ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
184 / 285
九章 噂と理不尽

184. 王妹が、っと。

しおりを挟む
 領地戦の翌日の土日は、学園は休日になる。

 その間にマグダリーナは、例のえげつない噂の対策を相談することにする。

「んー、だったら不審者が実際ルタのテントに入った映像公開する?」
 エステラがそう提案した。

「できるの?!」
「一応セドさんに許可もらって、防犯カメラ的にこっそり飛ばしてたカメラが、数台あるから」

 流石エステラ、抜け目がない。

 いつものショウネシー邸のサロンで、木の実たっぷりの焼き菓子を摘みながら、意見を出し合う。

 レベッカが手を挙げた。
「リーナお姉様が考えたように、もしエリック王子の標の代償が、私とリーナお姉様の令嬢としての評判でしたら、それを回避することで悪い影響とかありませんの?」

「どうなの? ルシンお兄ちゃん」
 エステラに聞かれて、ルシンはじっとマグダリーナとレベッカを見た。

「ある」
「あるの?!」
 マグダリーナは驚いた。

「眠り妖精が二人を眠らせて、ならず者に連れ去られるのが見えた」

「もっと酷くなっていますわ……」
 嘆くレベッカの向かいで、セレンが自分のお皿の菓子を半分、ルシンの皿にずらす。

 今日の焼き菓子は、ウモウの生クリームのヌガーを絡めた、たっぷりの木の実をクッキー生地で包んで焼いたものだ。幸せの味しかしない。

「でしたらもう、噂に関しては覚悟を決めて、犯人を突き止めてドミニクさんと同じテントに押し込めるしか無いですわね」

「待った、それ、私が衛兵に捕まるやつじゃね?」
 ドミニクも手を挙げた。ドミニクのカーバンクルもぶぶぶっと抗議する。


 珍しくダーモットが話し出した。
「眠り妖精の生息地は、オーズリー公爵領だ。オーズリー公爵家はテイマーの家系だから、犯人は間違いなく公爵家の関係者だろうね。それに犯罪は良くない」

「オーズリー公爵家? なんで公爵家が私やレベッカを陥れようとするの?」
 マグダリーナは首を傾げてダーモットを見た。

 ダーモットは静かに言った。
「オーズリー家のテイマーの能力は女性に出やすく、珍しく直系の女性が家門を継ぐ一族なんだ。今の公爵はまだ独身なんだが、学園にいた頃から王弟殿に熱を上げていてね」

 そこで言葉を切ると、ダーモットは少し遠い目をした――

「ある時、眠り妖精を使って、王弟殿と二人っきりで一晩すごそうとしたんだ。ところが王と王妃に邪魔されてね、今後一切王弟殿下に近づいては行けないと……」
「それのどこが、私とレベッカに関係あるんです?」

 ダーモットは肩を竦める。
「リーナはセドリックのお気に入りだし、レベッカの実の母君はブリュー公爵家の出で、王妃の伯母にあたる……二人の仲の良い姿を見て、衝動的にやらかしてるんだろう……」

 マグダリーナは目を瞑った。

 そして、ソファの背にもたれた。

「私もレベッカも、全く関係なかった……なんて理不尽……」

 しかも絶対あの王族親子、知っていたに違いない。


 レベッカはずっと考えこんでいる。
「そのオーズリー公爵にとって、一番悔しいのは王弟殿下様がご結婚されることかしら?」

「さあどうかしら……学園を卒業されてから、もうずっと王弟殿下とお会いしてないんでしょう? 王と王妃への恨みは覚えていても、他の人に想いは移っているかもよ」
 マグダリーナはソファに凭れたままレベッカに答えた。

 レベッカは今度はダーモットに確認する。
「そもそもどうして王弟殿下の方はまだ独身でいらっしゃるの? ダーモットお父様」

「それは……」
 言い淀むダーモットに、シャロン以外の視線が集まる。

「彼は王に代わって、他領や他国の様子を見て報告するのが仕事なのだが……数年前に、とあるダンジョンに入ってから、自分を王弟ではなく王妹だと思うようになったと……」

「王妹……」

 マグダリーナは呆然とした。

「そ……それは……魔法か何か? 解呪はできないの……?」

 マグダリーナの疑問に答えてくれたのは、元宮廷魔法師団長だったドミニクだった。

「ありゃあ、無理だ。ダンジョンの呪いのうちでも特殊なやつだ。何度か解呪魔法をかけたが、全く手ごたえがねぇんだ」

「オーブリーの魔法でも試した?」
 エステラもドミニクを見た。
「こっそり試したが、結果は同じだったぜ」
 ドミニクは首を横に振った。

 オーズリー公爵も貴族だ。ずっと片想いしてた相手が、他の女と結婚するくらいは覚悟があったかも知れない。
 だがまさか心が性転換となると、その感情の複雑さは、マグダリーナには計ることなどできない。対応などお手上げだ。

