55 / 149
第55話 見学
しおりを挟む
一九三七年一月二十九日。
宍戸は海軍省から送られてきた書類を眺めていた。
「その書類は?」
そこに林がやってくる。
「海軍省内部で検討されている、建造途中の艦と計画艦の一覧です。あとは計画中の火器や兵装、電探などの資料ですね」
「それは軍秘に指定される書類なのでは?」
「はい。ですが、大本営の下部組織の我々には見せてくれるそうです。それでも見せられない部分は黒塗りになっていますけど」
林が書類を覗き込む。確かに一部黒塗りになっており、情報が読み取れない部分もある。
「それで実際の所、戦力を見る限りではどうなんでしょう? 連合国と戦えますか?」
「現状でも最初の一年は問題ないと思いますね。南方進出を一年以内に完了させれば、希望は残っているはずです」
「しかし、海軍だけの力ではなんともならないでしょう? そのあたりはどうお考えで?」
「今、陸軍省と海軍省に連絡員を派遣して、陸海軍共同の作戦を実施できるように仕組みを整えてもらってます。本来なら自分の仕事なんですけどね」
宍戸の肩書は、陸海軍統合戦略政務官(大本営幕僚長相当職)兼連絡将校。本来なら政務官として、陸軍省と海軍省の懸け橋として動かなければならない。しかし当然ながら、宍戸一人でやり切れる職でもない。なので、立川戦略研究所の職員が一部の職務を代行しているのだ。
「海軍の戦力増強を優先してもらっているので、正直陸軍省はいい顔をしてないんですよね……」
そういって宍戸は、とある封筒を取り出す。
「それは?」
「陸軍省から同じように送られてきた戦力拡充計画書です。今は軽戦車を中心に増強しているそうです。個人的には迫撃砲とか擲弾筒、砲兵を増やしてほしいところですけどね」
「投射力のある兵器を中心なんですね」
「はい。でも砲兵とか擲弾筒を増やすと、今までのドクトリンとか戦闘教範が使えなくなるんですよねぇ……」
「今から研究するにしても、大幅に時間が掛かりますね」
「うーん。増やしても使い道が無かったら、それはそれで問題なんだよなぁ……」
宍戸は悩む。
「擲弾兵の存在はかなり大きい。各連隊に一個小隊の範囲で増やすように要請しよう」
そういって宍戸は、木村陸軍大臣宛てに手紙をしたためる。
「さて、そろそろ移動しますか」
そういって宍戸は、研究所の前に止めてあった自動車に乗り込む。
そしてそのまま、東京駅へと向かった。
翌日は横須賀鎮守府と建造中の艦の見学があるのだ。列車に乗り込むと、約二時間ほどで横須賀駅に到着した。
さらに自動車で移動し、目的地である横須賀鎮守府へ到着する。
「ようこそ、横須賀鎮守府へ。さぁどうぞ、中へお入りください」
案内してくれるのは、主計科の少尉であった。軽く鎮守府の中を案内してもらうと、応接室に案内される。
「それでいかがでしょう? 海軍の軍拡は」
「海軍省の方々はよくやっています。現在も日本各地で建造を進めていますし。このまま建造が進めば、量産型駆逐艦は十分な数が揃い、戦艦や空母の建造もできるはずです」
「そうですか、それなら心配はないでしょう。しかし、戦艦や空母の建造は、時間と予算が非常に掛かります。連合国との戦争が始まるまでに、どこまで準備できるか……」
「そうですね。そこは自分も心配です。現状、ドイツがいつ連合国に宣戦布告するかで、アメリカや連合諸国との戦争の時期は大きく変わってきます。早ければ今年中にも戦争が勃発するかもしれないですね」
「それはだいぶ性急ですね。それまでに数合わせできるかどうか……」
「日本の魚雷は優秀ですからね。駆逐艦の量産でなんとかしましょう」
こうした話をした後は、実際に横須賀の海軍工廠で建造されている艦の様子を見学させてもらう。
横須賀のドックには、量産型の駆逐艦が数隻建造されていた。すでに進水している量産型駆逐艦は埠頭に接岸されており、艤装を施されている真っ最中だ。
「大本営立川研究所の提言通り、量産型駆逐艦の建造にてんてこ舞いです。仕事があるのはありがたいのですが、鉄鋼が少ないのが少々難点でありますな」
そう説明するのは、海軍工廠の責任者である。
確かに、国内に貯蔵されている鉄鋼の量は、量産型駆逐艦の建造開始後にだいぶ減っている。その分、油やその他物資の備蓄量も減る。
それを打開するための、南方進出でもあるのだ。
「量産型駆逐艦の建造があらかた済めば、戦艦の建造に入りたいんですがねぇ……」
「少し厳しいところではありますが、問題はないですよ。皆、仕事に対する士気は高いですから」
「そうですか。まぁ、ほどほどに頑張ってください」
こうして横須賀の見学は終了した。
時刻はすでに十九時を回っており、この日は近くの旅館に泊まることになっている。
旅館に到着し、夕飯を食って適当に風呂に入り、そして布団に倒れ込んだ。
「あぁ、疲れた……」
宍戸は頭の中で、今後の日本のことを考えながら、眠りにつくのだった。
宍戸は海軍省から送られてきた書類を眺めていた。
「その書類は?」
そこに林がやってくる。
「海軍省内部で検討されている、建造途中の艦と計画艦の一覧です。あとは計画中の火器や兵装、電探などの資料ですね」
「それは軍秘に指定される書類なのでは?」
「はい。ですが、大本営の下部組織の我々には見せてくれるそうです。それでも見せられない部分は黒塗りになっていますけど」
