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九章 噂と理不尽
185. 噂とナントカ商法
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――かくして翌週、学園内に早速噂が流れた。
『領地戦で他団のテントに忍び込んだ生徒は、ショウネシーの令嬢達のテントに忍び込んだ』と――
不埒な噂はよく燃え上がった。
娯楽のない世界では、センセーショナルな噂が娯楽になるのは、王立学園内の限られた社会でも同じ。
マグダリーナの側にはライアンがいるので、表だっては然程影響は無かった。
この世界、偏った言い方をすれば男性社会だ。力の強い男性は、女性や子供を守らなければ行けないという考えが根付いている一面がある。それにマグダリーナにはわからない、男同士の序列のようなものがあった。
領地戦での活躍で、ライアンは同級の生徒達から上位者と認識されたようだった。ショウネシーの令嬢を侮辱すれば、ライアンを敵に回すことになると。
領地経営科の者は、元々マグダリーナに悲劇の令嬢という印象を持っていたこともあり、学生会の証言を素直に受け入れて、悪質な噂を流されるショウネシー家に同情的ですらあった。
魔法科の方も、わざわざヴェリタスの耳に入るように、噂話をする者は居ない。
ヴェリタスに聞いたところによると、領地戦一日目に知り合った『先輩』も、噂話をしている者には、注意をしてくれているらしい。
ところが女子の集団である家政科では、そうは行かない。
二人の王女がそれとなく宥めても、話題が話題なだけに思春期の女子達は過剰反応していた。
貴族の女子にとって、良い縁談は第一の重大事項だ。仲良く振舞っていても、皆ライバル……特にレベッカのように器量よく愛想があってモテる女の子は、早急に潰したいというのが、野心家女子達の偽らざる本音だ。
一度レベッカが「学生会と学生会長が保証してくださってるのに、そんな風におっしゃるのは、エリック王子と学生会の皆様を信用なさっていないということですのね。そして自ら下劣な噂が大好きだと主張していらっしゃる……貴女方のお顔とお名前、忘れなくってよ」と強気にでると、今度はあからさまにレベッカを無視しはじめた。
レベッカは、マグダリーナとエステラから、女子の嫌がらせあるあるを聞いていたので、ミネットや領地戦で応援してくださったお姉様達には、身の回りの物が紛失したりしない様に、小型大容量の収納鞄を贈った。そしてしばらくは自分と距離を置くように頼んでいた。
彼女達は心得ているのか、レベッカに感謝して、本当に辛い時は我慢しないで遠慮なく相談してと、めいめいレベッカの手を握って元気付けてくれ、廊下や教室ですれ違うと、こっそり微笑んでくれるようになった。
◇◇◇
「金と星の魔法工房!?」
ミネット・ウィーデンに相談があると言われて、マグダリーナとライアンは学園のサロンに集まってお茶をしていた。
「ええ、そこにいらっしゃる星の魔女様が私の悩みを解決してくださるだろうと……そしてこれが、魔女様に会う鍵だとおっしゃるので、金貨一枚で買いましたの」
ミネットは鞄から一冊の本を取り出した。
ライアンが手袋を嵌め、そっと本を手に取り、題名を読み上げる。
「わたしの魔法使い 著 カレン リオローラ出版」
(は?)
「金貨一枚以上の、価値のある本でしたわ……」
「中を拝見しても?」
「ええ、是非どうぞ」
ライアンが本を読んでる間に、マグダリーナはもう一度詳しく、ミネットから事情を確認する。
「えーと、ミネットさんは悩みがあって、王都の街で街頭占い師に見てもらったと……?」
「ええ、お顔は外套で分かりませんでしたが、褐色のお肌が神秘的な占い師でしたわ」
(ルシンじゃん)
「歯に衣着せぬ物言いで、私の悩みをビシバシ当てて行くのです」
(ルシンじゃん)
「そして全ては、この本を持って金と星の魔法工房で、星の魔女に会えば解決すると……」
(何商法……?)
