象は正反対だ。
(羨ましいほど壮健な肉体だったな。――それにしても)
胸板の感触からひょうひょうとした物言いまで、ひとまとめで脳裏によみがえる。
(手紙の返事は王城にて七日後、という指定だったが、信じてよいものか)
手ぶらで「すまん、間に合わなかった」なんて言われませんように。
平民は十歳頃から大人を手伝い始めるが、発作中ろくに働けず、男根を求めて周りの男も巻き込むオメガは、平民の間であまりよく思われていない。
平民出身の自分にことさら効く蔑称である。
(誰だ、品位に欠ける者は)
平静を保ちつつ、碧眼に軽蔑を込めて振り返る。
プナイネン公ルドルフが、新しく仕立てたらしい馴鹿毛皮の外衣を見せびらかすように立っていた。
(見るからに、だな)
プナイネン家は、ソコロフ派の筆頭だ。空位前には王を輩出したこともある。
ルドルフは昨秋急死した父親からプナイネン公を継いだばかり。ソコロフ公に挨拶でもしにきたのか。
「レクスに媚売りか?」
同じ金髪でもレクスより赤みがかった直毛を掻き上げ、赤い双眸を向けてくる。
くしくもレクスと同い年で、双璧の美丈夫と御婦人たちには評判だ。話術に限ればルドルフのほうが巧みらしいが、笑うと片側だけ口角が上がるのが尊大に感じられた。
まさに今、その表情になっている。
「何か御用ですか」
揶揄は黙殺し、冷たい声で問う。
ルドルフもアルファだ。
レクスの前では自律したものの発情発作が疑われる今は、長々と相手をしたくない。
「ああ。暇ならおれと褥を共にしろ」
「っ」
一歩踏み出され、つい半歩後退した。悔しいがルドルフはいかにもアルファな骨太の長身で、威圧感がある。
滲み出る情欲もおぞましい。
(褥を共に、だと?)
彼がオメガに次々手を出している、という噂は本当らしい。
酷いのはその始まりだ。
アルファかどうかは、発作中のオメガに誘発発情するまでわからない。
貴族の子女は自身が体質持ちである可能性も見込んで慎み深く行動するものだが、彼ははじめて誘発発情した際、その場でオメガを組み敷いた。
『自分は家を継ぐんです、やめて……やめ、て』
相手は小貴族の公子だったという。家の格の違いで不問に付された。
(今も、オメガを性具くらいにしか思っていまい)
レクスとは大違いだ。だが悲しいかな、ルドルフのような価値観のほうが多数派である。
体質を持たない者が大多数ゆえ、アルファはオメガを選り好みできない。しかし正妻には家格や容姿が相応しくないとごねる者もいる。
そこでオメガを見かけたら手をつけておき、生まれた子がのちにアルファと判明したときだけ引き取ることもめずらしくない。
(オメガの尊厳は、無視されている)
そんなオメガでも責務を果たせると証明するため、ひいてはオメガに生まれた自身を肯定するため、こうしてアルファの目にも晒される騎士団に飛び込んだのだ。
気高くかつ冷ややかな笑みを浮かべる。
「わたしを呼ばずとも、お相手は足りておりましょう」
きっちり意趣返しして、踵を返した。
背後で「な、」と口ごもっているが、聞かない。
そのまま玄関ホールを出る。城下の自宅へ帰ろうと、白毛の馴鹿に跨った。
小柄だが小回りが利く。ヴィトと名づけて親しんでいる。相棒と言っていい。
(今夜も冷えるな)
夜風を防ぐべく、外套の帯革を締め直したとき、ふとエリセイが思い出された。
後から思うと、面映ゆいくらい優しく抱き留められた。腕の中は暖かく、安心感があった。
自分のものより一回り大きい外套は、おせっかい過ぎるほどだった。
ルドルフと身体つきが似ているが、印象は正反対だ。
(羨ましいほど壮健な肉体だったな。――それにしても)
胸板の感触からひょうひょうとした物言いまで、ひとまとめで脳裏によみがえる。
(手紙の返事は王城にて七日後、という指定だったが、信じてよいものか)
手ぶらで「すまん、間に合わなかった」なんて言われませんように。
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