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chapter.10-2 / 断罪者は婚約破棄を華麗に謳う(2)
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それは良い知らせだわ、とデルフィーネは満足そうに扇の奥で相好を崩した。そのまま、射るような視線でマルセルを一瞥すると、アンテリーゼの方へ歩を進め、それから階下の様子を見渡す。
「マトヴァイユ伯爵令嬢。ここには確か、お前の家族だけでなく、卿の家族も当然のこと参列しているのでしょうね」
視線を一点に集中させ、ぞっとするほど低い声音で問えば、アンテリーゼは恭しく首肯し左手の先をまるで獲物の在処を指し示すように動かした。
「はい殿下。わたくしの家族はもちろん、その左隣にメルツァー伯爵及び夫人がお見えになっております」
アンテリーゼの応えに、階下が波が割れるように空間を作る。葡萄酒色のサテン生地に黒色のレースがふんだんにあしらわれたやや場違いなドレスに白い羽毛のセンスを手にしていた中年女性の傍らで、ほっそりとした長身のマルセルによく似た容貌の髭の男が蒼白な表情でこちらを見上げているのがわかる。メルツァー伯爵とその夫人だ。
「あら。夫人はわたくしとよく似た装いですこと」
ひんやりと氷塊が落ちたような冷酷さが会場全体を包み込んだ。
デルフィーネの面映ゆそうな言葉が何を意味しているか分からぬ貴族はいない。
「それから、どれがセレーネ・ユドヴェルド男爵令嬢なのかしら?わたくし、お顔を存じてあげてなくてよ」
右に左にわざとらしく視線を動かしてデルフィーネが問うたので、応えようとしてアンテリーゼはあ、と小さく声を上げた。
「殿下ー!こちらがセレーネ様です!」
先ほどまで会場前列に陣取っていたくせに、いつの間にかに移動したのか。
薄桃色のドレスの女性の腕を掴んで大声をあげて片手を振る、リエリーナの姿をアンテリーゼは見つけた。セレーネたちの斜め後ろにひっそりと姿が見えた彼女の役割は、おそらくセレーネが騒ぎに乗じて会場を後にするのを予期し、それを防ぐためだったようだ。
「なによ!離してよ!」
甲高い悲鳴を上げながらセレーネが暴れると、それを制するように近くにいた男性が宥めるように押し込めた。そのままセレーネの片手を引っ張るようにして踊り場階段の真下に連れて来る。
「あら?こんな日にこんな場所にいらしているとは存じ上げませんでしたわ」
笑顔を見せながらデルフィーネはゆったりと笑う。それからアンテリーゼ、エヴァンゼリンに目配せをするとゆっくりと手すりに手をかけながら階段を下りていく。背後では、うつむいたままガクガクと震えているマルセルの両脇に二人の男が歩み寄り、引き立てるようにしながら引きずり反対側の階段を降り始めた。
「ご機嫌麗しく存じますわ。クラウス・フォン・ヴァンデル・ヴェーク皇太子殿下」
階下に降り立ったデルフィーネは床に伏せるように膝を屈しているセレーネを見もせず、最上位の礼を執り首を垂れて会釈する。アンテリーゼたちがそれに倣うと波紋のように動作が会場の端まで広がっていく。
「面白いものが見れるとエドワードに聞いたものですから」
王太子の名前を呼び捨てにしながら、片手をあげてにこやかに微笑む貴公子の姿にアンテリーゼは絶句してエヴァンゼリンを見やる。すれば、彼女も驚いている様子で瞼を瞬かせた。
彼は黒薔薇館の裏手の練習場と呼ばれていた場所でデルフィーネと剣を交えていた青年、その人だった。まさか、隣国の皇国の皇太子だとは思わない。あのような場所でお稽古ついでに遊び稽古して油を売っているなどとは誰が想定しようか。
