家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道

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少し時は遡って

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 健太はロアやユーリたちを助け面倒を見ながらもアストリア王国への支援も忘れず続けていた。

アストリア王国の目覚ましい復興は、健太がもたらした奇跡の証として、国内外にその名を轟かせていた。荒れ果てた大地が豊かな農地へと変貌し、飢えに苦しんでいた人々が笑顔を取り戻す光景は、まさに絵画のようだった。

国王は幾度となく健太を王宮へと招こうとしたが、ルミナの「王宮の安全度:低」という警告が健太の心を躊躇させた。しかし、王国の食料問題が根本的に解決され、人々の生活が安定した今、健太の心には新たな問いが浮かび上がっていた。

「ルミナ、俺はいつまでこうして王宮を避けていればいいんだ?国王は俺に会いたがっている。このままじゃ、不信感を与えてしまうかもしれない。それに、王宮の安全度が低いって言ったけど、具体的に何が危険なんだ?」

健太の問いかけに、ルミナは静かに答えた。

『王宮の安全度が低いと判断した理由は複数あります。最も懸念されるのは、王宮内部における複雑な権力闘争と、それに伴う不穏な動きです。王国内には、現在の国王陛下の統治に不満を持つ勢力や、外部の国と結託し、王国に混乱をもたらそうと画策している者たちが存在します。また、王宮の地下には、過去の遺物とされる危険な魔道具が封印されており、その影響も無視できません。主の存在は、彼らにとって喉から手が出るほど欲しい力であり、同時に排除すべき障害と認識される可能性が高いです』

健太は腕を組み、深く考え込んだ。ルミナの言葉は、彼の想像を遥かに超える深い闇を示唆していた。単なる政治的な駆け引きだけでなく、危険な魔道具まで存在するというのか。

「それって、俺が王宮に入ったら、その魔道具が悪用される可能性があるってことか?」

『その可能性は否定できません。あるいは、主の能力を強制的に奪取しようとする動きがあるかもしれません。彼らは主の力を利用し、自らの野望を達成しようと目論むでしょう。しかし、主の安全を確保することは可能です。この拠点の防御能力は、王宮内部のあらゆる脅威から主を守り切ることができます。問題は、主がそこで何を目指すか、です』


ルミナの言葉に、健太は改めて自身の目的を問い直した。彼はこの異世界で、のんびり平和に暮らしたいと願っていた。しかし、アストリア王国を救ったことで、その平穏な日々は新たな局面を迎えている。王宮の闇に目を背けていては、本当にこの世界で平和に暮らせるのだろうか?

「…分かった。国王に会うことにするよ。ただし、ルミナ、最大限の警戒を頼む。何かあったら、すぐにでも家に戻るから」

健太の決断に、ルミナは静かに『承知いたしました。主の安全を最優先に行動します』と応じる。

健太は意を決し、国王からの招待を受ける旨の伝言を、定期的に連絡を取り合っている兵士たちに伝えた。


 数日後、健太は王都の兵士詰所から、国王主催の歓迎式典のために用意された馬車に乗り込んでいた。王都の通りは、健太の訪問を一目見ようと集まった人々で埋め尽くされていた。彼らの顔には、感謝と期待、そして畏敬の念が混じり合った複雑な感情が浮かんでいる。

「ケンタ様、ケンタ様だ!」
「神の使い様、ありがとう!」

人々は口々に健太の名を呼び、手を振り、中にはひざまずいて祈りを捧げる者までいた。健太は窓越しにその光景を眺め、胸の奥から温かいものが込み上げてくるのを感じた。以前の健太ならば、これほどの注目に晒されることに戸惑い、居心地の悪さを感じたかもしれない。しかし、アストリア王国の人々の純粋な感謝の気持ちに触れ、健太の心は満たされていた。

『主の人気は、アストリア王国において絶大なものとなっています。これは、今後の主の行動において、非常に有利に働くでしょう』

ルミナが静かに分析した。

馬車はゆっくりと王宮へと続く大通りを進んでいく。王宮の門が見えてくると、その威容に健太は思わず息を呑んだ。巨大な石造りの壁は空を突き刺すかのようにそびえ立ち、精緻な装飾が施された門は、アストリア王国の歴史と権威を物語っていた。門の衛兵たちは、健太の乗る馬車が近づくと一斉に敬礼し、厳かに門を開いた。


 馬車が王宮の敷地内に入ると、衛兵たちの厳重な警備の中、健太は豪華絢爛な謁見室へと案内された。高い天井には壮麗なシャンデリアが輝き、壁には歴代の国王の肖像画が飾られている。磨き上げられた大理石の床には、彼の足音が静かに響いた。

「よくぞ参られた、聖なる救済者様」

謁見室の奥、玉座に座る国王が、温かい笑みを浮かべて健太を迎えた。国王は恰幅の良い体格で、威厳の中にも温和な雰囲気を漂わせている。その隣には、若く美しい王女と、武骨な雰囲気を持つ将軍が控えていた。

