ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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三章 女神教

45. 飛び級するよ

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 昼休みが終わると、マグダリーナとヴェリタスは二人で教員室へ行き、二人で馬車に乗せられた。

 ついたのは、王宮だった。

「マグダリーナ・ショウネシー準男爵にヴェリタス・アスティン侯爵令息よ、よく参った」

 何故かセドリック王の御前にいる羽目になり、嫌な予感しかない。

「まずは昨日の王立学園に魔獣が現れた件、四つ手熊二体相手に、死者が出なかったは快挙である。二人の働きに褒美を与える。別室に用意させてあるゆえ、後で確認するがよい」

(熊師匠、どんだけ凶悪なの)

 四つ手熊相手に、死者が出ない現場しか知らないマグダリーナは唖然とした。

「ありがとうございます」

 ヴェリタスが綺麗な姿勢で頭を垂れる。マグダリーナも慌てて礼をとる。

「光栄にございます」


「さてマグダリーナよ」

 セドリック王の口調と声色が微妙に変化して、堅苦しいのは無しな! の合図になった。

「バーナードだめじゃった?」

 マグダリーナは、呆れた顔で溜息を吐いた。

「だめではなく、ダメダメです。男性にあんなに暴言をぶつけられたのは初めてです。それに彼は昨日ヴェリタスに一目惚れをしておりました」
「え? なにそれ? 俺一応新年とかにも挨拶してるんだけど?」

 思わずヴェリタスの貴族令息の皮が剥がれた。

 王妃様がよろめくのを、控えていた侍女が支える。

「わたくしが……わたくしが……エリックはいずれ王になるからと厳しくした反面、バーナードはやがて離れていく子だからと、甘やかしてしまったのがいけないのだわ……」

 王妃の嘆きに、子育てって難しいんだなとマグダリーナはしみじみ思った。


「うーむ、ヴェリタスよ、其方学園におる間バーナードの側仕えをしてくれぬか?」

 セドリック王の言葉に、ヴェリタスは首を振った。

「大変光栄ですが、私はオーブリー侯爵家に命を狙われておりますので、王子が巻き込まれるようになってはいけません。ご辞退させて下さい」

 王のため息が聞こえた。

「家門から出ただけではだめであったか。ヘンリー・オーブリーめ、妙なところが粘着質であるな。」


 そこでマグダリーナは、気になって聞いた。

「あの……昨日学園に熊師匠を連れ込んだ犯人は……」
「熊師匠??」
「あ、ショウネシー領の冒険者はそう呼んでいるので」

 しまったとマグダリーナは目を泳がせた。

「何故師匠なのだ」

 ヴェリタスは真剣な目をして答えた。

「ショウネシー領の冒険者ギルドでは、冒険者としての最低限ライン、Dランクに昇格するには、四つ手熊の単独討伐が必須条件なんです」
「ということは、今回そなたが四つ手熊を討伐できたのは……」

「師匠との修行のおかげです。魔法の腕がかなり上がりました」
「左様か……」

 珍しくセドリック王は遠い目をした。

 宰相が陛下の代わりに、マグダリーナの疑問に答えてくれた。

「四つ手熊を呼び込んだ者達ですが、流民の魔法使いでして、誰かに雇われたようです。雇い主に関しては現在調査中ですが、同日に制作中でした女神像も破壊されてしまい、教会関係者が関与している線が濃厚です。ショウネシー準男爵も充分お気を付け下さい。女神教の発案者でございますから……」

(いや、陛下の命令でレポート提出しただけだから!)

 オーブリー侯爵関係で無かったのは良かったが、安心は皆無だった。

 それからふと、ショウネシー領に来てきゃっきゃしてた職人のおじさん達を思い出して、壊された女神像を思うと気持ちが重くなった。


 陛下からの褒美はミスリル鉱という、貴重な金属で、ヴェリタスはこれでエステラに剣を作って貰うと喜んでいた。

 マグダリーナもアンソニー用の剣を作って貰おうと思う。

 学園に戻ると、昨日の回復薬の代金を受取り、ヴェリタスと二人、初等部の間はクラブ活動をするか、午後から帰って良いと言われたので、安全のために帰る事にする。

 そして今日のテストの結果、マグダリーナは学年の飛び級が可能で、明日から初等部二年になることになった。



◇◇◇



 念願の初等部二年もAクラスだった。マグダリーナは学年を繰り上がって来たので、席は一番最後……廊下側の一番後ろだ。
 目立たなくて、ほっとする。

「マグダリーナ・ショウネシーさん、少しよろしいかしら」

 午前の授業がおわって、帰ろうかと思ったところで二人の女子に声をかけられる。

 凄くデジャヴを感じて嫌な予感がした。

「それは、俺が同席しても構いませんか?」

 咄嗟にヴェリタスが助け舟を出してくる。頼もしい。

「ええ、よろしくてよ。ここでは人目があり過ぎますので、ついて来てくれるかしら」

 金髪のドロシー第一王女と、桃色髪のアグネス第二王女の後に、マグダリーナとヴェリタスは続いて歩いた。

 空いてる教室に入った途端、王女達は揃ってマグダリーナに頭を下げた。

「エリックを助けてくれて、ありがとう」
「エリックお兄様を助けてくれて、ありがとう」

 第二王子の件があって身構えていたが、王女達の用件は、冬の第一王子が罹った病の事だったらしく、少しホッとする。

「お顔を上げて下さい。私は少し手伝っただけです。領の医師と薬を作った者にも、御二方の感謝の気持ちを伝えさせていただきます」

「ええ、でもお母様は貴女のお手伝いがなかったら、エリックは助からなかったとおっしゃいましたわ。ですから、どうか貴女も感謝の気持ちを受け取ってくださいな」
「は……はい」

 第一王女は確か十五歳。この国の成人年齢も十五歳なので、王妃様に似て気品ある淑女としての立ち居振る舞いに圧倒されそうだった。
 それにとても美しい。


「ヴェリタス、シャロン夫人にも感謝を伝えて下さいな。あの方がいらっしゃらなかったら、そもそもショウネシー領へ行くことが出来ませんでしたもの」

 第一王子や王妃と同じ桃色髪の第二王女は、同じ初等部二年のAクラスだ。

 ずっとお礼を言いたかったが、第一王子が病で死にかけた事は公に出来ない秘密だったので、機会を窺っていたそうだ。

「必ず伝えます」
 ヴェリタスは頷く。


 アグネス第二王女はマグダリーナに向き直ると、「今日から同じクラスなので、仲良くしてちょうだいね」と微笑む。
 ドロシー王女は気品と優雅さの淑女の鏡だとしたら、アグネス王女はハキハキとした利発な性格で気さくな方に感じた。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 それからそっとマグダリーナに近づいて耳打ちした。

「バーナードには、しっかり淑女への正しい接し方を覚えて貰いますわ」

 マグダリーナは飛び級して良かったと、心底思った。
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