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第42話 助言
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現職アメリカ大統領の暗殺は、瞬く間に世界中に知れ渡った。
当然、宍戸の耳にも届く。スマホのチャットアプリで、カーラ・パドックから直接聞いたほうが早かったが。
「宍戸所長、これはどう見ます?」
林が宍戸に聞く。その宍戸は、買ってきた新聞の一面を机に広げて、手を合わせていた。
「……仮想敵国であっても同じ人間です。弔いの時間を少しください」
それに感化されたのか、林も新聞に掲載されているカーター大統領の写真に手を合わせる。
「……さて、話を戻しましょう。この現状をどうみるかって話でしたね?」
「はい。米国の報道を見る限り、十中八九大統領は暗殺で命を落としたと判断して良いでしょう。となれば当然、次の指導者が必要です」
「そこで、ルーズベルト副大統領が昇格される……と」
「そうなれば帝国に対する経済制裁は、より強固なものになるでしょう。その前に手を打たなければなりません」
「それはつまり、戦争も視野に入れた外交を取る、ということですね」
「はい」
宍戸は少し緊張する。いよいよ軍靴の足音が聞こえてきたのだ。
「うーん、一人ではどうしようもありません。一度課長以上のメンバーを集めてもらえますか?」
こうして一番大きな会議室に、人がぎゅうぎゅう詰めになる。
「今回の会議は、内閣に対して助言を行うにあたり、助言の内容を策定するために意見を出してもらいます」
そういって宍戸は、黒板の前に立つ。
「まずは、アメリカによる対日制裁についてです。おそらくアメリカは、石油や食料といった重要物資を絞ってくると考えられます。最悪の場合、完全な禁輸が考えられます」
その言葉に、各研究員は頷く。
「この問題を打開する案を募ります。何か意見がある方?」
これに、軍事部部長が手を上げる。
「これの解決方法は至って単純です。南方に進出することでしょう」
「そうだな」
「それが一番手っ取り早い」
同意する発言が多い。
「やはり、南方進出は避けられないか……」
宍戸は自身の信念を曲げ、黒板に南方進出と書く。
「南方進出なんだが……」
軍事部部長が否定の言葉を入れる。
「関東軍を下げてしまったことで、大陸における帝国の覇権が握れなくなる。今のところ朝鮮半島に数個師団が残っているようだが、ソ連や中華民国が責めてくれば再び前線に陸軍を送る必要がある。とてもじゃないが、今の帝国にそれだけの力を割けられるか分からない」
「確かに……」
「海軍の協力も必要になりそうだ」
「あの陸軍と海軍じゃなぁ……」
「海軍陸戦隊を使う手もあるぞ」
「それじゃ戦力がまるで足りん。やはり陸軍と海軍の間を取り持つ機関が必要だ」
色々と問題点が出てくる。
「とりあえず、その辺の課題は後で確認しましょう」
そういって宍戸はメモ帳に、箇条書きで問題点を書く。「大陸の戦力低下」、「陸海軍の仲の悪さの解決」、「海軍陸戦隊の戦力はいかほど」と書いた。
「さて、話を戻しまして、アメリカ対日制裁の打開策ですが他に意見のある方は?」
「じゃあ自分から」
そういって手を挙げたのは、経済部貿易課の課長である。
「もうここはいっそのこと、情けに情けをかけてもらって、連合国の条件を飲むのはいかがでしょう」
その意見に、会議室は一瞬静まりかえり、そして怒号が飛び交った。
「貴様、それを本気で考えているのか!?」
「今回の制裁の諸悪の根源は連合国だぞ! 何を考えてる!」
「今更連合国に頭を下げたところで足元見られるに決まっとろうが!」
「それでも日本男児か!?」
半分罵倒である。
「し、しかし! これ以外に帝国が存続する道はありますか!? 先の机上演習もそうでしたでしょう!? 白国の資源はみるみるうちになくなり、やがては物資不足で崩壊したのを目の当たりにしたではないですか!」
その言葉に、罵倒していた研究員は思わず黙りこむ。
「……確かに、その道も考えられます」
宍戸はその意見に同意した。
「所長! しかしですよ、あの連合国どもは帝国の国力を削ぐために行動しています! そいつらに頭を下げる道理なんてありませんよ!」
それに同調する研究員。
「確かにそうかもしれません。しかしこの世界には、ある特異点が存在します」
「特異点……?」
研究員たちが首をかしげる。
「そうです。それは、自分たち転生者の存在です」
そういって宍戸は、ポケットの中に入っているスマホを取り出そうとする。しかし、スマホをこの場で見せた時の影響が計り知れないことを懸念し、結局取り出さなかった。
「自分たち転生者には、瞬時に連絡を取り合える手段があります。それは連合国であるアメリカ、イギリス、ソ連。そして枢軸国のドイツ、イタリア。この間亡命してきたスペインの転生者と繋がれる力があるのです。この力を使えば、連合国と公平に交渉することだって可能になるかもしれないんです」
「ですが、それは憶測なのでしょう?」
研究員の一人が聞く。
「えぇ、憶測です。ですが、戦うよりかはまだ何倍もマシです。余計な血が流れなければ、それは大きな戦果と言えるのではないでしょうか?」
研究員たちは、お互いの顔を見合う。
