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20 お決まりの感じでハプニング
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おじさんは腕を振り上げたけど、待てども待てども衝撃は来ない。「おっさんよ、口と形ばっかのチキンなのか?」と思いながら怖々目を開けたら、彼の太い腕が、誰かに掴まれている。
冷たい目をした誰かに。
「ア…ロイスさん?」
「久々に来てみたら、私の恩人に手をあげる男がいるとは」
細身なアロイスさんだけどかなり力は強いらしく、畑仕事で鍛えているおじさんの太い腕が、ぎりぎりと音を立てながらねじり上げられている。アロイスさんの不思議な色の目に怒りが燃えていて、私はアロイスさんがこのままおじさんをどうにかしてしまうんじゃないかと不安になった。
「アロイスさん、もういいです!」
「だめだ。サティ殿に手をあげるような輩は、最低でも腕を斬り落とさないと。二度とサティ殿に手を出せないように」
アロイスさんは腰に挿しているきれいな鞘の剣に手を伸ばす。さすがにそれは物騒すぎるってば。と、さっきまで「全部燃やしてやればよかった」とか考えてた私が言えることじゃないけど。
おじさんも「ご貴族様、どうかご慈悲を」と泣き出した。
「私にではなくサティ殿に慈悲を乞え」
おじさんが私に「悪かった、許してくれ」と頭を下げると、アロイスさんはおじさんの腕を離して、私を守るように抱きしめてくれる。なんだか髪に鼻を埋めて嗅がれたような気がするんだけど、気のせいだよね?走り回ってたから汗臭いかもしれないけど、あくまで気のせいでいいよね?
アロイスさんの登場で、クリスタちゃんに殺到した治療希望者は静かになり、粛々と治療が進み、村は穏やかさを取り戻した。
治療がひと段落して小屋に戻る。扉を開けたらアロイスさんとレオくんの感動の再会…と思いきや、私は「ぎゃああああ」と叫び声をあげた。ビリビリに千切られて床一面に散らばった紙、紙、紙。いつもは大人しくお絵描きしているのに、お客様が来るタイミングでなぜ。
私が「えへ、普段は片付いてるんですけどぉ」と言い訳する横で、レオくんが紙を破いて「雪!」と言いながら撒く。わかる、楽しいよね。エンドレース、エンドレースウィンター…
「レオ、やめなさい」というアロイスさんの厳しい声が飛んで、レオくんはびくっとこわばって動きを止めた。家庭のしつけに文句を言える立場ではないけれど…
「お父さん、うちでは遊びは危険ではない限り見守っています。とても創造的な遊びで、いいと思います」
「創造的な遊び?」
「ええ。紙を小さくして撒いたら雪みたいに見えると気づいたんでしょう。素晴らしい、子どもらしい感性です。狙ったところに物を投げる器用さの元になるかもしれませんね。何時間もやり続けるわけじゃないんですから、楽しいならやらせてあげればいいんですよ」
「そんな意味が、あれにあるのか…」
「あれ」はまだ続いている。いや、知らんけどね。でもなんでもかんでも禁止するのが正しいとは思わない。
「子どもは大人のミニチュアじゃありません。大人から見ればしょーもないことでも、子どもには大切なことだってあります。私たちが忘れてしまった大切なことが」
「…わかった。他でもないサティ殿がそう言うのなら」
私は改めてアロイスさんに「お疲れ様です」とコーヒーを出す。アロイスさんは嬉しそうに懐かしそうにコーヒーの香りを嗅ぎ、口をつけて満足げに目を閉じて「どこにもコーヒーが売っていない」と言う。そうでしょうね、異世界の飲み物だもん。
「ところで、約束を守ってくださったんですね。できるだけレオくんに会いに来てくれると」
「あなたと約束したのだから当然だ」
キラキラと光を纏いながらそう言って見つめられると、さっきのこともあって本当にうっかり惚れそうになる。私は咳払いして保育ノートを取り出し、「じゃ、報告しますね」と切り出した。
「報告?」
「ええ、ここでのレオくんの様子を。まずお預かりして数日は寂しそうにしていましたが、今はこの…この状況を見ていただいてもわかる通り、ここに馴染んでくれています。お野菜が苦手なようですが、キャベツサラダにはりんごやコーンを加えたり、みんな大好き自家製マヨで和えてみたりと、組み合わせや味付けを工夫することでバランスよく食べてもらえるようになりました。遊びでは絵やブロックが好きなのと、最近はお外でチャンバラごっこするのも好きです。やや体力がないのは気になるので、冬も外遊びを多くしていけたらなと思っています」
アロイスさんはきょとんとしている。
「お父さんのほうから、何か気になることは…?」
「いや、とくには…元気そうで何よりだとは思うが」
うん。そうだよね。そういうお父さんが多いよ。面談に来るのがお母さんだったら、家での様子を踏まえての心配事なんかをいろいろ聞かせてくれるんだけどね。
私が息を吐きながら保育ノートをテーブルに置くと、うっかりアロイスさんのマグが倒れて、お高めインスタントコーヒーがびちゃっとアロイスさんの高級そうなズボンにかかる。ああっ、これはハイクラスクリーニングで割増料金のやつ?
「ごめんなさい!熱くないですかっ!?」
「大丈夫だ」
「すぐ拭きますね!」
「サティ殿、慌てなくて大丈夫だ」
「でもシミになったら、主に私が困るので…」
「サティ殿、そこはっ!!」
アロイスさんに手を抑えられて、自分がきわどいラインを拭いていたことに気付く。なんか顔も彼の太ももの間に突っ込んでるような感じになってるし。慌てて手を引っ込めて下がろうにも、赤い顔をしたアロイスさんに手を抑えられていて、動けない。
これは…ここで誰かが玄関から入ってきて誤解されてしまう、よくあるパターンでは!?
