転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春

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第55話 見学

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 一九三七年一月二十九日。
 宍戸は海軍省から送られてきた書類を眺めていた。
「その書類は?」
 そこに林がやってくる。
「海軍省内部で検討されている、建造途中の艦と計画艦の一覧です。あとは計画中の火器や兵装、電探などの資料ですね」
「それは軍秘に指定される書類なのでは?」
「はい。ですが、大本営の下部組織の我々には見せてくれるそうです。それでも見せられない部分は黒塗りになっていますけど」
 林が書類を覗き込む。確かに一部黒塗りになっており、情報が読み取れない部分もある。
「それで実際の所、戦力を見る限りではどうなんでしょう? 連合国と戦えますか?」
「現状でも最初の一年は問題ないと思いますね。南方進出を一年以内に完了させれば、希望は残っているはずです」
「しかし、海軍だけの力ではなんともならないでしょう? そのあたりはどうお考えで?」
「今、陸軍省と海軍省に連絡員を派遣して、陸海軍共同の作戦を実施できるように仕組みを整えてもらってます。本来なら自分の仕事なんですけどね」
 宍戸の肩書は、陸海軍統合戦略政務官(大本営幕僚長相当職)兼連絡将校。本来なら政務官として、陸軍省と海軍省の懸け橋として動かなければならない。しかし当然ながら、宍戸一人でやり切れる職でもない。なので、立川戦略研究所の職員が一部の職務を代行しているのだ。
「海軍の戦力増強を優先してもらっているので、正直陸軍省はいい顔をしてないんですよね……」
 そういって宍戸は、とある封筒を取り出す。
「それは?」
「陸軍省から同じように送られてきた戦力拡充計画書です。今は軽戦車を中心に増強しているそうです。個人的には迫撃砲とか擲弾筒、砲兵を増やしてほしいところですけどね」
「投射力のある兵器を中心なんですね」
「はい。でも砲兵とか擲弾筒を増やすと、今までのドクトリンとか戦闘教範が使えなくなるんですよねぇ……」
「今から研究するにしても、大幅に時間が掛かりますね」
「うーん。増やしても使い道が無かったら、それはそれで問題なんだよなぁ……」
 宍戸は悩む。
「擲弾兵の存在はかなり大きい。各連隊に一個小隊の範囲で増やすように要請しよう」
 そういって宍戸は、木村陸軍大臣宛てに手紙をしたためる。
「さて、そろそろ移動しますか」
 そういって宍戸は、研究所の前に止めてあった自動車に乗り込む。
 そしてそのまま、東京駅へと向かった。
 翌日は横須賀鎮守府と建造中の艦の見学があるのだ。列車に乗り込むと、約二時間ほどで横須賀駅に到着した。
 さらに自動車で移動し、目的地である横須賀鎮守府へ到着する。
「ようこそ、横須賀鎮守府へ。さぁどうぞ、中へお入りください」
 案内してくれるのは、主計科の少尉であった。軽く鎮守府の中を案内してもらうと、応接室に案内される。
「それでいかがでしょう? 海軍の軍拡は」
「海軍省の方々はよくやっています。現在も日本各地で建造を進めていますし。このまま建造が進めば、量産型駆逐艦は十分な数が揃い、戦艦や空母の建造もできるはずです」
「そうですか、それなら心配はないでしょう。しかし、戦艦や空母の建造は、時間と予算が非常に掛かります。連合国との戦争が始まるまでに、どこまで準備できるか……」
「そうですね。そこは自分も心配です。現状、ドイツがいつ連合国に宣戦布告するかで、アメリカや連合諸国との戦争の時期は大きく変わってきます。早ければ今年中にも戦争が勃発するかもしれないですね」
「それはだいぶ性急ですね。それまでに数合わせできるかどうか……」
「日本の魚雷は優秀ですからね。駆逐艦の量産でなんとかしましょう」
 こうした話をした後は、実際に横須賀の海軍工廠で建造されている艦の様子を見学させてもらう。
 横須賀のドックには、量産型の駆逐艦が数隻建造されていた。すでに進水している量産型駆逐艦は埠頭に接岸されており、艤装を施されている真っ最中だ。
「大本営立川研究所の提言通り、量産型駆逐艦の建造にてんてこ舞いです。仕事があるのはありがたいのですが、鉄鋼が少ないのが少々難点でありますな」
 そう説明するのは、海軍工廠の責任者である。
 確かに、国内に貯蔵されている鉄鋼の量は、量産型駆逐艦の建造開始後にだいぶ減っている。その分、油やその他物資の備蓄量も減る。
 それを打開するための、南方進出でもあるのだ。
「量産型駆逐艦の建造があらかた済めば、戦艦の建造に入りたいんですがねぇ……」
「少し厳しいところではありますが、問題はないですよ。皆、仕事に対する士気は高いですから」
「そうですか。まぁ、ほどほどに頑張ってください」
 こうして横須賀の見学は終了した。
 時刻はすでに十九時を回っており、この日は近くの旅館に泊まることになっている。
 旅館に到着し、夕飯を食って適当に風呂に入り、そして布団に倒れ込んだ。
「あぁ、疲れた……」
 宍戸は頭の中で、今後の日本のことを考えながら、眠りにつくのだった。
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