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回帰後、正妻セオドラへの初めての反抗は、間接的ながら成功した。
怒った父はそのまま執務室に向かったし、使用人や仲間たちも退散して行った。
他人の目がないことを確認して、ピアディがケイのポケットからぴょこんと顔を出した。
「ケイ! 良いぞ、その顔すごく良い! われキュンとした!」
「ははっ、どういたしまして。お前のアドバイスのお陰だ、ピアディ」
ぷにっとしたピアディの柔らかしっとりボディを、ケイは優しく撫でた。
「だが油断禁物ぞ。敵は回帰前にお前たちを殺した女だと忘れてはならぬ」
「……ああ。わかってるとも」
忘れるわけがない。
今もまだ、回帰前の自分や母の亡骸は、あの冷たく暗い海の底にいるのだ。
自分が勇者に覚醒して、母を確実に助けなければ、回帰したやり直し人生はゲームオーバーになってしまう。
決意を固めたケイを、廊下の柱の影から見つめる者がいた。
――兄、テオドールだ。
「ケイ。なかなかやるじゃないか」
廊下で騒ぎが聞こえて来てみれば、なんとケイが父伯爵の虎の威を借りて、使用人たちにやり返してるではないか。
驚いた。とても見てて小気味よかった。
だが、テオドールの顔色は冴えない。
「このまま上手くやれればいいが……私の母上はそう甘くはないぞ。ケイ」
伯爵家の広い廊下に、鋭い靴音が響いた。
正妻セオドラが、誰もいない廊下を怒りに満ちた表情で歩いていた。
高級な絹のドレスが揺れ、銀の髪が波打ち、赤い瞳は怒りに震えている。
(あの妾の子が……!)
セオドラの胸は激しい怒りに燃えていた。
数日前、夫ユヴェルナートの前で使用人のケイへの嫌がらせが暴露された。
本来なら、ケイの立場を貶めるために秘密裏に進めていた嫌がらせが、全て露呈したのだ。
間違いない。あの子供が仕掛けたことだ、とセオドラには確信があった。
(私の計画が……あの子のせいで台無しに……!)
セオドラは、夫から厳しく注意を受けた屈辱を思い出し、唇を噛み締めた。
「セオドラ、あの使用人たちは何だ?」
「まさか、君が命じたのではあるまいな。……ああ、言い訳は結構。彼らから証言は取れている」
「婚前契約書を忘れたか? 妾の子だが、ケイはれっきとした我が伯爵家の次男であるぞ!」
ユヴェルナートの冷たい視線。
問いかける口調だったが、ケイに嫌がらせをした使用人たちの裏にセオドラがいることを確信している様子だった。
(あの妾と子がいなければ、こんなことにはならなかった……)
怒りと嫉妬が渦巻く。
セオドラは、自分の地位と立場が脅かされる恐怖を感じていた。
「妾の子のくせに……私の計画を邪魔するとは……」
拳を握りしめ、爪が掌に食い込んだ。
(あの女が産んだ子供さえいなければ……)
正妻セオドラは、銀の髪と赤い目を持つ、勝ち気な美女だ。
そして現国王の王女だった。
王女だが、元は愛人の母を持つ庶子だった。
下町で暮らしていたが幼い頃に母を亡くした。その後は父王に引き取られ、王女として育てられている。
今の高貴な装いと振る舞いのセオドラを見て、下町育ちだと見抜ける者はいないだろう。
夫のアルトレイ伯爵ユヴェルナートとは政略結婚だ。
だがユヴェルナートには既に心に決めた女性がいた。それが妾ポーラである。
(結婚してもユヴェルナートがよそよそしいのは、王女のわたくしの高貴な身分に遠慮しているのだと思っていた)
(でも違った。いつまで経ってもわたくしたちの間に愛は芽生えず、わたくしは、――この結婚がただの政略結婚に過ぎぬと知った)
(ポーラとは、お互い息子を産んでも大して顔を合わせずにいたけど……)
セオドラは過去を回想した。
そう、あれは息子テオドールと妾の息子ケイが四歳の頃だった。
怒った父はそのまま執務室に向かったし、使用人や仲間たちも退散して行った。
他人の目がないことを確認して、ピアディがケイのポケットからぴょこんと顔を出した。
「ケイ! 良いぞ、その顔すごく良い! われキュンとした!」
「ははっ、どういたしまして。お前のアドバイスのお陰だ、ピアディ」
ぷにっとしたピアディの柔らかしっとりボディを、ケイは優しく撫でた。
「だが油断禁物ぞ。敵は回帰前にお前たちを殺した女だと忘れてはならぬ」
「……ああ。わかってるとも」
忘れるわけがない。
今もまだ、回帰前の自分や母の亡骸は、あの冷たく暗い海の底にいるのだ。
自分が勇者に覚醒して、母を確実に助けなければ、回帰したやり直し人生はゲームオーバーになってしまう。
決意を固めたケイを、廊下の柱の影から見つめる者がいた。
――兄、テオドールだ。
「ケイ。なかなかやるじゃないか」
廊下で騒ぎが聞こえて来てみれば、なんとケイが父伯爵の虎の威を借りて、使用人たちにやり返してるではないか。
驚いた。とても見てて小気味よかった。
だが、テオドールの顔色は冴えない。
「このまま上手くやれればいいが……私の母上はそう甘くはないぞ。ケイ」
伯爵家の広い廊下に、鋭い靴音が響いた。
正妻セオドラが、誰もいない廊下を怒りに満ちた表情で歩いていた。
高級な絹のドレスが揺れ、銀の髪が波打ち、赤い瞳は怒りに震えている。
(あの妾の子が……!)
セオドラの胸は激しい怒りに燃えていた。
数日前、夫ユヴェルナートの前で使用人のケイへの嫌がらせが暴露された。
本来なら、ケイの立場を貶めるために秘密裏に進めていた嫌がらせが、全て露呈したのだ。
間違いない。あの子供が仕掛けたことだ、とセオドラには確信があった。
(私の計画が……あの子のせいで台無しに……!)
セオドラは、夫から厳しく注意を受けた屈辱を思い出し、唇を噛み締めた。
「セオドラ、あの使用人たちは何だ?」
「まさか、君が命じたのではあるまいな。……ああ、言い訳は結構。彼らから証言は取れている」
「婚前契約書を忘れたか? 妾の子だが、ケイはれっきとした我が伯爵家の次男であるぞ!」
ユヴェルナートの冷たい視線。
問いかける口調だったが、ケイに嫌がらせをした使用人たちの裏にセオドラがいることを確信している様子だった。
(あの妾と子がいなければ、こんなことにはならなかった……)
怒りと嫉妬が渦巻く。
セオドラは、自分の地位と立場が脅かされる恐怖を感じていた。
「妾の子のくせに……私の計画を邪魔するとは……」
拳を握りしめ、爪が掌に食い込んだ。
(あの女が産んだ子供さえいなければ……)
正妻セオドラは、銀の髪と赤い目を持つ、勝ち気な美女だ。
そして現国王の王女だった。
王女だが、元は愛人の母を持つ庶子だった。
下町で暮らしていたが幼い頃に母を亡くした。その後は父王に引き取られ、王女として育てられている。
今の高貴な装いと振る舞いのセオドラを見て、下町育ちだと見抜ける者はいないだろう。
夫のアルトレイ伯爵ユヴェルナートとは政略結婚だ。
だがユヴェルナートには既に心に決めた女性がいた。それが妾ポーラである。
(結婚してもユヴェルナートがよそよそしいのは、王女のわたくしの高貴な身分に遠慮しているのだと思っていた)
(でも違った。いつまで経ってもわたくしたちの間に愛は芽生えず、わたくしは、――この結婚がただの政略結婚に過ぎぬと知った)
(ポーラとは、お互い息子を産んでも大して顔を合わせずにいたけど……)
セオドラは過去を回想した。
そう、あれは息子テオドールと妾の息子ケイが四歳の頃だった。
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