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第54話 交渉
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日本時間一九三七年一月二十一日。二十一時五分前。
この日は、ある意味重要な日になる。
昨日正式にアメリカ大統領に就任したルーズベルト大統領と、電文による日米対話が試みられるのだ。
首相官邸には、米内総理、陸海軍大臣、大蔵大臣、外務大臣、そして宍戸と林が揃っていた。
「そろそろ時間ですね……」
宍戸は珍しく緊張している。
というのも今回の日米対話は、ルーズベルト大統領にカーラ・パドックが粘り強く説得したことにより実現したものであるからだ。
相手はあのルーズベルト大統領である。おそらく宍戸が経験したことのない、困難な交渉が行われるだろう。
「電文来ました!」
海底ケーブルが繋がっている通信所と連絡を取っている職員が、米内総理に報告する。
「読んでくれ」
こうして、歴史的な対話が始まる。
『日本政府関係者諸君、こちらはアメリカ大統領のフランクリン・ルーズベルトだ』
『はじめまして、ルーズベルト大統領。こちらは大日本帝国首相の米内光政だ』
まずはお互いに挨拶する。挨拶は大事だ。
先に日本側が仕掛ける。
『早速だが本題に入る。簡潔に申し上げる。対日制裁を辞めてほしい』
少しして返事が返ってくる。
『不可能だ』
「不可能ってなんですか! こっちは満州から撤退したでしょうに!」
思わず宍戸は大声を出してしまう。
「そんなに焦るな。交渉で焦りは禁物だ」
米内総理が牽制する。
『こちらは満洲国から兵を引いた。そちらの要求になかったか?』
『あるが、まだ朝鮮半島に少数残っているのを確認している。それらも引き上げることを要求する』
『朝鮮半島にいる彼らは、中華民国の脅威から守るためにいる。引き上げることは不可能だ』
『引き上げさせろ。でなければ、制裁の解除はできない』
「頑固ですね。全く引こうとしないですよ?」
「ルーズベルトはそういう男なのだろう。こちらも強く出ないと駄目そうだ」
「しかし、どうして頑なに拒否するんですかね……?」
「聞いてみるか?」
「そうですね……。それとなく聞いてみてください」
宍戸の要求に、米内総理は答える。
『なぜそこまで頑なに拒絶するのか。我々はそちらの要求を飲んでいる』
すると、しばらく時間が経ってから返事が返ってきた。
『イエローモンキーごときが出しゃばるな』
「通信所から連絡です。米国側が通信を切断した模様です」
職員が宍戸たちに伝える。
時刻は日付をまたいで、二十二日の〇時半になろうとしていた。
「どうしましょう、これ……」
「案ずるな。まだ交渉の余地はある」
「向こうが拒絶している状況でそれ言えます?」
「総理の言う通りだ。政治家なら、このような状況はザラにある」
そういうのは、高木海軍大臣である。
「そうだ。特に政敵を相手にしている時が、一番面倒な場合だってある」
木村陸軍大臣が同調する。
「皆さんの言う通りです。今はできることをできる限りやりましょう」
外務大臣も賛同した。
「……皆さんがそういうなら、きっとそうなんでしょうね」
宍戸は無理やり納得する。
「まぁ、今回の事とは別の、もう一つの交渉を始めるべきなんでしょうけど」
「もう一つの交渉だと?」
「はい。これはイギリスとフランスとオランダに対する外交なんですが……」
そういって宍戸は、現在想定している外交を話す。
「我々は南方進出のために、英仏蘭の植民地に進出しますが、対連合国戦争が始まった時点で米国以外に了承を取った上で進軍します。つまり、英仏蘭の植民地を一時的に日本に預ける形にするんです。日本に預けてもらえば、ドイツとの関係を切り、対独戦争をすると約束をすれば、安全に枢軸国から脱却することができます。後は植民地を独立させる所まで約束させれば、御の字でしょう」
宍戸の話を聞いた米内総理たちは、開いた口が塞がらなかった。
「宍戸君……。それは本気で言っているのか?」
「当然です。そうでなければ、この先日本は生き残れないでしょう」
「そもそも、植民地を独立させるつもりなら、最初から植民地を預かるなんてことはしなくてもいいのでは?」
「それはアメリカを揺さぶるための方便です。最初は連合国と対立する日本を演じ、ヨーロッパ諸国との関係改善を見せつければ、アメリカ国内の世論も変わってくるはずです。南方進出直後にアメリカは日本に宣戦布告するでしょうが、向こうの用意が終わる前にケリをつけるのが最適です」
「……机上の空論だ。できるはずがない」
そう米内総理は言い切った。
「だが、考えは悪くない」
米内総理はそのように続ける。
「外務省は今すぐ英仏蘭に連絡を。植民地の独立までの約束を取り付けるまで交渉を行うんだ」
「了解しました」
米内総理は、外務大臣に指示を出す。
「ありがとうございます、総理」
「ここまで来てしまったんだ。後は成り行きに任せるしかない。個人的には、こんな政治はしたくなかったのだが……」
思わず米内総理の本音が出る。
