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第18話 リミールの野
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夜は深くやわらかかった。
月のない夜空に、無数の星が瞬いている。見慣れない星座たち。
小川のほとりを独りとぼとぼと歩き、静かな野原に足を踏み入れた。
水音ひとつしない、森の奥の静寂。
胸の奥に穏やかな感覚が広がってきた。
やがて、野を横切る影が現れた。
鹿のような体つき。ねじれて頭上に長く伸びた角。
吹雪のような斑点を散らした毛並み、
澄んだ瞳が星を映したようにきらきらと光っている。
群れのひとつが、静かに近づいてきた。
長い睫毛の奥からのぞく瞳が、まっすぐ俺を見つめている。
敵意はない。だが、こちらの奥底を覗かれているような、そんな感覚に包まれた。
『リミール』
この獣の名前だろうか。頭の中に響いた。
しばらくのあいだ、俺と獣は言葉を交わさず、ただ見つめ合っていた。
やがて、リミールがひとつ首を振り、こちらを見た。
まるで「ついてこい」とでも言うように。
黙ってそれに従った。
野には月明かりの代わりに、リミールの吹雪のような白い斑点が浮かび上がる。
足元の草は柔らかく、夜露がきらめいた。
泉があった。
水面は風も無いのにゆらめき、星々の光を幾重にも映していた。
リミールは泉のほとりに身を伏せ、俺を見上げた。
俺はその傍らに腰を下ろした。
何刻か時が流れた。
火を焚く必要はなかった。寒くも暗くもない。
夢を見た...
誰かが、そこにいた。
白い霧の中、草の上に裾をすべらせるようにして歩く影。
声は無かった。だが、呼ばれていた。
それは妻フリーダの声ではない。
水の乙女セーリャのささやきとも違う。
心の奥にある、まだ遠い、名前を持たぬ何かが、そっと撫でるような声だった。
目を凝らすと、少女のような影がこちらを見ていた。
長い髪が風に揺れ、白い衣が淡く光を帯びていた。
輪郭はぼんやりとしていて、ひと息で消えてしまいそうだった。
目覚めると、泉は朝の光に静かに輝いていた。
リミールの群れは、もういなかった。
「夢か」
そうつぶやいて、俺はふたたび歩き出した。
だがその背には、昨夜までは無かった微かな温もりがあった。
+++++++++++++++
週1話くらいのペースで続きを上げていく予定です
月のない夜空に、無数の星が瞬いている。見慣れない星座たち。
小川のほとりを独りとぼとぼと歩き、静かな野原に足を踏み入れた。
水音ひとつしない、森の奥の静寂。
胸の奥に穏やかな感覚が広がってきた。
やがて、野を横切る影が現れた。
鹿のような体つき。ねじれて頭上に長く伸びた角。
吹雪のような斑点を散らした毛並み、
澄んだ瞳が星を映したようにきらきらと光っている。
群れのひとつが、静かに近づいてきた。
長い睫毛の奥からのぞく瞳が、まっすぐ俺を見つめている。
敵意はない。だが、こちらの奥底を覗かれているような、そんな感覚に包まれた。
『リミール』
この獣の名前だろうか。頭の中に響いた。
しばらくのあいだ、俺と獣は言葉を交わさず、ただ見つめ合っていた。
やがて、リミールがひとつ首を振り、こちらを見た。
まるで「ついてこい」とでも言うように。
黙ってそれに従った。
野には月明かりの代わりに、リミールの吹雪のような白い斑点が浮かび上がる。
足元の草は柔らかく、夜露がきらめいた。
泉があった。
水面は風も無いのにゆらめき、星々の光を幾重にも映していた。
リミールは泉のほとりに身を伏せ、俺を見上げた。
俺はその傍らに腰を下ろした。
何刻か時が流れた。
火を焚く必要はなかった。寒くも暗くもない。
夢を見た...
誰かが、そこにいた。
白い霧の中、草の上に裾をすべらせるようにして歩く影。
声は無かった。だが、呼ばれていた。
それは妻フリーダの声ではない。
水の乙女セーリャのささやきとも違う。
心の奥にある、まだ遠い、名前を持たぬ何かが、そっと撫でるような声だった。
目を凝らすと、少女のような影がこちらを見ていた。
長い髪が風に揺れ、白い衣が淡く光を帯びていた。
輪郭はぼんやりとしていて、ひと息で消えてしまいそうだった。
目覚めると、泉は朝の光に静かに輝いていた。
リミールの群れは、もういなかった。
「夢か」
そうつぶやいて、俺はふたたび歩き出した。
だがその背には、昨夜までは無かった微かな温もりがあった。
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週1話くらいのペースで続きを上げていく予定です
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