王国アスティリア最大の劇場──もとい、王立学園の大講堂にて。
本日上演されるのは、わたくしリリアーナ・ヴァレンティアを断罪する、王太子殿下主催の茶番劇である。
壇上には、舞台の主役を気取った王太子アレクシス。その隣には、純白のドレスをひらつかせた侯爵令嬢エリーナ。
そして観客席には、好奇心で目を輝かせる学生たち。ざわめき、ひそひそ声、侮蔑の視線。
ふふ……完璧な舞台準備ね。
「リリアーナ・ヴァレンティア! そなたの悪行はすでに暴かれた!」
王太子の声が響く。
文字数 16,690
最終更新日 2025.11.19
登録日 2025.11.19
王都の朝は、いつも少しだけ喧騒に満ちている。馬車の車輪が石畳を転がる音、人々の会話、パン屋の香ばしい匂い。その中心部から少し外れた場所に、私――エリシア・ハートレイは住んでいる。
ハートレイ侯爵家。聞こえだけは立派だが、私はその中でも地味な存在だ。
金髪碧眼の兄たちとは違い、私の髪は亜麻色、目は淡い灰色。社交界で着るドレスだって、華やかな装飾よりも落ち着いた色合いが好きだし、目立つことは苦手。
人に見られると妙に緊張してしまう、典型的な地味令嬢。
――だった、はずなのに。
文字数 15,902
最終更新日 2025.11.18
登録日 2025.11.18
「――本日をもって、レイラ・アストレッドとの婚約を破棄する!」
玉座の間に響き渡る鋭い声。
それは私の元婚約者である王太子・ユリウスの宣告だった。
広い空間にざわめきが広がる。
私はゆっくり顔を上げ、冷たい笑みを浮かべた。
「あら、そう。ようやく?」
「……なに?」
文字数 14,807
最終更新日 2025.11.17
登録日 2025.11.17
入学してからずっと、私は「地味で空気みたいな子」だった。
黒髪を後ろで一つに結んで、メイクもほとんどしない。背も低くて、喋るのが得意なわけでもない。
そしてそんな私を、ずっと見下してきたのが――幼馴染の**湊(みなと)**だった。
「おまえは目立つの向いてないんだから、大人しくしてりゃいいんだよ」
文字数 14,186
最終更新日 2025.11.16
登録日 2025.11.16
「……悪いけど、もう終わりにしよう。楓(かえで)とはやっていけない。地味で……退屈なんだよ」
あの日、歩道橋の上で言われたその言葉は、春の風より冷たかった。
私、桐生楓は“地味で静かな女”だった。派手な服も着ないし、飲み会で騒ぐタイプでもない。読書と仕事を淡々とこなす、そんな毎日が好きだった。
でも、その“静かさ”が恋人の涼(りょう)にはつまらなかったらしい。
文字数 15,424
最終更新日 2025.11.15
登録日 2025.11.15
婚約破棄された瞬間、隣国の王子が「その人、僕がもらいます」と言った
「――メアリー・グランツ。お前との婚約は破棄する」
王城の大広間に響いたその声に、空気が凍りついた。
周囲にいた貴族たちがざわめき、侍女たちが息を呑む。
私――メアリーは、胸の奥がきゅっと痛んだ。
けれど、それでも背筋を伸ばして、婚約者である王太子エドガーをまっすぐ見据えた。
文字数 16,095
最終更新日 2025.11.14
登録日 2025.11.14
――雨の夜だった。
頬に冷たい雨が当たるよりも早く、胸の奥の方が痛かった。
浮気相手の香水の匂いがまだ鼻について離れない。
信じていたのに。
あの人は、私を選ばなかった。
「……馬鹿みたい」
喉の奥で漏れた声は、雨音にかき消された。
手に握りしめているのは、婚約指輪。淡い金の輪は、私の指よりも冷たかった。
投げ捨てようとしても、指が震えてできなかった。
文字数 16,350
最終更新日 2025.11.13
登録日 2025.11.13
「アンナ・ローゼンハルト。君との婚約は、ここで終わりにしよう」
その言葉を聞いた瞬間、手にしていたティーカップが震え、かすかな音を立てた。
春の庭園。満開の白薔薇の香りの中で、わたし――アンナは、王太子アラン殿下に婚約破棄を告げられた。
「……理由を、うかがってもよろしいでしょうか」
「君は……地味だ。努力は認めるが、王妃としての華がない。もっと相応しい令嬢がいる」
文字数 15,523
最終更新日 2025.11.12
登録日 2025.11.12
白い花びらが散る中、私は婚約者に手を振り払われた。
「もうお前とは終わりだ、リリアーナ。俺はセリーヌと結婚する」
――ああ、やっぱり。
そうなるとは思っていた。けれど、実際に言葉にされると胸が締め付けられる。
「そう……ですか。お幸せに」
「お前みたいな地味な令嬢といても退屈なんだよ。セリーヌのほうが愛らしいし、社交界でも人気だ」
文字数 14,990
最終更新日 2025.11.11
登録日 2025.11.11
――あの日の言葉を、私は一生忘れない。
「お前のことなんて、好きじゃない」
あの瞬間、胸の奥で何かが音を立てて壊れた。
学園の中庭。風がやけに冷たくて、まるで私の心をなぞるみたいに痛かった。
彼――蒼真(そうま)は、私の初恋だった。
成績優秀で、王都の貴族子息の中でも特に目立つ存在。
その彼が庶民出身の私と仲良くしてくれているだけで、周囲の女子たちはざわめいた。
だけど私は、彼の隣に立つのが怖くて、嬉しくて、ずっと夢のようだった。
文字数 16,113
