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「……もう、離さない。今夜は、ずっと俺のそばにいろ。」
低く落とされた声が、胸の奥まで甘く響いた。リオネル殿下の腕が私を抱きしめたまま、指先が髪をゆっくりと撫でる。
この距離、この熱……息をするのも惜しいくらいに、彼の気配が近い。
「でも……殿下、明日はお仕事が——」
「仕事より、君だ。」
あまりにも即答で、言葉を失った。彼の真紅の瞳が私をまっすぐに見つめ、微かに笑みを浮かべる。
からかいの色はなく、本気だと分かる笑み。だからこそ、胸がぎゅうっと締めつけられた。
リオネル殿下は、私の頬に唇を寄せ、軽く触れるだけのキスを落とす。
その優しさに油断していたら、すぐに唇が重なった。今度は深く。逃げ場を失うほどに、強く。
「……ん……」
肩を抱かれたまま、自然と彼の胸に身を委ねてしまう。心臓の鼓動が、耳の奥まで響いてくる。
殿下は名残惜しそうに唇を離すと、私の額にもう一度口づけた。
「君は、俺に愛されていることを、もっと自覚してくれ。」
「……自覚、してます……」
「足りない。俺がいないときも、俺のことを考えていてほしい。」
わがままだけど、嬉しい。胸の奥で、甘い幸福感がじんわり広がっていく。
夜は、静かに更けていった。
翌朝——窓の外がほんのり明るくなったころ、私は彼の腕の中で目を覚ました。
視線を動かすと、殿下はすでに目を開けていて、穏やかな笑みでこちらを見つめている。
「おはよう、俺の姫。」
「……おはようございます。」
寝起きで呼ばれるその呼び名が恥ずかしくて、布団を引き寄せて顔を半分隠す。
しかし殿下は、その布団ごと私を抱き寄せ、耳元に唇を近づけた。
「今日の予定を変えた。午前中は君と過ごす。」
「えっ……お仕事は?」
「部下に任せる。昨日は少し寂しそうだったからな。」
そんなこと、顔に出していたのだろうか。
少し気恥ずかしくなって視線を逸らすと、殿下は微笑みながら私の髪を指に絡めた。
朝食は、殿下の私室で二人きり。
豪華な銀食器と温かいスープ、焼きたてのパンの香りが漂う。
けれど料理よりも、彼の視線の方が気になって仕方がない。
「……そんなに見られると、食べにくいです。」
「君が可愛いから仕方ない。」
平然とした顔でそんなことを言われて、スープの匙が止まってしまう。
殿下は私の手からスプーンを取り、優雅な仕草でスープをすくい——口元へと差し出してきた。
「……あーん。」
「殿下……っ、子ども扱いしないでください。」
「違う。俺が君にしたいだけだ。」
押し切られる形で口を開けると、彼は満足そうに微笑んだ。
甘やかされている自覚はある。それでも、心のどこかで求めてしまっている自分がいる。
食後、テラスに出ると、花々が朝日に照らされてきらきらと輝いていた。
殿下は私の背後から腕を回し、肩口に頬を寄せる。
「……このまま時間が止まればいい。」
「そんなこと言って……殿下は忙しい方なのに。」
「忙しいほど、君と過ごす時間の価値が増すんだ。」
その囁きに、胸が高鳴る。
リオネル殿下は、ゆっくりと私を振り向かせ、瞳を細めた。
「午後には、少し城を出よう。君のために見せたい場所がある。」
「見せたい場所……?」
「そう。俺だけが知っている、誰にも邪魔されない場所だ。」
その予告だけで、胸の奥がくすぐったくなる。
彼と一緒に行く場所なら、どこだって特別な思い出になるに違いない。
昼過ぎ。
馬車に揺られながら、殿下は私の手をずっと握って離さなかった。
行き先を尋ねても、「着いてからのお楽しみだ」としか言わない。
やがて馬車は森の奥にある小道へ入り、静かな湖のほとりで止まった。
澄んだ水面が鏡のように空を映し、風に揺れる木々の音だけが響く。
「……綺麗……」
「君に見せたかった。」
殿下は私の背後に立ち、肩越しに湖を見つめる。
その瞳には、湖面よりもずっと深い情熱が宿っていた。
「ここは、幼いころから誰にも教えていない。……唯一、君だけに見せる。」
「……そんな、大事な場所を……」
「君だからだ。」
私の指に、彼の唇が触れる。
その瞬間、心臓が跳ねる音が自分でも分かるほどだった。
湖のほとりでしばらく過ごしたあと、殿下は私を木陰に誘った。
そこで再び抱きしめられ、耳元に熱い吐息がかかる。
「……こうしていると、帰りたくなくなるな。」
「私も……です。」
殿下は少しだけ口元を緩め、唇を寄せてきた。
湖の静寂の中、二人だけの世界に沈んでいくような感覚——。
甘くて、息苦しいほどの溺愛。