「それで、その工房に一緒に行って欲しいと……?」
本を閉じて、ライアンは丁寧にミネットに返した。
ミネットは頷く。
「できればその……レベッカさんには内緒で……」
ああ、つまり彼女の悩みはレベッカのことなのだ。
マグダリーナとライアンは、放課後、領地経営科の課題があるからと、ヴェリタスとレベッカにはチャーで先に帰ってもらうことにした。
二人が帰ったことを確認して、マグダリーナとライアンは、ミネットを連れてコッコ車に近づいた。
「グレイ、金と星の魔法工房まで行ってちょうだい」
グレイは驚いた顔をした。
「丁度娘達がそちらにお邪魔しているので、拾って帰るのをお願いしようかと思っていたところでした」
「…………グレイ、貴方ひょっとして、脱毛魔法してもらった?」
グレイの顔をまじまじ見つめ、マグダリーナは気づいた。たまにこんにちはしている、顎の剃り残しが無いのだ。つるりん美肌だ。
コッコ車の扉を開けて、グレイは答えた。
「はい。娘達がしたいと言うので……魔法使い殿の腕は信用していますが、つい娘を心配する親心で、念の為私が先に施術して体調の異常など出ないか確認させていただきました」
双子は今十五歳。
エステラの脱毛推奨年齢は十六歳以上だが、それ以下でも別に構わないらしい。成人したのだからこの機会にと、エステラに頼んだらしい。
「どうだった?」
「朝夕の髭剃りの手間がなくなり、意外と快適ですね」
コッコ車に入り、マグダリーナも考え込んだ。
流石にどの範囲まで脱毛したかは、聞けなかった……
『領地戦で他団のテントに忍び込んだ生徒は、ショウネシーの令嬢達のテントに忍び込んだ』と――
不埒な噂はよく燃え上がった。
娯楽のない世界では、センセーショナルな噂が娯楽になるのは、王立学園内の限られた社会でも同じ。
マグダリーナの側にはライアンがいるので、表だっては然程影響は無かった。
この世界、偏った言い方をすれば男性社会だ。力の強い男性は、女性や子供を守らなければ行けないという考えが根付いている一面がある。それにマグダリーナにはわからない、男同士の序列のようなものがあった。
領地戦での活躍で、ライアンは同級の生徒達から上位者と認識されたようだった。ショウネシーの令嬢を侮辱すれば、ライアンを敵に回すことになると。
領地経営科の者は、元々マグダリーナに悲劇の令嬢という印象を持っていたこともあり、学生会の証言を素直に受け入れて、悪質な噂を流されるショウネシー家に同情的ですらあった。
魔法科の方も、わざわざヴェリタスの耳に入るように、噂話をする者は居ない。
ヴェリタスに聞いたところによると、領地戦一日目に知り合った『先輩』も、噂話をしている者には、注意をしてくれているらしい。
ところが女子の集団である家政科では、そうは行かない。
二人の王女がそれとなく宥めても、話題が話題なだけに思春期の女子達は過剰反応していた。
貴族の女子にとって、良い縁談は第一の重大事項だ。仲良く振舞っていても、皆ライバル……特にレベッカのように器量よく愛想があってモテる女の子は、早急に潰したいというのが、野心家女子達の偽らざる本音だ。
一度レベッカが「学生会と学生会長が保証してくださってるのに、そんな風におっしゃるのは、エリック王子と学生会の皆様を信用なさっていないということですのね。そして自ら下劣な噂が大好きだと主張していらっしゃる……貴女方のお顔とお名前、忘れなくってよ」と強気にでると、今度はあからさまにレベッカを無視しはじめた。
レベッカは、マグダリーナとエステラから、女子の嫌がらせあるあるを聞いていたので、ミネットや領地戦で応援してくださったお姉様達には、身の回りの物が紛失したりしない様に、小型大容量の収納鞄を贈った。そしてしばらくは自分と距離を置くように頼んでいた。
彼女達は心得ているのか、レベッカに感謝して、本当に辛い時は我慢しないで遠慮なく相談してと、めいめいレベッカの手を握って元気付けてくれ、廊下や教室ですれ違うと、こっそり微笑んでくれるようになった。
◇◇◇
「金と星の魔法工房!?」
ミネット・ウィーデンに相談があると言われて、マグダリーナとライアンは学園のサロンに集まってお茶をしていた。
「ええ、そこにいらっしゃる星の魔女様が私の悩みを解決してくださるだろうと……そしてこれが、魔女様に会う鍵だとおっしゃるので、金貨一枚で買いましたの」
ミネットは鞄から一冊の本を取り出した。
ライアンが手袋を嵌め、そっと本を手に取り、題名を読み上げる。
「わたしの魔法使い 著 カレン リオローラ出版」
(は?)
「金貨一枚以上の、価値のある本でしたわ……」
「中を拝見しても?」
「ええ、是非どうぞ」
ライアンが本を読んでる間に、マグダリーナはもう一度詳しく、ミネットから事情を確認する。
「えーと、ミネットさんは悩みがあって、王都の街で街頭占い師に見てもらったと……?」
「ええ、お顔は外套で分かりませんでしたが、褐色のお肌が神秘的な占い師でしたわ」
(ルシンじゃん)
「歯に衣着せぬ物言いで、私の悩みをビシバシ当てて行くのです」
(ルシンじゃん)
「そして全ては、この本を持って金と星の魔法工房で、星の魔女に会えば解決すると……」
(何商法……?)
「それで、その工房に一緒に行って欲しいと……?」
本を閉じて、ライアンは丁寧にミネットに返した。
ミネットは頷く。
「できればその……レベッカさんには内緒で……」
ああ、つまり彼女の悩みはレベッカのことなのだ。
マグダリーナとライアンは、放課後、領地経営科の課題があるからと、ヴェリタスとレベッカにはチャーで先に帰ってもらうことにした。
二人が帰ったことを確認して、マグダリーナとライアンは、ミネットを連れてコッコ車に近づいた。
「グレイ、金と星の魔法工房まで行ってちょうだい」
グレイは驚いた顔をした。
「丁度娘達がそちらにお邪魔しているので、拾って帰るのをお願いしようかと思っていたところでした」
「…………グレイ、貴方ひょっとして、脱毛魔法してもらった?」
グレイの顔をまじまじ見つめ、マグダリーナは気づいた。たまにこんにちはしている、顎の剃り残しが無いのだ。つるりん美肌だ。
コッコ車の扉を開けて、グレイは答えた。
「はい。娘達がしたいと言うので……魔法使い殿の腕は信用していますが、つい娘を心配する親心で、念の為私が先に施術して体調の異常など出ないか確認させていただきました」
双子は今十五歳。
エステラの脱毛推奨年齢は十六歳以上だが、それ以下でも別に構わないらしい。成人したのだからこの機会にと、エステラに頼んだらしい。
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