“地味”と見下された私が人気者になった途端、態度変わりすぎじゃない?

ほーみ

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 中庭には、三人分の視線が絡み合っていた。

 湊は言葉の続きを飲み込み、拳を握りしめて俯く。
 一方、篝先輩は柔らかい笑みを浮かべているのに、その瞳だけが鋭く光っていた。

 私は、どちらの目も直視できない。

 胸が苦しい。
 この状況の意味を理解しようとすると、息が詰まる。

「桜」

 先に口を開いたのは篝先輩だった。

「湊くんが言おうとしてたこと。気になる?」

「えっ……」

 思わず息を呑む。
 湊が顔を上げ、険しい目をした。

「……邪魔すんなよ」

「邪魔なんてしてないよ。桜の気持ちを聞いてるだけ」

 淡々とした口調なのに、どこか挑発的。
 篝先輩の余裕に、湊はさらに表情を歪めた。

「桜。俺の話……聞きたいだろ」

「桜。無理する必要はないよ」

 二人から同時に名前を呼ばれ、頭が混乱する。

(どうすれば……?)

 すると篝先輩が一歩前に出て、私の側に立った。

「桜には、選ぶ権利がある」

 その言い方が優しいけれど、どこか含みを持っている。
 湊にはっきり聞かせるための言葉。

「湊くん。今までの接し方、覚えてるよね?」

「……!」

「桜を“地味だから”って理由で雑に扱ってきたの、俺は見てた」

「ちが……!」

「違わないよ」

 湊の反論は柔らかく切り捨てられた。
 その瞬間、湊の目が痛々しいほど揺れる。

「桜はね、そんなふうに扱われるような子じゃない」

(……篝先輩)

 胸がきゅっとなる。

「ずっと前から、桜の良さに気付いてたやつなんか、学校中探しても俺くらいだよ」

 湊の顔がはっきりと歪む。

「……は?」

「お前は、桜が注目されてから急に焦っただけ」

「……っ!」

 湊の唇が震える。
 反論したいのに、言葉が出てこない。

(……そうだ。湊は私が変わったんじゃなくて、周りが注目し始めてから態度を変えただけ)

 自分でも薄々わかっていた。
 だけど、それでも――心のどこかで、昔の優しさを期待していた。

 そんな甘い期待が、今少しずつ崩れていく。

「湊くん。桜が誰と話してるかでイライラしてたって言ってたよね」

「……それは……」

「それ、嫉妬じゃなくて……ただの“所有欲”だよ」

「……っ……!」

 湊は口を開く。
 けれど、何も言えなかった。

「桜を大事にしたいって言ってる俺とは違う」

 静かに言い切った篝先輩の声には、強い意志が込められていた。

 私は言葉も出ないまま、その横顔を見つめた。



 沈黙が続く中、風が吹いて髪が揺れた。

 篝先輩が私の方へ向き直り、優しく微笑む。

「桜。今日は教室戻ろう。顔色悪いよ」

「あ、はい……」

 言われて初めて、自分が緊張で呼吸を浅くしていたことに気付く。

 篝先輩は自然な動作で私の荷物を持ち、手を差し出してくる。
 その仕草が優しすぎて、また胸が熱くなる。

「っ……桜!」

 湊が私を呼び止める。
 その声は、今までにないほど切迫していた。

「話……終わってねぇから!」

 声が震えている。
 それが本気だという証拠。

 だけど――。

「ごめん、湊。今日は無理」

「……なんで……」

「私が今、聞きたいのは……湊の話じゃないから」

 絞り出すように言うと、湊は目を大きく見開いた。
 その表情に胸が痛んだけれど、踏み出さなきゃいけない。

(私は、もう“地味な桜”じゃない)

 そう自分に言い聞かせる。

 篝先輩のほうへ歩くと、湊の視線が背中に突き刺さった。
 でも、その痛みよりも――。

 隣で静かに歩く篝先輩の存在の方が、ずっと強かった。



「桜……無理してない?」

「え?」

「湊くんに強く言ったの、初めてだから」

 図星だった。

「……怖かった、というより……」

「というより?」

「悲しかったのかもしれません」

「悲しい?」

 篝先輩が足を止め、私を覗き込む。
 優しい瞳に、胸が揺れる。

「ずっと一緒だったから。幼馴染だから。変わってほしくなかったんです」

 言葉にして初めて、気付いた。

(そうだ。私は……湊が変わってしまったことに、ずっと寂しさを感じてた)

 でも、それは“恋”ではなかった。

 わかってしまったのだ。

「でも、湊の変わり方は……私を大事にしない方向だった」

 つぶやく私の頭を、篝先輩がそっと撫でた。

「桜はね。誰かに大事にされていい子だよ」

「か……篝先輩……」

「俺は、桜をちゃんと大事にしたい」

 その言葉の重さに、胸が熱く締めつけられる。



 午後の授業が終わる頃。

 廊下で、女子たちがひそひそ話しているのが聞こえた。

「桜ちゃんと篝先輩、今日めっちゃ一緒にいたね……」
「やっぱりあの二人、そういう関係なのかな?」
「え~! でも湊くんも桜ちゃんのこと見てたよ?」

 噂が広がるのは早い。

 私は教室に入る前に小さく息をついた。

(……大丈夫。私は悪いことなんてしてない)

 そう思った矢先、視界の端で湊がこちらを睨むのが見えた。

 でも、その目は敵意だけじゃない。
 焦り、不安、後悔、嫉妬……いろんな感情が混じっていた。

(湊……)

 胸の奥がざわつくが、私は目をそらす。

 彼が変わらない限り、私も戻らない。



 翌日の昼休み。

 私は美術室に向かっていた。
 篝先輩に渡すものがあったからだ。

 扉を開けると――。

「桜」

 篝先輩が、少し沈んだような目でこちらを見る。

「どうしたんですか?」

「……湊くん、今日学校来てないらしい」

「え……?」

「先生から聞いた」

 胸がざわっとした。

(……私のせい、なの?)

 でも、そのあと篝先輩は言った。

「桜が気にすることじゃないよ」

「でも……」

「湊くんは、自分の態度と向き合う時間が必要なんだと思う」

 そう言い切る声は、優しいのにどこか冷静だった。

 私は返事ができずに立ちすくむ。

 そのとき――篝先輩が急に私の手を取った。

「桜。今日の放課後さ……」

「?」

「少しだけ、二人きりで話したい」

 心臓が跳ねる。

「大事な話だから」

 篝先輩の目は真剣だった。

 その瞳に透明な想いが宿っているのがわかって、息が詰まる。

(……私、どうしたらいいの?)

 心の中に答えが生まれかけた、その瞬間。

 ――ガラッ。

 美術室のドアの外から誰かが走り去る音がした。

 篝先輩が素早く振り返る。

「……今の、誰?」

 嫌な予感がした。

(まさか……)

 胸が強く締めつけられる。
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