“地味”と見下された私が人気者になった途端、態度変わりすぎじゃない?

ほーみ

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 胸の奥で、ドクンと跳ねた。
 京介が私の手首を掴んだまま、熱のこもった目で見下ろしている。彼の手は大きくて、いつもよりずっと強い。逃がさないと言わんばかりに。

「麗奈。答え、まだ聞いてない」

 吐息が触れそうな距離——そこで、横からスッと差し込む影があった。

「……その手、離してもらえる?」

 蒼真だった。声は静かだけど、いつもの余裕が消えている。

「……なんでお前がここにいるんだよ」
「おかしい? 俺、麗奈の“彼氏役”なんだけど」

 蒼真がわざとその肩書を強調すると、京介の眉がピクリと動いた。

 空気が一瞬で張り詰めた。

「彼氏“役”だろ。ただの練習」
「でも麗奈は、俺が隣にいるのが嫌じゃないんだよ?」

 蒼真が私の肩に手を添える。自然すぎる動作に、京介の表情が一気に険しくなる。

 これ……やばい。
 蒼真は本気で牽制してる。京介も一歩も引くつもりがない。

「麗奈、帰ろうか。約束、してたよね」

 蒼真が言った。
 たしかに、「練習の続きは今日またやろう」って言われてた。

 京介が低く息を吐く。

「……マジで邪魔すんなよ」
「邪魔してるのはそっちでしょ。麗奈、困ってる」

 その瞬間、京介の手が私の手首からスッと離れた。
 だけど目は私を離さない。

「麗奈。ちゃんと話したい。後で……絶対に」

 その目に宿った感情に、背筋が震えた。

      

 蒼真と並んで歩きながら、私はさっきの鼓動がまだおさまらなかった。
 蒼真は無言で、でも歩幅を合わせてくれている。

「あの……助けてくれてありがとう」

 言うと、蒼真は横目で私を見る。

「……本気で困ってるように見えたから」

「うん、ちょっとびっくりして……」

「びっくり、だけ? 怖くはなかった?」

 その問いに、言葉が詰まった。

 京介は怖くない。
 むしろ——胸が締めつけられた。

「怖いとかじゃなくて……ただ、気持ちが追いつかないだけ」

 私がそう言うと、蒼真はふっと笑った。

「そっか。……でも」

 そこで蒼真が立ち止まり、真正面から私を見た。

「今日だけは、俺のことだけ考えて」

「え?」

 蒼真の指先が、そっと私の頬に触れた。

「“彼氏のフリ”なんて言ってるけど……俺、結構本気だから」

 息が止まる。

「麗奈が京介に揺れてるの、わかってても、それでも」

 蒼真の声が低く落ちる。

「俺は……麗奈の隣にいたい」

 目が熱くなった。
 そんなふうに言われるなんて思ってなかった。

「……嬉しいよ。でも……」

「返事は急がなくていいよ。時間かけて選んで」

 優しく微笑む蒼真に、胸が痛む。
 優しすぎて、苦しい。

「じゃ、練習行こ」

 蒼真が軽く私の頭を撫でて歩き出す。
 私はその背中を追いながら、心臓の音を抑えられずにいた。

      

 その日の練習は、正直ほとんど身にならなかった。
 蒼真が近づくたびに、告白めいた言葉が頭をよぎって息が乱れる。

「麗奈、集中して?」

「してるってば……!」

 悔しいけど、こんな私を見て蒼真は優しく笑う。

「可愛い」

 突然言われて固まった。

「か、可愛くなんて――」

「照れるとこ、可愛い」

 追い打ちに頬が熱くなる。
 こんなの、反則だよ。

「ほら、手。貸して」

 蒼真が差し出した手に触れた途端、じんわりと温かくて心がまた揺れた。

      

 練習のあと、帰り道で蒼真が言った。

「明日も時間ある? もうちょっと、距離感つめたい」

 ——距離感。

 その言葉に胸がドキッとする。

「う、うん。あるよ……」

「じゃ、決まり。……送るよ?」

「大丈夫だよ、家近いし」

「でも心配。今日みたいなこと、またあるかもだし」

 蒼真が穏やかな表情のまま、言葉だけは鋭かった。
 京介の名前は出さなかったけど、わかる。

「ほんとに大丈夫。ありがとう」

 そう言うと、蒼真は少し寂しそうに笑った。

「無理はしないでね。怖かったら、すぐ俺を呼んで」

「うん。ありがとう」

 バイバイして家に着いたときだった。

 ポケットのスマホが震える。

 画面に表示された名前に、心臓が跳ねた。

——京介

 胸がざわざわする。
 開くか迷ってるうちに、またメッセージが届いた。

『さっきの続き、話したい。今、家の前いる』

「……えっ?」

 思わず玄関の覗き窓から外を見る。

 街灯の下で、京介が立っていた。

 いつもの軽い雰囲気じゃなく、真剣な眼差し。
 その姿を見た瞬間、心臓が跳ねた。

(来ちゃったんだ……)

 私が戸惑っていると、もう一度スマホが震く。

『逃げられると思うなよ』

 言葉は強いのに、どこか必死で震えているのが伝わる。
 胸が痛い。

 ドアに手をかけた瞬間——
 蒼真の言葉がよぎった。

『怖かったら、すぐ俺を呼んで』

 でも、私は本当に——京介が怖い?

 違う。
 怖くなんてない。

 ただ、心が揺れる。

 ゆっくり玄関を開けると、京介が顔を上げた。

「……やっと出てきた」

「京介……どうしたの?」

「言ったろ。話があるって」

 京介は一歩、私に近づく。
 その距離に、息が詰まる。

「麗奈——お前の気持ち、ちゃんと聞かせろよ」

 その目は真剣で、苦しそうで、どこか必死だった。

 胸が熱くなっていく。

「俺……お前に何言われても、もう離れねぇから」

 京介が手を伸ばしかけた、次の瞬間。

 背後で、スマホがまた震いた。

 ——蒼真から。

『家ついた?大丈夫?既読つかないから心配』

 私は京介とスマホを交互に見た。

 二人の視線と想いが、胸の奥で激しくぶつかり合う。

(どっちに……揺れてるの? 私……)

 答えはまだ出ない。
 でも、逃げられない。

 京介が低く囁く。

「麗奈……俺を見ろ」

 心が掴まれる。

 蒼真の優しさと、京介の激しさが、私を挟んだまま離さない。

 ——この気持ちの行き場は、まだ見つからない。
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