3 / 13
第一章
3.体育大会当日
しおりを挟む
「やめろ。……気持ち悪い」
「……ごめん。忘れて」
あの日以降、貴斗と会話することはなかった。
廊下ですれ違うことはあるが、互いに視線を逸らす。
二人の異変は直ぐにクラスメイトにも知れ渡る。
「あれ?和樹、新木くんは?今日は一緒に帰らねーの?」
「別に一緒じゃなくてもいいだろ」
「ふーん。珍しいこともあるんだな」
和樹は小さくため息を吐く。和樹と貴斗が一緒に帰ってる習慣はクラスの誰もが知っていた。
そして、和樹は貴斗と口を聞くことがないまま体育大会当日を迎えた。
◇
空に広がる青空は絶好の体育大会日和である。吹奏楽のファンファーレが響き渡る中、和樹はテントの影で自分の水筒に口をつけた。
喉を潤いつつも視線は誰かを探していた。
──貴斗の姿を。
(……なんで探しているんだ、俺は)
あの日のことを思い出す度に、胃の奥が重くなる。
あの目も。あの声も。
言葉に表せない気味の悪さと痛々しさの混じった感情── 自分に向けられているものが正直、怖かった。
貴斗のアルファとしての本能を受け止められるほど、ベータである自分は強くはなかった。
プログラムが進んで行く中、貴斗が出場するリレーが始まった。
彼の走るフォームはとても綺麗で速くて無駄がない。周囲からの歓声を浴びながら前に走る選手をどんどん抜かしていく。
「きゃー!新木くーん!!」
「新木くん、さすが!」
「新木、めっちゃ速いな!」
必死に駆けている彼には憧れの視線が向けられている。
それなのに、彼の目に感情が宿っていないように見えた。
(あいつ……調子悪いのか?)
けれど、自分には彼を心配する権利などない。
彼にひどい言葉を投げかけたのは自分なのだ。むしろ、あんな告白を受けて気にかける自分の方がおかしいのかもしれない。
◇
「和樹!次、お前のリレーだぞ!」
「おう、すぐ行く!」
和樹は慌ててゼッケンをつけていると、ふと気配を感じて顔を上げた。
──貴斗だった。
距離にして十数メートル。
同じくリレーの待機列で並ぶ影でじっと和樹を見つめている。
貴斗が何かを言おうとわずかな口を開きかける。しかし、音は届かなかった。和樹が目を逸らしたからだ。
その姿を見た貴斗は目線を下げて歩き出す。
聞きたくなかった。
彼の声を聞いてしまったら、もう戻れないと思った。
(……これでいいんだ)
今はまだ話せない。
貴斗も自分もまだ時間が必要だ。
今話してしまったら、怒りと悲しみの渦を彼にぶつけてしまうだろう。
そして、時間が経てばきっと貴斗も分かるはずだ。
──結ばれるべき相手はオメガだと。
──ベータである自分に構っている場合ではないのだと。
(……これで、いいんだ)
そう自分に言い聞かせていると、笛の音が鳴った。
最後の競技の始まりを告げる合図に、和樹はスタートラインへと歩き出した。
貴斗の方へもう一度振り返った。
しかし、そこにはもう彼の姿はなかった。
「……ごめん。忘れて」
あの日以降、貴斗と会話することはなかった。
廊下ですれ違うことはあるが、互いに視線を逸らす。
二人の異変は直ぐにクラスメイトにも知れ渡る。
「あれ?和樹、新木くんは?今日は一緒に帰らねーの?」
「別に一緒じゃなくてもいいだろ」
「ふーん。珍しいこともあるんだな」
和樹は小さくため息を吐く。和樹と貴斗が一緒に帰ってる習慣はクラスの誰もが知っていた。
そして、和樹は貴斗と口を聞くことがないまま体育大会当日を迎えた。
◇
空に広がる青空は絶好の体育大会日和である。吹奏楽のファンファーレが響き渡る中、和樹はテントの影で自分の水筒に口をつけた。
喉を潤いつつも視線は誰かを探していた。
──貴斗の姿を。
(……なんで探しているんだ、俺は)
あの日のことを思い出す度に、胃の奥が重くなる。
あの目も。あの声も。
言葉に表せない気味の悪さと痛々しさの混じった感情── 自分に向けられているものが正直、怖かった。
貴斗のアルファとしての本能を受け止められるほど、ベータである自分は強くはなかった。
プログラムが進んで行く中、貴斗が出場するリレーが始まった。
彼の走るフォームはとても綺麗で速くて無駄がない。周囲からの歓声を浴びながら前に走る選手をどんどん抜かしていく。
「きゃー!新木くーん!!」
「新木くん、さすが!」
「新木、めっちゃ速いな!」
必死に駆けている彼には憧れの視線が向けられている。
それなのに、彼の目に感情が宿っていないように見えた。
(あいつ……調子悪いのか?)
けれど、自分には彼を心配する権利などない。
彼にひどい言葉を投げかけたのは自分なのだ。むしろ、あんな告白を受けて気にかける自分の方がおかしいのかもしれない。
◇
「和樹!次、お前のリレーだぞ!」
「おう、すぐ行く!」
和樹は慌ててゼッケンをつけていると、ふと気配を感じて顔を上げた。
──貴斗だった。
距離にして十数メートル。
同じくリレーの待機列で並ぶ影でじっと和樹を見つめている。
貴斗が何かを言おうとわずかな口を開きかける。しかし、音は届かなかった。和樹が目を逸らしたからだ。
その姿を見た貴斗は目線を下げて歩き出す。
聞きたくなかった。
彼の声を聞いてしまったら、もう戻れないと思った。
(……これでいいんだ)
今はまだ話せない。
貴斗も自分もまだ時間が必要だ。
今話してしまったら、怒りと悲しみの渦を彼にぶつけてしまうだろう。
そして、時間が経てばきっと貴斗も分かるはずだ。
──結ばれるべき相手はオメガだと。
──ベータである自分に構っている場合ではないのだと。
(……これで、いいんだ)
そう自分に言い聞かせていると、笛の音が鳴った。
最後の競技の始まりを告げる合図に、和樹はスタートラインへと歩き出した。
貴斗の方へもう一度振り返った。
しかし、そこにはもう彼の姿はなかった。
111
あなたにおすすめの小説
運命の番は僕に振り向かない
ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。
それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。
オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。
ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。
ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。
ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。
ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。
思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?
手の届かない元恋人
深夜
BL
昔、付き合っていた大好きな彼氏に振られた。
元彼は人気若手俳優になっていた。
諦めきれないこの恋がやっと終わると思ってた和弥だったが、仕事上の理由で元彼と会わないといけなくなり....
泡にはならない/泡にはさせない
玲
BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――
明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。
「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」
衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。
「運命論者は、間に合ってますんで。」
返ってきたのは、冷たい拒絶……。
これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。
オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。
彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。
——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。
オメガはオメガらしく生きろなんて耐えられない
子犬一 はぁて
BL
「オメガはオメガらしく生きろ」
家を追われオメガ寮で育ったΩは、見合いの席で名家の年上αに身請けされる。
無骨だが優しく、Ωとしてではなく一人の人間として扱ってくれる彼に初めて恋をした。
しかし幸せな日々は突然終わり、二人は別れることになる。
5年後、雪の夜。彼と再会する。
「もう離さない」
再び抱きしめられたら、僕はもうこの人の傍にいることが自分の幸せなんだと気づいた。
彼は温かい手のひらを持つ人だった。
身分差×年上アルファ×溺愛再会BL短編。
ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!
ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!?
「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??
サンタからの贈り物
未瑠
BL
ずっと片思いをしていた冴木光流(さえきひかる)に想いを告げた橘唯人(たちばなゆいと)。でも、彼は出来るビジネスエリートで仕事第一。なかなか会うこともできない日々に、唯人は不安が募る。付き合って初めてのクリスマスも冴木は出張でいない。一人寂しくイブを過ごしていると、玄関チャイムが鳴る。
※別小説のセルフリメイクです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる