婚約破棄されたので隣国の冷酷公爵に拾われたら、なぜか溺愛されてます

ほーみ

文字の大きさ
4 / 7

4

しおりを挟む
 ――あの夜、彼の腕の中で眠ってから、私はずっとおかしい。
 心臓が四六時中忙しなく動いて、顔が熱くなる。彼の指先や低い声を思い出すだけで、胸の奥がじんわり甘く疼く。

 翌朝。
 目を覚ますと、そこには彼がいた。
 まだ眠そうな瞳で、けれど私の顔を見てふっと笑う。

「おはよう。……よく眠れた?」
「……っ、はい。あの、その……」
 思わず視線を逸らす。
 彼の髪は寝癖で少しだけ跳ねているのに、それすら絵になるのがずるい。
 そして――何より、距離が近い。顔を上げたら触れてしまいそうなほどの距離感で、まるで逃がす気がないみたいに私の肩を抱いていた。

「ん? 照れてる?」
「……っ、べつに……」
 否定したつもりが、声が上ずってしまった。
 その反応が面白いのか、彼は唇の端を上げてさらに近づいてくる。

「そういうところ、ほんと可愛い」
「~~~っ!」
 耳元で囁かれて、背中に電流が走る。心臓が痛いほど跳ねて、呼吸が浅くなる。

「今日は一日、君と一緒にいたい。ダメ?」
「……ダメ、じゃないです」
「よかった」
 ほっと息をついた彼の表情が、なんだか反則的に優しい。
 この人は、私の中の理性を簡単に崩してしまう。

 

 午前中は、彼の提案で街へ出かけた。
 手を繋ぐのは当たり前。信号待ちでも、少し人混みでも、彼は自然に私を自分の方へ引き寄せてくれる。
 すれ違う女性たちの視線が彼に集まるのが分かって、胸の奥がちくりとした。

「……モテますね」
「ん? 君の前でそんなこと言われても嬉しくないな」
「事実です」
「でも、俺が見てるのは君だけ」
 さらりと言われて、足が止まりそうになる。
 どうしてこんな言葉を恥ずかしげもなく口にできるんだろう。

 カフェで休憩しているとき、ふと彼の指が私の手の甲をなぞった。
「……落ち着くんだよな。こうして触れてると」
「……」
 心臓が、甘く溶けてしまいそうだった。

 

 夕方、帰り道。
 彼の部屋に寄ることになった。
 ――もちろん、ただの口実だと分かっている。
 私も、断る理由が見つからなかった。

 玄関を入った瞬間、背中から抱きしめられる。
「今日一日、我慢してたの分かる?」
 低く掠れた声に、全身が熱を帯びる。
「……わ、分かりません」
「じゃあ、分からせてあげる」
 そう言って、頬に落とされるキスは軽くて、でも底に熱があった。
 何度も、何度も。
 私が息を整える暇もなく、彼は唇を離さない。

 ソファに腰を下ろした途端、彼が膝の上に私を抱き上げた。
「……あの、こういうの……」
「嫌?」
「……嫌じゃないです」
「よかった」
 その瞬間、彼の腕が強くなり、唇がまた重なった。
 キスは最初よりも深く、甘く、心まで蕩けさせる。
 彼の指が髪を梳き、背中をなぞるたびに、体の奥が熱くなる。

「君は、俺のものでしょ」
 囁かれて、頷くしかできなかった。
 頷いた途端、彼はまた笑って、額に口づけを落とす。
「……ずっと、離さない」

 その言葉が、甘く、少しだけ怖くて――でも、嬉しくてたまらなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「醜い」と婚約破棄された令嬢、実は変身の魔法で美貌を隠していただけでした。今さら後悔しても遅いですわ!

ゆっこ
恋愛
王都の大広間には、華やかな音楽と人々のざわめきが溢れていた。 社交界の中心ともいえる舞踏会。煌びやかなシャンデリアの下、若き令息や令嬢たちが談笑し、舞い踊り、誰もが夢のようなひとときを楽しんでいる。 けれど――その場の視線は、一人の令嬢へと集まっていた。 「リリアーナ・フォン・エルバート。お前との婚約を破棄する!」 鋭く響いたのは、婚約者である第一王子アルベルト殿下の声だった。 人々はざわめき、音楽が止まる。 「え……」

地味令嬢なのに、なぜかイケメン達から愛されすぎて困る

ほーみ
恋愛
「エリス、お前は今日も目立たないな」  そう言って、隣で豪快に笑うのは幼馴染のヴィクトルだ。金色の髪を無造作にかきあげ、王族のような気品を持ちながらも、どこか庶民的な雰囲気を漂わせている。彼は公爵家の嫡男で、女性たちの憧れの的だ。  そんな彼が、なぜか私の隣に座っているのは……正直、謎である。 「ありがとう、ヴィクトル。今日も地味で頑張るわ」 「褒めてねえよ!」  彼の言葉を皮肉と捉えず、素直に受け取って返事をすると、ヴィクトルは頭を抱えた。

