ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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十章 マグダリーナとエリック

192. 海の動画

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 週末が来て、そろそろショウネシー領や各神殿で、例の女神教の動画が配信されている頃。

 マグダリーナ達は金と星の工房で、スラゴー達の美健施術を受けたあと、寛ぎながら、ショウネシーの海の紹介動画を見ていた。

 この動画は、桃色星竜形態のモモに乗って、エステラとニレルが絶景スポットやショウネシー領の清潔さと、その海の豊かさと美しさを説明していく。

 ただしエステラは姿変えで、十九歳程の年齢になっていた。

 海の紹介が終わると、二人が海から直接錬金術で、塩や金、銀などの貴金属も取り出してみせてた。
 そしてニレルが真珠の指輪を作り、青い光が照り返す幻想的な洞窟で、跪いてエステラの指に真珠の指輪を嵌めた。

 場面は変わり自宅のキッチンで二人は料理を始める。
 貝の身のミルクスープを作っているんだろう。めちゃくちゃ効果的に、海で獲った塩で味付けする場面がでくる。しかもお約束通り、高い位置から塩を振りかけている。
 作り終わると、ニレルがエステラに給仕する。確かにアンソニーが憧れるのも頷ける格好良さだ。
 そうして二人でスープを食べて、幸せそうに微笑む様子で動画は終わった。

 最後に、ショウネシーの海塩で幸せなひと時を――とロゴが入る。


 これはいい動画だ。
 海の青と、純白のドレスに真珠を身につけたエステラと、同じく白い衣装のニレルに桃色のモモ。色の対比が素晴らしく、神秘的で清潔感とロマンスがある。
 何より二人の顔が良い。
 そして後半の二人は黒とベージュの衣装になって、ぐっと生活感をだしてきた。恋人同士が夫婦になったかのように。

 二人とも、自分達の顔の使いどころを、よくわかっている。

「素敵……!! これは海のイメージが一新されるんじゃないんですの?」
 レベッカが興奮して言った。

「僕も編集をお手伝いしました!」
 嬉しそうに言うアンソニーを、マグダリーナは全力で褒めた。
「すごいわアンソニー! 色々出来ることが増えてるのね!」
「はい!!」

 ドーラは上機嫌で言った。
「凄いのよ。この動画を魔法通販の紹介頁に載せた途端、塩の大量注文が殺到してるのよ! あと映像表示装置の注文も殺到してるわ」

 マグダリーナは驚いて聞いた。
「リオローラの取引先は他国の商会や商団が多いんでしょう? 映像表示装置を買っても、動画はどうするの?」
「もちろん動画も売ってるのよ。マンドラゴラの注意点とか、字や計算の動画とか売れてるわよ。今はこの動画の注文が圧倒的ね。あと今日から女神教の動画は無料配信されてるわ」
 ただし、魔法関連の動画は他国と他領への配信は禁止されている。リーン王国の強みは魔法使いと魔道具をはじめとする魔法技術なので、国の方針として他国へはまあ当然だろう。領内限定なのは、今配信している動画は、もともとショウネシー領の領民……全く魔力を意識したことのない平民向けの、魔力感知と魔力操作の基礎の基礎からなので、本人の努力次第で、本当に魔法が使えるようになってしまう。それが本来の姿であり、女神教にも沿ったことなのだけど、いきなり魔法を手にして常識に外れた問題を起こすものも出る可能性を考えて、魔法は倫理観も含め師から習うものと決められた。なので領民はエステラのことを「師匠」と呼んでいる。

「仕事がはやいわ……」
「配信系はディオンヌ商会に委託してるから、マゴー達が上手くやってくれてるのよ。それから、税金のこと、ありがとう。流石、私の姪だわ。よくぞ王と交渉してくれたわね」
 ドーラ伯母様は、マグダリーナを抱きしめた。

 先に動画を確認済みだった、ブレアとエデン、ルシン、セレンは別室でカードゲームをしている。
 ヨナス、デボラ、アーベルは元金の神殿が珍しくて散策にいっているし、めいめい自由に過ごしていた。

 ライアンから聞いたところによると、ダーモットはスラゴーのマッサージが気に入ったようで、施術中はとても幸せそうにしていたらしい。

 エステラとニレルは、恥ずかしいからと動画鑑賞中はお茶と果物の準備をしていて、さっそく二人と従魔達が、ワゴンを引いてやってくる。
 給仕はスラゴーに任せて、各々ソファに座る。

「じゃーん、見て!」
 エステラは髪をかき上げて、長い耳をよく見えるようにした。その耳たぶから、真珠の耳飾りが下がっている。

「穴開けたの?! 痛くなかった?」
 マグダリーナは驚いて、エステラの耳を見る。
 エステラは耳飾りを外した。
「大丈夫よ。ほら、炎症もしてないでしょう? 魔法で綺麗に開けれるようにしたの。それでも初めの一カ月くらいは、念の為のんびり穴を安定させた方がいいと思うのよね。二人とも今開けてく?」

 マグダリーナはレベッカと目配せしあい、勇気を出して頷いた。

 ――そして驚くほど、あっさり終わった。

 二人のファーストピアスは、ササミが作った純金製で、これにも炎症予防の魔法が付与されているらしい。
 そっと耳たぶに触れて、金の耳飾りの感触を確認して、ようやく耳に穴が開いたんだと実感した。

「本当に、全然痛くなかったわ。ありがとうエステラ!」
 マグダリーナとレベッカはお礼を言った。

「それから普段はこういう、小さめの一粒真珠の耳飾りをすれば良いかなって、作っておいたの。使ってね」

 マグダリーナとレベッカは、エステラをぎゅっと抱きしめた。

 エステラはゆるゆるに微笑んで、抱きしめ返すと、思い出したように言った。

「寄生スライムの件は、先方の予定に合わせるわ。私も興味あるし、エデンが言ってた事も確認したいから、セレンさんにも手伝ってもらうわ」

 エデンが言ってた事ってなんだろうと思ったら、レベッカが答えてくれた。

「エリック王子がエルフェーラ様の生まれ変わりかも知れないって言ってたことですわよね? でも私、なんだか違う気がするんですの……」

 マグダリーナも、やっと思い出した。
「そういえば、そんな事言ってたっけ?」

 レベッカは頷いた。
「もし本当にエルフェーラ様だったら……そう考えても、なんだかあの王子様にトキメキませんの……もしエルフェーラ様が人間の男の子になったのなら、ライアンお兄様と同じかそれ以上に好きになると思っていましたのに……」

「なるほど」
「なるほど」
 マグダリーナとエステラは興味深く、なるほどを繰り返した。

 そしてレベッカは、エステラに聞く。
「エステラお姉様は、ニレルさんと珍しいスライム、どちらにトキメキますの?」
「スライム」

 即答だった。エステラの肩の上で器用に三匹のスライムが景気良く跳ねる。
 とうとうモモはイケスラパウダーまで会得していた。

 ニレルが目を見開いて、呆然とこっちを見ている。

「ニレルは唯一無二の実家だから。私にとってはトキメキより深く大事な場所にいるし」
 エステラは兎に飾り切りされたリンゴを齧りながら、こともなげにそう言った。

 ニレルの顔がみるみる上気し、とうとう両手で顔を覆って俯いた。
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