【完結】変態αのフェロモン観測記録

加賀ユカリ

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第二章

12.ふたりだけの約束※

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 瑞樹の寝室はフェロモンと熱で満たされ、まるで世界がふたりだけになったようだった。

 慧は一度身体を起こし、自身のシャツに手をかけた。汗で張り付いた服を脱ぎ捨て、引き締まった身体が露わになる。
 瑞樹のぼんやりとした瞳がその動きを追うが、焦点は定まらない。慧の肌から漂うフェロモンがさらに濃くなり、瑞樹の胸が締め付けられた。

 慧の指先が瑞樹の後孔へ触れた。それだけで、全身が歓喜する。

 瑞樹の身体は熱に震え、慧の触れる指先一つ一つに敏感に反応した。汗と熱で濡れた肌が互いに絡み合い、瑞樹の吐息が乱れた。

「ぁああ、ふ……ぐぅ!」
「瑞樹くん、力抜いて……大丈夫だよ」  

 孔の縁をくるくる撫でるように触れた後、慧の指先が侵入してきた。

「ゆ、ゆび……いらない……! はやく……!」

 瑞樹は慧の下腹部から目が離せなかった。そこは、今にもはち切れそうなほどに膨らんでいる。

「瑞樹くん……嫌だったらすぐに言ってね」

 瑞樹は目を閉じ、慧の温もりに身を委ねた。
 瑞樹の腰をそっと引き寄せられると、ゆっくりとその屹立が奥へと進んでいく。瑞樹の身体は熱と快感に揺さぶられ、思わず声が漏れた。  

「んぁ……っ! ぁあ……けいぃ……!」  

 言葉にならない快感が全身を包み、瑞樹は慧の背にしがみつく。
 律動は何度も繰り返され、汗と熱でぐしゃぐしゃになった身体は、まるで理性を溶かすように反応した。強い快感が瑞樹を襲い、身体が震え、熱と感情が溢れ出す。

「ぃあ、あ、ぁあ……っ!!」

 最奥を突かれた後、慧が瑞樹の身体の上に覆いかぶさった。瑞樹の手足をがっしりと押さえながら、微かに腰を揺らしている。

 その瞬間、瑞樹はふと、熱に浮かされた頭で呟いた。

「……けい、ほかのひとと……したこと、あるの……?」  

 慧は動きを止め、目を丸くして瑞樹を見つめた。

「へっ!? み、瑞樹くん以外とするわけないよ!」  

 その声は少し慌てふためきながらも、本気だった。瑞樹はぼんやりとした意識の中で、ふにゃふにゃとした声で続ける。  

「……ん、だって……きもちいいばっか、だから……」  

 その甘えた、ふわふわした声に、慧の理性が一瞬で爆発した。  

「瑞樹くんっ! そんな可愛いこと言わないでよ、僕、抑えるの限界なんだけど……!」  

 慧の声は切なげで、けれど愛おしさに溢れていた。瑞樹の頬を両手で包み、熱いキスを何度も重ねた。

 ◇

 ベッドの上、瑞樹は仰向けに寝転がり、肩で息をしていた。
 額には汗がにじみ、唇の端からは唾液が流れて、喉元を伝って鎖骨に落ちていく。

 繰り返す絶頂に身体が弛緩し、瑞樹の瞳は半ば虚ろである。だが、かすかに焦点を結ぶ先は、いつも慧だった。

「……けい……もう、むり……」

 小さくそう呟いた瑞樹の声音は、しゃがれて艶を帯びていた。
 髪は汗で額に貼りつき、うなじから背にかけて濡れた肌が紅潮している。

 慧はその姿を愛しげに、そして独占欲の滲むまなざしで見下ろしていた。
 瑞樹の脚の間を流れる精液が、白く肌を濡らしているのを見て、目を細めた。

「……こんなになるまで、気持ちよくなってくれて……嬉しいな」

 そっと手を伸ばし、瑞樹の頬を撫でる。
 その指先さえも汗と唾液と己の欲の痕跡で湿っている。

「瑞樹くん、可愛いね。大好きだよ」 

 その言葉に、瑞樹の胸はさらに熱くなる。ぼんやりとした意識の中で、慧の顔だけがはっきりと浮かんでいた。

「その可愛い顔、他の誰にも見せないでね」

 慧の声は少し独占欲を帯びつつ、どこまでも優しい。瑞樹は熱に浮かされながら、掠れた声で応えた。

「……けい、も……」
「うん?」
「けいも……だれにもみせたら、だめ……。おれだけのけい……じゃないと、いや……」

 慧は一瞬目を丸くし、すぐに嬉しそうに微笑んだ。

「瑞樹くんは僕だけのΩだし、僕は瑞樹くんだけのαだよ」  

 慧は自身の首に付けていたネックガードを外し、そっと瑞樹の首に装着した。

「これで、約束ね」  

 瑞樹は小さく頷き、自分の頬を撫でる彼の手を弱々しく掴んだ。

 ◇◇

 慧は、ぐったりとした瑞樹の身体をそっと抱き上げた。
 骨ばっている身体は、熱と余韻にくたくたに力を失っていて、まるで熱の残った湯たんぽのように頼りなくも心地よかった。

