家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

救援要請と復興計画

　健太は、瓦礫と化した王都を駆け抜ける。彼の足取りは速く、その表情には迷いがなかった。心の中では、ルミナが孤児院への最短ルートを提示し、健太はその指示に従いながら、崩壊した建物の間を縫うように進んでいく。

『主、孤児院の地下シェルターから複数の生命反応を確認しました。子供たちの可能性が高いです。しかし、敵兵の巡回ルート上に位置しており、現在、敵兵がシェルターの入り口付近を警戒しています』

ルミナの声に、健太は舌打ちした。子どもたちに危険を冒させるわけにはいかない。

「ルミナ、何か敵兵を足止めできる方法はないか？ 音を立てずに、やつらを孤児院から遠ざけたい」

健太の問いに、ルミナは即座に応じた。

『認識しました。王都の南西区画にある旧市街の地下に、古い魔力炉の残骸が埋没しています。そこに微量の魔素エネルギーを供給することで、小規模な爆発を誘発させることが可能です。敵兵の注意をそらすには十分でしょう。ただし、建物の倒壊を引き起こす可能性がありますが、周辺にはすでに廃墟化した建物しか存在しないため、新たな被害は発生しないと判断されます』

「よし、やってくれ！ ただし、爆発は最小限に抑えてくれ」

健太の指示に、ルミナは即座に実行に移した。数秒後、王都の南西区画から、ドォン！という鈍い爆発音が響き渡った。続いて、建物が崩れ落ちるガラガラという音が遠くで聞こえる。

「何だ！？」「そっちだ！」「生き残りがいるのか！？」

敵兵たちの声が聞こえ、孤児院の入り口を警備していた兵士たちが、一斉に爆発音のした方向へと向かっていった。健太は、その隙を見逃さない。

孤児院の入り口は、分厚い鉄板で厳重に閉ざされていた。健太は躊躇なくその鉄板に触れ、ルミナに語りかけた。

「ルミナ、開けてくれ！」

彼の言葉に応えるように、鉄板が音もなく内側へスライドしていく。健太は急いでシェルターの中へと足を踏み入れた。

地下のシェルターは、薄暗く、埃っぽい空気が充満していた。しかし、奥からは、か細い子供たちのすすり泣く声が聞こえてくる。健太は足早に奥へと進んだ。

そこにいたのは、震えながら身を寄せ合う数十人の人族と獣人族の子供たちだった。彼らは皆、恐怖に顔を歪ませ、健太の姿を見ると、さらに怯えたように身を固くした。

「大丈夫だよ。もう安全だから。助けに来たんだ」

健太は優しい声で語りかけると、子供たちは健太の言葉にゆっくりと顔を上げた。その目には、まだ恐怖の色が残っているが、同時に、かすかな希望の光も宿っていた。健太は、彼らの目の前で生命の泉の水を生成し、差し出した。

「これを飲んで、落ち着いて」

子供たちは、恐る恐るコップを受け取り、一口飲む。すると、彼らの顔に、みるみるうちに血色が戻っていくのが見て取れた。

健太は、一人ひとりの頭を優しく撫で、安心させるように励まし語りかける。

『主、周辺に敵兵の増援が接近しています。多数です。時間はありません。至急、孤児院の子供たちを「家」へと転移させるべきです』

ルミナの警告に、健太は顔を引き締めた。

「みんな、急いで俺のそばに来てくれ！ 一緒に安全な場所へ行くぞ！」

健太の呼びかけに、子供たちは一斉に健太の元へと駆け寄ってきた。健太は、子供たちを自分の周囲に集めると、ルミナに指示を出す。

「ルミナ、全員を『家』へ！」

健太の言葉に、彼らの足元から淡い光が広がり、あっという間に健太と子供たちは孤児院のシェルターから消え去った。

健太の「家」のリビングに、大勢の子供たちが転移してきた。リリア、ルーク、グレンは、突然現れた大勢の子供たちに驚きながらも、すぐに彼らの世話を焼こうと健太の真似をする。

「みんな、大丈夫だよ。ここは安全な場所だから、安心してね」

健太は子供たちを安心させるように語りかけると、ルミナに指示を出した。

「ルミナ、みんなのために温かい食事と寝る場所を用意してやってくれ。怪我をしている子がいたら、治療も頼む」

『承知いたしました、主。現在、食料と寝具の準備、および医療物資の生成を開始します。各個体の健康状態をスキャンし、最適な治療を施します』

ルミナの声に、子供たちは安堵の表情を浮かべた。健太は、子供たちが落ち着いたのを確認すると、ロアとユーリの様子も確認するためにルミナに問いかけた。

「ロアとユーリは、どうしている？ 無事なのか？」

『ロア様とユーリ様は、王都の異変を察知し、すぐに王都から離れておりました。現在、安全な場所で生存しており、主の「家」からの通信を待っている状態です。すぐにこちらへ呼び寄せますか？』