国格としてはかの皇国の方が格上であり、いくら友好国であるとはいえ、王太子より序列は彼の方が上に当たる。国家間同士の合議の場合、この国の王族よりも彼の方が上席に座るため、ある意味では国王よりも身分が上に相当すると言っても過言ではない。
「こんにちは。ロックフェルト伯爵令嬢。この度はご婚約誠におめでとうございます。婚約式には出席できなかったので、近く予定されている成婚の儀には是非参列したくて、無理を言ってこちらにお邪魔させてもらった次第です」
気安く話しかけながら白い手袋の片手を差し出したクラウスに、エヴァンゼリンは慌てて跪こうとしたが、彼は笑ってそれを押しとどめ、杖を持つ令嬢の手を軽く励ますように叩く。
「あなたのことは友人からよく聞いています。お会いできるのが本当に楽しみでした。数多の聖霊の加護と神々の祝福が貴女に訪れますように」
クラウスが歌うように言葉を零すと、金色の見事な光の粒子がふわっとエヴァンゼリンの体を風のように通り抜けて消えた。
誰もが驚いて息を呑む中、今度はアンテリーゼの方に彼は体の向きを変える。
息を呑んで胸元を押さえたアンテリーゼに、クラウスはふわっと笑う。
「今日はせっかくだから祝意と祝福を告げようと思ってこちらにお邪魔したのですが、どうやら折が悪かったようです。ですが、素晴らしいものを拝見できてよかった」
なにがだろう、と心中穏やかでないまま首を傾げると、彼はデルフィーネを今一度見、それからすぐ近くで床に屈している女性に目をやった。
「ロックフェルト伯爵令嬢がご友人のために特別に王太子殿下の許可を得て、貸与した……至宝の宝である女神の涙の首飾りをこうして間近に拝謁できたのですから」
「女神の」
「涙の首飾り……?」
口々にその場に臨席する面々が困惑したように顔を見合わせ、ある者は驚愕に軽い悲鳴を上げる。
「見事な輝きでございましょう、殿下。わたくしの祖母の形見の品でもあり、大切な親友へ王太子殿下が贈られた美しい至宝の首飾り。国の宝である未来の王妃に相応しい素晴らしい魔石の首飾りですわ」
アンテリーゼの両肩に手を添えて押し出すようにクラウスの目の前に差し出したデルフィーネは、至極嬉しそうに笑顔を見せる。それから、打って変わって非常に残念そうな声音で続ける。
「本来であれば婚約式の際に身に着けることになっていたのだけれど、なぜか耳飾りだけが紛失してしまって、揃いで身に着けられないため、しょうがなく当日は別の宝飾品を身に着けたとわたくし、先ほど知りましてよ」
説明めいた文言を淡々と残念そうにわざとらしく片頬を押さえながら発するデルフィーネに、周囲の驚愕と視線は刺さるように薄桃色のドレスのセレーネに注がれていく。
「ねえ、そうでしょう?アンテリーゼ。その首飾りはエヴァンゼリンが特別にあなたに貸与したものだと聞いていてよ。王太子殿下も無二の親友のあなたにならと快諾されたとか。とても美しい輝きだこと」
名を呼び捨てにしながら二人の令嬢との親密さを明らかにしたデルフィーネは、うっとりとアンテリーゼの首飾りに視線を送る。
「はい殿下。ロックフェルト伯爵令嬢をはじめ、王太子殿下におかれましては身に余る栄誉でございますれば、感謝の言葉をいくら尽くしても足りないほどにございます」
同じ悪戯を共有した子供のような笑顔で笑いあうアンテリーゼとデルフィーネに、クラウスは至極納得したと頷いた。
「ところで、耳飾りが行方不明になっていたといいますが、もしかしてそれはこの令嬢が身に着けているものと同じような形なのですか?」
ぎくり、と硬く体をこわばらせてセレーネが顔を振り上げた。それから、わななく様に身の潔白を証明しようと大声を張り上げる。
「ち、違います、違いますわ!こ、この耳飾りは、マルセル様が、……あ」
続けて言いつのろうとして、セレーネは自分が墓穴を掘ったことに気づいた。
