15 / 39
15 秋の遠足は外せない
しおりを挟む
私は朝からサンドイッチのお弁当を作っている。
秋のイベントで外せないのは、やはり遠足。行き先はこの山小屋からさらに登ったところにある、大きなブランコ。おばあちゃんが「子どもには楽しいと思うよ」と教えてくれた。
レオくんはスケッチブックを抱え、クリスタちゃんは「ブランコっていっぱいゆらゆらするんだよね?楽しみ」と元気いっぱい。そしてテオくんは、私と荷物係を分担してくれている。頼もしすぎる。
大人の足なら歩いて十五分ほどということだったけど、やや体力のないレオくんには、きつかったみたい。我慢強くて「疲れた」「足が痛い」とは口にしないけれども、明らかにスピードが落ち始めた。
砂利の登り道だからおんぶするのはちょっと怖いし、レオくんを励まし、道端の棒を持たせながら、何とか登っていく。レオくんは室内遊びが好きだけど、外遊びももっと楽しくできるように工夫していかないとな、なんて考えながら。
ブランコが見えて、クリスタちゃんが「あれだ!」と走り出す。「走ると危ないよ、気をつけてね」という前に、テオくんが彼女の手をとってくれた。できる兄は尊い。ちらっと私を振り返ったテオくんに、GJサインと下手なウインクを送ったら、変な顔をされた。
「きれいな場所だねぇ」
木製の大きなブランコはちょっとした広場にしつらえられていて、ブランコの横に立つと集落やうちの小屋やりんご園を見落とせる。クリスタちゃんはテオくんに押してもらいながらブランコをこぎ、レオくんはスケッチブックを広げ始めた。みんなそれぞれに楽しそうだ。
レジャーシートなんて便利なものはないので、少し厚めの布を芝生に広げて、腰を下ろす。日差しにはまだ鋭さが残っているけれど、風は涼しい。すごくすごく気持ちがいい。思わずスカートの下であぐらをかいていたら、口うるさいテオくんに、「脚!」と言いながら脚をぱんとはたかれた。
「お昼ご飯にしようか」
「その前に脚をなおせよ」
「だってこれがラクなんだもん」
口うるさい小姑みたいなテオくんから逃れるために、クリスタちゃんとレオくんを招集する。濡れタオルで手を拭いて、サンドイッチを広げる。
「美味しそう!」
「手を合わせてください!」
「いただきまーす」
日本的な食前の挨拶も、すっかりこの子たちの生活に馴染んでいるなぁなんて考えていた、そのときだった。
「何の音?」
「なんか…鳴いてる?」
耳を澄ませる。確かに、かすかな「キュウゥ」という…鳴き声?声のする方向に見当をつけて探すと、いた。真っ黒の大きなとかげに、こうもりのような羽が生えた生き物。これはレオくんの絵で夕闇の迫る空を飛んでいた…
「ドラゴン?」
「まだ子どもみたい」
「実物は初めて見た」
自分よりずっと大きな人間四匹に取り囲まれて、赤ちゃんドラゴンは赤い目を細くして「ギギギ」と歯茎を見せる。威嚇しているのだろう。羽の付け根に傷があって、「怪我してる」と私が思わず手を伸ばしたとき、ドラゴンはぶわっと火を吹いた。とっさに避けたけど、長袖が焦げる。やだ、新しいの買わなきゃ。
「ドラゴンに手を出すとか馬鹿かよ」とテオくん。ごめん、この世界の常識がわからないんだよ。ペライチのマニュアルには「ドラゴンとの正しいコミュニケーション」とか載ってなかったし。
「でも、怪我してるよ」
「怪我して飛べなくなって、親に置いて行かれたんだろうな」
クリスタちゃんがしゃがみ込みそっと手を伸ばそうとして、「触っちゃだめ。火傷するかもしれない」とテオくんに制される。おいおい、私への言葉よりだいぶ優しくないかい?
