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そんな日々が続き、やがて正式な剣術訓練の開始日がやってきた。
伯爵家の男子は十の年から、本格的に剣を学ぶ。
これは回帰前の人生でも同じだった。
(もっとも、兄は正妻が早いうちから教師を付けて学ばせていたようだが)
伯爵家の訓練場。
陽の光を浴びた地面に、訓練用の木剣が並べられている。
その場には、ケイと兄テオドール、そして剣術指南役が立っていた。
「今日から正式な訓練に入る」
指南役が厳しい口調で言う。彼は父の部下の騎士だ。
「二人とも、伯爵家の子として恥じぬよう鍛錬を積め」
「「はい!」」
テオドールは力強く頷いた。
ケイもそれに続く。
(前世の俺は、この剣術訓練の場で兄にコテンパンにやられたっけ)
兄の圧倒的な実力差を見せつけられ、正妻の追撃もあって「才能のない弟」という烙印を押されたのだ。
(でも、今回は違う。俺の力は俺のものだ)
ケイは回帰前の自分が学んだ剣術を覚えていた。
今日までに以前を思い出して、剣術の型の訓練だけは人目を盗んで行っていた。
(少なくとも、一方的にやられるような醜態は避ける!)
「まずは模擬戦を行う」
一通り伯爵家に伝わる剣術の型を練習した後、指南役の指示で、ケイと兄が向かい合う。
木剣を構えた瞬間、――兄が奇妙な剣の構えをとった。
「………………?」
ケイの眉がわずかに動く。
(何だ……この構えは?)
見た目は間違いなく伯爵家の正式な剣術だ。
ついさっき指南役から学んだ型だ。
だが、回帰前も研鑽を積んでいたケイにはわかる。
(これは……別の流派の技術が入っている。確か、俺たちが伯爵家を追放される少し前に流行った隣国の流派だ)
警戒する間もなく、兄が動いた。
「いくぞ!」
鋭い一撃が飛んでくる。
ケイは反射的に木剣を合わせ、受け流した。
カァンッ!
木剣がぶつかり合い、砂埃が舞う。
「……くっ」
ケイの木刀はあっけなく弾き飛ばされた。
衝撃でケイは後ろに尻餅をついてしまう。
(やはり、兄の剣が違う!)
前世の兄の剣は、伯爵家の剣術そのままだった。
だが今の兄の剣はより洗練され、違う技術が混じっている。
(どういうことだ? 伯爵家のものより、剣筋が鋭い!)
回帰して以来あった兄への違和感が、ケイの中で膨らんでいく。
「勝負あり! 勝者、テオドール!」
指南役が審判を下す。ケイの負けだ。
「ほら、ケイ」
尻餅をついたケイに兄が手を差し伸ばしてくる。
このシチュエーションで手を取らないわけにはいかない。
恐る恐る兄の手を取ると、ザリガニ釣りで勝利したときを思い出させるドヤ顔で笑いかけられた。
「ふふっ。今回はお兄ちゃまの勝ちだな! 次はお前も頑張るんだぞ!」
「……はい」
もう兄には違和感しかない!
訓練が終わり、ケイは息を整えながら考え込んでいた。
(もう間違いない。この世界は回帰前と違う。兄も全然違う。むうう……)
ピアディが、ケイの肩に乗りながら訊ねてきた。
「ケイ、どうしたのだ?」
「実は……」
ケイは兄に感じた違和感を改めてピアディに話した。
「ほう? あの兄は回帰前と今とでそんなに違うのか。面白いのだ」
「ああ。今は十歳だが、この頃にはもう正妻の手先そのものだった。顔を合わせれば嫌味や嫌がらせばかりで」
なぜか、回帰後の今は執拗に兄ムーブをかましてくる。
自分を『ケイのお兄ちゃまだ』と呼び、ケイにもそう呼んで欲しそうな素振りを見せる。いや実際、何度もそう懇願された。誰が呼ぶか!
ケイの話や推測を一通り聞いて、ピアディは小さな両手をポンと叩いた。
「おお、そういえば。お前が回帰したように、他にもいるかもしれないのだ。言うのをすっかりぽんと忘れていたのだ」
「おい、そういうことは早く言え! まさか、それが兄なのか!?」
「そこまではわからんのだ。周りを注意深く見るべきなのだ」
兄は何かを知っているのか?
それとも、――兄もまた、ケイと同じように回帰しているのか?
