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朝の陽射しが降り注ぐ伯爵家の訓練場。
ケイが回帰してから早数ヶ月。
剣術の訓練にも慣れて、ケイの手のひらの皮も厚くなり、兄弟揃って腕を上げてきた。
広い闘技場の上で、ケイは木剣を握りしめ、目の前の兄テオドールと対峙していた。
ケイたち兄弟の指南役は、こうしてたびたび二人の試合を行わせた。
「それでは、始め!」
剣術指南役の掛け声と同時に、兄が踏み込んできた。
「いくぞ!」
ヒュンッ!
兄の木剣が鋭く振り下ろされる。
ケイは咄嗟に受け止めるが、手にずしりと重みが響いた。
(……重い!)
同い年だが兄の方が生まれたのが一年近く早く、その分だけ体格差がある。
さらに、兄はずっと前から剣術訓練を受けていたのに対し、ケイはまだ本格的な訓練を始めて数ヶ月でしかない。
そういうところで、正妻の息子と、妾の息子は差をつけられていた。
それでも、負けるつもりはなかった。
ケイは回帰前の訓練を覚えている。
正式な剣術の訓練が始まってから、以前の記憶は驚異的な速度でケイの肉体を作り変えていた。
「――はっ!」
ケイは素早く横に回り込み、兄の懐に踏み込んだ。
だが、兄はそれを読んでいたかのように、最小限の動きで受け流す。
「……っ」
(やっぱり、兄は強い。だが)
剣を交えながら、ケイの中に奇妙な違和感がもうハッキリと形を取っていた。
(兄の剣、もう間違いない。前と違う)
兄の剣筋は、伯爵家に伝わるアルトレイ流剣術を基本にしている。
だが、――そこに見慣れない動きが混じっていた。
(これは……やはり別の流派の技術が混ざっている。本人の工夫だけでは説明がつかない)
前世では、兄はアルトレイ流剣術しか使っていなかったはずだ。
だが、今の兄は何か違う剣技を取り入れているように見えた。
(だが、いつ、どこで身につけた?)
「どうした、ケイ?」
兄が微笑みながら言う。
その表情に、ケイはさらに違和感を覚えた。
(……回帰前の兄は、俺と剣を交えるとき、こんな顔をしていただろうか?)
兄は常に上から押さえつけるように、ケイを叩き潰してきた。
ケイの手から木刀を弾き飛ばした後も、執拗にケイの肉体を傷つける攻撃をやめなかった。
――だからいつもケイは傷だらけだった。
そんなケイを見て、母ポーラはいつも悲しげで、ケイを抱き締めながら謝るばかりだった。
母の声を今でも覚えている。
『ごめんなさい、ケイ。あなたを妾の子にしてしまった母様を許して』
今の兄はどこかケイの様子を伺うように戦っている。
しかも指南役にそれを気づかせない、微妙さで。
もちろん、ケイが稽古で大きな怪我をすることもない。
(兄は、俺の力を測っているのか?)
剣を交えながら、ケイは考えた。
(兄は本気なのか? それとも、俺を試しているのか?)
これまでの兄なら、弟を押さえつけ、勝ちを確実なものにするはず。
しかし、今の兄はどこか迷いがあるように見える。
――試している?
――俺の強さを測っている?
そう考えた瞬間、兄が次の攻撃を仕掛けてきた。
「これで終わりだ!」
ヒュンッ!
兄の木剣が、鋭くケイの肩を狙ってくる。
受け止められない――そう思った瞬間、兄の剣の動きが一瞬、緩んだ。
(……今、手を緩めた?)
本気なら、今ので決まっていたはずだ。
しかし、兄はほんの僅かに力を抜き、ケイが受け止められる余地を作った。
「……っ!」
その隙を見逃さず、ケイは反撃に出た。
ガンッ!
木剣が兄の脇をかすめ、兄が一瞬よろめく。
その直後――
「そこまで!」
剣術指南役の声が響き、戦いは終了した。
兄は木剣を下ろし、ケイをじっと見つめた。
「……もうこんなに強くなったのか。ケイ」
その言葉に、ケイの心がざわつく。
回帰前の兄は、こんなことを言わなかった。
ケイを負かすたびに冷たく「お前には才能がない」と突き放し、劣等感を植え付けてきた。
なのに、今の兄は――
「また手合わせしよう。次はもっと強くなってこのお兄ちゃまを負かすといい」
そう言って、穏やかに微笑んだ。
だが――
(……兄の目、笑っていない)
微笑みの裏に、「何かを探るような視線」を感じる。
(やっぱり、兄は俺のことを試している?)
まるで、「俺が何を知っているのか」を確かめようとしているかのような目だった。
ケイが回帰してから早数ヶ月。
剣術の訓練にも慣れて、ケイの手のひらの皮も厚くなり、兄弟揃って腕を上げてきた。
広い闘技場の上で、ケイは木剣を握りしめ、目の前の兄テオドールと対峙していた。
ケイたち兄弟の指南役は、こうしてたびたび二人の試合を行わせた。
「それでは、始め!」
剣術指南役の掛け声と同時に、兄が踏み込んできた。
「いくぞ!」
ヒュンッ!
兄の木剣が鋭く振り下ろされる。
ケイは咄嗟に受け止めるが、手にずしりと重みが響いた。
(……重い!)
同い年だが兄の方が生まれたのが一年近く早く、その分だけ体格差がある。
さらに、兄はずっと前から剣術訓練を受けていたのに対し、ケイはまだ本格的な訓練を始めて数ヶ月でしかない。
そういうところで、正妻の息子と、妾の息子は差をつけられていた。
それでも、負けるつもりはなかった。
ケイは回帰前の訓練を覚えている。
正式な剣術の訓練が始まってから、以前の記憶は驚異的な速度でケイの肉体を作り変えていた。
「――はっ!」
ケイは素早く横に回り込み、兄の懐に踏み込んだ。
だが、兄はそれを読んでいたかのように、最小限の動きで受け流す。
「……っ」
(やっぱり、兄は強い。だが)
剣を交えながら、ケイの中に奇妙な違和感がもうハッキリと形を取っていた。
(兄の剣、もう間違いない。前と違う)
兄の剣筋は、伯爵家に伝わるアルトレイ流剣術を基本にしている。
だが、――そこに見慣れない動きが混じっていた。
(これは……やはり別の流派の技術が混ざっている。本人の工夫だけでは説明がつかない)
前世では、兄はアルトレイ流剣術しか使っていなかったはずだ。
だが、今の兄は何か違う剣技を取り入れているように見えた。
(だが、いつ、どこで身につけた?)
「どうした、ケイ?」
兄が微笑みながら言う。
その表情に、ケイはさらに違和感を覚えた。
(……回帰前の兄は、俺と剣を交えるとき、こんな顔をしていただろうか?)
兄は常に上から押さえつけるように、ケイを叩き潰してきた。
ケイの手から木刀を弾き飛ばした後も、執拗にケイの肉体を傷つける攻撃をやめなかった。
――だからいつもケイは傷だらけだった。
そんなケイを見て、母ポーラはいつも悲しげで、ケイを抱き締めながら謝るばかりだった。
母の声を今でも覚えている。
『ごめんなさい、ケイ。あなたを妾の子にしてしまった母様を許して』
今の兄はどこかケイの様子を伺うように戦っている。
しかも指南役にそれを気づかせない、微妙さで。
もちろん、ケイが稽古で大きな怪我をすることもない。
(兄は、俺の力を測っているのか?)
剣を交えながら、ケイは考えた。
(兄は本気なのか? それとも、俺を試しているのか?)
これまでの兄なら、弟を押さえつけ、勝ちを確実なものにするはず。
しかし、今の兄はどこか迷いがあるように見える。
――試している?
――俺の強さを測っている?
そう考えた瞬間、兄が次の攻撃を仕掛けてきた。
「これで終わりだ!」
ヒュンッ!
兄の木剣が、鋭くケイの肩を狙ってくる。
受け止められない――そう思った瞬間、兄の剣の動きが一瞬、緩んだ。
(……今、手を緩めた?)
本気なら、今ので決まっていたはずだ。
しかし、兄はほんの僅かに力を抜き、ケイが受け止められる余地を作った。
「……っ!」
その隙を見逃さず、ケイは反撃に出た。
ガンッ!
木剣が兄の脇をかすめ、兄が一瞬よろめく。
その直後――
「そこまで!」
剣術指南役の声が響き、戦いは終了した。
兄は木剣を下ろし、ケイをじっと見つめた。
「……もうこんなに強くなったのか。ケイ」
その言葉に、ケイの心がざわつく。
回帰前の兄は、こんなことを言わなかった。
ケイを負かすたびに冷たく「お前には才能がない」と突き放し、劣等感を植え付けてきた。
なのに、今の兄は――
「また手合わせしよう。次はもっと強くなってこのお兄ちゃまを負かすといい」
そう言って、穏やかに微笑んだ。
だが――
(……兄の目、笑っていない)
微笑みの裏に、「何かを探るような視線」を感じる。
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まるで、「俺が何を知っているのか」を確かめようとしているかのような目だった。
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