と、クリスタちゃんを制したテオくんの腕に、ドラゴンが「クゥゥ」と頬を寄せた。
「あれこれ…もしかして懐いてる?」
「テオ兄上の魔力が火属性だから、仲良くなれるのかも」とレオくん。そうかもしれない、黒に赤い目で、色も似てるし。テオくんは慎重にドラゴンを抱き上げる。赤ちゃんドラゴンは彼の腕の中で静かになり、小さく「クゥ」と甘えるように鳴いて、彼の胸に顔をすり寄せた。完全に懐いている。
「サティ、このドラゴンどうするの?」とレオくんが聞く。「親とはぐれたなら、このままここに置いといたら死ぬかもしれない」とテオくん。だけどドラゴンって家で飼っていいものなのかな。「絶滅危惧種で条約の保護対象」とかではない?飼育したら処罰されるとか…
「このまま置いていくのはかわいそう」とクリスタちゃん&レオくんにキラキラした瞳で見つめられ、私は「とりあえず怪我が治って飛べるようになるまで、うちで保護しよう」と決めた。
「うちで飼うなら、名前つけていい?」とクリスタちゃん。
うーん、名前か。どうしようか。名前をつけて情が湧いたら、離れにくくなるかもしれないけど…と考えている間に、クリスタちゃんは「クロ」と安直な名前をつけてしまった。テオくんに「クロ」と呼ばれると、赤ちゃんドラゴンは嬉しそうに小さな炎を吐く。
帰り道。陽が傾き始めた頃、クロはテオくんの肩に安定した姿勢で乗っていた。どうやら、すっかり安心しているようだ。
「テオくん、すごいね。火を吹くドラゴンと普通に触れ合えるなんて」
「怒らせなければ危険ってわけじゃないし」
きっと私は母性に満ちた顔でテオくんを見ていたのだろう。テオくんは「その顔やめろ」と、顔をそむけた。ママに照れちゃう思春期男子、良き。
小屋に戻って、子どもたちはあーだこーだ言いながらタオルとバスケットでクロの寝床をつくってやる。クロは嬉しそうにバスケットの中で丸まった。テオくんがクロにタオルをかけながら、ぽつりと呟く。
「怪我が治るまでなんだよな」
「野生に返してあげるのがいいと思う。でもここを離れても、テオくんのことは忘れないと思うよ」
秋のイベントで外せないのは、やはり遠足。行き先はこの山小屋からさらに登ったところにある、大きなブランコ。おばあちゃんが「子どもには楽しいと思うよ」と教えてくれた。
レオくんはスケッチブックを抱え、クリスタちゃんは「ブランコっていっぱいゆらゆらするんだよね?楽しみ」と元気いっぱい。そしてテオくんは、私と荷物係を分担してくれている。頼もしすぎる。
大人の足なら歩いて十五分ほどということだったけど、やや体力のないレオくんには、きつかったみたい。我慢強くて「疲れた」「足が痛い」とは口にしないけれども、明らかにスピードが落ち始めた。
砂利の登り道だからおんぶするのはちょっと怖いし、レオくんを励まし、道端の棒を持たせながら、何とか登っていく。レオくんは室内遊びが好きだけど、外遊びももっと楽しくできるように工夫していかないとな、なんて考えながら。
ブランコが見えて、クリスタちゃんが「あれだ!」と走り出す。「走ると危ないよ、気をつけてね」という前に、テオくんが彼女の手をとってくれた。できる兄は尊い。ちらっと私を振り返ったテオくんに、GJサインと下手なウインクを送ったら、変な顔をされた。
「きれいな場所だねぇ」
木製の大きなブランコはちょっとした広場にしつらえられていて、ブランコの横に立つと集落やうちの小屋やりんご園を見落とせる。クリスタちゃんはテオくんに押してもらいながらブランコをこぎ、レオくんはスケッチブックを広げ始めた。みんなそれぞれに楽しそうだ。
レジャーシートなんて便利なものはないので、少し厚めの布を芝生に広げて、腰を下ろす。日差しにはまだ鋭さが残っているけれど、風は涼しい。すごくすごく気持ちがいい。思わずスカートの下であぐらをかいていたら、口うるさいテオくんに、「脚!」と言いながら脚をぱんとはたかれた。
「お昼ご飯にしようか」
「その前に脚をなおせよ」
「だってこれがラクなんだもん」
口うるさい小姑みたいなテオくんから逃れるために、クリスタちゃんとレオくんを招集する。濡れタオルで手を拭いて、サンドイッチを広げる。
「美味しそう!」
「手を合わせてください!」
「いただきまーす」
日本的な食前の挨拶も、すっかりこの子たちの生活に馴染んでいるなぁなんて考えていた、そのときだった。
「何の音?」
「なんか…鳴いてる?」
耳を澄ませる。確かに、かすかな「キュウゥ」という…鳴き声?声のする方向に見当をつけて探すと、いた。真っ黒の大きなとかげに、こうもりのような羽が生えた生き物。これはレオくんの絵で夕闇の迫る空を飛んでいた…
「ドラゴン?」
「まだ子どもみたい」
「実物は初めて見た」
自分よりずっと大きな人間四匹に取り囲まれて、赤ちゃんドラゴンは赤い目を細くして「ギギギ」と歯茎を見せる。威嚇しているのだろう。羽の付け根に傷があって、「怪我してる」と私が思わず手を伸ばしたとき、ドラゴンはぶわっと火を吹いた。とっさに避けたけど、長袖が焦げる。やだ、新しいの買わなきゃ。
「ドラゴンに手を出すとか馬鹿かよ」とテオくん。ごめん、この世界の常識がわからないんだよ。ペライチのマニュアルには「ドラゴンとの正しいコミュニケーション」とか載ってなかったし。
「でも、怪我してるよ」
「怪我して飛べなくなって、親に置いて行かれたんだろうな」
クリスタちゃんがしゃがみ込みそっと手を伸ばそうとして、「触っちゃだめ。火傷するかもしれない」とテオくんに制される。おいおい、私への言葉よりだいぶ優しくないかい?
