ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
142 / 285
七章 腹黒妖精熊事件

142. 神力の受け手

しおりを挟む
「おおっと、間一髪だ。キミに大地との口付けはまだ早い」

 倒れかかったマグダリーナの胴に、大人の腕がまわされる。

「エデン……ありがとう」
「どうイタしまして」

「大丈夫かリーナ、日陰で休んで水分取った方がいいんじゃねぇの?」
 ヴェリタスがコップに水を入れて渡してくれる。
 落ち着いて見渡すと、マグダリーナがルシンに呼び出される前と、そう時間が経ってないような感じがする。

 彼とあんなに話すのは初めてだったのに。
 そしてルシンが腹が減ったと言って帰ったのを思い出す。

「ねぇ皆んな、これから長丁場になるんだし、まずは食事をしておかない?」

 マグダリーナは魔法収納からテーブルと椅子、そして何かあった時のために入れておいた、うまみ屋のお弁当と飲み物を取り出した。


「こんな時にお食事なんて、大丈夫かしら」

 ドリーが不安気にするが、マグダリーナは自信を持って頷いた。

「こんな時だからこそ、体力と気力を保持しておかなくっちゃ。この暑さだと、ただ居るだけでも体力消耗してるもの。それに皆んなに話しておかなくっちゃ行けないことも出来たので」
「ンああ、さっきのはやっぱり喚ばれてたんだなマグダリーナ。ルシンか」

 エデンは緑の結界の前にいるニレルとヨナスにも声をかける。
 揃って食事を始めながら、マグダリーナはルシンとの会話で話せる範囲を選んで話した。


「そっか……神力の受け手に命の心配は無いのか」
 ヴェリタスは心の底から安心した。

「あれが……討伐隊の皆さんを助けたいと思った、国民の祈りが目に見える形になった姿……」

 緑の結界の上空を見上げ、ドロシーはレベッカとライアンを見た。

「レベッカ、ライアン……女神様の神力の受け手を、私に譲ってくれないかしら」

「ドロシー様……」
 レベッカは心配を含んだ声で、ドロシーを見た。

「どうやってお役に立てるか……ずっと考えていましたけど、やはり魔法やその知識に関しては私はあなた方に遠く及ばないわ。でも国や国民を思う気持ちなら、レベッカとライアンの女神様への親愛の気持ちに劣らないと自負しておりますの。それにこの後も何が起こるかわからないのですもの、既に魔法学を修了してるお二人は、他にもお役目があるはずですわ」

 ニレルが頷いた。
「確かに。解毒薬作りにはレベッカやライアンの様な、細かな魔力操作が得意な者が手伝ってくれると、僕も助かる」

「でしたら私も」
 ずっと黙っていた騎士団長が、声を上げた。

「ここで苦しんでいるものの中には、私の部下達もいる。私も王女と共に、その……受け手とやらをさせて下さい」

「よっし、じゃあ受け手は二人休憩をとりながらやってもらえばイイ。生きてる人間だ、どうしたって休憩は必要だからな、んははは」

 そう言いながらエデンは、きっちり熊が詰められた大量の行李に近づくと、中身を確認しはじめる。

「コイツだな。悪い子め」

 エデンはそう言って、一匹の腹黒妖精熊を取り出すと、右手に持ったシャープペンシル型のエステラ製魔導具「活け締めくん」をくるりと回転させて、腹黒妖精熊の頭頂にぷすっと刺した。

「コイツは後で精査してから、問題なければ今回の犯人としてセドくんに贈ろう。マゴーこいつら全部、念の為活け締めしといてくれ。途中で起きだしたら五月蝿いからな」
「かしこまりました!」

 マゴーとチャーがいそいそと残りの小熊達を活け締めにしていく。

 ニレルがため息をついた。
「解毒薬作りが終わった後は、熊の収納改めか……リーナ悪いけど、僕は解毒薬作りのためになるべく魔力を温存したいんだ。今回の素材は扱いの難しいものが多いからね。君の収納でエデンの収納の荷を受け取って、収納リストをヨナスに確認してもらってくれるかい」
「任せてちょうだい」

 熊詰めの行李から離れると、エデンはヨナスの緑の結界を確認して、上空の女神の神力、それから受け手の為に用意していた、女神の光花で囲った場所を確認する。そこにある二人がけの椅子を撤去すると、豪華なソファと長机を代わりに据えた。

「これは王宮にあった……」
「んははは、こっちの方が絶対身体が楽だぞ。俺の見立てでは、キミタチの仕事はそう長くはかからない。その代わり意識を失う程には疲労する。だが寝ればスッキリ回復するから、とりあえずは心配せずにここにうつ伏せになって寝むといい」

 クッションも二つ、長机の上に置かれた。

「何から何まで、ハイエルフとショウネシーの皆様に感謝いたしますわ」

 ドロシーは王族なので頭を下げることは出来ないが、それでも精一杯の感謝の気持ちを込めて一同を見る。
 王族ともなると、眼差し一つで気持ちを表現できるものなのかと、マグダリーナも関心した。

「さて、心の準備が出来たようだから、ソファへドウゾ。僭越ながら俺がキミタチと女神の神力を繋ぐ手伝いをしよう」

 エデンが漆黒の杖を手にすると、ドロシー王女と騎士団長は頷いてソファに座る。

「神力の受け手になっている間は、目の前の対象の無事を一心に祈り、言葉は発しないこと。声と一緒に女神の神力が抜け出てしまうからな。休憩は自由に取っていい。ただし誰も受け手がいない状態になるのは避けること。休憩する時はただ手を挙げて《場》から離れるだけでいい。あの上空の輝きがなくなるまでそれを続ける。イイカナ?」

 二人は頷いて、それぞれ無言で祈りを捧げ始めた。


「いと貴く 慈愛深き 我らが女神よ」

 エデンの声が響く。

「今この人の子らが 奇跡の輝きを受け止めん 女神の輝きよ 降臨せよ」

 上空から、蜘蛛の糸のような細い輝きが降りてきて、ドロシー王女と騎士団長のいる《場》まで来ると、二人の身体が淡く輝き出した。
 《場》を囲んでいた女神の光花も淡く輝きを放ち、空気中に小さな星のような煌めきが溶けこむ。それは徐々に緑の結界内に流れて満たし始めた。

「これでこっちは大丈夫だな。マグダリーナ、収納を預けていいかな?」

 エデンに言われるまま、彼と手のひらを合わせる。少しピリッと感じたと思ったら、エアが『無事受け取り完了ぴゅん』と教えてくれた。

 収納リストをヨナスに確認してもらう。
 どうやらエデンはリオローラ商団やエルロンド、王宮も回って、各々集めた素材を受け取ってきたらしい。エデンが採取に行っていたという、風霊の緑柱玉もちゃんとあった。

「これで残る素材は、女神の闇花とアルミラージの角だけか……」
 エデンがそう言うと、聞き覚えのあるのんびりした声が聞こえてきた。

『女神の闇花、持って来たんよ~』
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...