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十章 マグダリーナとエリック
193. 寄生スライム
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「どうもはじめまして。エステラです。こちら、ハラ、ヒラ、モモ、ゼラにササミ、そしてニレルとセレン、それからこの治療院の治療師イラナです」
「エリック・エル・リーンだ。よろしく頼む」
一人として、人族のいないメンバーに、ずらり囲まれて、エリックは普段より引き気味に挨拶した。
特に、黄と青のスライムから、謎の圧を感じる……
と言うか、既に。
治療用寝台に腰掛けるエリックの周囲を跳び回っている。
「対象との対話は、そちらのヒラとハラがします。私とニレルとイラナは、もしもの時の対処と治療係、最後にセレンさんが、鑑定で状態を確認します。エリックさんは安心してくつろいで下さい」
エリックは頷いた。
◇◇◇
「ようこそブロッサム、来てくれて嬉しいわ」
アスティン邸のサロンで、シャロンは王妃を出迎えた。
「妊娠中の貴女を呼び出す訳に行かないもの。エリックの治療のついでに来てしまったわ。身体の調子はどう?」
アスティン邸はシャロンの身内しかいない。二人は学生時代のように砕けた態度で向き合った。
「今のところ順調よ。でも人族がハイエルフを出産するのは初めてだから、万が一が無いように、出産まではここで大人しくすることにしたの」
「そう、会えないのは寂しいけど、身体の為にはその方がいいわ。出産までと言わずに、産後も休息が重要よ。無理はしないでね」
メイドがお茶と果物を給仕していく。
「ええ、もちろんよ。子供は産んだ後の方が大変ですもの」
「そうなのよ! 乳母やメイド、色んな人達の手を借りて、なんとか五人、王妃としての勤めを果たしたわ……でもそれぞれに伴侶を迎えるまで、まだまだ気は抜けないわ。私は早くお婆ちゃんになりたい……」
「まあ、なんて気の早いこと。でしたらエリック王子が無事王位を継いだら、ショウネシーで隠居するなんて如何?」
「良いわね、セドリックは仕事させないと早く老けるタイプだと思うのよ。ここで畑仕事でもさせようかしら」
二人は少女のように、笑いあった。
◇◇◇
「ヒラだよぉ、こんにちはぁ」
「ハラなの。お名前は?」
『名前ない……この家はエリックって呼ばれてる』
ヒラとハラの呼びかけに、エリックとは明らかに違う小さな声が、彼の喉を通って聞こえて来る。
エリックは驚いて、手で口を塞いだ。
エステラは口を塞がないよう、首を横に振って指示する。
「エリックはぁ いっぱい死にそうになったでしょぉう? そこから出ようと思わないのぉ?」
『そう……すっごく怖かった。お家が壊れないよう頑張った……だってお外はもっと、危険……怖いよぉ……』
ヒラとハラが寄生スライムとおしゃべりしている間、イラナはエリックの額に手を翳して、心身の状態を確認する。そして、ニレルとエステラを見て、首を横に振った。
アウト判定だ。
この寄生スライムは、エリックの生殖機能に良くない影響を与えていると判断された。
エステラはヒラとハラに、寄生スライムを取り出す作戦に移行するハンドサインをする。
二匹のスライムは頷いた。
「タマ! キミのぉ お名前はぁ、タマだよぉ」
ヒラはズビシィッと、エリックの股間を指して言った。
流石にエリックもどこにスライムが寄生しているのかわかって、赤くなってから青ざめた。ヒラに名づけられたタマがぷるぷる震えるので、該当箇所も痛み出したのだ。
エステラが杖を取り出そうとするのを、ニレルが止める。
ニレルはくるりとエステラに後ろを向かせると、自ら杖を取った。
「我、創世の女神の名において、奇跡を求めん」
