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『フローラ、元気にしているかしら。こちらのみんなも変わりなく暮らしているわ。
貴方がハインツにも何も言わずに出ていったことで、彼はひどく動揺してたみたいよ。
フローラがなぜいなくなったのか、いつ帰ってくるのか、と周囲を殴りつける勢いで聴いて回っていたから、フローラは結婚するために村を出たのよ、みんな知ってるのに、なぜ貴方には言わなかったのかしらとホラをふいてやったらようやく何も言わなくなったわ。
貴方、本当にハインツに何も言ってなかったのね。
仕事も一人でなんとかやっているみたいだけれど、悲しいことに貴方がいた頃に比べて格段に作品の質が悪いものになっている。
やはり、貴方が一緒でないと彼はまともなものが作れないみたいね。
今はまだ貴方たちのお師匠さんがいるからいいけれど、不便で仕方がないから、いつか戻ってきてなんとかしてくれたら嬉しいわ。
エレインより」
エレインらしいさばさばした内容の手紙だった。ハインツの態度が思い余って知らせてくれただけらしい。
やっぱりね、と思いながらフローラは手の中の紙を大切に畳んだ。
鍛冶屋として絶対的に必要なセンスに関してはフローラの方がハインツより上だった。
いや、ハインツにはセンスがないも同然だった。
ただ力任せで叩くしかできないハインツでは資材のロスも多かったし、微妙な歪みなども直せない。
大雑把な彼の性格では火の調子を見たり、状況に合わせて配合を変えたりするそういう調整ができなかったのだ。
ハインツが鍛冶屋で修行できていたのは、ただ彼をフォローできるフローラがいたからだ。作ったものは2人の功績となっていたが、制作する上でもっとも大変な部分はフローラが担い、それにハインツがただのりしていた部分の方が大きい。
それなのに、立場もわきまえずに彼はフローラが自分のことを好きなのだろうというような眠たいことを言っていた。そして、フローラは自分を好きだから、自分を支えて当然なのだと思っていたことがあの言葉で透けてみえた。
フローラからすれば、付きまとっていたのは、ハインツの方でしかないのに。
そんなハインツはフローラのことならなんでも知っていると思い込んでいたのに、結婚しようと思っている相手が存在していることすら知らされなかったという関係性であることを、第三者であるエレインから教わってショックを受けたのだろう。
それを幼馴染から裏切られたショックだと本人は思っているかもしれないけれど、それは単にその程度の存在だったということを突きつけられた、自尊心の痛みでしかないのだ。
エレインはそのハインツの中にある驕りに勘づいて、ハインツがフローラを追いかけてきたりしないように『結婚するために村を出た』と言って釘を刺してくれたのだろうけれど。
「もっとも、結婚するために村を出た、というのも嘘にならなくなったのだけどね」
まだエレインにも誰にも告げていないが、この町に来てから素敵な人に出会う事ができた。
同じ鍛冶場工房で働く男性で、鉄を扱うセンスも才能もあり、そして、なによりも筋肉が素晴らしく、まさにフローラのタイプで。
幸い順調にお付き合いを重ねているところだ。
フローラはペンを執ると手紙の返事を書き始めた。
『親愛なるエレインへ。
お手紙ありがとう。そちらはそんなことになっているのね。
もう少し腕を磨いてから……そうね、師匠が死んだりして村の鍛冶屋がハインツ一人きりにでもなってしまったら旦那を連れて帰って、師匠の鍛冶工房を継いであげるから、もう少しだけ待っててね。
あとね、貴方に最初に伝えたいことがあるの……』
直弟子のハインツが残っているのに師匠の鍛冶屋を外で修行したフローラが継ぐ。
それは一見したら許されざる行為に見えるだろう。
もっともハインツの腕が、師匠が一線を退くまでに使い物になればいいだけの話だ。
村に住む鍛冶屋の腕は住人の生命線を握るので甘いことは言っていられない。武器だけでなく農具や生活に必要な品まで作るのだから。
師匠は、村を出たフローラに、いまだに手紙を何度も送ってよこしては、戻ってくることを打診してきている。
それはハインツに見込みもないと言っているも同じだった。
ハインツが師匠の鍛冶場を継げるような未来はなさそうだな、と、フローラはどこまでも甘い見通ししかいない幼馴染の過去の言動を思い返し、ため息をもらした。
貴方がハインツにも何も言わずに出ていったことで、彼はひどく動揺してたみたいよ。
フローラがなぜいなくなったのか、いつ帰ってくるのか、と周囲を殴りつける勢いで聴いて回っていたから、フローラは結婚するために村を出たのよ、みんな知ってるのに、なぜ貴方には言わなかったのかしらとホラをふいてやったらようやく何も言わなくなったわ。
貴方、本当にハインツに何も言ってなかったのね。
仕事も一人でなんとかやっているみたいだけれど、悲しいことに貴方がいた頃に比べて格段に作品の質が悪いものになっている。
やはり、貴方が一緒でないと彼はまともなものが作れないみたいね。
今はまだ貴方たちのお師匠さんがいるからいいけれど、不便で仕方がないから、いつか戻ってきてなんとかしてくれたら嬉しいわ。
エレインより」
エレインらしいさばさばした内容の手紙だった。ハインツの態度が思い余って知らせてくれただけらしい。
やっぱりね、と思いながらフローラは手の中の紙を大切に畳んだ。
鍛冶屋として絶対的に必要なセンスに関してはフローラの方がハインツより上だった。
いや、ハインツにはセンスがないも同然だった。
ただ力任せで叩くしかできないハインツでは資材のロスも多かったし、微妙な歪みなども直せない。
大雑把な彼の性格では火の調子を見たり、状況に合わせて配合を変えたりするそういう調整ができなかったのだ。
ハインツが鍛冶屋で修行できていたのは、ただ彼をフォローできるフローラがいたからだ。作ったものは2人の功績となっていたが、制作する上でもっとも大変な部分はフローラが担い、それにハインツがただのりしていた部分の方が大きい。
それなのに、立場もわきまえずに彼はフローラが自分のことを好きなのだろうというような眠たいことを言っていた。そして、フローラは自分を好きだから、自分を支えて当然なのだと思っていたことがあの言葉で透けてみえた。
フローラからすれば、付きまとっていたのは、ハインツの方でしかないのに。
そんなハインツはフローラのことならなんでも知っていると思い込んでいたのに、結婚しようと思っている相手が存在していることすら知らされなかったという関係性であることを、第三者であるエレインから教わってショックを受けたのだろう。
それを幼馴染から裏切られたショックだと本人は思っているかもしれないけれど、それは単にその程度の存在だったということを突きつけられた、自尊心の痛みでしかないのだ。
エレインはそのハインツの中にある驕りに勘づいて、ハインツがフローラを追いかけてきたりしないように『結婚するために村を出た』と言って釘を刺してくれたのだろうけれど。
「もっとも、結婚するために村を出た、というのも嘘にならなくなったのだけどね」
まだエレインにも誰にも告げていないが、この町に来てから素敵な人に出会う事ができた。
同じ鍛冶場工房で働く男性で、鉄を扱うセンスも才能もあり、そして、なによりも筋肉が素晴らしく、まさにフローラのタイプで。
幸い順調にお付き合いを重ねているところだ。
フローラはペンを執ると手紙の返事を書き始めた。
『親愛なるエレインへ。
お手紙ありがとう。そちらはそんなことになっているのね。
もう少し腕を磨いてから……そうね、師匠が死んだりして村の鍛冶屋がハインツ一人きりにでもなってしまったら旦那を連れて帰って、師匠の鍛冶工房を継いであげるから、もう少しだけ待っててね。
あとね、貴方に最初に伝えたいことがあるの……』
直弟子のハインツが残っているのに師匠の鍛冶屋を外で修行したフローラが継ぐ。
それは一見したら許されざる行為に見えるだろう。
もっともハインツの腕が、師匠が一線を退くまでに使い物になればいいだけの話だ。
村に住む鍛冶屋の腕は住人の生命線を握るので甘いことは言っていられない。武器だけでなく農具や生活に必要な品まで作るのだから。
師匠は、村を出たフローラに、いまだに手紙を何度も送ってよこしては、戻ってくることを打診してきている。
それはハインツに見込みもないと言っているも同じだった。
ハインツが師匠の鍛冶場を継げるような未来はなさそうだな、と、フローラはどこまでも甘い見通ししかいない幼馴染の過去の言動を思い返し、ため息をもらした。
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