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第二章
12.本能に抗った先に【最終話】
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和樹が入院したころから、貴斗はアルファ専用のカウンセリングに通うようになった。
そこは、アルファとしての本能が強い者や仕事柄それを抑える必要がある者が利用する、衝動抑制に特化した研究施設だった。
現実に近い状況を再現し、その空間でも本能を抑えるプログラムも組まれている。
和樹はその日も施設の入り口近くのベンチに腰を下ろしていた。
時間は夕方近くとなり、傾いた陽が周辺を照らしていた。
扉が開き、貴斗が姿を現す。訓練とカウンセリングを終えたばかりの彼の顔は、疲れがにじみ出ていた。
「おつかれ」
和樹が声を掛けると、貴斗は驚いたように目を見開き、そして少し照れたように微笑んだ。
「……和樹」
「ほら、これ差し入れ」
そう言って和樹はコンビニの袋からおにぎりとコーヒーを取り出して手渡す。
「……組み合わせ悪くね?」
「いらないなら俺が食うけど?」
「ありがたくいただきます……!」
おにぎりを頬張る横顔を和樹は黙って見つめていた。
毎日、顔を合わせるたびに少しずつ痩せていく貴斗を、和樹ただ見守るしかなかった。
もし、自分が貴斗の“番”という存在になれたなら──彼の不安も衝動も和らげれたのかもしれない。
あの日、教室で彼を止める力があったなら──
(でも、俺はベータだから。変わらない)
どれだけ悔やんでも変わらない現実だった。
◇
ある日、訓練に向かった貴斗を見送った後、和樹は医師に思い切って尋ねてみた。
「支える側にできることって……ありますか?」
「あなたはベータですよ?正直、干渉は推奨しません」
「それでも……知りたいんです」
ベータである自分にはできることなんてないのかもしれない。
それでも、何もしないで待つだけなのは嫌だった。
そうして和樹は『パートナーのサポート講習』という枠で、週に数回、アルファの衝動・応急対応について学ぶことになった。
講義の最後、講師が和樹に言った。
「番でもないあなたがそこまで関わる理由はなんですか?」
和樹は少し迷ってから答えた。
「……俺は、番じゃありません。でも、あいつが俺を番だと思ってくれるならそれでいいんです」
◇
それから数か月が経ったころ。
貴斗が初めて『誘惑のフェロモン』に耐え抜いたという連絡が届いた。
「あの新木くんが、“衝動を黙らせた”んですよ」
その報告を受けた和樹は、急いで病室へと駆け込んだ。
「貴斗!」
病室の扉を開くと貴斗はベッドに腰掛けていた。和樹の顔を見るなり、戸惑ったような表情をする。
「なんで泣いてんだよ……」
「うるさい。すげえよ、貴斗。ありがとう……!」
貴斗は訓練の最中に何度も倒れたこと。
本能に負けた自分を責めて続けていたこと。
でも、今日は自分でブレーキをかけた。
“和樹が隣にいた”からじゃない。貴斗が“自分で立ち止まった”。
そのことが、和樹には何より嬉しかった。
◇
大学進学を機に、二人は同じ部屋で暮らし始めた。
週に一度、貴斗は訓練とカウンセリングへ通っている。その日の夕食には、和樹が貴斗の大好物であるオムライスを作る。
オムライスを頬張りながら貴斗が不意に言った。
「“噛めない番”っていいな」
「なにそれ」
「理性と信頼で結ばれてるって感じ。かっこよくね?」
「バカ。俺はお前の番じゃねーよ」
「うん。だけど、俺が一生隣にいたいって思うのは、和樹だけ」
こちらを見つめる視線が、選び取った意志の証だった。
番じゃないのかもしれない。
家族になれないのかもしれない。
でも、心だけは結ばれている。
それだけは変わらない。
本能に抗った先に、二人で笑い合う未来が確かに見えていた。
─END─
そこは、アルファとしての本能が強い者や仕事柄それを抑える必要がある者が利用する、衝動抑制に特化した研究施設だった。
現実に近い状況を再現し、その空間でも本能を抑えるプログラムも組まれている。
和樹はその日も施設の入り口近くのベンチに腰を下ろしていた。
時間は夕方近くとなり、傾いた陽が周辺を照らしていた。
扉が開き、貴斗が姿を現す。訓練とカウンセリングを終えたばかりの彼の顔は、疲れがにじみ出ていた。
「おつかれ」
和樹が声を掛けると、貴斗は驚いたように目を見開き、そして少し照れたように微笑んだ。
「……和樹」
「ほら、これ差し入れ」
そう言って和樹はコンビニの袋からおにぎりとコーヒーを取り出して手渡す。
「……組み合わせ悪くね?」
「いらないなら俺が食うけど?」
「ありがたくいただきます……!」
おにぎりを頬張る横顔を和樹は黙って見つめていた。
毎日、顔を合わせるたびに少しずつ痩せていく貴斗を、和樹ただ見守るしかなかった。
もし、自分が貴斗の“番”という存在になれたなら──彼の不安も衝動も和らげれたのかもしれない。
あの日、教室で彼を止める力があったなら──
(でも、俺はベータだから。変わらない)
どれだけ悔やんでも変わらない現実だった。
◇
ある日、訓練に向かった貴斗を見送った後、和樹は医師に思い切って尋ねてみた。
「支える側にできることって……ありますか?」
「あなたはベータですよ?正直、干渉は推奨しません」
「それでも……知りたいんです」
ベータである自分にはできることなんてないのかもしれない。
それでも、何もしないで待つだけなのは嫌だった。
そうして和樹は『パートナーのサポート講習』という枠で、週に数回、アルファの衝動・応急対応について学ぶことになった。
講義の最後、講師が和樹に言った。
「番でもないあなたがそこまで関わる理由はなんですか?」
和樹は少し迷ってから答えた。
「……俺は、番じゃありません。でも、あいつが俺を番だと思ってくれるならそれでいいんです」
◇
それから数か月が経ったころ。
貴斗が初めて『誘惑のフェロモン』に耐え抜いたという連絡が届いた。
「あの新木くんが、“衝動を黙らせた”んですよ」
その報告を受けた和樹は、急いで病室へと駆け込んだ。
「貴斗!」
病室の扉を開くと貴斗はベッドに腰掛けていた。和樹の顔を見るなり、戸惑ったような表情をする。
「なんで泣いてんだよ……」
「うるさい。すげえよ、貴斗。ありがとう……!」
貴斗は訓練の最中に何度も倒れたこと。
本能に負けた自分を責めて続けていたこと。
でも、今日は自分でブレーキをかけた。
“和樹が隣にいた”からじゃない。貴斗が“自分で立ち止まった”。
そのことが、和樹には何より嬉しかった。
◇
大学進学を機に、二人は同じ部屋で暮らし始めた。
週に一度、貴斗は訓練とカウンセリングへ通っている。その日の夕食には、和樹が貴斗の大好物であるオムライスを作る。
オムライスを頬張りながら貴斗が不意に言った。
「“噛めない番”っていいな」
「なにそれ」
「理性と信頼で結ばれてるって感じ。かっこよくね?」
「バカ。俺はお前の番じゃねーよ」
「うん。だけど、俺が一生隣にいたいって思うのは、和樹だけ」
こちらを見つめる視線が、選び取った意志の証だった。
番じゃないのかもしれない。
家族になれないのかもしれない。
でも、心だけは結ばれている。
それだけは変わらない。
本能に抗った先に、二人で笑い合う未来が確かに見えていた。
─END─
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