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 ―― 結論からいうと、フローラの疑いは的中した。

 鍛冶工房は非常に危ない場所だ。刃物だけでなく重い物もたくさんあるのだから。

 師匠が仕掛けた罠で侵入者を転ばせ、その上から重りを落とし下敷きにさせれば、なんなく捕らえることができた。

 憲兵に突き出したところ、彼らは盗賊団でどうやらアンナはその一人だったと自白した。

 彼女が口が軽そうな男に近づき村の中の金目なものの情報を集め、他のメンバーがそれを襲う。

 もっともハインツの場合は、師匠がそこそこ名の知れた鍛冶職人だったため、ピンポイントで鍛冶倉庫が狙われたようだったが。

 倉庫が襲われたことで、ハインツは事実を知り、フローラに頭を下げた。

「君の言っていた通りだったな……すまなかった」

「別に私に実害が出たわけではないから、それに関してはもういいわよ。私より師匠に謝っておいて。警備も」

「そうだな、わかった。夏祭りも一緒に行こうな。約束していたように」

「……」

 フローラは薄く笑って返事をしないままでいたのだが、それを肯定と受け取ったらしいハインツはどこの屋台を回ろうか、とうきうき計画を話している。

 それを聞き流しながらフローラはナイフを研いでいた。
 
 ハインツは謝ったのでまたフローラと仲良くできると思っているようだ。しかし、そんなつもりはフローラの方はもうなかった。

 幼なじみで友人であるフローラと、将来の伴侶となる婚約者を比べたら、婚約者の方を優先するのは当然かもしれない。
 
 しかし、自分と積み重ねてきた十数年の信頼があったのに、自分の言葉を信じてくれなかったことをまだ許せずにいる。

 特にそれが、彼個人のことだけでなく、誰かに迷惑が掛かるような大損害に関わることで、危機感に欠けることだったのも怒りに輪をかけた。

 ハインツに対して失望するのには十分だったし、いざという時は彼に自分が簡単に見捨てられるだろうということも知ってしまった。

 それよりも、彼が当たり前のように自惚れていたのが気持ち悪かった。

 あの時も本人に言ったが「図々しいにもほどがある」としか思えなかった。なぜハインツは幼なじみに惚れこまれていると思えるほど、自分に自信があるのだろう。

 きっとフローラがこの村にいる限り、自分とハインツは二人で一つのように思われ続けてしまうのだろう。

 ハインツに婚約者があてがわれた時にも、なぜかフローラが周囲から気遣われた。みんなからはフローラとハインツは幼なじみ以上、恋人未満の関係に見えているのだろう。それに気づいていたハインツは増長しているのだ。

 早く、ハインツから離れなければ。そうフローラは決意した。


 それからは、フローラは彼としていたような大きい仕事は断わりを入れ、自分だけで制作できるような小さい仕事に集中した。

 工房に迷惑をかけるわにはいかなかったから、師匠には自分の目的を説明し、許可をもらっていたが。
 
 一人だと仕事がうまくいかず、業を煮やしたハインツがフローラにどうして自分を避けているのかを問い詰めようと決心したような頃、フローラは忽然と村から姿を消した。

 一人だけの力で黙々と打ったナイフに込められた技術が高く評価され、遠くの町の有名な鍛冶工房に見習いとして入ることを認められたのだ。

 ここで一人前になるよう頑張ろう。

 そう決意して、フローラは独りで歩み始めたのである。

 生まれ育った村をほとんど出たことのないフローラにとって、町での暮らしは物珍しいものとなった。

 村では競争がなく安穏と暮らせていたが、ここでは毎日が刺激的だ。

 フローラは一番の新入りで下っ端ということで、親方や先輩の作業の下準備などもフローラの仕事になる。

 忙しく働く毎日の中、村での友達だったエレインから手紙が届いた。

 その懐かしい字に思わず微笑む。
 
 はやる手を押さえながら、手紙をそっと開いた。
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