「恋人でもない方にこれほど見事な耳飾りを贈ることはないでしょうから、真実であればアンテリーゼの言うとおりに不義があったと認めることにつながるでしょうね。残念だこと」
「あの、ちがうんです、で、殿下は勘違いをなされておいでです」
縋るようなセレーネの言葉に、気分を害したようにアンテリーゼの形の良い眉が跳ね上がった。この場において、そもそもが下位である彼女は発言を許されていないし、ましてや最上位身分のデルフィーネの言葉を否定して遮ろうとするのは不敬以外の何物でもない。
貴族の社交の場としてはあってはならない失態だ。
その様子を見ながら、それでも彼女の言葉を抑え込めたり叱責したりしないのは、これ以上のボロを期待してのことだが、冷静さを失っているセレーネには自分が手のひらで転がされていることすらも気づかない。もう唇を開くことを制御できないでいた。
「セレーネ!」
マルセルの叱責するような強い声が届くが、誰もが無反応にセレーネに注目している。
「わ、たしが、マルセル様からいただいたのは王家の秘宝ではなく、ただの宝石の、耳飾りなのです」
ご覧になっていただければわかりますとばかりに、彼女は耳から耳飾りを取り外すとそれを両手に載せてデルフィーネに差し出した。
淡い光を帯びて虹色の煌めきを反射させる大粒の宝石の耳飾りを視界に入れながら、顔を引き寄せてデルフィーネは困ったように首を傾げる。
「殿下。わたくし、魔石のことはあまり詳しくなくて。もしかしてこの者が言うように、本当にこちらはただの宝石なのかもしれませんわ」
「そうですね。こうして遠目から見るだけでは私も魔石なのか、宝石なのか判別ができません」
朗らかに肩をすくめて困ったな、とクラウスは顎をしゃくった。
セレーネは顔を上げない状態で顔にびっしり脂汗を浮かべ、やや体のこわばりを解いた。が、その彼女の背後から若い女性の声が上がる。
「恐れながら」
アンテリーゼが耳飾りから視線を外して声の主を見やれば、淡い黄色のドレスを身に纏ったリエリーナが片手をあげて進み出、それから彼女に引きずられるような格好でたたらを踏んで絶世の白銀の美女が現れた。
「マトヴァイユ伯爵令嬢。ここには確か、お前の家族だけでなく、卿の家族も当然のこと参列しているのでしょうね」
視線を一点に集中させ、ぞっとするほど低い声音で問えば、アンテリーゼは恭しく首肯し左手の先をまるで獲物の在処を指し示すように動かした。
「はい殿下。わたくしの家族はもちろん、その左隣にメルツァー伯爵及び夫人がお見えになっております」
アンテリーゼの応えに、階下が波が割れるように空間を作る。葡萄酒色のサテン生地に黒色のレースがふんだんにあしらわれたやや場違いなドレスに白い羽毛のセンスを手にしていた中年女性の傍らで、ほっそりとした長身のマルセルによく似た容貌の髭の男が蒼白な表情でこちらを見上げているのがわかる。メルツァー伯爵とその夫人だ。
「あら。夫人はわたくしとよく似た装いですこと」
ひんやりと氷塊が落ちたような冷酷さが会場全体を包み込んだ。
デルフィーネの面映ゆそうな言葉が何を意味しているか分からぬ貴族はいない。
「それから、どれがセレーネ・ユドヴェルド男爵令嬢なのかしら?わたくし、お顔を存じてあげてなくてよ」
右に左にわざとらしく視線を動かしてデルフィーネが問うたので、応えようとしてアンテリーゼはあ、と小さく声を上げた。
「殿下ー!こちらがセレーネ様です!」
先ほどまで会場前列に陣取っていたくせに、いつの間にかに移動したのか。
薄桃色のドレスの女性の腕を掴んで大声をあげて片手を振る、リエリーナの姿をアンテリーゼは見つけた。セレーネたちの斜め後ろにひっそりと姿が見えた彼女の役割は、おそらくセレーネが騒ぎに乗じて会場を後にするのを予期し、それを防ぐためだったようだ。
「なによ!離してよ!」