「……瑞樹くん、お風呂入ろう。汗びっしょりで気持ち悪いでしょ?」

 声をかけても返事はない。
 だが、瑞樹は慧の首に腕を回し、無意識に頬を押し当てていた。


 瑞樹を抱き上げたまま、風呂場に着いた。
 湯を張った浴槽にゆっくりと身体を沈めると、瑞樹が微かに安堵の吐息を漏らした。
 慧はぬるめのお湯を手ですくって、瑞樹の額、頬、首筋をやさしく洗っていく。

「髪も洗ってあげる。……目、閉じて」

 シャンプーを泡立てると、瑞樹は素直に目を閉じたまま、慧の指に頭を預けてきた。
 髪の根元から丁寧に洗い、湯で流す。快楽にまみれた瑞樹の身体が少しずつ現実に戻っていくのが分かった。

「……けい」
「うん?」
「……ありがと……」

 絞り出すようなその一言に、慧は心をぎゅっと掴まれた。

「僕の方こそ。瑞樹くんが、僕を呼んでくれてよかった」

 ぬるま湯の中、二人の身体はまた自然と寄り添っていた。
 泡の残る腕の中で、瑞樹は静かに目を閉じる。
 慧はその額にそっとキスを落としながら、何度も心の中で呟いた。

(瑞樹くんに何があっても守る。どんな瑞樹くんも全部大好きだよ)

 ◇◇

 朝陽がカーテンの隙間から柔らかく差し込む頃、瑞樹は慧の腕の中で目を覚ました。  
 身体にはまだ昨夜の熱の余韻が残り、頭はぼんやりと霞がかかったよう。まるで夢の中にいるような、ふわふわした感覚が全身を包んでいた。  

「……ん……」 

 小さな呟きを漏らし、瑞樹は慧の胸元に顔をすり寄せる。まるで幼い子どもが親に甘えるように、ぎゅっと慧の腕を掴んだ。 

「……けい、いる……?」 

 声は少し掠れ、眠たげで甘えた調子である。普段の強気な態度はどこかへ消え、ただただ無防備に慧を求めていた。

「おはよう、瑞樹くん」 

 優しく響く声とともに、慧が瑞樹の髪をそっと撫でながら微笑んだ。

「うん、いるよ。ちゃんとここにいる」  
「……ん、よかった……」  

 瑞樹は目を細め、ぼんやりとしたまま慧の胸に頬を押し付けた。
 その仕草はまるで子猫のようで、慧は思わず笑みを深めた。  

「瑞樹くん、すごく甘えん坊だね。こんな可愛いと、離したくなくなるよ」 
「……んー、はなさないで……」 

 瑞樹はむにゃむにゃと呟き、慧の腕にさらにしがみつく。普段なら「バカ!」と一蹴しているところだが、今はただ慧の温もりに浸っている。頭がまだぼんやりして、昨夜の熱と快感の記憶がふわふわと漂っていた。

「けい……あったかい……」  
「そっか。じゃあ、もっとくっついていい?」  

 慧はそう言って、瑞樹をそっと抱き寄せる。瑞樹は抵抗するどころか、むしろ自分から慧の胸に潜り込むように身体を預けた。  

「……けい、すき……」

 小さな、ほとんど聞こえないような声で呟く。慧は一瞬動きを止め、目を細めて瑞樹の頭を撫でた。

「僕もだよ。瑞樹くん、大好き」 

 その言葉に、瑞樹の頬がほんのり赤くなる。ぽやぽやした意識の中でも、慧の声はちゃんと心に届いていた。  

「……ん、けいのにおい……いいにおい……」

 瑞樹は慧の胸に鼻を寄せ、くんくんと匂いを嗅ぐ。まるで安心を確かめるような仕草であった。慧はくすっと笑い、瑞樹の髪に軽くキスを落とす。

「瑞樹くんの匂いも、最高だよ。ほら、計測器もそう言ってる」  

 瑞樹の腕にある計測器が静かに光っている。


 フェロモン値:252.2(幸福感増加)


「……ん、みないで……」  

 瑞樹は恥ずかしそうに呟くが、すぐにまた慧の胸に顔を埋める。

「けい、ずっとここにいて……どこにもいかないで……」  

 その声は甘く、どこか不安げであった。慧は瑞樹の背を優しく撫でながら、そっと囁いた。

「どこにも行かないよ。瑞樹くんだけのαでいるって、昨日約束したでしょ?」  
「……ん、やくそく……」

 瑞樹は満足したように小さく頷き、慧の腕の中で目を閉じる。  
 ぽやぽやとしたまま、まるで子どものように甘える瑞樹の姿に、慧はただただ愛おしそうに微笑んだ。  

「瑞樹くん、ほんと可愛いね。こんな甘えん坊なの、僕だけがいいな」
「……けいだけでいい……」 

 瑞樹の小さな声に、慧の胸は温かさでいっぱいになる。  
 ふたりの朝は、柔らかく穏やかで幸せに満ちていた。
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