転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

文字の大きさ
41 / 149

第41話 暗躍

しおりを挟む
 アメリカ、ニューヨーク。現地時間一九三六年七月三日。
 転生者であるカーラ・パドックは、大統領の勧めによってニューヨークに来ていた。
 転生前とそこまで変わらない景色が自動車の外に広がっている。強いて違いを挙げるとすれば、街頭にある液晶画面がないくらいか。
「私、ニューヨークには来たことないですけど、どこか懐かしさを感じますね」
「それは素晴らしい。百年先も、アメリカの栄光は輝いているのですね」
 付き人の男性が、感嘆の声を上げる。
(確かにアメリカの影響力は世界中に及んでいるけど、限界を迎えていたのも事実ね……)
 こんなことを言ってしまうと、何をされるか分からない。パドックは心の中にしまった。
 自動車から降り、ニューヨークの街を散策する。
「私の世界でも騒がしかったですけど、ここも同じくらい賑やかな場所ですね」
「それはもちろん、世界の全てがここにありますからね」
「そうなんですか……」
(それって、世界の覇権もってことよね?)
 これも口に出すと危ない気がしたので、心の奥にしまう。
 現代よりも綺麗な、舗装された歩道を歩く。そのうち、近くにあったカフェに入る。
「こんな裏道に綺麗なカフェなんて、なんて贅沢なんでしょう」
「それもそうです。ここはニューヨークなんですからね」
 付き人の男性は、鼻高々にそんなことを言う。
 そんな付き人をよそに、パドックはコーヒーの入ったカップを置いて、窓の外を眺める。
「でも、ここにいる大勢の方は、これから戦争になっても知らん顔をしているんでしょうね」
「……それはどういうことでしょう?」
「今、ナチス・ドイツがヨーロッパを覆いつくそうとしているのは知っていますよね?」
「えぇ、もちろん」
「あと数年もすれば、アメリカは否応なしに戦争の道へと突き進むでしょう。そしてそれに呼応するように、日本とも戦争になります。この世界情勢では戦争は避けられないのかもしれません」
「祖国を守るためなら、必要なことですよ。ま、仮に戦争になったとしても、合衆国が戦場になることはないでしょうね」
「……どうでしょうね」
 パドックは少し心配していることがある。
 かつて日本は、上空にあるジェット気流と風船を使って、米国本土を爆撃する計画を立て、実際に決行した。当時は電線に引っかかったり、ピクニック中の民間人が犠牲になったりしている。そして、史実のアメリカ政府が恐れたのは、風船爆弾に生物兵器が搭載されていた場合だ。もしペスト菌が搭載されていれば、それだけで脅威となり得る。
 それに史実では、日本は米国本土爆撃のための潜水空母も建造していた。これらが有効的に活用されてしまえば、アメリカは間違いなく混乱に陥るだろう。
(シシドは反戦を望んでいるけど、いざとなれば戦うと明言していた。もしシシドが止まらなかったら、私たちは争い合うしかないのかもしれない……)
 そんなことを外を見ながらぼんやりと考える。
 その時だった。パドックと付き人のいるテーブルに、黒に近いトレンチコートと眼鏡をした男性が立ち止まる。
「失礼、少し質問よろしいですか?」
「なんでしょう?」
 付き人が対応する。
「そちらのお嬢様の名前は、カーラ・パドックでよろしかったでしょうか?」
「……えぇ、そうですが?」
 すると男性は懐に手を突っ込み、何かを取り出す。
「申し訳ありません、ここで死んでください」
 取り出したのは拳銃。その銃口がパドックの頭に向けられる。
 気を抜いていたパドックは、突然のことに動くことができなかった。
 引き金が引かれる瞬間、付き人が男の手首に向かって手を伸ばす。ほんの少しだけ射線が変わり、パドックの後ろ髪ギリギリの所をかすっていった。
「逃げてください!」
 付き人はそのまま男と取っ組み合いになる。
 周辺に響いた銃声により、店内はパニック状態だ。パドックもその場から必死に逃げる。店を出て、今まで来た道を走って引き返す。
 自動車の場所まで戻ってくると、運転手をしていた付き人が慌ててパドックのことを確保する。
「何があったんですか!?」
「わ、分かりません……! 突然私の頭に銃が向けられて……!」
「とにかく移動しましょう! ここに残るのは危険です!」
「でも、一緒にいた方は……!?」
「彼も工作員の一人です。単独行動もできますよ」
 そういってパドックは、半ば強制的に自動車に乗せられ、ニューヨークの街並みから離れていく。
 数十分ほど車を走らせる。
「ここまで来れば、とりあえず問題はないでしょう」
 運転手がそういって、路肩に車を停める。
「とにかく、このことを本部に伝えなければ……」
 そういいながら運転手は自動車を降り、トランクに積んであった通信機器を取り出す。
 それを操作して、電波を受信しだした時だった。
「なにーっ!」
 運転手は思わず叫び声を上げた。
「ど、どうしたんですか?」
「大統領が……、カーター大統領が暗殺された……」
「なんですって……?」
 世界の運命の歯車が軋み出す。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

勇者パーティのサポートをする代わりに姉の様なアラサーの粗雑な女闘士を貰いました。

石のやっさん
ファンタジー
年上の女性が好きな俺には勇者パーティの中に好みのタイプの女性は居ません 俺の名前はリヒト、ジムナ村に生まれ、15歳になった時にスキルを貰う儀式で上級剣士のジョブを貰った。 本来なら素晴らしいジョブなのだが、今年はジョブが豊作だったらしく、幼馴染はもっと凄いジョブばかりだった。 幼馴染のカイトは勇者、マリアは聖女、リタは剣聖、そしてリアは賢者だった。 そんな訳で充分に上位職の上級剣士だが、四職が出た事で影が薄れた。 彼等は色々と問題があるので、俺にサポーターとしてついて行って欲しいと頼まれたのだが…ハーレムパーティに俺は要らないし面倒くさいから断ったのだが…しつこく頼むので、条件を飲んでくれればと条件をつけた。 それは『27歳の女闘志レイラを借金の権利ごと無償で貰う事』 今度もまた年上ヒロインです。 セルフレイティングは、話しの中でそう言った描写を書いたら追加します。 カクヨムにも投稿中です

処理中です...