「ああ、すぐに呼んでくれ。彼らにも、今の状況を伝えなければならない」

健太の言葉に、ルミナはロアとユーリを「家」へと転移させた。二人は、健太と子供たちの無事な姿に安堵しながらも、アストリア王国の惨状に言葉を失っていた。

健太は、彼ら全員を集め、アストリア王国に起こったこと、そしてこれからどうすべきかを語り始めた。


健太の「家」は、アストリア王国滅亡の唯一の希望となった。健太によって救助された人々は、王宮の隠し通路にいた側近や騎士たち、地下牢の生存者たち、そして孤児院の子供たち、その数およそ百名に及んだ。彼らは健太の能力に驚嘆し、そして深く感謝した。

ロアとユーリも合流し、健太は彼らと共に、今後のアストリア王国の復興について話し合った。

「ルミナ、生存者全員分の食料、医療品、そして生活に必要なものは全て揃えられるか？」

健太の問いに、ルミナは即座に答えた。

『はい、主。私の能力で全て生成可能です。生命の泉の水も無限に供給できますので、水資源の心配もございません。また、生活空間の拡張も可能です』

健太は、ルミナのチート能力が、この絶望的な状況において、いかに強力な希望となりうるかを改めて実感した。

「よし。まずは、ここにいるみんなが安心して暮らせる環境を整えよう。そして、アストリア王国の復興について、具体的な計画を立てるんだ」

健太は、王の側近たちや騎士たちと共に、今後の戦略を練り始めた。

「ケンタ様、我々は、この「家」が、アストリア王国を再建するための拠点となると信じております。どうか、我々の希望となってください！」

側近の一人が、健太に深々と頭を下げた。健太は、その言葉に力強く頷いた。

「必ず、みんなで力を合わせてアストリア王国を再建しましょう。そして、もう二度と、こんな悲劇が起こらないようにする」

健太は、自分自身の甘さを反省し、この世界の現状と向き合う覚悟を決めた。彼のチート能力は、もはや「のんびりスローライフ」のためだけのものではない。今はこのアストリアの人たちを守り、平和を築くための、かけがえのない力なのだ。

数週間後、健太の「家」では、健太を含むアストリア王国の要人たちとの会議が開かれていた。議題はもちろん復興計画と西方三国への対応についてだ。

『主、西方三国は、アストリア王国の占領を完了し、現在、奪取した資源の分配と、今後の統治体制について協議している模様です。しかし、各国の間で意見の対立が生じ始めており、一枚岩ではないようです』

ルミナの報告に、健太は静かに頷いた。やはり、略奪者たちの同盟は長続きしない。

「ルミナ、西方三国以外の国で、アストリア王国に友好的な国はないのか？」
『スキャンしました。東方に位置する「エルフの国：ミストニア」と、南方に位置する「獣人の国：ガルーダ」は、アストリア王国に対し友好的な姿勢を示しています。両国とも、過去の魔物の脅威に対し、アストリア王国と協力体制を築いており、今回の侵攻には不快感を示しているようです』

健太は、その情報に希望を見出した。

「よし。ルミナ、天空の舟を準備してくれ。まずは、ミストニアへ向かう。彼らに協力を求め、西方三国に対抗するための力を蓄えるんだ」

健太の言葉に、ロアとユーリ、そしてアストリア王国の騎士たちが集まってきた。

「ケンタ様、我々も同行させてください！」「アストリアの復興のためなら、どんな危険も厭いません！」

健太は、彼らの強い意志を感じ取り、頷いた。

「分かった。ただし、これは危険な旅になる。無茶はするな。そして、この「家」に残る者たちは、復興のための準備を進めておいてくれ」

子供たちは、健太の新たな旅立ちに不安と期待が入り混じった表情を浮かべていた。健太は、彼らを一人ずつ抱きしめ、優しく語りかける。

「みんな、すぐに戻るからね。いい子で待っていてくれ」
リリアは可愛らしく健太に向かって敬礼し、「りょーかい。お家のことはまかせて」と笑顔で健太に伝えた。ルークは健太の足に抱きつき、「お兄ちゃん、気を付けて！」と健太を心配し、グレンは、少し大人びた表情で、「健太お兄ちゃん、必ずご無事で」と深々と頭を下げた。

翌朝、健太はロア、ユーリ、そして選抜された数名の騎士たちと共に、天空の舟に乗り込んだ。朝焼けに染まる空の下、天空の舟はゆっくりと浮上し、東の空へと飛び立った。

窓から見える景色は、アストリア王国の荒廃した姿だった。しかし、健太の心には、悲しみや絶望だけではなかった。そこには、再建への希望と、未来への決意が宿っていた。

彼の異世界での物語は、新たなフェーズへと突入する。