『役立たず』と追放された私、今では英雄様に守られています

ほーみ
恋愛
 辺境伯の三女として生まれた私は、リリィ=エルフォード。  魔力もなく、剣も振れず、社交界の花にもなれない私は、いつしか「家の恥」と呼ばれるようになっていた。 「リリィ、今日からお前は我が家の娘ではない」  父の冷たい声が耳にこびりつく。  その日、私は何の前触れもなく、家から追放された。  理由は、簡単だ。「婚約者にふさわしくない」と判断されたから。  公爵家の三男との縁談が進んでいたが、私の“無能さ”が噂となり、先方が断ってきたのだ。

「無能」と切り捨てられた令嬢、覚醒したら皆が土下座してきました

ゆっこ
恋愛
 「リリアーヌ。君には……もう、婚約者としての役目はない」  静まり返った大広間に、元婚約者である王太子アランの冷たい声だけが響く。  私はただ、淡々とその言葉を受け止めていた。  驚き? 悲しみ?  ……そんなもの、とっくの昔に捨てた。  なぜなら、この人は——私をずっと“無能”と笑ってきた男だからだ。

婚約破棄されたら、最強魔導師が『ようやく俺のものになるな』と笑いました

ほーみ
恋愛
社交界の華ともてはやされていた私、リリアーナ・エヴァンジェリンは、今まさに婚約者である第三王子――レオナード・フォン・ルーベンス殿下から婚約破棄を告げられていた。 「リリアーナ、お前との婚約は今日をもって解消する」  宮廷の大広間に響き渡る冷ややかな声。そこには、何の迷いもない。 「理由をお聞かせ願えますか?」  私は努めて冷静に問いかけた。周囲には既に噂好きな貴族たちが集まり、興味津々といった様子で私たちを見つめている。

「無能」と婚約破棄されたら、冷酷公爵様に見初められました

ほーみ
恋愛
 「――よって、この婚約は破棄とする!」  広間に響き渡った王太子アルベルト殿下の宣告に、会場はどよめいた。  舞踏会の最中に、衆目の前での断罪劇。まるで物語に出てくる悪役令嬢さながらに、わたくしは晒し者にされていた。  「エレナ・グランチェスター。お前は魔力を持たぬ無能。王妃教育を施しても無駄だった。王太子妃の座は相応しい者に譲るべきだ!」  殿下の傍らには、媚びるように腕を絡ませる侯爵令嬢ミレーユの姿。彼女は柔らかに微笑みながら、勝ち誇ったように私を見下ろしていた。  ――無能。

「誰もお前なんか愛さない」と笑われたけど、隣国の王が即プロポーズしてきました

ゆっこ
恋愛
「アンナ・リヴィエール、貴様との婚約は、今日をもって破棄する!」  王城の大広間に響いた声を、私は冷静に見つめていた。  誰よりも愛していた婚約者、レオンハルト王太子が、冷たい笑みを浮かべて私を断罪する。 「お前は地味で、つまらなくて、礼儀ばかりの女だ。華もない。……誰もお前なんか愛さないさ」  笑い声が響く。  取り巻きの令嬢たちが、まるで待っていたかのように口元を隠して嘲笑した。  胸が痛んだ。  けれど涙は出なかった。もう、心が乾いていたからだ。

無能だと追放された錬金術師ですが、辺境でゴミ素材から「万能ポーション」を精製したら、最強の辺境伯に溺愛され、いつの間にか世界を救っていました

メルファン
恋愛
「攻撃魔法も作れない欠陥品」「役立たずの香り屋」 侯爵令嬢リーシェの錬金術は、なぜか「ポーション」や「魔法具」ではなく、「ただの石鹸」や「美味しい調味料」にしかなりませんでした。才能ある妹が「聖女」として覚醒したことで、役立たずのレッテルを貼られたリーシェは、家を追放されてしまいます。 行きついた先は、魔物が多く住み着き、誰も近づかない北の辺境伯領。 リーシェは静かにスローライフを送ろうと、持参したわずかな道具で薬草を採取し、日々の糧を得ようとします。しかし、彼女の「無能な錬金術」は、この辺境の地でこそ真価を発揮し始めたのです。 辺境のゴミ素材から、領民を悩ませていた疫病の特効薬を精製! 普通の雑草から、兵士たちの疲労を瞬時に回復させる「万能ポーション」を大量生産! 魔物の残骸から、辺境伯の呪いを解くための「鍵」となる物質を発見! リーシェが精製する日用品や調味料は、辺境の暮らしを豊かにし、貧しい領民たちに笑顔を取り戻させました。いつの間にか、彼女の錬金術に心酔した領民や、可愛らしい魔獣たちが集まり始めます。 そして、彼女の才能に気づいたのは、この地を治める「孤高の美男辺境伯」ディーンでした。 彼は、かつて公爵の地位と引き換えに呪いを受けた不遇な英雄。リーシェの錬金術が、その呪いを解く唯一の鍵だと知るや否や、彼女を熱烈に保護し、やがて溺愛し始めます。 「君の錬金術は、この世界で最も尊い。君こそが、私にとっての『生命線』だ」 一方、リーシェを追放した王都は、優秀な錬金術師を失ったことで、ポーション不足と疫病で徐々に衰退。助けを求めて使者が辺境伯領にやってきますが、時すでに遅し。 「我が妻は、あなた方の命を救うためだけに錬金術を施すほど暇ではない」 これは、追放された錬金術師が、自らの知識とスキルで辺境を豊かにし、愛する人と家族を築き、最終的に世界を救う、スローライフ×成り上がり×溺愛の長編物語。

処理中です...