林が書類を覗き込む。確かに一部黒塗りになっており、情報が読み取れない部分もある。
「それで実際の所、戦力を見る限りではどうなんでしょう? 連合国と戦えますか?」
「現状でも最初の一年は問題ないと思いますね。南方進出を一年以内に完了させれば、希望は残っているはずです」
「しかし、海軍だけの力ではなんともならないでしょう? そのあたりはどうお考えで?」
「今、陸軍省と海軍省に連絡員を派遣して、陸海軍共同の作戦を実施できるように仕組みを整えてもらってます。本来なら自分の仕事なんですけどね」
宍戸の肩書は、陸海軍統合戦略政務官(大本営幕僚長相当職)兼連絡将校。本来なら政務官として、陸軍省と海軍省の懸け橋として動かなければならない。しかし当然ながら、宍戸一人でやり切れる職でもない。なので、立川戦略研究所の職員が一部の職務を代行しているのだ。
「海軍の戦力増強を優先してもらっているので、正直陸軍省はいい顔をしてないんですよね……」
そういって宍戸は、とある封筒を取り出す。
「それは?」
「陸軍省から同じように送られてきた戦力拡充計画書です。今は軽戦車を中心に増強しているそうです。個人的には迫撃砲とか擲弾筒、砲兵を増やしてほしいところですけどね」
「投射力のある兵器を中心なんですね」
「はい。でも砲兵とか擲弾筒を増やすと、今までのドクトリンとか戦闘教範が使えなくなるんですよねぇ……」
「今から研究するにしても、大幅に時間が掛かりますね」
「うーん。増やしても使い道が無かったら、それはそれで問題なんだよなぁ……」
宍戸は悩む。
「擲弾兵の存在はかなり大きい。各連隊に一個小隊の範囲で増やすように要請しよう」
そういって宍戸は、木村陸軍大臣宛てに手紙をしたためる。
「さて、そろそろ移動しますか」
そういって宍戸は、研究所の前に止めてあった自動車に乗り込む。
そしてそのまま、東京駅へと向かった。
翌日は横須賀鎮守府と建造中の艦の見学があるのだ。列車に乗り込むと、約二時間ほどで横須賀駅に到着した。
さらに自動車で移動し、目的地である横須賀鎮守府へ到着する。
「ようこそ、横須賀鎮守府へ。さぁどうぞ、中へお入りください」
案内してくれるのは、主計科の少尉であった。軽く鎮守府の中を案内してもらうと、応接室に案内される。
「それでいかがでしょう? 海軍の軍拡は」
「海軍省の方々はよくやっています。現在も日本各地で建造を進めていますし。このまま建造が進めば、量産型駆逐艦は十分な数が揃い、戦艦や空母の建造もできるはずです」
「そうですか、それなら心配はないでしょう。しかし、戦艦や空母の建造は、時間と予算が非常に掛かります。連合国との戦争が始まるまでに、どこまで準備できるか……」
「そうですね。そこは自分も心配です。現状、ドイツがいつ連合国に宣戦布告するかで、アメリカや連合諸国との戦争の時期は大きく変わってきます。早ければ今年中にも戦争が勃発するかもしれないですね」
「それはだいぶ性急ですね。それまでに数合わせできるかどうか……」
「日本の魚雷は優秀ですからね。駆逐艦の量産でなんとかしましょう」
こうした話をした後は、実際に横須賀の海軍工廠で建造されている艦の様子を見学させてもらう。
横須賀のドックには、量産型の駆逐艦が数隻建造されていた。すでに進水している量産型駆逐艦は埠頭に接岸されており、艤装を施されている真っ最中だ。
「大本営立川研究所の提言通り、量産型駆逐艦の建造にてんてこ舞いです。仕事があるのはありがたいのですが、鉄鋼が少ないのが少々難点でありますな」
そう説明するのは、海軍工廠の責任者である。
確かに、国内に貯蔵されている鉄鋼の量は、量産型駆逐艦の建造開始後にだいぶ減っている。その分、油やその他物資の備蓄量も減る。
それを打開するための、南方進出でもあるのだ。
「量産型駆逐艦の建造があらかた済めば、戦艦の建造に入りたいんですがねぇ……」
「少し厳しいところではありますが、問題はないですよ。皆、仕事に対する士気は高いですから」
「そうですか。まぁ、ほどほどに頑張ってください」
こうして横須賀の見学は終了した。
時刻はすでに十九時を回っており、この日は近くの旅館に泊まることになっている。
旅館に到着し、夕飯を食って適当に風呂に入り、そして布団に倒れ込んだ。
「あぁ、疲れた……」
宍戸は頭の中で、今後の日本のことを考えながら、眠りにつくのだった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界で農業を -異世界編-
半道海豚
SF
地球温暖化が進んだ近未来のお話しです。世界は食糧難に陥っていますが、日本はどうにか食糧の確保に成功しています。しかし、その裏で、食糧マフィアが暗躍。誰もが食費の高騰に悩み、危機に陥っています。
そんな世界で自給自足で乗り越えようとした男性がいました。彼は農地を作るため、祖先が残した管理されていない荒れた山に戻ります。そして、異世界への通路を発見するのです。異常気象の元世界ではなく、気候が安定した異世界での農業に活路を見出そうとしますが、異世界は理不尽な封建制社会でした。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる