ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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三章 女神教

51. 女神教神殿

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 そしてエデンは素早く教会員の腕を捻り上げた。

 ニレルがパチンと指を鳴らすと、わらわらと転移魔法でマゴーが現れる。

「グレイとマゴーA班は関係者全員を捕縛。マゴーB班はリーナ達と怪我人の治療と避難を。マゴーC班は地下のアーベルに合流」

 ニレルが淡々と指示を出す。

 マグダリーナ達は事前に教会に怪我人がいた場合、治癒魔法をかけて教会から避難することは聞いていたけど、この大捕物はなんだろう。
 

 外からはコッコ(オス)の雄叫びも聞こえ始めたので、逃亡者が追い立てられてるのかもしれない。

「くっはははは! こいつは教国に送り帰す手間が省けるな!」

 エデンは捕まえていた教会員を縛り上げると無造作にマゴーに渡した。


「エリアハイヒール!」

 マグダリーナは回復魔法で、治療場に寝かされていた人達全員を一気に治癒した。

「ととのえよ!」

 アンソニーも真似して広範囲にととのえる魔法をかける。

「傷が……」
「服についた血も破れまで、無くなった……」

 呆然としている元怪我人達に、ヴェリタスが声をかける。

「ここは直ぐに取り壊されます! こっちから急いで外に出て下さい」

 何が起こってるのかわからない人々は、直ぐには行動に移せず、マゴーに強制的に辺境伯邸へ転移されてしまった。

「俺たちも外へ出よう。バーナード王子は俺の側から離れないで。リーナとトニーも二人で手を繋いで俺たちの近くにいて」
「ねえ、エデンが言ってた有罪って何?」

 マグダリーナの疑問に、ヴェリタスは少し躊躇ってから返答した。
「エルフはハーフの子が生まれたら、捨てて流民にするか、自国の奴隷にするか、人買いに売るんだ……」

 つまり、それは。


「なんなんだ、なんでエルフがこんな真似を! 『お得意様』のくせに!!」

 教会の外に出ると、縛り上げられた教会関係者達が、口々にエデンとニレルを罵っていた。

 そういえば、マーシャとメルシャを外国に売ろうと狙っていた男は、上級回復薬を持っていた。あの男も教会関係者だったのかも知れない……

「タラぁ、証拠の品、辺境伯のとこ持っていったよぉ」

 エステラにべったりだったヒラを見かけないと思ったら、仕事をしていたらしい。
 転移魔法で現れて、いつもの位置に……エステラの肩の上に、ぽよっと着いた。

「地下の人達も、一緒に届けてきたの」

 ハラも現れた。

 エステラはマグダリーナ達に気づくと、ドレスの裾を上げて駆け寄ってくる。

「皆んな無事? 怪我とか無い?」
「大丈夫よ」
「ごめんね、びっくりしたでしょう? 教会に入る前に念のため索敵と鑑定かけたら、辺境伯から借りた建築図面にない地下ができてるのに気づいて、こうなっちゃったのよ」

「地下には何があったのだ?」
 バーナードが不安気に聞く。

「地下牢よ。囚われてた人達も辺境伯邸に送って保護をお願いしてきたから、あっちはきっとてんてこ舞いね」

 辺境伯もまさか自領の教会が、人身売買組織になってるとは思いもよらなかっただろう……

 いや、可能性は考えたかも知れないけど、容易に調査できなかったのかも知れない……


「王様が教会を国から追い出したいのは、単純に利益だけの問題じゃなかったのね……」

 マグダリーナの呟きを、バーナードは真剣な顔をして聞いていた。

 教会の中が空になったのを確認して、ニレルが教会を解体していく。

 教会の上に大きな魔法陣が浮かび上がり、すっと教会に向けて降りてくる。
 教会は魔法陣に触れたところから、線香花火のような細かい光を散らしながら消えて無くなっていく――

 煩かった教会員達は、一様に口を噤んだ。

 すっかり何も無くなった教会跡地に、今度はエステラが地面に魔法陣を浮かび上がらせる。

 魔法陣から光の柱が立ち上り、辺り一面眩しく照らしたと思った瞬間、白く美しい神殿が出来上がっていた。


「綺麗……!」
 マグダリーナは感嘆の声を上げた。

「なんだこれは……このような美しい建物が一瞬で……」
「奇跡だ……」

 捉えられている教会員達も、呆然と神殿を見つめている。


 正面は大きな柱が聳え立つ、女神像が設置された本殿で、中に入ると大きな水盤があり、その中心に光輪を背にした女神像がある。

 天井は高く、天井も壁面も一面に幾何学模様や草木をモチーフにした彫刻が施されている。

 天井のレースのような細かな明かり取りの窓からの陽光が、水面に反射する輝きが、壁面に設置された灯りに浮き彫りにされる彫刻の陰影が、より一層女神像の神秘性を際立たせていた。

「ここにいて女神像を眺めていると、とても静かであたたかな気持ちになります」

 アンソニーの言葉にマグダリーナも頷いた。

「ええそうね、これからこの女神像が辺境伯領を見守ってくれるのね」
「でも僕、うちの領の噴水の女神様も、負けないくらい大好きです。とても身近な感じがするので」

 二人は目を合わせて、ふふふと笑みを交わす。

「なんだかうちの領の女神様に早く会いたくなって来たわ」



「これは……このような美しいものが、我が領に……」

 駆けつけてきたエイブリング辺境伯は、神殿と女神像を見て目を見開いた。

 エステラが辺境伯に女神像と設備について説明する。

「女神像や建物には防汚魔法があらかじめかけてありますので、高い所に登って掃除する必要はありません。普段は床掃除くらいで大丈夫です。灯りも光の妖精が球体の中に勝手に入って光ってるので、そのままで大丈夫です」

「妖精が……?!」
「女神の気配に惹かれて集まってくるので、それを利用してます」

「女神の気配……その……創世の女神というのは、陛下が教会を排除するための方便ではなかったのか……」

 エステラは辺境伯に頷いた。

「私達にとっては、確かに創世の女神は存在します。あとこの本殿の奥は治療と神官達の仕事場と住居になります。横の建物は本殿を参拝する方の休憩所に。どちらも都合に応じて改装や増築をしていっても構いませんが、女神像とこの本殿はこのままに」
「わかった。神官が決まるまでは、騎士達に掃除と見回りをさせる事にしよう」


 結局予定外の捕物のせいで、城下町の観光はせずに帰る事になった。

 エデンがバーナードを王宮に帰して、ショウネシー領に戻る。


 冒険者ギルドでは、晴れてグレイ、ヴェリタス、アンソニーがDランクになった。

 そして辺境伯領に突如現れた、美しい神殿は、国内外共に注目されるものとなる――
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