「ごめんねレベッカ……この問題は難し過ぎる……貴女は傷物扱いさせたくなかったのに……」
「しょうがないですわ。本当の傷物になるよりマシだと思って頑張りますわ。……それに、私も一生、ここで家族と一緒にいたいんですの……もう追い出されるのは、いや……だから、他領にはお嫁に行かないのですわ……」

 ダーモットが頷いていた。



◇◇◇



 セレンが万年反抗期の息子のお世話を、甲斐甲斐しくしている。
 ルシンのカップの中身が空なのに気づき、ティーポットを持って熱い紅茶を注ぐ。

 あの親子大丈夫なの? と思わなくないが、セレンが嬉しそうだから良いのか……

 今日の紅茶はエステラが作った希少なアールグレイなので、ブレアとドーラも来ていた。
 二人のリオとローラは、それぞれ座って、ひとりで上手にナイフとフォークを使ってお菓子を食べている。溢したクッキーの粉も自分で魔法を使ってお片付け出来るようで、ブレアとドーラに褒められていた。

 対するナードは、レベッカの膝の上で、お菓子を食べさせて貰っている。
 それを見てライアンの垂れ耳カーバンクルも、ライアンの膝に乗って、ぶっぶっと甘えた声を出しながら、お菓子を待っている。

 エデンは優雅に紅茶を飲みながら、その様子を眺めていた。

「魔獣は、元が精霊獣だった獣の派生だから、まあまだマシだが、ダンジョンは女神にとって全くの想定外の存在だ。魔法で治せない現象もあるかも知れんなぁ、くははは。あと、ここのダンジョンもとうとう顔を出しはじめたらしい」

「顔……?」
 マグダリーナの視線に、ハンフリーがアッシの映像表示画面を起動する。
「昨日、クマゴー達が撮ってきた映像だ」

 そこには、大きな蛍石と水晶の結晶のような物が映っている。
 その上を飛び交うクマゴーが、保存瓶から新年の女神の花を振り撒いていく。
 光る鉱石の結晶群は、花を吸ってぐんぐん大きくなっていった。

「これでダンジョン内でも、女神の加護が受けられる様になるんだったかな?」
 ハンフリーはニレルとエステラを見た。
 二人は揃って頷いた。

「この状態ってまだ完全にダンジョンになってないのよね? 完成までどのくらいかかるの?」
 マグダリーナはエデンを見た。

「ンーそうだなぁ、あと二年位はかかるんじゃないか?」
「二年……せっかく今の領民は、いい感じの人ばかりなのに、ダンジョン目当てで問題起こすような人がやって来るのは、ちょっと困るかな……」
 いつぞやの王都での騒ぎを思い出して、マグダリーナはため息をついた。

「治安については、アーベル師匠とマゴー達に任せておけばいいだろ。その為にアーベル師匠もギルギス国の冒険者ギルド本部にまで行ってきたんだからさ」
 ヴェリタスは安心するよう、マグダリーナに笑いかけた。

 ライアンも頷く。
「ダンジョン目当ての冒険者は、冒険者ギルドの紹介状がないと入領出来ないとかにしてもいいと思うし、そこはなんとか出来るんじゃないかな」
「そうね、まだ二年あるものね……」
 その頃には、公爵家との問題も片付いていると助かる。マグダリーナは切に願った。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

異世界は流されるままに

椎井瑛弥
ファンタジー
 貴族の三男として生まれたレイは、成人を迎えた当日に意識を失い、目が覚めてみると剣と魔法のファンタジーの世界に生まれ変わっていたことに気づきます。ベタです。  日本で堅実な人生を送っていた彼は、無理をせずに一歩ずつ着実に歩みを進むつもりでしたが、なぜか思ってもみなかった方向に進むことばかり。ベタです。  しっかりと自分を持っているにも関わらず、なぜか思うようにならないレイの冒険譚、ここに開幕。  これを書いている人は縦書き派ですので、縦書きで読むことを推奨します。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...