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アンジェリカ(18)……カールセン伯爵家の娘。侯爵家との縁組が決まっている。
エリカ(12)……アンジェリカの妹。叔父であるダンカン男爵家に預けられている。
***
アンジェリカと久しぶりに会った妹のエリカは落ち着きがなかった。
向かい合って座っていても、じっとしてられないようにそわそわとして、視線もうろうろしている。
物を食べたら、幼児でもないのに食べこぼす。
ティーカップも静かに置けずに音を立てる。挙句の果てにはソーサーにこぼしていた。
これが社交界デビューも間近の12歳だというのだろうか。
(伯爵家の娘がこの調子では困ったものだわ……)
アンジェリカはお手本のような淑女の挙動でお茶を飲み干すが、エリカの隣に座る叔母のダンカン男爵夫人は微笑ましそうにエリカの口元の食べクズを拭いてやっている。
「エリカ。背筋を伸ばしなさい。肘をついてお茶も飲まない!」
見るに見かねてアンジェリカがエリカに注意をすると、おお、怖い、と叔母の方が首を竦めている。
「お茶や食事は美味しくいただくのがマナーなんですよ、お姉さま」
「そうね、その通りだわ」
エリカの口答えに叔母が同調するのにため息をついた。
(困りものなのは叔父様、叔母様もよ。いいえ、こちらの方が問題だわ)
エリカはカールセン伯爵家の娘であって、叔父の家に預けられているだけであって、養女というわけではない。
叔母夫婦は小さい時から預かっていた姪を猫っかわいがりするだけしていて、まともに躾も教育もされていないことにアンジェリカは呆れかえった。
「ちゃんとエリカの教育をさせてください!」
「焦る必要なんてないわよー。まだちいちゃいんだし」
「この子はもう12歳なんですよ!」
エリカの社交界デビューは来年だ。今までは誰とも付き合いをせずにすんでも、この後はどうしたって必要が出てくる。
アンジェリカとエリカの家、カールセン伯爵家は、伯爵夫人であった母が亡くなってもう久しい。
父の伯爵は仕事で領地に行ったきりになっている。
アンジェリカが女子寮に入れる年齢になってからはそちらで主に過ごすようになったため、まだ小さかったエリカは、子供がいなかった叔父の家に引き取られて育てられることになったのだ。
さすがにいつまでも預けっぱなしではと、伯爵家の家政を取り仕切るようになったアンジェリカが女主人として妹の様子を見にきたらこれである。
もっと構ってやるべきだった! と後悔しても後の祭りだった。
「この子は伯爵家の娘なのですよ。家格に合った教育をしてくださらなければ、この子の将来に関わります」
アンジェリカが叔母を睨みつけるとエリカはめそめそと泣き出した。
「お姉さまは私がお嫌いなのね」
「エリカ! そういうことではないとなぜわからないの」
「アンジェリカ、妹をいじめるのはやめないか」
あべこべにアンジェリカが叱られる始末。
エリカは物心つく前から男爵家の庇護下で育ってきていたのだ。この家でエリカを叱る人もいなかった。こんな行儀が悪い娘が我がカールマン伯爵家の者だと知れたら、アンジェリカも父も恥をかくと思えばアンジェリカも焦る。
「エリカちゃんが可愛いからってヤキモチやいちゃって。エリカちゃんは王子妃にだってなれるわよ」
叔母はエリカの機嫌をとるように、アンジェリカをけなしてくるし。
厳しい姉より、甘やかしてくれる叔母の方がエリカもいいに決まっている。無理に伯爵家に連れ帰ろうとしてもエリカ本人も嫌がり、叔父夫婦がエリカを手放してくれなかった。
耳心地のいい言葉しか聞かない妹に、どうしたらいいのか、とアンジェリカは悔しくて唇を噛んだ。
* * *
「本当に困ったわ……このままでは間に合わなくなってしまう……」
教養部分はともかく、マナー自体が壊滅的なエリカ。
いっそのこと社交界デビューをさせない方が本人のためではないかと思うくらいだが、そうなったらこの貴族社会では彼女の未来は潰されるも同じだ。身内としてそれだけは避けてやりたい。
アンジェリカは婚約者であり恋人のルパートの前で嘆いていたが、トルナ侯爵令息であるルパートは笑顔で提案してきた。
「ねえ、俺の家に妹さんをお招きしていいかい?」
婚約者の言葉にアンジェリカは不安そうな顔をする。
自分の妹が問題を起こし、彼の顔にも泥を塗ったらと思うと不安で仕方がない。
「ルパート、大丈夫なの? エリカは幼児なみにマナーができてない子なのよ?」
「うん、わかっているよ大丈夫。きっと、エリカさんにいい経験になるよ」
エリカ(12)……アンジェリカの妹。叔父であるダンカン男爵家に預けられている。
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アンジェリカと久しぶりに会った妹のエリカは落ち着きがなかった。
向かい合って座っていても、じっとしてられないようにそわそわとして、視線もうろうろしている。
物を食べたら、幼児でもないのに食べこぼす。
ティーカップも静かに置けずに音を立てる。挙句の果てにはソーサーにこぼしていた。
これが社交界デビューも間近の12歳だというのだろうか。
(伯爵家の娘がこの調子では困ったものだわ……)
アンジェリカはお手本のような淑女の挙動でお茶を飲み干すが、エリカの隣に座る叔母のダンカン男爵夫人は微笑ましそうにエリカの口元の食べクズを拭いてやっている。
「エリカ。背筋を伸ばしなさい。肘をついてお茶も飲まない!」
見るに見かねてアンジェリカがエリカに注意をすると、おお、怖い、と叔母の方が首を竦めている。
「お茶や食事は美味しくいただくのがマナーなんですよ、お姉さま」
「そうね、その通りだわ」
エリカの口答えに叔母が同調するのにため息をついた。
(困りものなのは叔父様、叔母様もよ。いいえ、こちらの方が問題だわ)
エリカはカールセン伯爵家の娘であって、叔父の家に預けられているだけであって、養女というわけではない。
叔母夫婦は小さい時から預かっていた姪を猫っかわいがりするだけしていて、まともに躾も教育もされていないことにアンジェリカは呆れかえった。
「ちゃんとエリカの教育をさせてください!」
「焦る必要なんてないわよー。まだちいちゃいんだし」
「この子はもう12歳なんですよ!」
エリカの社交界デビューは来年だ。今までは誰とも付き合いをせずにすんでも、この後はどうしたって必要が出てくる。
アンジェリカとエリカの家、カールセン伯爵家は、伯爵夫人であった母が亡くなってもう久しい。
父の伯爵は仕事で領地に行ったきりになっている。
アンジェリカが女子寮に入れる年齢になってからはそちらで主に過ごすようになったため、まだ小さかったエリカは、子供がいなかった叔父の家に引き取られて育てられることになったのだ。
さすがにいつまでも預けっぱなしではと、伯爵家の家政を取り仕切るようになったアンジェリカが女主人として妹の様子を見にきたらこれである。
もっと構ってやるべきだった! と後悔しても後の祭りだった。
「この子は伯爵家の娘なのですよ。家格に合った教育をしてくださらなければ、この子の将来に関わります」
アンジェリカが叔母を睨みつけるとエリカはめそめそと泣き出した。
「お姉さまは私がお嫌いなのね」
「エリカ! そういうことではないとなぜわからないの」
「アンジェリカ、妹をいじめるのはやめないか」
あべこべにアンジェリカが叱られる始末。
エリカは物心つく前から男爵家の庇護下で育ってきていたのだ。この家でエリカを叱る人もいなかった。こんな行儀が悪い娘が我がカールマン伯爵家の者だと知れたら、アンジェリカも父も恥をかくと思えばアンジェリカも焦る。
「エリカちゃんが可愛いからってヤキモチやいちゃって。エリカちゃんは王子妃にだってなれるわよ」
叔母はエリカの機嫌をとるように、アンジェリカをけなしてくるし。
厳しい姉より、甘やかしてくれる叔母の方がエリカもいいに決まっている。無理に伯爵家に連れ帰ろうとしてもエリカ本人も嫌がり、叔父夫婦がエリカを手放してくれなかった。
耳心地のいい言葉しか聞かない妹に、どうしたらいいのか、とアンジェリカは悔しくて唇を噛んだ。
* * *
「本当に困ったわ……このままでは間に合わなくなってしまう……」
教養部分はともかく、マナー自体が壊滅的なエリカ。
いっそのこと社交界デビューをさせない方が本人のためではないかと思うくらいだが、そうなったらこの貴族社会では彼女の未来は潰されるも同じだ。身内としてそれだけは避けてやりたい。
アンジェリカは婚約者であり恋人のルパートの前で嘆いていたが、トルナ侯爵令息であるルパートは笑顔で提案してきた。
「ねえ、俺の家に妹さんをお招きしていいかい?」
婚約者の言葉にアンジェリカは不安そうな顔をする。
自分の妹が問題を起こし、彼の顔にも泥を塗ったらと思うと不安で仕方がない。
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「うん、わかっているよ大丈夫。きっと、エリカさんにいい経験になるよ」
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