「お前とは釣り合わない」と振られた令嬢、国一番の英雄に溺愛される

ほーみ

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 王都から届いた正式な文書を、アリシアはしっかりと読み返した。

 そこには、こう記されていた。

 ――「アリシア・フェルナー、王国の秩序を乱した咎により、国外追放を命ずる」――

 しかも、その命令は【即時執行】。王都の騎士団がすでに辺境へ向かっていると添えられていた。

「国外追放……そこまで、私を排除したいのね」

 アリシアは苦笑した。

 確かに、自分はもう“ただの貴族令嬢”ではない。ローランとともに民の信頼を集め、“聖女”と呼ばれ、人々の心に希望の火をともしてしまった。それが、王女エルヴィラの目には脅威に映ったのだろう。

 だが。

 「それでも、私は……」

「アリシア」

 背後から、ローランが彼女をそっと抱きしめた。

 広い背中、温かな腕、すべてが彼女の心を支えてくれる。

「追放されたって構わない。どこに行こうと、お前の隣にいる」

「……ローラン」

「俺は、もともと王都には居場所なんてなかった。貴族でもなけりゃ、政治に興味もねぇ。唯一あった“騎士”の誇りも、とっくに捨ててる。……でも、お前は違う。お前には、未来がある」

 アリシアは振り返り、真剣なまなざしで彼を見つめた。

「だったら、その未来をあなたと選びたい。どこへ行っても、どんな形でも――私は、あなたと生きたい」

 その瞬間、ローランの瞳がわずかに揺れた。彼女の言葉に、全身で応えるように、ぎゅっと彼女を抱きしめ直す。

「……もう決めた。国に何を言われようと、誰に追われようと、俺はお前を守る。だから――一緒に来てくれ」

「……はい」

 その返事は、小さくとも確かな強さを持っていた。

 “逃げる”のではない。“ふたりで生きる”ために、新しい世界へ足を踏み出す。



 数日後、グレイバークの町に王都の騎士団が到着したとき、アリシアとローランはすでに旅立ったあとだった。

 ふたりは、夜明け前にこっそりと町を発った。

 町の人々には、手紙だけが残されていた。

『私は、この町でようやく“自分の人生”を取り戻しました。皆さんの温かさに、心から感謝しています。どうか、いつかまた……笑顔でお会いできますように。』

 署名は、“アリシア・フェルナー”。

 そして、その隣に、たった一言。

 ――“ローランとともに”。



 それから数ヶ月後。

 とある港町。

 日差しの眩しい異国の地で、アリシアは小さな薬草店を営んでいた。貴族の令嬢だったころには考えられなかった、質素で、けれど自分の手で選び取った人生。

「いらっしゃいませ。どうぞ、喉に効くお茶です」

 訪れる旅人や漁師たちに笑顔で薬草を渡す彼女は、“白い癒し手”と呼ばれて町に親しまれていた。

 その日も、小さな女の子が咳をして来店し、アリシアが膝をついて薬を渡すと――

「ったく、お前はまたこんなに人気者になって……」

 背後から現れたローランが、照れたように眉をひそめて笑った。

「だって、私は“聖女様”ですもの」

「そのくせ、夜になると俺の腕にしがみついて離れねぇんだよな」

「……っ、それは言わない約束でしょ?」

 二人は顔を見合わせて、ふっと笑う。

 この平和な時間が、どれほど尊く、どれほど強い決意の上にあるか。ふたりは、忘れてはいない。

「今日で、ここに来て三ヶ月目だな」

「ええ。……なんだか、夢みたい」

「夢じゃねぇ。これは、俺たちが選んだ“現実”だ」

 ローランはそう言って、ポケットから小さな箱を取り出した。

「……?」

「ずっと、渡すタイミングを考えてた。だけど今日が、きっと一番いい」

 開かれた箱の中には、シンプルながらも丁寧に作られた指輪が入っていた。小さなルビーが中央で輝いている。

「アリシア。――俺の妻になってくれ」

 その一言に、アリシアは涙ぐんだ。

 こんなにも穏やかで、あたたかくて、誠実な愛を向けてくれる人が、隣にいる奇跡。

「……はい。よろこんで」

 指輪をはめた瞬間、彼女の手がローランの大きな手に包み込まれる。

「やっと……あなたの隣が“私の居場所”って、言えるわ」

「これからも、ずっと一緒だ」

「ずっと、一緒に」

 港に夕日が落ちていく。

 どこまでも広がる海と空の境界に、新しい人生が待っていた。

 ――彼とともに、どこまでも歩いていく。これからの未来を、自分たちで選びながら。

 そう、これは“逃亡”じゃない。

 これは、“愛する人と選んだ人生”の始まり。
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