悪役令嬢なのに? 隣国の王太子がなぜか私を溺愛してくる

ほーみ

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「貴方、本気で言っているの?」

私はクラウス様の真紅の瞳をじっと見つめた。
彼はまるで愉快そうに口元を綻ばせる。

「本気も本気だ。これ以上にないほど、ね」

「……正気の沙汰とは思えませんわ」

私はため息をつきながら、ふと窓の外を見た。
どうやらこの馬車はすでに王都の外れを走っているらしい。

つまり、私にはもう戻る場所はない。

アルバート様に婚約を破棄され、社交界に居場所を失った私は、
こうして隣国の王太子に「求められている」。

「少しだけ、お話を聞かせていただいても?」

「もちろん」

クラウス様は満足そうに笑みを深め、手を組む。

「まずは……なぜ、私なのかしら?」

私は疑問をぶつけることにした。
隣国の王太子ともなれば、社交界に名を馳せる令嬢たちが数多くいるはず。
わざわざ”悪役令嬢”などと呼ばれる私を選ぶ理由があるとは思えない。

「ふむ……では率直に話そう」

クラウス様はまるで獲物を見つけた狩人のような目で、私を見つめる。

「私は賢い女が好きだ。そして貴女ほど頭の回る女性を、私は見たことがない」

「……」

「今日の婚約破棄劇、見事だった」

ああ、なるほど。
まさか彼、あの場にいたのかしら?

「婚約破棄された令嬢が泣き崩れるという筋書きを、貴女はあっさりと覆した。
むしろ、アルバートを翻弄し、彼のほうを滑稽に見せた」

「別に、意図したわけではありません」

「いや、貴女は計算していた」

クラウス様の言葉に、私は肩をすくめる。

「……そう思うのなら、そうなのかもしれませんね」

「貴女は王妃の器だ」

「それは買いかぶりすぎですわ」

私は首を振る。
クラウス様は微笑を浮かべながら、ゆっくりと首を振った。

「いや、貴女なら私の隣に立てる」

まるで当然のことのように言い切る彼に、私は思わず息を呑む。
この人は――本当に、私を王妃にするつもりなの?

「レティシア」

「……な、何ですの?」

「私は貴女を溺愛するつもりだ」

「は?」

「だから、覚悟しておけ」

この男――本気で言っている!?



それから数日後。私は隣国ガルヴァニアの王城にいた。

まさか本当に連れてこられるとは思っていなかった。
だが、クラウス様は容赦なく私をこの国へと迎え入れた。

「ここが、私の暮らす城です。貴女にも気に入ってもらえるといいのですが」

「……気に入るも何も、私はまだここに住むと決めたわけではありませんわ」

「ふむ、それはどうかな?」

クラウス様は楽しげに笑うと、私の手を取った。

「さあ、案内しよう。貴女の部屋へ」

「……私の、部屋?」

「当然だろう? 貴女が快適に過ごせるように、用意させておいた」

私は思わずため息をつく。

「……強引ですわね」

「私は最初からそう言っている」

クラウス様は悪びれる様子もなく微笑んだ。

私が観念したように城の中へ足を踏み入れると、
すれ違う侍女たちや騎士たちが驚いた顔で私を見つめる。

「彼女は、私の客だ。無礼のないように」

クラウス様の一言で、彼らは慌てて頭を下げる。

「お、お迎えいたします、レティシア様」

「……よろしくお願いします」

この状況、どうしたものかしら?

私は城の豪華な廊下を歩きながら、考える。

クラウス様は一体、私に何を求めているのだろう?
本当に王妃として迎えるつもりなのか。
それとも――単なる気まぐれ?

「……疑っているのか?」

「当然ですわ」

私が真顔で答えると、クラウス様は愉快そうに笑った。

「面白い。ますます気に入った」

「……それは光栄ですわね」

こんな調子で、この国での生活が始まるのかと思うと、
私は少しだけ、頭が痛くなったのだった。

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