「それじゃあ、本格的な対米戦の準備を進めましょう」
宍戸は陸海軍大臣に向かって言った。
この日は、ある意味重要な日になる。
昨日正式にアメリカ大統領に就任したルーズベルト大統領と、電文による日米対話が試みられるのだ。
首相官邸には、米内総理、陸海軍大臣、大蔵大臣、外務大臣、そして宍戸と林が揃っていた。
「そろそろ時間ですね……」
宍戸は珍しく緊張している。
というのも今回の日米対話は、ルーズベルト大統領にカーラ・パドックが粘り強く説得したことにより実現したものであるからだ。
相手はあのルーズベルト大統領である。おそらく宍戸が経験したことのない、困難な交渉が行われるだろう。
「電文来ました!」
海底ケーブルが繋がっている通信所と連絡を取っている職員が、米内総理に報告する。
「読んでくれ」
こうして、歴史的な対話が始まる。
『日本政府関係者諸君、こちらはアメリカ大統領のフランクリン・ルーズベルトだ』
『はじめまして、ルーズベルト大統領。こちらは大日本帝国首相の米内光政だ』
まずはお互いに挨拶する。挨拶は大事だ。
先に日本側が仕掛ける。
『早速だが本題に入る。簡潔に申し上げる。対日制裁を辞めてほしい』
少しして返事が返ってくる。
『不可能だ』
「不可能ってなんですか! こっちは満州から撤退したでしょうに!」
思わず宍戸は大声を出してしまう。
「そんなに焦るな。交渉で焦りは禁物だ」
米内総理が牽制する。
『こちらは満洲国から兵を引いた。そちらの要求になかったか?』
『あるが、まだ朝鮮半島に少数残っているのを確認している。それらも引き上げることを要求する』
『朝鮮半島にいる彼らは、中華民国の脅威から守るためにいる。引き上げることは不可能だ』
『引き上げさせろ。でなければ、制裁の解除はできない』
「頑固ですね。全く引こうとしないですよ?」
「ルーズベルトはそういう男なのだろう。こちらも強く出ないと駄目そうだ」
「しかし、どうして頑なに拒否するんですかね……?」
「聞いてみるか?」
「そうですね……。それとなく聞いてみてください」
宍戸の要求に、米内総理は答える。
『なぜそこまで頑なに拒絶するのか。我々はそちらの要求を飲んでいる』
すると、しばらく時間が経ってから返事が返ってきた。
『イエローモンキーごときが出しゃばるな』
「通信所から連絡です。米国側が通信を切断した模様です」
職員が宍戸たちに伝える。
時刻は日付をまたいで、二十二日の〇時半になろうとしていた。
「どうしましょう、これ……」
「案ずるな。まだ交渉の余地はある」
「向こうが拒絶している状況でそれ言えます?」
「総理の言う通りだ。政治家なら、このような状況はザラにある」
そういうのは、高木海軍大臣である。
「そうだ。特に政敵を相手にしている時が、一番面倒な場合だってある」
木村陸軍大臣が同調する。
「皆さんの言う通りです。今はできることをできる限りやりましょう」
外務大臣も賛同した。
「……皆さんがそういうなら、きっとそうなんでしょうね」
宍戸は無理やり納得する。
「まぁ、今回の事とは別の、もう一つの交渉を始めるべきなんでしょうけど」
「もう一つの交渉だと?」
「はい。これはイギリスとフランスとオランダに対する外交なんですが……」
そういって宍戸は、現在想定している外交を話す。
「我々は南方進出のために、英仏蘭の植民地に進出しますが、対連合国戦争が始まった時点で米国以外に了承を取った上で進軍します。つまり、英仏蘭の植民地を一時的に日本に預ける形にするんです。日本に預けてもらえば、ドイツとの関係を切り、対独戦争をすると約束をすれば、安全に枢軸国から脱却することができます。後は植民地を独立させる所まで約束させれば、御の字でしょう」
宍戸の話を聞いた米内総理たちは、開いた口が塞がらなかった。
「宍戸君……。それは本気で言っているのか?」
「当然です。そうでなければ、この先日本は生き残れないでしょう」
「そもそも、植民地を独立させるつもりなら、最初から植民地を預かるなんてことはしなくてもいいのでは?」
「それはアメリカを揺さぶるための方便です。最初は連合国と対立する日本を演じ、ヨーロッパ諸国との関係改善を見せつければ、アメリカ国内の世論も変わってくるはずです。南方進出直後にアメリカは日本に宣戦布告するでしょうが、向こうの用意が終わる前にケリをつけるのが最適です」
「……机上の空論だ。できるはずがない」
そう米内総理は言い切った。
「だが、考えは悪くない」
米内総理はそのように続ける。
「外務省は今すぐ英仏蘭に連絡を。植民地の独立までの約束を取り付けるまで交渉を行うんだ」
「了解しました」
米内総理は、外務大臣に指示を出す。
「ありがとうございます、総理」
「ここまで来てしまったんだ。後は成り行きに任せるしかない。個人的には、こんな政治はしたくなかったのだが……」
思わず米内総理の本音が出る。
「それじゃあ、本格的な対米戦の準備を進めましょう」
宍戸は陸海軍大臣に向かって言った。
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