冷たい目をした誰かに。
「ア…ロイスさん?」
「久々に来てみたら、私の恩人に手をあげる男がいるとは」
細身なアロイスさんだけどかなり力は強いらしく、畑仕事で鍛えているおじさんの太い腕が、ぎりぎりと音を立てながらねじり上げられている。アロイスさんの不思議な色の目に怒りが燃えていて、私はアロイスさんがこのままおじさんをどうにかしてしまうんじゃないかと不安になった。
「アロイスさん、もういいです!」
「だめだ。サティ殿に手をあげるような輩は、最低でも腕を斬り落とさないと。二度とサティ殿に手を出せないように」
アロイスさんは腰に挿しているきれいな鞘の剣に手を伸ばす。さすがにそれは物騒すぎるってば。と、さっきまで「全部燃やしてやればよかった」とか考えてた私が言えることじゃないけど。
おじさんも「ご貴族様、どうかご慈悲を」と泣き出した。
「私にではなくサティ殿に慈悲を乞え」
おじさんが私に「悪かった、許してくれ」と頭を下げると、アロイスさんはおじさんの腕を離して、私を守るように抱きしめてくれる。なんだか髪に鼻を埋めて嗅がれたような気がするんだけど、気のせいだよね?走り回ってたから汗臭いかもしれないけど、あくまで気のせいでいいよね?
アロイスさんの登場で、クリスタちゃんに殺到した治療希望者は静かになり、粛々と治療が進み、村は穏やかさを取り戻した。
治療がひと段落して小屋に戻る。扉を開けたらアロイスさんとレオくんの感動の再会…と思いきや、私は「ぎゃああああ」と叫び声をあげた。ビリビリに千切られて床一面に散らばった紙、紙、紙。いつもは大人しくお絵描きしているのに、お客様が来るタイミングでなぜ。
私が「えへ、普段は片付いてるんですけどぉ」と言い訳する横で、レオくんが紙を破いて「雪!」と言いながら撒く。わかる、楽しいよね。エンドレース、エンドレースウィンター…
「レオ、やめなさい」というアロイスさんの厳しい声が飛んで、レオくんはびくっとこわばって動きを止めた。家庭のしつけに文句を言える立場ではないけれど…
「お父さん、うちでは遊びは危険ではない限り見守っています。とても創造的な遊びで、いいと思います」
「創造的な遊び?」
「ええ。紙を小さくして撒いたら雪みたいに見えると気づいたんでしょう。素晴らしい、子どもらしい感性です。狙ったところに物を投げる器用さの元になるかもしれませんね。何時間もやり続けるわけじゃないんですから、楽しいならやらせてあげればいいんですよ」
「そんな意味が、あれにあるのか…」
「あれ」はまだ続いている。いや、知らんけどね。でもなんでもかんでも禁止するのが正しいとは思わない。
「子どもは大人のミニチュアじゃありません。大人から見ればしょーもないことでも、子どもには大切なことだってあります。私たちが忘れてしまった大切なことが」
「…わかった。他でもないサティ殿がそう言うのなら」
私は改めてアロイスさんに「お疲れ様です」とコーヒーを出す。アロイスさんは嬉しそうに懐かしそうにコーヒーの香りを嗅ぎ、口をつけて満足げに目を閉じて「どこにもコーヒーが売っていない」と言う。そうでしょうね、異世界の飲み物だもん。
「ところで、約束を守ってくださったんですね。できるだけレオくんに会いに来てくれると」
「あなたと約束したのだから当然だ」
キラキラと光を纏いながらそう言って見つめられると、さっきのこともあって本当にうっかり惚れそうになる。私は咳払いして保育ノートを取り出し、「じゃ、報告しますね」と切り出した。
「報告?」
「ええ、ここでのレオくんの様子を。まずお預かりして数日は寂しそうにしていましたが、今はこの…この状況を見ていただいてもわかる通り、ここに馴染んでくれています。お野菜が苦手なようですが、キャベツサラダにはりんごやコーンを加えたり、みんな大好き自家製マヨで和えてみたりと、組み合わせや味付けを工夫することでバランスよく食べてもらえるようになりました。遊びでは絵やブロックが好きなのと、最近はお外でチャンバラごっこするのも好きです。やや体力がないのは気になるので、冬も外遊びを多くしていけたらなと思っています」
アロイスさんはきょとんとしている。
「お父さんのほうから、何か気になることは…?」
「いや、とくには…元気そうで何よりだとは思うが」
うん。そうだよね。そういうお父さんが多いよ。面談に来るのがお母さんだったら、家での様子を踏まえての心配事なんかをいろいろ聞かせてくれるんだけどね。
私が息を吐きながら保育ノートをテーブルに置くと、うっかりアロイスさんのマグが倒れて、お高めインスタントコーヒーがびちゃっとアロイスさんの高級そうなズボンにかかる。ああっ、これはハイクラスクリーニングで割増料金のやつ?
「ごめんなさい!熱くないですかっ!?」
「大丈夫だ」
「すぐ拭きますね!」
「サティ殿、慌てなくて大丈夫だ」
「でもシミになったら、主に私が困るので…」
「サティ殿、そこはっ!!」
アロイスさんに手を抑えられて、自分がきわどいラインを拭いていたことに気付く。なんか顔も彼の太ももの間に突っ込んでるような感じになってるし。慌てて手を引っ込めて下がろうにも、赤い顔をしたアロイスさんに手を抑えられていて、動けない。
これは…ここで誰かが玄関から入ってきて誤解されてしまう、よくあるパターンでは!?
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