ハラが錬成空間を作る。ヒラがエリックの身体から転移魔法で、ハラの錬成空間にタマをぺしょんと抽出した。
「彼のもの、あるべき命の姿に疾く戻し給え!」
◇◇◇
「それでこれが、その寄生スライム……? 随分と元気がないわ……」
マグダリーナは、純白の珍しいスライムを見て呟く。
ハラが錬成空間からそのまま保護容器を作成し、そこにタマと名付けられたスライムは、ぺしょっと崩れて寝そべっていた。
「宿主が死なないように、この子も頑張ってたのよ……だから殆ど力を使い切ってたの。あのまま身体の中で死んでたら、そこから腐り落ちてくとこだったわ……お互い間一髪だったわね」
タマを取り出した後、潰れていた睾丸をニレルが蘇生させて、エリック王子の身体は正常な状態を取り戻した。
王妃と二人、今日はアスティン邸でゆっくりして、明日王都に戻るらしい。
治療が終わって、いつものショウネシー邸サロンに集まり、エステラ達は一息ついた。
ヒラとハラが、キッチンでタマの為の回復薬を作っているので、アンソニーとレベッカは見学に行っている。
「お薬できたのー」
「これでぇ、タマ元気ぃになるのぉ」
スライム達が転移魔法で戻って来た。
レベッカがマグダリーナの隣に座る。
アンソニーが保護容器の蓋をそっと開けると、ヒラが小さな瓶に入ったポーションを掲げ、ハラがそっとスポイドで一滴、タマの上に落とした。
ピカーっとタマが魔法の輝きに包まれる。ぺしょっていたスライムボディが、たちまちふわぷるのつやつやスライムボディになった。ハラとヒラに比べたら、少し小さめの。
タマもびっくりして、パチパチと大きなお目々を瞬かせた。
警戒しているのか、保護瓶から出ようとはしない。
「もうぉ、人の身体をお家にしちゃダメだよぉ」
ヒラに優しく言われて、タマは頷いた。
エステラはヒラの持っていた瓶を、満足げに眺めている。
「良い出来のエリクサーだわ。真珠と世界樹の葉も入ってるのね」
褒められて、スライム達はガッツポーズする。
レベッカが溜息をついた。
「通りで材料が貴重素材ばかりだと思いましたわ……」
「エリック・エル・リーンだ。よろしく頼む」
一人として、人族のいないメンバーに、ずらり囲まれて、エリックは普段より引き気味に挨拶した。
特に、黄と青のスライムから、謎の圧を感じる……
と言うか、既に。
治療用寝台に腰掛けるエリックの周囲を跳び回っている。
「対象との対話は、そちらのヒラとハラがします。私とニレルとイラナは、もしもの時の対処と治療係、最後にセレンさんが、鑑定で状態を確認します。エリックさんは安心してくつろいで下さい」
エリックは頷いた。
◇◇◇
「ようこそブロッサム、来てくれて嬉しいわ」
アスティン邸のサロンで、シャロンは王妃を出迎えた。
「妊娠中の貴女を呼び出す訳に行かないもの。エリックの治療のついでに来てしまったわ。身体の調子はどう?」
アスティン邸はシャロンの身内しかいない。二人は学生時代のように砕けた態度で向き合った。
「今のところ順調よ。でも人族がハイエルフを出産するのは初めてだから、万が一が無いように、出産まではここで大人しくすることにしたの」
「そう、会えないのは寂しいけど、身体の為にはその方がいいわ。出産までと言わずに、産後も休息が重要よ。無理はしないでね」
メイドがお茶と果物を給仕していく。
「ええ、もちろんよ。子供は産んだ後の方が大変ですもの」
「そうなのよ! 乳母やメイド、色んな人達の手を借りて、なんとか五人、王妃としての勤めを果たしたわ……でもそれぞれに伴侶を迎えるまで、まだまだ気は抜けないわ。私は早くお婆ちゃんになりたい……」
「まあ、なんて気の早いこと。でしたらエリック王子が無事王位を継いだら、ショウネシーで隠居するなんて如何?」
