ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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十章 マグダリーナとエリック

208. 新しい神

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 マグダリーナ達は、舞踏会が終わった後も何故か王宮から帰れなかった。

 先日呼び出された王宮の広間で、ハイエルフ達と共にお茶にお呼ばれした。

「大丈夫? シャロン。もし疲れてるなら、横になれるソファを用意するわよ」
 ブロッサム王妃が、シャロンに声を掛ける。

「心配いらなくてよ。オーズリー公爵とエデンの舞踊のおかげで、いつもより調子が良いのよ」
「それなら良いのだけど……イラナ様、シャロンのことよろしく頼みますね」
「ええ、かしこまりました」
 イラナはシャロンに寄り添い、綺麗に笑う。

 給仕がお茶と菓子を配りおわると、セドリック王は人払いをするように指示する。

 ここに居るのは、王と王妃、それに末の第三王女を除いた王の子達とショウネシー一家、アスティン一家、オーズリー一家、そしてドーラとジョゼフ、ハイエルフ達だ。
 それからダーモットがアンソニーも同席させたいと言うのをセドリックが承知して、ヒラとハラが他の従魔達と一緒に、アンソニーも連れてきてくれた。

「さて、いつも通り皆楽にせよ。まず聞きたい事がある」
 セドリックがそういって、一口紅茶を飲む。

「オーズリーの精霊が言っておった事だが、どうやら聴こえておるものと、そうではないものがおるようだ。アンソニー以外で聞いておらぬ者はおるか?」

 アグネス王女が手を挙げた。
「え? 私だけ?」
「うむ、であればアグネスよ。其方は知らぬ方が良いと言う事だ。下がって明日に備えよ」

「嫌よ! 気になるじゃ……」
 最後まで言えずに、アグネス王女は眠りに落ちた。

 ヴィオラの肩には、いつの間にか眠り妖精のセワスヤンが居た。

「グズる子は眠らせとくのが、手っ取り早くてよ」
 ヴィオラはそっけなく言った。
 王妃はそっと、マゴーにアグネス王女を寝室まで運ぶようお願いする。

「ヒラも出来るの!」
「ハラもぉ、出来るよぉ!」

 どうやらエステラのスライム達はセワスヤンにライバル意識があるようだった。
 エステラは宥めるように、二匹を撫でる。

「タマは出来ない……リーナ、タマ出来ないとダメ?」
「別に出来なくてもいいわよ」
 できたらできたで、何かやらかしそうなので、マグダリーナはそう言っておく。

「では本題だが、あの精霊が言っておった、精霊王、新たな神とはなんの事であるか? エデン、其方は心当たりがあるのだろう」
 セドリック王はズバリと本題に入って来た。

 エデンは指でテーブルを叩き、思案した。
「まあ、いいか。これも女神の思召しだ」
 エデンもまた紅茶で唇を湿らせる。

「創世の女神は存在した時から、『女』神だった。肉体のない大いなる光の存在であるのに、性別はある。それに意味があるのなら、番うべき相手が必要なのではないかと考えたわけだ。それで試しに造られた番い候補が、まあ俺だな。だが女神も、造ってみたものの、なんか違う、だったわけだ」

 なるほど、それでエデンに与えられた権能が《不滅》なのだったのだろう。女神と並ぶ存在が、簡単に死んでは困ると。

「それで色々試行錯誤を重ね、最終的に女神は己の創造の神力を込めた卵をエルフェーラと金のハイドラゴンに渡した」

 あれ……それ、は。
 マグダリーナはチラリとニレルを見た。彼の唇が微かに震えている。
 だったらエステラは、

「自分が造るからいけないのだろうと、彼らに番いとなる《神》を造らせたのさ。だが卵から孵っただけじゃ、神にはなれない。最後の仕上げが必要だ」
「それが《神の御座位》か?」

 セドリックの言葉に、エデンは肩を竦めた。
「そ。たった一人の為に、『その時』に現れる女神の奇跡だ。ところが嘆かわしいことに、ハイエルフの中に何を勘違いしたか、その御座位を手にした者が神になれると思い吹聴した者がいる。それを耳にした当時のエルフ族の王が、己が神にならんとして……後はまあ、あの動画通りだな」

「左様か。となれば、その精霊王というのは、」
 セドリック王は言葉を切った。

 声を殺して泣いているエステラを見て、誰もが理解してしまった。

 ニレルがそっと、エステラを抱きしめた。
「ごめん……ごめん、エステラ……」
「ど……して」
「エステラ……」
「おししょ……も、ニレルもエデンもルシンも……誰も教えてくれなかった……の……」
「ごめん……悪いのは、全部僕なんだ……」

 ニレルがエステラを抱きしめる手に力が入る。

「神になんかなりたくなかった。神はあまりにも、人とは遠い……遠すぎる……」

 エステラは、ニレルの腕を振り解いた。
「そんなことない! 女神様はいつだって、力を貸してくださるもの! ……でもっ」

 エステラはそのまま、転移魔法で姿を消した。
 連れて行ったのはヒラだけだ。
 モモとゼラとササミ(メス)も慌てて転移魔法で後を追った。

 ぽつりとハラだけが残った。
「ハラ……」
 マグダリーナはそっとハラを撫でる。

「ハラ、エステラの側に行っても、いいなの?」
 ハラはしょんもりと俯いた。

「当然じゃない。皆んな居るのに、ハラだけ居ないとエステラはすごく心配するし、寂しいと思うの」

「でも……ハラ、知ってたのに黙ってたの……」
 ハラは元々ディオンヌの精霊獣だ。創世時代から共にいて、その記憶と知識を共有していた。

 マグダリーナはハラを手のひらに乗せた。
「それでも……エステラはやっぱり、ハラが大好きだと思うのよ」

 そしてニレルを見る。彼はその場で、まるで雨に打うたれたているかのように、立ち尽くし、項垂れている。

 マグダリーナはニレルに傘を差し出すように、ハラを差し出した。
「ちゃんとエステラを追いかけて、話をしないとダメよ」

「僕に云える言葉など……」
「ニレル、貴方は既にエステラを自分のハイエルフにしてしまった。言える言葉だけじゃダメなの! やりたいこと、思ってること、全部エステラに言わなきゃ!! だって貴方エステラの実家でしょ。 こんな夜に彼女を一人にしないで!!」

 マグダリーナはハラをニレルの腰帯に挟んだ。

「ほら、はやく行って! ハラ、転移!」
 マグダリーナがハラを急かせた。
 二人は転移魔法の光に包まれて、消えた。


 これで良かったのかどうか、わからない……二レルはなんだか初めて会った時の印象と離れて、危うい男だと感じるから。だけど、あの二人は離れさせちゃいけないと、マグダリーナの中心で、りーんりーんぷるぷるすーんと歌う、もう一人の自分が言うのだ。



「それでハイエルフの長よ、新たな神を迎えるに当たって、我が国は何が必要か」

 セドリック王の言葉に、エデンはニヤリと笑った。
「そりゃもちろん、聖エルフェーラ教国に負けないことさ」
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