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17 もっと具体的に教えてよ
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寝た気がしないけど、作業が遅れているから今日はどうしても晩生種を収穫しなくてはいけない。重い身体を引きずって玄関を開けると、マリウスさんが手をノックの形にして立っていた。
「…いらっしゃい」
なんだか間抜けな声のかけ方になってしまう。長身のマリウスさんのロングコート姿が陽の光に映えて、オレンジ色の髪が光を反射する。モデルさんか俳優さんみたいにかっこいい。昨日のことで気分が沈んでいなかったら、ドキッとしていただろう。
「入荷予定日に来られなかったので、何かあったのかと思って…」
「約束を破ったうえに連絡もせずにすみませんでした。いろいろあって」
私はレオくんを預かった経緯や彼の生活を優先したかった事情などを簡単に説明して、朝食と歯磨きを終えた彼を紹介する。
レオくんの顔が曇る。もしかしたら大人の男の人が怖いのかもしれない。「どうしたの?」と聞くと、彼は「僕のせい?」と聞いた。小さい子にありがちだけど、質問の意図がよくわからない。私はしゃがんで彼の目を見て聞く。
「どういうこと?」
「僕のせいでサティが怒られてるの?僕が蜂に刺されたから…」
レオくんは泣きそうだ。安心させたくて、「違うよ」と笑いかける。彼が蜂に刺されたのは安全管理を怠った私のせいだ。それにマリウスさんとの約束を破ったのは私であってレオくんではないし、予定が遅れるという連絡を忘れて取引先からの信頼を損ねたのも私であってレオくんではない。
「レオくんのせいじゃなくて、私がうっかりしてて悪かったの。心配しなくて大丈夫だから、ブロックで遊んでおいで。クリスタちゃんとお絵描きでもいいよ」
「わかった」
マリウスさんに「今日収穫してお届けしようと思っていたところです」と伝えると、彼はレオくんをじっと目で追いながら、心ここにあらずといった感じで頷いた。
「あの子を連れてきた男性は、名乗りましたか?」
「はい。アロイス・ヴィルヘルムさんだと。ご本人の希望でアロイスさんと呼んでいますけど」
「…!アロイスと名乗って、しかもアロイスと呼ぶように言ったのですか!?」
「ええ、それが何か…?もしかして有名人ですか?」
「いえ、何でも…いや、そうですか…」
マリウスさんはふっと息を吐いて、「最近泥棒が多いみたいなので、戸締りに気をついてくださいね」と、急に変なことを言い出した。もしかして魔力持ちのいる家は泥棒にも狙われやすいのだろうか。「魔力持ちには何しても許される」みたいな感じで。私はぎゅっと拳を握る。
「サティさん?」
優しい声。彼ならきっとわかってくれるだろう。私は針で突いた風船が弾けるように、昨日の一部始終を話した。
金貨一枚でほんの少しの薬を何とかわけてもらったこと。冷たい言葉をかけられたこと。クリスタちゃんが本当に優しいこと。マリウスさんは何も言わず、ただ頷きながら最後まで聞いてくれた。
「マリウスさんやパン屋のおじさんみたいに、わかってくれる人ばかりじゃないってわかってます。わかってますけど…」
「昔、このあたりで魔力持ちが魔力暴走を起こして村を壊した例もあって…偏見が根強いのかもしれません。テオくんやクリスタちゃんがいつ暴走してもおかしくないって、どうしても恐怖を抱いてしまうんだと思います」
「そんな…どうしても恐怖を抱いてしまうから仕方ないなんて思ってたら、何も変わらないじゃないですか」
マリウスさんを責めても意味がないってわかってるけど、つい彼の優しさに甘えて言葉に棘ができてしまう。「ごめんなさい」と謝ると、マリウスさんは首を振る。現実を知っている人の表情だった。
確かに感情の波は誰にでもあるもので、それが子どもならなおさらだ。普段は穏やかでも、魔力暴走の可能性が完全に消えたわけではないのなら、恐怖を感じるのも…理解できなくもない、かも。それでも、こんなに優しい二人が排除されるのは納得できるものじゃない。
「魔力を完全に抑えたり打ち消したりできる何かがあればいいのですけど。魔力暴走を防いだり、暴走が起こっても絶対に安全だと思えるような何かが」
「魔力を打ち消す…何か?」
胸にこつんと何かが当たる。
私はクリスタちゃんの触手をべりべりはがして消した。それが私のチート能力なら、できるのかもしれない。
私が常にテオくんかクリスタちゃんのどちらかにはりついて、暴走しそうになったら対応する?でもそれじゃ一人しか救えない。
じゃあなんかほら、異世界によくある「魔道具」みたいな感じで、常に携帯してセンサーで魔力暴走を感知して発動できるようにすればいいんじゃないかな?