まだ確証はない。
しかし、何かが違うことだけは確かだった。
(もし兄も回帰しているなら、前の人生とは違う動きをしてることに説明はつくが)
だが、それがあの執拗な兄ムーブなのは解せない。
ケイは兄との距離を保ちつつ、慎重に動くことを決意した。
一方、ピアディは最近よく感じる不吉な気配をまた感じて、辺りをきょろきょろと見回していた。
訓練場の周囲に重苦しい気配を感じる。
気配を辿ると、本邸の建物の影に誰かいる。
服装を見る限り、侍女のようだが……
(あやしいのだ。警戒しなきゃなのだ)
伯爵家の男子は十の年から、本格的に剣を学ぶ。
これは回帰前の人生でも同じだった。
(もっとも、兄は正妻が早いうちから教師を付けて学ばせていたようだが)
伯爵家の訓練場。
陽の光を浴びた地面に、訓練用の木剣が並べられている。
その場には、ケイと兄テオドール、そして剣術指南役が立っていた。
「今日から正式な訓練に入る」
指南役が厳しい口調で言う。彼は父の部下の騎士だ。
「二人とも、伯爵家の子として恥じぬよう鍛錬を積め」
「「はい!」」
テオドールは力強く頷いた。
ケイもそれに続く。
(前世の俺は、この剣術訓練の場で兄にコテンパンにやられたっけ)
兄の圧倒的な実力差を見せつけられ、正妻の追撃もあって「才能のない弟」という烙印を押されたのだ。
(でも、今回は違う。俺の力は俺のものだ)
ケイは回帰前の自分が学んだ剣術を覚えていた。
今日までに以前を思い出して、剣術の型の訓練だけは人目を盗んで行っていた。
(少なくとも、一方的にやられるような醜態は避ける!)
「まずは模擬戦を行う」
一通り伯爵家に伝わる剣術の型を練習した後、指南役の指示で、ケイと兄が向かい合う。
木剣を構えた瞬間、――兄が奇妙な剣の構えをとった。
「………………?」
ケイの眉がわずかに動く。
(何だ……この構えは?)
見た目は間違いなく伯爵家の正式な剣術だ。
ついさっき指南役から学んだ型だ。
だが、回帰前も研鑽を積んでいたケイにはわかる。
(これは……別の流派の技術が入っている。確か、俺たちが伯爵家を追放される少し前に流行った隣国の流派だ)
警戒する間もなく、兄が動いた。
「いくぞ!」
鋭い一撃が飛んでくる。
ケイは反射的に木剣を合わせ、受け流した。
カァンッ!
木剣がぶつかり合い、砂埃が舞う。
「……くっ」
ケイの木刀はあっけなく弾き飛ばされた。
衝撃でケイは後ろに尻餅をついてしまう。
(やはり、兄の剣が違う!)
前世の兄の剣は、伯爵家の剣術そのままだった。
だが今の兄の剣はより洗練され、違う技術が混じっている。
(どういうことだ? 伯爵家のものより、剣筋が鋭い!)
回帰して以来あった兄への違和感が、ケイの中で膨らんでいく。
「勝負あり! 勝者、テオドール!」
指南役が審判を下す。ケイの負けだ。
「ほら、ケイ」
尻餅をついたケイに兄が手を差し伸ばしてくる。
このシチュエーションで手を取らないわけにはいかない。
恐る恐る兄の手を取ると、ザリガニ釣りで勝利したときを思い出させるドヤ顔で笑いかけられた。
「ふふっ。今回はお兄ちゃまの勝ちだな! 次はお前も頑張るんだぞ!」
「……はい」
もう兄には違和感しかない!
訓練が終わり、ケイは息を整えながら考え込んでいた。
(もう間違いない。この世界は回帰前と違う。兄も全然違う。むうう……)
ピアディが、ケイの肩に乗りながら訊ねてきた。
「ケイ、どうしたのだ?」
「実は……」
ケイは兄に感じた違和感を改めてピアディに話した。
「ほう? あの兄は回帰前と今とでそんなに違うのか。面白いのだ」
「ああ。今は十歳だが、この頃にはもう正妻の手先そのものだった。顔を合わせれば嫌味や嫌がらせばかりで」
なぜか、回帰後の今は執拗に兄ムーブをかましてくる。
自分を『ケイのお兄ちゃまだ』と呼び、ケイにもそう呼んで欲しそうな素振りを見せる。いや実際、何度もそう懇願された。誰が呼ぶか!
ケイの話や推測を一通り聞いて、ピアディは小さな両手をポンと叩いた。
「おお、そういえば。お前が回帰したように、他にもいるかもしれないのだ。言うのをすっかりぽんと忘れていたのだ」
「おい、そういうことは早く言え! まさか、それが兄なのか!?」
「そこまではわからんのだ。周りを注意深く見るべきなのだ」
兄は何かを知っているのか?
それとも、――兄もまた、ケイと同じように回帰しているのか?
まだ確証はない。
しかし、何かが違うことだけは確かだった。
(もし兄も回帰しているなら、前の人生とは違う動きをしてることに説明はつくが)
だが、それがあの執拗な兄ムーブなのは解せない。
ケイは兄との距離を保ちつつ、慎重に動くことを決意した。
一方、ピアディは最近よく感じる不吉な気配をまた感じて、辺りをきょろきょろと見回していた。
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