健太は国王の前に進み出ると、王族に対しての礼儀作法などわかるわけもないため、とにかく敬意を示そうと思い深々と頭を下げることにした。

「アストリア国王陛下におかれましては、この度はお招きいただき、誠にありがとうございます。健太と申します」

健太は緊張しながらも頭を下げながらも王宮へ招いてくれたことに対して王に感謝の意を述べた。

「うむ、面を上げよ、健太殿。貴殿がアストリアにもたらしてくれた恩恵は、言葉では言い表せないほどだ。飢えに苦しむ民が救われ、荒廃した大地が息を吹き返した。これらはまさに神の業、貴殿は我らが救世主である」

国王の言葉に、健太は少し照れくさそうに微笑んだ。

「お褒めいただき、恐縮です。私はただ、できることをしたまでです」
「謙遜なさるな。貴殿の力は、我々の想像を遥かに超える。それにしても、貴殿のような若者が、かくも偉大な力を有するとは…」

国王は感嘆の声を漏らす。

国王との会話は終始和やかに進んだ。健太は、自身が「家」の能力を使って食料や医療品を供給し、さらに環境再生を行ったことを簡潔に説明した。もちろん、「家」の詳細や「ルミナ」の存在については伏せたままだった。国王は健太の話に深く頷き、そのたびに感謝の言葉を述べた。

「健太殿、貴殿にはぜひ、このアストリア王国に滞在していただきたい。そして、その類稀なる力で、どうか我らを導いてほしいのだ」

国王は真剣な眼差しで健太を見つめた。健太は一瞬、言葉に詰まった。ルミナの警告が脳裏をよぎる。

「陛下のお気持ちは大変ありがたく存じます。しかし、私はこの国の者ではありません。一時的にこの世界に流れ着いただけの身でございます。私は、どこかのんびりと暮らせる場所を探しているにすぎません」

健太は遠回しに、王宮に滞在することを断った。国王の顔に、わずかな落胆の色が浮かんだ。しかし、すぐに気を取り直した。

「そうか…無理を言ってすまない。だが、貴殿の存在がアストリア王国にとってどれほど大きいか、どうかご理解いただきたい」

国王はそう言うと、隣に控えていた将軍に視線を送った。

「将軍、健太殿の安全確保について、最優先で取り組むよう指示を出せ。健太殿の滞在中、何不自由なく過ごせるよう、あらゆる便宜を図るのだ」

「はっ!」将軍は力強く応じる。

健太は国王の配慮に感謝しつつも、ルミナの警告が頭から離れなかった。健太には王宮の闇が目の前で静かに息を潜めているように感じられたのだ。


国王との謁見後、健太は王宮内に用意された豪華な客室へと案内された。部屋は広々としており、豪華な調度品が置かれ、窓からは王都の美しい景色が一望できた。しかし、健太の心は落ち着かなかった。

『主、客室周辺に複数の監視の目が存在します。また、ごく微弱ですが、魔素エネルギーの異常な波動を感知しました。警戒を怠らないでください』

ルミナの声が、健太の警戒心をさらに高めた。やはり、ルミナの警告は正しかった。王宮内部には、何かが潜んでいる。

健太は客室のベッドに腰を下ろした。疲労と緊張が彼の体を包み込む。しかし、その夜から、健太の王宮での日々は、奇妙な平穏と、時折訪れる不穏な出来事の連続となった。

日中は、国王や王女、貴族たちとの面会が続いた。彼らは皆、健太の力を称賛し、王国のために尽力してほしいと懇願した。

健太は可能な範囲で、環境再生の能力をさらに広範囲に適用したり、食料や医療品の供給を続けることを約束する。彼の活動により、王国の復興は加速し、国王からの信頼は揺るぎないものとなっていった。

しかし、夜になると、状況は一変する。

『主、現在、客室の扉に、不審な魔素の痕跡を感知しました。侵入を試みた可能性があります』

ある夜、ルミナの警告で健太は飛び起き、すぐに身構えた。しかし、何者かが侵入を試みた形跡はあったものの、結局誰にも会うことはなかった。

また別の夜には、健太の客室に忍び寄る影があった。しかし、その影は健太が気づく前に、何者かの手によって排除されたようだった。朝になると、客室の前に衛兵が一人増えていた。

「ルミナ、昨夜も何かあったのか?」健太は心の中でルミナに尋ねる。

『はい。主の存在に不穏な動きを見せる者が現れました。しかし、今回は王宮内部の護衛が迅速に対応し、事なきを得ました。どうやら、主の護衛には、国王陛下直属の精鋭が当たっているようです。彼らは主を、国の宝として認識しているため、その警備は非常に厳重です』

健太は安堵のため息をついた。どうやら国王は、自分を心から信頼し、守ろうとしてくれているようだ。しかし、その王からの信頼が、同時に彼を狙う者たちを駆り立てているのかもしれない。
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