と、クリスタちゃんを制したテオくんの腕に、ドラゴンが「クゥゥ」と頬を寄せた。
「あれこれ…もしかして懐いてる?」
「テオ兄上の魔力が火属性だから、仲良くなれるのかも」とレオくん。そうかもしれない、黒に赤い目で、色も似てるし。テオくんは慎重にドラゴンを抱き上げる。赤ちゃんドラゴンは彼の腕の中で静かになり、小さく「クゥ」と甘えるように鳴いて、彼の胸に顔をすり寄せた。完全に懐いている。
「サティ、このドラゴンどうするの?」とレオくんが聞く。「親とはぐれたなら、このままここに置いといたら死ぬかもしれない」とテオくん。だけどドラゴンって家で飼っていいものなのかな。「絶滅危惧種で条約の保護対象」とかではない?飼育したら処罰されるとか…
「このまま置いていくのはかわいそう」とクリスタちゃん&レオくんにキラキラした瞳で見つめられ、私は「とりあえず怪我が治って飛べるようになるまで、うちで保護しよう」と決めた。
「うちで飼うなら、名前つけていい?」とクリスタちゃん。
うーん、名前か。どうしようか。名前をつけて情が湧いたら、離れにくくなるかもしれないけど…と考えている間に、クリスタちゃんは「クロ」と安直な名前をつけてしまった。テオくんに「クロ」と呼ばれると、赤ちゃんドラゴンは嬉しそうに小さな炎を吐く。
帰り道。陽が傾き始めた頃、クロはテオくんの肩に安定した姿勢で乗っていた。どうやら、すっかり安心しているようだ。
「テオくん、すごいね。火を吹くドラゴンと普通に触れ合えるなんて」
「怒らせなければ危険ってわけじゃないし」
きっと私は母性に満ちた顔でテオくんを見ていたのだろう。テオくんは「その顔やめろ」と、顔をそむけた。ママに照れちゃう思春期男子、良き。
小屋に戻って、子どもたちはあーだこーだ言いながらタオルとバスケットでクロの寝床をつくってやる。クロは嬉しそうにバスケットの中で丸まった。テオくんがクロにタオルをかけながら、ぽつりと呟く。
「怪我が治るまでなんだよな」
「野生に返してあげるのがいいと思う。でもここを離れても、テオくんのことは忘れないと思うよ」
182
あなたにおすすめの小説
できない子に転生しましたが、家族と食卓があれば十分です ―人間不信だった私が、ゆっくり育つ異世界生活―
愛朱ひいろ
ファンタジー
人の顔色ばかり伺い、心を壊した26歳の会社員女性。
彼女は死後、異世界で「できない子」として転生する。
魔法は使えない。
体は不器用で、成長も人より遅い。
前世の記憶のせいで、人と関わることが少し怖い。
けれどこの世界には、
見守り支えてくれる両親と、
あたたかい食卓があった。
泣いて、つまずいて、できないことに落ち込みながら、
彼女は少しずつ「できないままでも、生きていていい」と知っていく。
これは、
最強でもチートでもない主人公が、
家族と食事に支えられながら、ゆっくり育ち直す
生活密着型・異世界転生×成長×グルメファンタジー。
……の、予定です。
毎日更新できるように執筆がんばります!
【本編完結】転生令嬢は自覚なしに無双する
ベル
ファンタジー
ふと目を開けると、私は7歳くらいの女の子の姿になっていた。
きらびやかな装飾が施された部屋に、ふかふかのベット。忠実な使用人に溺愛する両親と兄。
私は戸惑いながら鏡に映る顔に驚愕することになる。
この顔って、マルスティア伯爵令嬢の幼少期じゃない?
私さっきまで確か映画館にいたはずなんだけど、どうして見ていた映画の中の脇役になってしまっているの?!
映画化された漫画の物語の中に転生してしまった女の子が、実はとてつもない魔力を隠し持った裏ボスキャラであることを自覚しないまま、どんどん怪物を倒して無双していくお話。
設定はゆるいです
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!
ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。
悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。
異世界ママ、今日も元気に無双中!
チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。
ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!?
目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流!
「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」
おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘!
魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
平凡な村人だと思われていた俺、実は神々が恐れる最強存在でした〜追放されたけど、無自覚チートで気づけば世界の頂点〜
uzura
ファンタジー
平凡な村人・レオンは、勇者パーティの荷物持ちとして蔑まれ、ある日「役立たず」として追放される。
だが、彼の正体は神々が恐れ、世界の理を超越する“創世の加護”を持つ唯一の存在だった。
本人はまったくの無自覚——それでも歩くたび、出会うたび、彼によって救われ、惹かれていく者たちが増えていく。
裏切った勇者たちは衰退し、彼を捨てた者たちは後悔に沈む。
やがて世界は、レオン中心に回り始める。
これは、最弱を装う最強が、知らぬ間に神々を超える物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる