ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
17 / 285
一章 ナイナイづくしの異世界転生

17. なにも持たナイからこそ

しおりを挟む
 その日は朝の早いうちに、領民を農耕地予定の領地の端に集めた。
 貸出していたマゴー達が転移魔法で移動させてくれたので、行動は速やかだった。
 即席のテーブルや椅子を並べ、マーシャとメルシャが飲み物と食べやすいサンドイッチを配る。

 「今日は朝の早いうちに、集まってくれて感謝する。領地の為とは言え、無理を言ってすまなかった」

 ハンフリーが領民達に頭を下げる。
 貴族は普通平民に頭を下げたりしないものだ。ハンフリーがこうなので、軽く領地から出ていく領民もいたのだろう。
 彼はまだ二十代で若く甘い。多くの領民に舐められていたのだ。

 だが、そんな彼だからこそ。

 マグダリーナは、ハンフリーの足元でコロコロしてる複数羽のコッコ(メス)を見つめた。

 「本当だよ、いい加減にしてくれ! こんな腐った土地、本当は出ていきたかったのに、住み慣れた家まで取り上げるなんてよぉ」

 中年の農夫ががなりたてた。壮年の男もテーブルを叩いて続く。

 「そーだ! おまえら貴族のせいで、どんどん生活が悪くなったじゃねぇか、どうしてくれるんだよ、おい!!」

 ハンフリーがパンと手を叩くと、マゴー達がそれぞれの世帯主に大銀貨のたっぷり入った革袋を配った。
 コッコの卵を幾つか買取りして貰って作ったお金だ。

 「今配ったのは、今年の不作を考慮した冬越しの為の生活給付金です」

 現金を見て、怒鳴っていた領民達が黙り、そわそわと興奮しはじめる。

 「今なら他領へ引越したい方は、転移魔法でお送りします。お送り先は、各地の役所です。そのまま領民登録出来るかと。もちろんそのお金を持って行って構いません。ですが我が領が援助するのはそこまでです」

 ざわり。
 領民達は突然の選択に、戸惑いと期待で浮き足だつ。
 アンソニーが一番に不平をあげた、中年の農夫に近づいた。

 「貴方は我が領から出ていきたいんでしたよね? どこまでお送りすればよろしいでしょうか?」

 アンソニーが言い終わると同時に、彼のそばにいたマゴーが、収納空間から彼の家族の荷物をどさりと地面に置く。

 「お……王都で……」

 その言葉と共に、一家は荷物ごと転移魔法で目の前から消えた。

 「では、このまま領に残る方はこちらへ。領を出ることを希望する方はそちらへどうぞ」


 ショウネシー領の領民でいることを希望したのは、半数以下だった。


 テーブルの隅で黙ってみていたエステラが、ふと隣のマグダリーナに話しかける。

 「ダーモットさんといいハンフリーさんといい、平民の自由意思まで尊重してくれるのよね……家系の気質かしら?」
 「そうかもね、うちは貴族として歴史も浅いし。まあ本当は、貴族としてはあまり良くないんだろうけど……」
 「でも、私やニレルにとっては付き合いやすくて楽しいわ。思考も柔軟だし、暮らすなら話のわかる領主がいるところがいいもの」
 「なら良かった。何にもないし、頼ってばかりで悪いかなって、本当は思ってたの」

 エステラはニコリと笑った。

 「何にも持ってなくって、ありがとう」

 「え?」
 「おかげで、私はお師匠から受け継いだ、すっごい魔法を思い切り使えるわ」

 「……」
 「ハンフリーさんは結構優秀な人だと思うのよ、でも領地はうまくいかなかった……。人ってさ、本人の能力だけじゃどうにも出来ない事って、やっぱりあるじゃない? 自分ではじめたことには失敗続きでも、人からやってきた仕事は上手くいったりとか? 私もすごい魔法を持ってるけど、きっとリーナやトニーと会えなかったら、活かす機会は無かったと思うの。見てて、これからすっごいもの見せてあげるから。でもね、それはリーナが私やニレルにそうしたいって思わせるもの、ちゃんと持ってるからなのよ」


 領民の最終確認が終わって、エステラとニレルは立ち上がった。
 図面を最終確認して頷き合うと、転移魔法で消えて見えなくなる。

 マグダリーナの視界はずっと涙で霞んでいた。

 何をやってもうまくいかないと、役に立たないと思ってきたけど、それでも認めてもらえたのだ。
 そっと涙を拭った瞬間、目の前に光の洪水が現れた。

 ――その日ショウネシー領を覆った光は、他領からも王都からもよく見えた――

 「始まったようですよ」

 領に帰る途中の馬車の中で、ダーモットとケーレブは奇跡の光を眺めた。

 「これは途中で馬車を返して、転移魔法で領内に入った方が良さそうだね」
 「全く旦那様は呑気なんですから、これ絶対王宮から呼び出しありますよ」
 「いやいや、ちゃんと陛下に領地改革の大規模魔法を使うことは報告してきたんだから、呼び出されないよ。視察は来るかも知れないけど」

 コッコ卵を王家に献上するついでに、一応国王陛下への報告はしてきた。
 興味深そうにしていたけど、国王が直接視察に来ることはないだろう。多分。

 「どんな風になってるのか、楽しみだねぇ」

 ダーモットはのんびりと、窓の外を眺めた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...