「良いわね、セドリックは仕事させないと早く老けるタイプだと思うのよ。ここで畑仕事でもさせようかしら」
二人は少女のように、笑いあった。
◇◇◇
「ヒラだよぉ、こんにちはぁ」
「ハラなの。お名前は?」
『名前ない……この家はエリックって呼ばれてる』
ヒラとハラの呼びかけに、エリックとは明らかに違う小さな声が、彼の喉を通って聞こえて来る。
エリックは驚いて、手で口を塞いだ。
エステラは口を塞がないよう、首を横に振って指示する。
「エリックはぁ いっぱい死にそうになったでしょぉう? そこから出ようと思わないのぉ?」
『そう……すっごく怖かった。お家が壊れないよう頑張った……だってお外はもっと、危険……怖いよぉ……』
ヒラとハラが寄生スライムとおしゃべりしている間、イラナはエリックの額に手を翳して、心身の状態を確認する。そして、ニレルとエステラを見て、首を横に振った。
アウト判定だ。
この寄生スライムは、エリックの生殖機能に良くない影響を与えていると判断された。
エステラはヒラとハラに、寄生スライムを取り出す作戦に移行するハンドサインをする。
二匹のスライムは頷いた。
「タマ! キミのぉ お名前はぁ、タマだよぉ」
ヒラはズビシィッと、エリックの股間を指して言った。
流石にエリックもどこにスライムが寄生しているのかわかって、赤くなってから青ざめた。ヒラに名づけられたタマがぷるぷる震えるので、該当箇所も痛み出したのだ。
エステラが杖を取り出そうとするのを、ニレルが止める。
ニレルはくるりとエステラに後ろを向かせると、自ら杖を取った。
「我、創世の女神の名において、奇跡を求めん」
ハラが錬成空間を作る。ヒラがエリックの身体から転移魔法で、ハラの錬成空間にタマをぺしょんと抽出した。
「彼のもの、あるべき命の姿に疾く戻し給え!」
◇◇◇
「それでこれが、その寄生スライム……? 随分と元気がないわ……」
マグダリーナは、純白の珍しいスライムを見て呟く。
ハラが錬成空間からそのまま保護容器を作成し、そこにタマと名付けられたスライムは、ぺしょっと崩れて寝そべっていた。
「宿主が死なないように、この子も頑張ってたのよ……だから殆ど力を使い切ってたの。あのまま身体の中で死んでたら、そこから腐り落ちてくとこだったわ……お互い間一髪だったわね」
タマを取り出した後、潰れていた睾丸をニレルが蘇生させて、エリック王子の身体は正常な状態を取り戻した。
王妃と二人、今日はアスティン邸でゆっくりして、明日王都に戻るらしい。
治療が終わって、いつものショウネシー邸サロンに集まり、エステラ達は一息ついた。
ヒラとハラが、キッチンでタマの為の回復薬を作っているので、アンソニーとレベッカは見学に行っている。
「お薬できたのー」
「これでぇ、タマ元気ぃになるのぉ」
スライム達が転移魔法で戻って来た。
レベッカがマグダリーナの隣に座る。
アンソニーが保護容器の蓋をそっと開けると、ヒラが小さな瓶に入ったポーションを掲げ、ハラがそっとスポイドで一滴、タマの上に落とした。
ピカーっとタマが魔法の輝きに包まれる。ぺしょっていたスライムボディが、たちまちふわぷるのつやつやスライムボディになった。ハラとヒラに比べたら、少し小さめの。
タマもびっくりして、パチパチと大きなお目々を瞬かせた。
警戒しているのか、保護瓶から出ようとはしない。
「もうぉ、人の身体をお家にしちゃダメだよぉ」
ヒラに優しく言われて、タマは頷いた。
エステラはヒラの持っていた瓶を、満足げに眺めている。
「良い出来のエリクサーだわ。真珠と世界樹の葉も入ってるのね」
褒められて、スライム達はガッツポーズする。
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