「とりあえず、今回の要点として、『南方進出』と『連合国との交渉』を、内閣に助言する内容として決定します」
こうして、会議は終了した。
当然、宍戸の耳にも届く。スマホのチャットアプリで、カーラ・パドックから直接聞いたほうが早かったが。
「宍戸所長、これはどう見ます?」
林が宍戸に聞く。その宍戸は、買ってきた新聞の一面を机に広げて、手を合わせていた。
「……仮想敵国であっても同じ人間です。弔いの時間を少しください」
それに感化されたのか、林も新聞に掲載されているカーター大統領の写真に手を合わせる。
「……さて、話を戻しましょう。この現状をどうみるかって話でしたね?」
「はい。米国の報道を見る限り、十中八九大統領は暗殺で命を落としたと判断して良いでしょう。となれば当然、次の指導者が必要です」
「そこで、ルーズベルト副大統領が昇格される……と」
「そうなれば帝国に対する経済制裁は、より強固なものになるでしょう。その前に手を打たなければなりません」
「それはつまり、戦争も視野に入れた外交を取る、ということですね」
「はい」
宍戸は少し緊張する。いよいよ軍靴の足音が聞こえてきたのだ。
「うーん、一人ではどうしようもありません。一度課長以上のメンバーを集めてもらえますか?」
こうして一番大きな会議室に、人がぎゅうぎゅう詰めになる。
「今回の会議は、内閣に対して助言を行うにあたり、助言の内容を策定するために意見を出してもらいます」
そういって宍戸は、黒板の前に立つ。
「まずは、アメリカによる対日制裁についてです。おそらくアメリカは、石油や食料といった重要物資を絞ってくると考えられます。最悪の場合、完全な禁輸が考えられます」
その言葉に、各研究員は頷く。
「この問題を打開する案を募ります。何か意見がある方?」
これに、軍事部部長が手を上げる。
「これの解決方法は至って単純です。南方に進出することでしょう」
「そうだな」
「それが一番手っ取り早い」
同意する発言が多い。
「やはり、南方進出は避けられないか……」
宍戸は自身の信念を曲げ、黒板に南方進出と書く。
「南方進出なんだが……」
軍事部部長が否定の言葉を入れる。
「関東軍を下げてしまったことで、大陸における帝国の覇権が握れなくなる。今のところ朝鮮半島に数個師団が残っているようだが、ソ連や中華民国が責めてくれば再び前線に陸軍を送る必要がある。とてもじゃないが、今の帝国にそれだけの力を割けられるか分からない」
「確かに……」
「海軍の協力も必要になりそうだ」
「あの陸軍と海軍じゃなぁ……」
「海軍陸戦隊を使う手もあるぞ」
「それじゃ戦力がまるで足りん。やはり陸軍と海軍の間を取り持つ機関が必要だ」
色々と問題点が出てくる。
「とりあえず、その辺の課題は後で確認しましょう」
そういって宍戸はメモ帳に、箇条書きで問題点を書く。「大陸の戦力低下」、「陸海軍の仲の悪さの解決」、「海軍陸戦隊の戦力はいかほど」と書いた。
「さて、話を戻しまして、アメリカ対日制裁の打開策ですが他に意見のある方は?」
「じゃあ自分から」
そういって手を挙げたのは、経済部貿易課の課長である。
「もうここはいっそのこと、情けに情けをかけてもらって、連合国の条件を飲むのはいかがでしょう」
その意見に、会議室は一瞬静まりかえり、そして怒号が飛び交った。
「貴様、それを本気で考えているのか!?」
「今回の制裁の諸悪の根源は連合国だぞ! 何を考えてる!」
「今更連合国に頭を下げたところで足元見られるに決まっとろうが!」
「それでも日本男児か!?」
半分罵倒である。
「し、しかし! これ以外に帝国が存続する道はありますか!? 先の机上演習もそうでしたでしょう!? 白国の資源はみるみるうちになくなり、やがては物資不足で崩壊したのを目の当たりにしたではないですか!」
その言葉に、罵倒していた研究員は思わず黙りこむ。
「……確かに、その道も考えられます」
宍戸はその意見に同意した。
「所長! しかしですよ、あの連合国どもは帝国の国力を削ぐために行動しています! そいつらに頭を下げる道理なんてありませんよ!」
それに同調する研究員。
「確かにそうかもしれません。しかしこの世界には、ある特異点が存在します」
「特異点……?」
研究員たちが首をかしげる。
「そうです。それは、自分たち転生者の存在です」
そういって宍戸は、ポケットの中に入っているスマホを取り出そうとする。しかし、スマホをこの場で見せた時の影響が計り知れないことを懸念し、結局取り出さなかった。
「自分たち転生者には、瞬時に連絡を取り合える手段があります。それは連合国であるアメリカ、イギリス、ソ連。そして枢軸国のドイツ、イタリア。この間亡命してきたスペインの転生者と繋がれる力があるのです。この力を使えば、連合国と公平に交渉することだって可能になるかもしれないんです」
「ですが、それは憶測なのでしょう?」
研究員の一人が聞く。
「えぇ、憶測です。ですが、戦うよりかはまだ何倍もマシです。余計な血が流れなければ、それは大きな戦果と言えるのではないでしょうか?」
研究員たちは、お互いの顔を見合う。
「とりあえず、今回の要点として、『南方進出』と『連合国との交渉』を、内閣に助言する内容として決定します」
こうして、会議は終了した。
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