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七章 腹黒妖精熊事件
126. ドロシー王女の悩み
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エルロンド領ができてしばらくした頃、マグダリーナとレベッカはシャロンと一緒に王妃様とお茶をしていた。
ただの雑談なら、お相手はシャロンで十分なのだ。これは何か裏があると、マグダリーナはお上品にお茶をいただきながら考えていた。
「二人共、今年から中等部になったのでしょう、授業が突然選択式になって、戸惑う事が多いのではなくて?」
「お恥ずかしながら、何度か教室を間違えることもありまして」
王様も気さくだが、王妃様も気さくなお方だった。雰囲気に飲まれて、ついこう言うことまで話してしまう……
「まあ、ふふふ。私も学園にいた頃何度か間違えましたわ。その度にシャロンとクレメンティーンが探しに来てくれるのが、少し嬉しくもあったものです」
そこで王妃はふと憂いのある表情になった。
「王家に関わる重圧は、とても重いもの……私もこうやってなんでも話せるシャロンが居なかったら、とても王妃なんてやっていられなかったわ……」
「そう言って頂けるのは誇らしいですわね。楽しくおしゃべりしているだけですけれど」
シャロンがくすりと微笑んだ。
「それが大事なのよ! ただね……アグネスの学年には、マグダリーナやレベッカが居てくれるから良いのだけど、ドロシーにはそういう友人が出来なかったのよ……」
王妃はため息をついた。
エルロンドからの縁談を断ってから、ドロシー王女は他国からエルロンドに狙われている不吉な王女と噂され、縁談がまとまらずに居た。
友好国のフィスフィア王国へは、丁度向こうの王子と年齢の合う、アグネス王女が嫁ぐ事がこの春決まったのだが。
では国内の貴族へ嫁がせるかとなると、それはそれで政治的思惑が絡んで、直ぐに話は決まらない。
そして同年代の令嬢にとっては、ドロシー王女は最大のライバルとなる。
ご学友の令嬢達からお茶会に呼ばれることがなくなったという……
うっかり目当ての令息がドロシー王女と仲良くなると困るからだ。
「その上、ドロシーは長女で責任感も強いでしょう? 自分は第一王女なのに、全く国の役にたつ事が出来ないって塞ぎ込んでしまって……」
レベッカがびっくりした顔をした。
「新年にお会いした時も、お元気がなかった様子でしたけど、あれからずっとですの?」
王妃は頷いた。
「ええ、それで少し環境を変えて見るのも良いかも知れないので、夏休みの間ドロシーをシャロンに預けようと思って。よければ貴女達も仲良くしてちょうだいな」
「それはもちろん! でも良いんですか? ショウネシーは畑くらいしか無いんですよ?」
「ふふ、そこはね平民の娘みたいに身の回りのことから全部自分でさせるようにするのよ。はじめは上手くいかないだろうから、ショウネシーくらいのんびりしたところの方がいいでしょう。ほら、出来ることが増えると、少しずつ自分に自信がついていくでしょう?」
マグダリーナとレベッカは頷いた。
「迷惑かけるでしょうけど、二人共夏の間はドロシーと一緒に過ごしてくれるかしら?」
「「はい、喜んで!」」
マグダリーナもレベッカも揃って答えた。
◇◇◇
リーン王国のセドリック王には弟が居た。
ドロシーにとっては叔父である王弟は、初めての姪であるドロシーを特別可愛がってくれていた。
彼は自由に動き回れない兄に変わって、国中や他国を巡りその様子を報告するのが仕事だった。
ドロシーがまだ六つくらいの歳だったろうか。叔父に連れられて、初めて船に乗り他国を見たのは。リーン王国から近い小国で、親善のための訪問だった。
その港で、人が売られているのを見た。
びっくりしたのはそれだけではなかった。売られていた子供達の耳は長く尖っていた。
「私が買いますわ! だからその子達を早く自由にして!!!」
気づいたらそう言っていた。
叔父は少し困ったように笑って、代金を支払ってくれた。
そのエルフの姉弟は、ハーフの両親から偶然生まれた純血で、エルロンド王国には決して近づくなと両親に言われていたそうだ。住んでいた村が魔獣に襲われて両親を無くし、村人が姉弟を人買いに売ったという。
それからエルフの姉弟は、ドロシー専属の従者として、よく仕えてくれていた。
姉のシーラの寿命が近づくまでは。
ドロシーは王宮の中、使用人しか使わない通路を駆け抜けていた。
目当ての使用人部屋の扉を跳ねるように、勢いよく開ける。
普段の嫋やかな淑女ぶりとは正反対の行動で、ドロシーは自身に仕えてくれていた彼女を呼んだ。
「シーラ!!」
「ドロシー……様!」
「いけません、ドロシー様、このような所にいらっしゃっては」
シーラの弟のキースが困ったような顔する。
「ああ、シーラ、起き上がれるようになったのね!」
「はい……もう寿命を迎えるものと思っておりましたが」
シーラの年齢は十七。本来ならそろそろエルフの女性として寿命を迎える筈だった。その証拠に、昨年末から体調を崩して、殆ど寝たきりになっていたのだ。
それがマグダリーナの決闘騒ぎがあってから、みるみる回復してきた。
「シーラ、キース、私……夏休み中はショウネシー領で過ごすの。二人共ついてきて。きっとハイエルフなら、シーラの状態も何かわかるに違いないわ! 侍従長には話を通しておくから、それまでキースはシーラの体調管理と体力回復の手助けをお願い」
「わかりました」
キースはドロシーに頭を下げる。シーラも同じく頭を下げると、そっとドロシーの手を取った。
「ドロシー様、お辛い時にお側にいる事が出来ずに申し訳ございません」
