ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
44 / 285
三章 女神教

44. ショウネシーの朝練

しおりを挟む
 いかに令嬢がお淑やかであるものだとしても、体力はあるに越したことはないだろう。

 目に見えて強くなっている、アンソニーやヴェリタスを見て、マグダリーナは段々そう考えるようになっていた。

 その頃ショウネシー邸周辺では、早朝、館の周囲を走り、魔法の訓練をする通称「朝練」がいつの間にか発生していた。
 マグダリーナもこれに参加する事にする。

 朝練のメンバーは、エステラとニレル、アーベル、グレイ、アンソニー、ヴェリタスの他に、なんとハンフリーもいた。机仕事ばかりじゃ身体に良くないとニレルに連れ出されているらしい。


 やり過ぎると日中の仕事や学業に支障が出るので、朝練は軽いものだそうだ。

 まずはラジオ体操の後、ショウネシー邸の周囲を一周普通に走り、その後身体強化魔法に風魔法をかけながら二周目を走る。

 普通は複数の魔法を同時に使わないものらしい。
 真っさらな状態で、やれると言われれば素直に信じてやってしまうアンソニー以外は、かなり苦戦した。

 今は普段あまり魔法を使わないハンフリーまで、なんとかできるようになっていた。

 その後は、それぞれ魔法や剣術などの訓練をする。

 この時点で朝練って軽いものじゃなかったっけ? と、マグダリーナは少し遠い目をした。


 魔法の訓練の時に、エステラに昨日思った、大人数に回復魔法を掛るやり方を相談してみた。

「それは対象を点じゃなくて面や空間で考えればいいのよ。こんな感じ。エリアヒール」

 エステラはわかりやすく朝練メンバー全員に回復魔法をかけて見せてくれる。

「他の魔法も一緒よ。マゴーの防汚魔法とか集まってる人に一気にかけてたじゃない」

 バーベキューの時を思い出す。イメージが掴めて来た。

「ととのえるを家全体にかける、みたいな感じにすればいいのね」
「そうそう」

「練習したいんだけど、軽いヒールくらいなら、特に何もなくても毎日掛けて大丈夫?」
「大丈夫よ。おススメは夜寝る前ね。ぐっすり寝れるから」

 よし、日課にしよう。



 学園三日目もテストだ。

 前日が国語、算数、国学、社会、魔法……

 国学というのは、お金の単位や種類、他国のことや、生活の常識や宗教について習ったりする。

 社会は貴族の序列や役割などの貴族社会についてだった。

 どれもテストは初等部では簡単な範囲だけだ。

 今日は理科だけがテストで後は普通の授業だった。

 毎日午後の二時間は魔法学の授業と決まっているが、マグダリーナは魔法学の合格証ではなく修了証を貰ってしまったので、今後この時間をどの授業に充てるか考えないと行けない。

 朝のホームルームで、昨日のテスト結果が返ってきた。魔法学の以外の残り四教科、全部合格証がついていた。嬉しい。

「ショウネシーさん、午後の授業の時間に教員室に来てください」
「わかりました」

 アーロン先生の呼び出しなら、これからの午後の授業か昨日の件だろうと予想をつける。

 理科のテストも問題ない出来だと思えた。

 しかし、その後の体育の授業がとても微妙だった。

 男子は外で走ったり球技をするのに、女子はドレスでダンスルームを歩いたり、マイムマイムみたいなダンスをする。

 あくまでお淑やかにだ。

 運動と体力の不足が気になったので、朝練は続けようとマグダリーナは決心した。
 前世では、若いうちにもっと体力つけておけば良かったと、よく後悔したのを思い出して。

 次の授業が芸術で、日によって音楽だったり図画だったりするようだ。

 午前の最後の時間はダンスだった。

 こちらは舞踏会で踊る男女ペアの踊りで、貴族の必須科目だが、最低限踊れれば良いので、飛び級には関係しない。


 午前の授業が終わると、食堂でヴェリタスと合流した。

「信じられないんだけど、魔法学で修了証貰ったんだよ」
 開口一番、彼はそう言った。

「おめでとう! 朝練の成果よね」
「ありがとう。そういえばリーナも昨日修了って言われたんだって? おめでとう! 順調に飛び級できそうか?」
「ありがとう。今日の理科の結果次第だけど、多分大丈夫だと思う」

 今日はマグダリーナも、うまみ屋の特製日替り弁当だ。

 彩りよく品数多く、量は程よく、ナイフがなくても食べやすいサイズ、そして絶対使い方が間違っている細やかな設定の結界魔法で、他のお菜と味が混ざらないよう配慮されていた。

「昼休みが終わったら、教員室に行かなきゃ行けないんだよなぁ」

 ぽつりとヴェリタスが言う。

「あら、私もよ」

 二人は顔を見合わせた。

「やっぱ昨日の件かな」
「魔法学の授業の代わりの事かも知れないじゃない」

「そっちはそっちで悩むよな。リーナは将来ショウネシー領の仕事するって決めてるんだろう? そこんとこ俺はまだふらふらしてるから」
「てっきり冒険者で生きていくんだと思ってた……」

「それはもしもの時の手に職だな。まずは母上を安心させたいから、何かしら考えないとな」

 ふとマグダリーナは昨日の第二王子を思い出して、笑みを噛み殺した。

「シャロン伯母様が王妃様のお話相手をされているんだから、王族の相談役ってどう?」
「なんだそれ、どっからそういう発想出てくるんだよ」

 ヴェリタスは、愉快そうに笑った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

転生したので、今世こそは楽しく生きます!~大好きな家族に囲まれて第2の人生を謳歌する~

結笑-yue-
ファンタジー
『可愛いわね』 『小さいな』 『…やっと…逢えた』 『我らの愛しい姫。パレスの愛し子よ』 『『『『『『『『『『我ら、原初の精霊の祝福を』』』』』』』』』』 地球とは別の世界、異世界“パレス”。 ここに生まれてくるはずだった世界に愛された愛し子。 しかし、神たちによって大切にされていた魂が突然できた輪廻の輪の歪みに吸い込まれてしまった。 神たちや精霊王、神獣や聖獣たちが必死に探したが、終ぞ見つけられず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。 その頃その魂は、地球の日本で産声をあげ誕生していた。 しかし異世界とはいえ、神たちに大切にされていた魂、そして魔力などのない地球で生まれたため、体はひどく病弱。 原因不明の病気をいくつも抱え、病院のベッドの上でのみ生活ができる状態だった。 その子の名は、如月結笑《キサラギユエ》ーーー。 生まれた時に余命宣告されながらも、必死に生きてきたが、命の燈が消えそうな時ようやく愛し子の魂を見つけた神たち。 初めての人生が壮絶なものだったことを知り、激怒し、嘆き悲しみ、憂い……。 阿鼻叫喚のパレスの神界。 次の生では、健康で幸せに満ち溢れた暮らしを約束し、愛し子の魂を送り出した。 これはそんな愛し子が、第2の人生を楽しく幸せに暮らしていくお話。 家族に、精霊、聖獣や神獣、神たちに愛され、仲間を、友達をたくさん作り、困難に立ち向かいながらも成長していく姿を乞うご期待! *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈ 小説家になろう様でも連載中です。 第1章無事に完走したので、アルファポリス様でも連載を始めます! よろしくお願い致します( . .)" *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈

処理中です...