「正解」
金色の光が小屋に満ちる。創造神さんだ。仕事は適当でザルなくせに、無駄に神々しく登場するなぁ。
「よく気づいたね、サチさん。君の力は魔力や聖力を取り込む力。適当な物体にえいや!って君の力を込めれば、携帯できるようになるよ」
「適当って…本当に適当でいいんですか?」
「うん。なんでもいいよ。持ち歩きやすいものとか、常に身につけられるものにすれば?ほらあの…クリスタが買ったおもちゃとかね」
創造神さんはクスクス笑って消えていく。「待って!えいやじゃなくて、具体的なやり方を教えて!」と叫んだら、目の前のマリウスさんが「急にどうしたんですか」と目をぱちくりさせた。どうも創造神さんが来たことは、私にしかわからないらしい。
私は「何でもありません」と咳払いし、マリウスさんは突然意味不明なことを叫んだ女を「そうですか」と受け入れてくれてスルースキルが高すぎる。私はクリスタちゃんが空き箱と葉っぱとどんぐりでつくった宝箱を取り出した。中にはチープな食玩のアクセサリーが三人分。
「これに私の力を込められれば…」
「…いらっしゃい」
なんだか間抜けな声のかけ方になってしまう。長身のマリウスさんのロングコート姿が陽の光に映えて、オレンジ色の髪が光を反射する。モデルさんか俳優さんみたいにかっこいい。昨日のことで気分が沈んでいなかったら、ドキッとしていただろう。
「入荷予定日に来られなかったので、何かあったのかと思って…」
「約束を破ったうえに連絡もせずにすみませんでした。いろいろあって」
私はレオくんを預かった経緯や彼の生活を優先したかった事情などを簡単に説明して、朝食と歯磨きを終えた彼を紹介する。
レオくんの顔が曇る。もしかしたら大人の男の人が怖いのかもしれない。「どうしたの?」と聞くと、彼は「僕のせい?」と聞いた。小さい子にありがちだけど、質問の意図がよくわからない。私はしゃがんで彼の目を見て聞く。
「どういうこと?」
「僕のせいでサティが怒られてるの?僕が蜂に刺されたから…」
レオくんは泣きそうだ。安心させたくて、「違うよ」と笑いかける。彼が蜂に刺されたのは安全管理を怠った私のせいだ。それにマリウスさんとの約束を破ったのは私であってレオくんではないし、予定が遅れるという連絡を忘れて取引先からの信頼を損ねたのも私であってレオくんではない。
「レオくんのせいじゃなくて、私がうっかりしてて悪かったの。心配しなくて大丈夫だから、ブロックで遊んでおいで。クリスタちゃんとお絵描きでもいいよ」
「わかった」
マリウスさんに「今日収穫してお届けしようと思っていたところです」と伝えると、彼はレオくんをじっと目で追いながら、心ここにあらずといった感じで頷いた。
「あの子を連れてきた男性は、名乗りましたか?」
「はい。アロイス・ヴィルヘルムさんだと。ご本人の希望でアロイスさんと呼んでいますけど」
「…!アロイスと名乗って、しかもアロイスと呼ぶように言ったのですか!?」
「ええ、それが何か…?もしかして有名人ですか?」
「いえ、何でも…いや、そうですか…」
マリウスさんはふっと息を吐いて、「最近泥棒が多いみたいなので、戸締りに気をついてくださいね」と、急に変なことを言い出した。もしかして魔力持ちのいる家は泥棒にも狙われやすいのだろうか。「魔力持ちには何しても許される」みたいな感じで。私はぎゅっと拳を握る。