甲高い悲鳴を上げながらセレーネが暴れると、それを制するように近くにいた男性が宥めるように押し込めた。そのままセレーネの片手を引っ張るようにして踊り場階段の真下に連れて来る。
「あら?こんな日にこんな場所にいらしているとは存じ上げませんでしたわ」
笑顔を見せながらデルフィーネはゆったりと笑う。それからアンテリーゼ、エヴァンゼリンに目配せをするとゆっくりと手すりに手をかけながら階段を下りていく。背後では、うつむいたままガクガクと震えているマルセルの両脇に二人の男が歩み寄り、引き立てるようにしながら引きずり反対側の階段を降り始めた。
「ご機嫌麗しく存じますわ。クラウス・フォン・ヴァンデル・ヴェーク皇太子殿下」
階下に降り立ったデルフィーネは床に伏せるように膝を屈しているセレーネを見もせず、最上位の礼を執り首を垂れて会釈する。アンテリーゼたちがそれに倣うと波紋のように動作が会場の端まで広がっていく。
「面白いものが見れるとエドワードに聞いたものですから」
王太子の名前を呼び捨てにしながら、片手をあげてにこやかに微笑む貴公子の姿にアンテリーゼは絶句してエヴァンゼリンを見やる。すれば、彼女も驚いている様子で瞼を瞬かせた。
彼は黒薔薇館の裏手の練習場と呼ばれていた場所でデルフィーネと剣を交えていた青年、その人だった。まさか、隣国の皇国の皇太子だとは思わない。あのような場所でお稽古ついでに遊び稽古して油を売っているなどとは誰が想定しようか。
国格としてはかの皇国の方が格上であり、いくら友好国であるとはいえ、王太子より序列は彼の方が上に当たる。国家間同士の合議の場合、この国の王族よりも彼の方が上席に座るため、ある意味では国王よりも身分が上に相当すると言っても過言ではない。
「こんにちは。ロックフェルト伯爵令嬢。この度はご婚約誠におめでとうございます。婚約式には出席できなかったので、近く予定されている成婚の儀には是非参列したくて、無理を言ってこちらにお邪魔させてもらった次第です」
気安く話しかけながら白い手袋の片手を差し出したクラウスに、エヴァンゼリンは慌てて跪こうとしたが、彼は笑ってそれを押しとどめ、杖を持つ令嬢の手を軽く励ますように叩く。
「あなたのことは友人からよく聞いています。お会いできるのが本当に楽しみでした。数多の聖霊の加護と神々の祝福が貴女に訪れますように」
クラウスが歌うように言葉を零すと、金色の見事な光の粒子がふわっとエヴァンゼリンの体を風のように通り抜けて消えた。
誰もが驚いて息を呑む中、今度はアンテリーゼの方に彼は体の向きを変える。
息を呑んで胸元を押さえたアンテリーゼに、クラウスはふわっと笑う。
「今日はせっかくだから祝意と祝福を告げようと思ってこちらにお邪魔したのですが、どうやら折が悪かったようです。ですが、素晴らしいものを拝見できてよかった」
なにがだろう、と心中穏やかでないまま首を傾げると、彼はデルフィーネを今一度見、それからすぐ近くで床に屈している女性に目をやった。
「ロックフェルト伯爵令嬢がご友人のために特別に王太子殿下の許可を得て、貸与した……至宝の宝である女神の涙の首飾りをこうして間近に拝謁できたのですから」
「女神の」
「涙の首飾り……?」
口々にその場に臨席する面々が困惑したように顔を見合わせ、ある者は驚愕に軽い悲鳴を上げる。
「見事な輝きでございましょう、殿下。わたくしの祖母の形見の品でもあり、大切な親友へ王太子殿下が贈られた美しい至宝の首飾り。国の宝である未来の王妃に相応しい素晴らしい魔石の首飾りですわ」
アンテリーゼの両肩に手を添えて押し出すようにクラウスの目の前に差し出したデルフィーネは、至極嬉しそうに笑顔を見せる。それから、打って変わって非常に残念そうな声音で続ける。