最終更新日 2025.11.10
登録日 2025.11.10
あの日の夜、私はようやく笑った。
——本当に、ようやく、だ。
「もういい。……あなたとは、終わりにしましょう」
私の声は震えていたけれど、涙は出なかった。
目の前の男——レオンは、一瞬ぽかんとした顔で私を見て、それから鼻で笑った。
「終わりって……お前、何様のつもりだ?」
文字数 13,035
最終更新日 2025.11.09
登録日 2025.11.09
「お前って、本当につまらない女だな」
婚約者だったリオンがそう吐き捨てた日のことを、私は一生忘れないだろう。
その日、王立学院の中庭は夏の光に満ちていた。風に揺れる白い薔薇が、やけに眩しかった。
リオンは貴族の子息らしい自信に満ちた笑みを浮かべ、私の手を乱暴に振り払った。
文字数 14,492
最終更新日 2025.11.08
登録日 2025.11.08
春の宮廷は、いつもより少しだけざわめいていた。
けれどその理由が、わたし——エリシア・リンドールの婚約破棄であることを、わたし自身が一番よく理解していた。
「エリシア、君とは結婚できない」
王太子ユリウス殿下のその一言は、まるで氷の刃のように冷たかった。
——ああ、この人は本当に言ってしまったのね。
文字数 13,866
最終更新日 2025.11.07
登録日 2025.11.07
「お前のような平民と、未来を共にできるわけがない」
その言葉を最後に、彼は私を冷たく突き放した。
──王都の学園で、私は彼と出会った。
彼の名はレオン・ハイゼル。王国の名門貴族家の嫡男であり、次期宰相候補とまで呼ばれる才子。
貧しい出自ながら奨学生として入学した私・リリアは、最初こそ彼に軽んじられていた。けれど成績で彼を追い抜き、共に課題をこなすうちに、いつしか惹かれ合うようになったのだ。
文字数 14,580
最終更新日 2025.11.06
登録日 2025.11.06
「……リリアン。君は、もう俺とは釣り合わないんだ」
その言葉を聞いたのは、三か月前の夜会だった。
煌びやかなシャンデリアの下、甘い香水と皮肉まじりの笑い声が混ざりあう中で、私はただ立ち尽くしていた。
目の前にいるのは、かつて婚約者だった青年――侯爵家の跡取り、アルフレッド・グレイス。
冷たく、完璧な微笑み。
でも、私を見下ろす瞳の奥には、うっすらと迷いが見えていたのを私は見逃さなかった。
「……そう。じゃあ、終わりね」
文字数 14,188
最終更新日 2025.11.05
登録日 2025.11.05
「リリアーナ・エインズワース。お前との婚約を、今この場で破棄する!」
煌びやかな舞踏会の中央で、王太子アーロンの声が高らかに響いた。
水晶のシャンデリアの光が、まるでこの瞬間を照らすかのように煌めく。
ざわめきが広がる中、リリアーナは微動だにせず、ただ静かに息を吐いた。
──やっぱり、こうなると思っていた。
文字数 13,691
最終更新日 2025.11.04
登録日 2025.11.04
「リリアナ・アーデル。君との婚約は――今日をもって破棄する」
舞踏会の真ん中で、王太子エドガー殿下がそう宣言した瞬間、ざわりと会場中の空気が揺れた。
煌びやかなシャンデリアの下、無数の視線がわたくしに集まる。嘲笑、同情、好奇心。
どれも、わたくしがこれまで何度も浴びてきた視線だ。
けれど、今日は違う。
今日、ようやく――この茶番から解放される。
「理由をお聞かせいただけますか、殿下?」
わたくしは冷静に問い返す。胸の奥では、鼓動が少しだけ早まっていた。
文字数 15,081
最終更新日 2025.10.27
登録日 2025.10.27
「――よって、この婚約は破棄とする!」
広間に響き渡った王太子アルベルト殿下の宣告に、会場はどよめいた。
舞踏会の最中に、衆目の前での断罪劇。まるで物語に出てくる悪役令嬢さながらに、わたくしは晒し者にされていた。
「エレナ・グランチェスター。お前は魔力を持たぬ無能。王妃教育を施しても無駄だった。王太子妃の座は相応しい者に譲るべきだ!」
殿下の傍らには、媚びるように腕を絡ませる侯爵令嬢ミレーユの姿。彼女は柔らかに微笑みながら、勝ち誇ったように私を見下ろしていた。
――無能。
文字数 11,359
最終更新日 2025.09.04
登録日 2025.09.04
「――婚約を破棄する!」
大広間に響いたその宣告は、きっと誰もが予想していたことだったのだろう。
けれど、当事者である私――エリス・ローレンツの胸の内には、不思議なほどの安堵しかなかった。
王太子殿下であるレオンハルト様に、婚約を破棄される。
婚約者として彼に尽くした八年間の努力は、彼のたった一言で終わった。
だが、私の唇からこぼれたのは悲鳴でも涙でもなく――。
文字数 12,120
最終更新日 2025.08.26
登録日 2025.08.26
――カツン、カツン、と石畳を踏みしめる音が、冷え切った夜の路地に響く。
灯りの消えた屋敷を背に、私はただ前だけを見て歩いていた。
今日、私――リディア・ハルフォードは婚約破棄された。
相手は王太子殿下、エドワード。
理由は、妹のローラが「私がリディアにいじめられている」と涙ながらに訴えたから。
文字数 12,200
最終更新日 2025.08.13
登録日 2025.08.13