“地味”と見下された私が人気者になった途端、態度変わりすぎじゃない?

ほーみ

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 京介の手が、私の頬に触れる寸前で止まっている。
 強引なのに、ちゃんと“触れていいか”を伺うような距離で。

「……なんで蒼真の方ばっか見てんだよ」

 低く落ちた声に、胸が跳ねた。

「見てない……」

「嘘つくなよ。さっきからそっちばっか気にしてる」

 京介の視線がスマホに落ちる。
 画面には、蒼真の心配そうなメッセージ。

『大丈夫? 返事ほしい』

 京介の眉が更に深く寄った。

「……マジで、あいつ何なんだよ」

「心配してくれてるだけだよ。今日いろいろあったし……」

「“心配”ねぇ。あれは心配じゃなくて――」

 京介が私をまっすぐ見つめる。

「——俺からお前、奪いにきてんだよ」

 息が止まった。

 奪う?
 京介の口からそんな言葉が出るとは思ってなかった。

「蒼真は……そんなつもりじゃ――」

「お前、気づいてねぇだけだろ。あいつ、本気だよ」

 京介の言葉は強いのに、どこか荒く、焦っている。

「麗奈。俺……昔からお前のこと気にしてた。
けど言えなかった。タイミング逃して……
そしたら急に、お前が人気になってさ」

 京介の瞳が少しだけ揺れる。

「他のやつらがお前に群がってくるの見て……
正直、嫉妬で頭おかしくなるかと思った」

 そんな……
 京介が私に嫉妬なんてするわけないって思ってた。

「“地味”とか言ってたの……京介もだよ」

「あれは……自分に言い聞かせたかっただけだよ。
気になってるって認めたら、止まんねぇから」

 京介が自嘲気味に笑う。
 その横顔が、少し寂しそうで、胸が締めつけられた。

「でも、もう止めねぇ。
お前のこと……ちゃんと欲しいって思ってる」

 その言葉に、足がすくんだ。

「だから逃げんなよ」

 京介が一歩、また一歩近づいてくる。
 壁に背中が触れて、逃げ場がなくなった。

「な、何を……」

「決まってんだろ。お前の気持ち、聞かせろって」

 京介の顔が近づく。
 息が触れそうで、目をそらせない。

 ——その瞬間。

 スマホが震いた。

 また蒼真だった。

『心配すぎて家の近くまで行こうか?』

(来ちゃう……!)

 蒼真が来たら、絶対に修羅場になる。
 そう確信できるほど、京介の目は今、獣みたいに荒れていた。

「……出ろよ」

「え?」

「蒼真からの連絡。出て、“大丈夫”って言えよ」

 京介は言葉こそ荒いけど、その声は震えていた。

「俺の前で……あいつの名前呼んで。
それでも俺、まだお前を欲しいって思えるのか確かめたい」

 そんなの……無理だ。
 胸が痛くて、息が苦しい。

「京介……」

「はっきりさせろよ。
俺に揺れてんのか、あいつに揺れてんのか」

 その言葉を聞いた瞬間、心臓が跳ねた。

 “揺れてる”
 その通りだった。

 どっちかを選べるほど、私は強くない。

「……どっちにも揺れてるよ」

 絞り出した声に、京介の目がわずかに見開かれる。

「……は?」

「京介にも……蒼真にも。
どっちに傾いてるか、自分でもわからないの」

 沈黙が落ちた。

 数秒。
 でも永遠に感じるほど重たい沈黙。

「……マジかよ」

 京介は頭を軽く乱暴にかきむしった。

「最悪だ……俺、こんな気持ちになるの初めてなんだよ」

 京介が私の手をそっと掴む。
 さっきよりもずっと優しい力で。

「でも、嫌いにはなんねぇよ」

 その小さな声が、胸を打つ。

「麗奈が迷ってるなら、迷ってる間……俺が奪いにいく」

 京介が一歩近く寄る。

「蒼真にも……誰にも渡さねぇ」

 強い言葉なのに、その必死さが心を揺らす。

「でも、今すぐ決めろとは言わねぇよ。
決めさせるのは……俺の役目だろ」

 京介が手を離し、ふっと息をついた。

「……とにかく今日は帰れよ。もう遅い」

「あ、うん……」

 玄関を閉めようとした瞬間。

「麗奈」

「え?」

 京介が細めた目で、どこか意地悪く笑った。

「キス、したいって思った」

 心臓が飛び跳ねる。

「でも今日は我慢した。
……次は、しないかもな」

 言い残し、京介は背を向けて歩き出す。

 ――ドアを閉めた途端、全身の力が抜けた。

(……無理。落ち着けない)

 胸がドクドクして、呼吸が乱れる。

 スマホを見れば、蒼真からのメッセージがまだ続いていた。

『返事なくて心配。
 何かあった?』

『麗奈』

『声、聞かせて』

 蒼真は優しい。
 でもその優しさが、今は少し痛い。

(どれが本当の気持ちなんだろう……)

 布団に倒れ込み、スマホを胸に抱えながら考え続けた。

      

 翌朝、学校に行くと空気がざわついていた。
 廊下で私を見ると、みんなひそひそと話している。

「なに……?」

 不安になっていると、友達の美羽が駆け寄ってきた。

「麗奈! 聞いた!? なんか……すごいことになってるよ!」

「え? な、なにが?」

「蒼真と京介が……朝から、二人とも怒ってて……
“大事な話がある”って職員室に呼ばれて――」

「えっ、ちょっと待って!? 二人が!?」

「しかも……これ見て」

 美羽がスマホを見せてきた。
 SNSのタイムラインには、こんな噂が流れていた。

『蒼真と京介が同じ女の子を取り合ってるらしい』

『人気の二人が本気でケンカしてるってやば』

『その子って誰!?』

 心臓が冷たい水に沈んだように重くなる。

「もしかして……私の……せい?」

 美羽が真剣な顔で言った。

「麗奈。……あんた、二人と何かあったんでしょ」

 逃げられない。
 本当に……逃げられないところまで来てしまった。

 その時、廊下の向こうから強い視線を感じた。

 京介だった。
 目が合った瞬間、京介はまっすぐこちらに歩いてくる。

「麗奈。……ちょっと来い」

 手を掴まれる。

 同時に反対側から声が飛ぶ。

「麗奈! 俺の方が先だろ」

 蒼真だった。
 珍しく、はっきりした怒りの顔をしている。

 京介が睨む。

「は? お前こそ下がれ」

「いやだね。麗奈は俺と話す」

「ざけんな、離せよ!」

 二人の手が同時に私の腕を引いた。

「ちょ、ちょっと……!」

 周りの視線が集中する。

 ざわ……ざわ……

 その中で、二人は私から目を離さず、

「麗奈は俺を選ぶ」
「いや、選ばせるのは俺だ」

 ぶつかり合う。

 胸の奥で何かが震えた。

(どうすればいいの……?)

 選べない。
 でも、このままじゃ二人が壊れる。

 私が何かを言おうと口を開いた瞬間——

「——麗奈」

 廊下の奥から、もう一人の影が現れた。

 クラスメイトでもない。
 でも強い存在感を放っている。

 その人物がゆっくり歩いてきて、私の前に立った。

「二人とも。……彼女、困ってるよ」

 穏やかだけど、誰よりも通る声。

「まずは落ち着こうか?」

 蒼真と京介が一瞬だけ動きを止めた。

 私は呆然としながら、目の前の人物を見つめた。

「……なんで、あなたが……?」

 なぜなら、その人物は——

私の“初恋の人”だったから。
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