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第17話 呪いの源
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その晩、月の光が水面にゆらゆらと揺れていた。
ふたりは小川のそばに並んで座り、黙ったまま夜の音に耳を傾けていた。
やがて、彼女がぽつりと呟いた。
「ねえ、シグルド。私、思ってはいけないってわかってるの。
水の民が人に心を寄せてはいけないって、泉の奥深くで何度も言われてきた。でも...」
彼女の言葉が途切れた。
その細い肩が微かに震えているのを感じて、俺は言葉を失った。
心のどこかが揺らいでいる。
亡き妻フリーダの面影が、何度も夢に出るほどに愛おしく、忘れられないのに...
この少女の、寂しげな微笑みや不器用な優しさが、どうしようもなく心を揺らしていた。
「すまない。俺には...」
「ううん。いいの。わかってるの。ただ、あなたに会えて良かった。それだけは...ほんとう」
そう言って、少女は水面に立ち上がると、ひとしずく、涙にも似た雫を頬からこぼした。
それは静かに、水に吸い込まれていった。
「ありがとう、シグルド。また、いつか、会いにきても、いい?」
その問いに俺は黙って頷いた。
セーリャは、川のせせらぎに耳を傾けながら、ふとその流れの先へと視線を送った。
まるでそこに、見えない何かを見ているかのように、まぶたがかすかに震える。
「この川は、やがて大きな湖にたどりつくの」
その声は、どこかためらいを含んでいた。
「湖の真ん中...深い水の奥に、一つの城が沈んでいる。
建っている...というのかな。水底から生えたように、青黒い石の塔がいくつも、水の上に高く聳えている」
俺は、セーリャの言葉の端々に、かすかな震えを感じた。
「それが、バルドリックの城。バルドリック一族の妖精たちの森『アルフヴァルト』の力の根源」
セーリャは、まるで名前を口にすることさえためらうように、唇をかすかに噛んだ。
この異界すべてが『アルフヴァルト』かと思っていた。バルドリックとその妖精たちの森が『アルフヴァルト』だったのか...
そういえば異界に来て最初に見た妖精たちの暮らす森は異様だった。揺れ動き変化する景色、遅れて聞こえて来る音、虫の翅のような奇妙な葉の木々...
ここやグリンたちドヴェルグやカラムたち精霊の森は、俺が生まれてから慣れ親しんでいた森に近い。
「私たち水の精霊でも、あの城の湖には近づきたくない。
水は本来、どこまでも流れ、澄み、陽を受けて命を育むものなのに。
でもあそこは違う。流れが狂い、光が染み渡らない。あの湖の水は怯えている」
カラムたちの嘆き...
『あいつが望む森の気は苦しい...バルドリックは森の気を変えた...理に逆らって』
セーリャは、小さく首を振って続けた。
「バルドリックを...私たちの王とは思わない...」
その言葉に、俺は目を向けた。
「精霊のはずなのに、気が私たちとは違う、根が違う。深く、重く、冷たい...私には苦しい」
彼女の声が消え入りそうになった。
「でも、誰も逆らえない。そのまなざしに触れるだけで、心が凍る。私の中の水が怯えて濁る...」
セーリャは、膝を抱いて小さくなった。彼女の周りの水だけが、ひそやかに、彼女を守るように寄り添っていた。
「シグルド...あなたが、もしあの湖に行くことがあったら...」
彼女は目を伏せ、しばし沈黙した。けれど、やがて、ゆっくりと顔を上げて俺を見た。
「どうか...決してひとりで、あの水の奥へは行かないで」
その瞳には、ただの不安ではなく、深い恐れと、それ以上に、俺を案じる強い意志が宿っていた。
俺は無言でうなずいた。
+++++++++++++++
週1話くらいのペースで続きを上げていく予定です
ふたりは小川のそばに並んで座り、黙ったまま夜の音に耳を傾けていた。
やがて、彼女がぽつりと呟いた。
「ねえ、シグルド。私、思ってはいけないってわかってるの。
水の民が人に心を寄せてはいけないって、泉の奥深くで何度も言われてきた。でも...」
彼女の言葉が途切れた。
その細い肩が微かに震えているのを感じて、俺は言葉を失った。
心のどこかが揺らいでいる。
亡き妻フリーダの面影が、何度も夢に出るほどに愛おしく、忘れられないのに...
この少女の、寂しげな微笑みや不器用な優しさが、どうしようもなく心を揺らしていた。
「すまない。俺には...」
「ううん。いいの。わかってるの。ただ、あなたに会えて良かった。それだけは...ほんとう」
そう言って、少女は水面に立ち上がると、ひとしずく、涙にも似た雫を頬からこぼした。
それは静かに、水に吸い込まれていった。
「ありがとう、シグルド。また、いつか、会いにきても、いい?」
その問いに俺は黙って頷いた。
セーリャは、川のせせらぎに耳を傾けながら、ふとその流れの先へと視線を送った。
まるでそこに、見えない何かを見ているかのように、まぶたがかすかに震える。
「この川は、やがて大きな湖にたどりつくの」
その声は、どこかためらいを含んでいた。
「湖の真ん中...深い水の奥に、一つの城が沈んでいる。
建っている...というのかな。水底から生えたように、青黒い石の塔がいくつも、水の上に高く聳えている」
俺は、セーリャの言葉の端々に、かすかな震えを感じた。
「それが、バルドリックの城。バルドリック一族の妖精たちの森『アルフヴァルト』の力の根源」
セーリャは、まるで名前を口にすることさえためらうように、唇をかすかに噛んだ。
この異界すべてが『アルフヴァルト』かと思っていた。バルドリックとその妖精たちの森が『アルフヴァルト』だったのか...
そういえば異界に来て最初に見た妖精たちの暮らす森は異様だった。揺れ動き変化する景色、遅れて聞こえて来る音、虫の翅のような奇妙な葉の木々...
ここやグリンたちドヴェルグやカラムたち精霊の森は、俺が生まれてから慣れ親しんでいた森に近い。
「私たち水の精霊でも、あの城の湖には近づきたくない。
水は本来、どこまでも流れ、澄み、陽を受けて命を育むものなのに。
でもあそこは違う。流れが狂い、光が染み渡らない。あの湖の水は怯えている」
カラムたちの嘆き...
『あいつが望む森の気は苦しい...バルドリックは森の気を変えた...理に逆らって』
セーリャは、小さく首を振って続けた。
「バルドリックを...私たちの王とは思わない...」
その言葉に、俺は目を向けた。
「精霊のはずなのに、気が私たちとは違う、根が違う。深く、重く、冷たい...私には苦しい」
彼女の声が消え入りそうになった。
「でも、誰も逆らえない。そのまなざしに触れるだけで、心が凍る。私の中の水が怯えて濁る...」
セーリャは、膝を抱いて小さくなった。彼女の周りの水だけが、ひそやかに、彼女を守るように寄り添っていた。
「シグルド...あなたが、もしあの湖に行くことがあったら...」
彼女は目を伏せ、しばし沈黙した。けれど、やがて、ゆっくりと顔を上げて俺を見た。
「どうか...決してひとりで、あの水の奥へは行かないで」
その瞳には、ただの不安ではなく、深い恐れと、それ以上に、俺を案じる強い意志が宿っていた。
俺は無言でうなずいた。
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週1話くらいのペースで続きを上げていく予定です
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