悪役令嬢なのに? 隣国の王太子がなぜか私を溺愛してくる

ほーみ

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用意された部屋は、私が想像していた以上に豪華だった。

淡いクリーム色の壁に、美しく装飾された家具の数々。
窓からは王都の景色が一望でき、分厚いカーテンが優雅に揺れている。
ベッドの天蓋には繊細な刺繍が施されており、まるで王妃の寝室のようだった。

「……この部屋、少し豪華すぎませんこと?」

私はクラウス様を疑いの目で見る。

「貴女にふさわしい部屋を用意したまでだ」

「私はまだ、この国に住むと決めたわけではありませんのに?」

「まあ、時間の問題だろう?」

クラウス様は当然のように言ってのける。
彼の自信に満ちた態度に、私は深くため息をついた。

「ふむ。貴女が気に入らないなら、もっと広い部屋に変えることもできるが?」

「いえ、十分です」

これ以上豪華な部屋を与えられても困るだけだ。

「では、ゆっくり休むといい」

「……あの」

去ろうとするクラウス様を引き留める。

「私、これからどうなるのかしら?」

「それは貴女次第だ」

クラウス様は私の目を真っ直ぐに見つめる。

「私の隣に立つと決めるのも、別の道を選ぶのも、貴女の自由だ」

「……なら、なぜここまで?」

「私は貴女を手に入れたいと思った。それだけだ」

彼の真紅の瞳が、強い光を宿して私を捉えていた。

「貴女は自分の価値を、少し低く見積もりすぎている」

「……そんなこと」

「ある」

クラウス様は言葉を遮ると、私の顎を軽く持ち上げた。

「今日からは、それを改めてもらおう」

彼の真剣な声に、私は何も言えなくなった。



翌朝、私はまだこの国に馴染めないまま、朝食のために食堂へと向かった。

広々とした食堂には、美しく整えられたテーブルが置かれ、窓からは柔らかな光が差し込んでいる。

クラウス様はすでに席に座っていた。

「おはよう、レティシア」

「……おはようございます」

「さあ、座るといい」

勧められるままに席につくと、目の前には豪華な朝食が並んでいた。
焼きたてのパンに、フルーツの盛り合わせ、そしてスープ。
見ただけでため息が出るほど、優雅な食事だった。

「どうだ? 口に合うか?」

「ええ……とても美味しいです」

「それはよかった」

クラウス様は満足そうに微笑む。

私はパンを一口かじりながら、ふと彼の顔を観察した。
王太子としての威厳を持ちながらも、どこか余裕のある表情。
社交界にいる男性とは、まるで違う。

「何か気になるか?」

「……いえ、ただ、クラウス様は私に優しすぎる気がしますわ」

「当然だ。私は貴女を溺愛するつもりだからな」

さらりと言い放たれ、私はスープを飲みかけていた手を止める。

「……本気で言っていますの?」

「本気だ」

クラウス様は微笑むと、私の手を取り、その甲に軽く唇を落とした。

「っ……!」

「少しは慣れてくれるといいが」

「……っ、そう簡単に慣れるものではありません!」

顔が熱くなるのを感じながら、私はそっぽを向いた。




それから数日が経った。

私はガルヴァニアの城での生活に少しずつ慣れ始めていた。
とはいえ、未だに「王太子の寵愛を受ける女性」として扱われることには戸惑いを感じていた。

「レティシア様、お茶のお時間です」

侍女たちが私を特別扱いするのにも、まだ違和感がある。

「……あの、私は王妃ではありませんのに」

「ですが、クラウス様が特別にお世話するようにと……」

「……はぁ」

彼の過保護ぶりには、ため息をつくしかなかった。

「まあ、いただくわ」

用意された紅茶を口に運ぶと、ほのかに花の香りが広がる。

「……落ち着きますわね」

「お口に合いましたか?」

「ええ、とても」

こうして、静かにお茶を楽しむ時間は悪くない。

だが――。

「レティシア!」

突然、クラウス様の声が聞こえた。

「……何事ですの?」

「視察に行く。貴女も来い」

「……視察?」

「そうだ。貴女にはこの国のことを知ってもらいたい」

私の返事を待たずに、クラウス様は私の手を取り、歩き出した。

「ちょ、ちょっと!?」

「大丈夫だ。私が守る」

「そういう問題ではありません!」

城の中庭にはすでに馬車が用意されていた。

「さあ、乗れ」

「……」

この人は本当に、私を逃がすつもりがないらしい。

「仕方ありませんわね」

私は観念し、彼と共に馬車に乗り込んだ。

こうして、ガルヴァニアでの新たな一歩が始まるのだった。

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