「サティさん?」
優しい声。彼ならきっとわかってくれるだろう。私は針で突いた風船が弾けるように、昨日の一部始終を話した。
金貨一枚でほんの少しの薬を何とかわけてもらったこと。冷たい言葉をかけられたこと。クリスタちゃんが本当に優しいこと。マリウスさんは何も言わず、ただ頷きながら最後まで聞いてくれた。
「マリウスさんやパン屋のおじさんみたいに、わかってくれる人ばかりじゃないってわかってます。わかってますけど…」
「昔、このあたりで魔力持ちが魔力暴走を起こして村を壊した例もあって…偏見が根強いのかもしれません。テオくんやクリスタちゃんがいつ暴走してもおかしくないって、どうしても恐怖を抱いてしまうんだと思います」
「そんな…どうしても恐怖を抱いてしまうから仕方ないなんて思ってたら、何も変わらないじゃないですか」
マリウスさんを責めても意味がないってわかってるけど、つい彼の優しさに甘えて言葉に棘ができてしまう。「ごめんなさい」と謝ると、マリウスさんは首を振る。現実を知っている人の表情だった。
確かに感情の波は誰にでもあるもので、それが子どもならなおさらだ。普段は穏やかでも、魔力暴走の可能性が完全に消えたわけではないのなら、恐怖を感じるのも…理解できなくもない、かも。それでも、こんなに優しい二人が排除されるのは納得できるものじゃない。
「魔力を完全に抑えたり打ち消したりできる何かがあればいいのですけど。魔力暴走を防いだり、暴走が起こっても絶対に安全だと思えるような何かが」
「魔力を打ち消す…何か?」
胸にこつんと何かが当たる。
私はクリスタちゃんの触手をべりべりはがして消した。それが私のチート能力なら、できるのかもしれない。
私が常にテオくんかクリスタちゃんのどちらかにはりついて、暴走しそうになったら対応する?でもそれじゃ一人しか救えない。
じゃあなんかほら、異世界によくある「魔道具」みたいな感じで、常に携帯してセンサーで魔力暴走を感知して発動できるようにすればいいんじゃないかな?
「正解」
金色の光が小屋に満ちる。創造神さんだ。仕事は適当でザルなくせに、無駄に神々しく登場するなぁ。
「よく気づいたね、サチさん。君の力は魔力や聖力を取り込む力。適当な物体にえいや!って君の力を込めれば、携帯できるようになるよ」
「適当って…本当に適当でいいんですか?」
「うん。なんでもいいよ。持ち歩きやすいものとか、常に身につけられるものにすれば?ほらあの…クリスタが買ったおもちゃとかね」
創造神さんはクスクス笑って消えていく。「待って!えいやじゃなくて、具体的なやり方を教えて!」と叫んだら、目の前のマリウスさんが「急にどうしたんですか」と目をぱちくりさせた。どうも創造神さんが来たことは、私にしかわからないらしい。
私は「何でもありません」と咳払いし、マリウスさんは突然意味不明なことを叫んだ女を「そうですか」と受け入れてくれてスルースキルが高すぎる。私はクリスタちゃんが空き箱と葉っぱとどんぐりでつくった宝箱を取り出した。中にはチープな食玩のアクセサリーが三人分。
「これに私の力を込められれば…」
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