そしてその熱は、まだ終わる気配を見せなかった。
低く落とされた声が、胸の奥まで甘く響いた。リオネル殿下の腕が私を抱きしめたまま、指先が髪をゆっくりと撫でる。
この距離、この熱……息をするのも惜しいくらいに、彼の気配が近い。
「でも……殿下、明日はお仕事が——」
「仕事より、君だ。」
あまりにも即答で、言葉を失った。彼の真紅の瞳が私をまっすぐに見つめ、微かに笑みを浮かべる。
からかいの色はなく、本気だと分かる笑み。だからこそ、胸がぎゅうっと締めつけられた。
リオネル殿下は、私の頬に唇を寄せ、軽く触れるだけのキスを落とす。
その優しさに油断していたら、すぐに唇が重なった。今度は深く。逃げ場を失うほどに、強く。
「……ん……」
肩を抱かれたまま、自然と彼の胸に身を委ねてしまう。心臓の鼓動が、耳の奥まで響いてくる。
殿下は名残惜しそうに唇を離すと、私の額にもう一度口づけた。
「君は、俺に愛されていることを、もっと自覚してくれ。」
「……自覚、してます……」
「足りない。俺がいないときも、俺のことを考えていてほしい。」
わがままだけど、嬉しい。胸の奥で、甘い幸福感がじんわり広がっていく。
夜は、静かに更けていった。
翌朝——窓の外がほんのり明るくなったころ、私は彼の腕の中で目を覚ました。
視線を動かすと、殿下はすでに目を開けていて、穏やかな笑みでこちらを見つめている。
「おはよう、俺の姫。」
「……おはようございます。」
寝起きで呼ばれるその呼び名が恥ずかしくて、布団を引き寄せて顔を半分隠す。
しかし殿下は、その布団ごと私を抱き寄せ、耳元に唇を近づけた。
「今日の予定を変えた。午前中は君と過ごす。」
「えっ……お仕事は?」
「部下に任せる。昨日は少し寂しそうだったからな。」
そんなこと、顔に出していたのだろうか。
少し気恥ずかしくなって視線を逸らすと、殿下は微笑みながら私の髪を指に絡めた。
朝食は、殿下の私室で二人きり。
豪華な銀食器と温かいスープ、焼きたてのパンの香りが漂う。
けれど料理よりも、彼の視線の方が気になって仕方がない。
「……そんなに見られると、食べにくいです。」
「君が可愛いから仕方ない。」
平然とした顔でそんなことを言われて、スープの匙が止まってしまう。
殿下は私の手からスプーンを取り、優雅な仕草でスープをすくい——口元へと差し出してきた。
「……あーん。」
「殿下……っ、子ども扱いしないでください。」
「違う。俺が君にしたいだけだ。」
押し切られる形で口を開けると、彼は満足そうに微笑んだ。
甘やかされている自覚はある。それでも、心のどこかで求めてしまっている自分がいる。
食後、テラスに出ると、花々が朝日に照らされてきらきらと輝いていた。
殿下は私の背後から腕を回し、肩口に頬を寄せる。
「……このまま時間が止まればいい。」
「そんなこと言って……殿下は忙しい方なのに。」
「忙しいほど、君と過ごす時間の価値が増すんだ。」
その囁きに、胸が高鳴る。
リオネル殿下は、ゆっくりと私を振り向かせ、瞳を細めた。
「午後には、少し城を出よう。君のために見せたい場所がある。」
「見せたい場所……?」
「そう。俺だけが知っている、誰にも邪魔されない場所だ。」
その予告だけで、胸の奥がくすぐったくなる。
彼と一緒に行く場所なら、どこだって特別な思い出になるに違いない。
昼過ぎ。
馬車に揺られながら、殿下は私の手をずっと握って離さなかった。
行き先を尋ねても、「着いてからのお楽しみだ」としか言わない。
やがて馬車は森の奥にある小道へ入り、静かな湖のほとりで止まった。
澄んだ水面が鏡のように空を映し、風に揺れる木々の音だけが響く。
「……綺麗……」
「君に見せたかった。」
殿下は私の背後に立ち、肩越しに湖を見つめる。
その瞳には、湖面よりもずっと深い情熱が宿っていた。
「ここは、幼いころから誰にも教えていない。……唯一、君だけに見せる。」
「……そんな、大事な場所を……」
「君だからだ。」
私の指に、彼の唇が触れる。
その瞬間、心臓が跳ねる音が自分でも分かるほどだった。
湖のほとりでしばらく過ごしたあと、殿下は私を木陰に誘った。
そこで再び抱きしめられ、耳元に熱い吐息がかかる。
「……こうしていると、帰りたくなくなるな。」
「私も……です。」
殿下は少しだけ口元を緩め、唇を寄せてきた。
湖の静寂の中、二人だけの世界に沈んでいくような感覚——。
甘くて、息苦しいほどの溺愛。
そしてその熱は、まだ終わる気配を見せなかった。
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