「シーラ、貴女が元気を取り戻して本当に良かった。女神に感謝を」
そう言ってドロシーはシーラを抱きしめた。
ただの雑談なら、お相手はシャロンで十分なのだ。これは何か裏があると、マグダリーナはお上品にお茶をいただきながら考えていた。
「二人共、今年から中等部になったのでしょう、授業が突然選択式になって、戸惑う事が多いのではなくて?」
「お恥ずかしながら、何度か教室を間違えることもありまして」
王様も気さくだが、王妃様も気さくなお方だった。雰囲気に飲まれて、ついこう言うことまで話してしまう……
「まあ、ふふふ。私も学園にいた頃何度か間違えましたわ。その度にシャロンとクレメンティーンが探しに来てくれるのが、少し嬉しくもあったものです」
そこで王妃はふと憂いのある表情になった。
「王家に関わる重圧は、とても重いもの……私もこうやってなんでも話せるシャロンが居なかったら、とても王妃なんてやっていられなかったわ……」
「そう言って頂けるのは誇らしいですわね。楽しくおしゃべりしているだけですけれど」
シャロンがくすりと微笑んだ。
「それが大事なのよ! ただね……アグネスの学年には、マグダリーナやレベッカが居てくれるから良いのだけど、ドロシーにはそういう友人が出来なかったのよ……」
王妃はため息をついた。
エルロンドからの縁談を断ってから、ドロシー王女は他国からエルロンドに狙われている不吉な王女と噂され、縁談がまとまらずに居た。
友好国のフィスフィア王国へは、丁度向こうの王子と年齢の合う、アグネス王女が嫁ぐ事がこの春決まったのだが。
では国内の貴族へ嫁がせるかとなると、それはそれで政治的思惑が絡んで、直ぐに話は決まらない。
そして同年代の令嬢にとっては、ドロシー王女は最大のライバルとなる。
ご学友の令嬢達からお茶会に呼ばれることがなくなったという……
うっかり目当ての令息がドロシー王女と仲良くなると困るからだ。
「その上、ドロシーは長女で責任感も強いでしょう? 自分は第一王女なのに、全く国の役にたつ事が出来ないって塞ぎ込んでしまって……」
レベッカがびっくりした顔をした。
「新年にお会いした時も、お元気がなかった様子でしたけど、あれからずっとですの?」
王妃は頷いた。
「ええ、それで少し環境を変えて見るのも良いかも知れないので、夏休みの間ドロシーをシャロンに預けようと思って。よければ貴女達も仲良くしてちょうだいな」
「それはもちろん! でも良いんですか? ショウネシーは畑くらいしか無いんですよ?」
「ふふ、そこはね平民の娘みたいに身の回りのことから全部自分でさせるようにするのよ。はじめは上手くいかないだろうから、ショウネシーくらいのんびりしたところの方がいいでしょう。ほら、出来ることが増えると、少しずつ自分に自信がついていくでしょう?」
マグダリーナとレベッカは頷いた。
「迷惑かけるでしょうけど、二人共夏の間はドロシーと一緒に過ごしてくれるかしら?」
「「はい、喜んで!」」
マグダリーナもレベッカも揃って答えた。
◇◇◇
リーン王国のセドリック王には弟が居た。
ドロシーにとっては叔父である王弟は、初めての姪であるドロシーを特別可愛がってくれていた。
彼は自由に動き回れない兄に変わって、国中や他国を巡りその様子を報告するのが仕事だった。
ドロシーがまだ六つくらいの歳だったろうか。叔父に連れられて、初めて船に乗り他国を見たのは。リーン王国から近い小国で、親善のための訪問だった。
その港で、人が売られているのを見た。
びっくりしたのはそれだけではなかった。売られていた子供達の耳は長く尖っていた。
「私が買いますわ! だからその子達を早く自由にして!!!」
気づいたらそう言っていた。
叔父は少し困ったように笑って、代金を支払ってくれた。
そのエルフの姉弟は、ハーフの両親から偶然生まれた純血で、エルロンド王国には決して近づくなと両親に言われていたそうだ。住んでいた村が魔獣に襲われて両親を無くし、村人が姉弟を人買いに売ったという。
それからエルフの姉弟は、ドロシー専属の従者として、よく仕えてくれていた。
姉のシーラの寿命が近づくまでは。
ドロシーは王宮の中、使用人しか使わない通路を駆け抜けていた。
目当ての使用人部屋の扉を跳ねるように、勢いよく開ける。
普段の嫋やかな淑女ぶりとは正反対の行動で、ドロシーは自身に仕えてくれていた彼女を呼んだ。
「シーラ!!」
「ドロシー……様!」
「いけません、ドロシー様、このような所にいらっしゃっては」
シーラの弟のキースが困ったような顔する。
「ああ、シーラ、起き上がれるようになったのね!」
「はい……もう寿命を迎えるものと思っておりましたが」
シーラの年齢は十七。本来ならそろそろエルフの女性として寿命を迎える筈だった。その証拠に、昨年末から体調を崩して、殆ど寝たきりになっていたのだ。
それがマグダリーナの決闘騒ぎがあってから、みるみる回復してきた。
「シーラ、キース、私……夏休み中はショウネシー領で過ごすの。二人共ついてきて。きっとハイエルフなら、シーラの状態も何かわかるに違いないわ! 侍従長には話を通しておくから、それまでキースはシーラの体調管理と体力回復の手助けをお願い」
「わかりました」
キースはドロシーに頭を下げる。シーラも同じく頭を下げると、そっとドロシーの手を取った。
「ドロシー様、お辛い時にお側にいる事が出来ずに申し訳ございません」
「シーラ、貴女が元気を取り戻して本当に良かった。女神に感謝を」
そう言ってドロシーはシーラを抱きしめた。
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