「本来であれば婚約式の際に身に着けることになっていたのだけれど、なぜか耳飾りだけが紛失してしまって、揃いで身に着けられないため、しょうがなく当日は別の宝飾品を身に着けたとわたくし、先ほど知りましてよ」
説明めいた文言を淡々と残念そうにわざとらしく片頬を押さえながら発するデルフィーネに、周囲の驚愕と視線は刺さるように薄桃色のドレスのセレーネに注がれていく。
「ねえ、そうでしょう?アンテリーゼ。その首飾りはエヴァンゼリンが特別にあなたに貸与したものだと聞いていてよ。王太子殿下も無二の親友のあなたにならと快諾されたとか。とても美しい輝きだこと」
名を呼び捨てにしながら二人の令嬢との親密さを明らかにしたデルフィーネは、うっとりとアンテリーゼの首飾りに視線を送る。
「はい殿下。ロックフェルト伯爵令嬢をはじめ、王太子殿下におかれましては身に余る栄誉でございますれば、感謝の言葉をいくら尽くしても足りないほどにございます」
同じ悪戯を共有した子供のような笑顔で笑いあうアンテリーゼとデルフィーネに、クラウスは至極納得したと頷いた。
「ところで、耳飾りが行方不明になっていたといいますが、もしかしてそれはこの令嬢が身に着けているものと同じような形なのですか?」
ぎくり、と硬く体をこわばらせてセレーネが顔を振り上げた。それから、わななく様に身の潔白を証明しようと大声を張り上げる。
「ち、違います、違いますわ!こ、この耳飾りは、マルセル様が、……あ」
続けて言いつのろうとして、セレーネは自分が墓穴を掘ったことに気づいた。
「恋人でもない方にこれほど見事な耳飾りを贈ることはないでしょうから、真実であればアンテリーゼの言うとおりに不義があったと認めることにつながるでしょうね。残念だこと」
「あの、ちがうんです、で、殿下は勘違いをなされておいでです」
縋るようなセレーネの言葉に、気分を害したようにアンテリーゼの形の良い眉が跳ね上がった。この場において、そもそもが下位である彼女は発言を許されていないし、ましてや最上位身分のデルフィーネの言葉を否定して遮ろうとするのは不敬以外の何物でもない。
貴族の社交の場としてはあってはならない失態だ。
その様子を見ながら、それでも彼女の言葉を抑え込めたり叱責したりしないのは、これ以上のボロを期待してのことだが、冷静さを失っているセレーネには自分が手のひらで転がされていることすらも気づかない。もう唇を開くことを制御できないでいた。
「セレーネ!」
マルセルの叱責するような強い声が届くが、誰もが無反応にセレーネに注目している。
「わ、たしが、マルセル様からいただいたのは王家の秘宝ではなく、ただの宝石の、耳飾りなのです」
ご覧になっていただければわかりますとばかりに、彼女は耳から耳飾りを取り外すとそれを両手に載せてデルフィーネに差し出した。
淡い光を帯びて虹色の煌めきを反射させる大粒の宝石の耳飾りを視界に入れながら、顔を引き寄せてデルフィーネは困ったように首を傾げる。
「殿下。わたくし、魔石のことはあまり詳しくなくて。もしかしてこの者が言うように、本当にこちらはただの宝石なのかもしれませんわ」
「そうですね。こうして遠目から見るだけでは私も魔石なのか、宝石なのか判別ができません」
朗らかに肩をすくめて困ったな、とクラウスは顎をしゃくった。
セレーネは顔を上げない状態で顔にびっしり脂汗を浮かべ、やや体のこわばりを解いた。が、その彼女の背後から若い女性の声が上がる。
「恐れながら」
アンテリーゼが耳飾りから視線を外して声の主を見やれば、淡い黄色のドレスを身に纏ったリエリーナが片手をあげて進み出、それから彼女に引きずられるような格好でたたらを踏んで絶世の白銀の美女が現れた。
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