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十一章 笛吹き
221. 流民の罠
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実際にタマの浄化魔法が功を奏したという事は、公爵の聞いた笛の音には、魔力が合わない以外に、穢れを撒き散らす何かがあるのだろう。
マグダリーナ達はオーズリー公爵邸を後にすると、中央街へ確認へ向かうことにする。
今度はちゃんと、グレイも連れて。
件の一座の周りには、人だかりが出来ていてすぐにわかった。
年嵩の踊り子の周りを、十七から二十三歳くらいの若く美しい踊り子たちが円になって踊っている。その後ろに楽器を奏でる男たちがいて、中心の年嵩の踊り子は、両手に指輪から鎖で繋がれた球体の飾りを持っている。
あれが笛なのだろう。振り回される度に、鈴とは違う音が、途切れることなく踊りに合わせて音階を奏でている。
「すげぇ……」
ヴェリタスが思わず息を呑む。
マグダリーナとアンソニーも見惚れた。
だが、ライアンとレベッカだけが、静かだった。
「どうしたの?」
マグダリーナは二人の異変に気づいて、振り返る。
ライアンとレベッカは青ざめて震えていた。
「レベッカ?」
マグダリーナはレベッカの手を握った。
「どうして……?! 教国に行ってしまったって……」
その呟きに、マグダリーナの心臓は、一気に速さを増した。
ライアンが、マグダリーナとトニーを庇うように前に出る。ライアンの頭の上のヴヴも、興奮してぶっぶと鳴いた。
グレイも、直ぐに抜剣出来るように構える。
「母様……」
ライアンが、微かな空気を絞り出すように呟いたとき、笛を持った踊り子の視線が、こちらを向いた。そのくちびるが動く。
――逃 げ て――と。
「帰りましょう!!」
マグダリーナは声を落として、レベッカとアンソニーの手を取った。そしてその場を離れようとした。
だがその時、突然火蛇が二体現れる。
グレイが逃げ出す民衆から、子供達を庇うように覆い被さった。すぐに防御魔法も展開する。
以前、学園に熊師匠が現れた時も、犯人は流民だった……流民には魔獣を召喚する術があるのだ……マグダリーナはそう判断して、タマがうっかり火蛇に潰されないように抱きしめた。
「うわっ、離せよ!!」
いつのまにか若い踊り子達が、ライアンに群がって、連れ去ろうとしている。
「ねぇ、妹はどっち? 青い髪の子? ピンクの髪の子?」
「ライアン様!!」
「俺は大丈夫、グレイは火蛇に集中してくれ!」
ライアンは力任せに踊り子達を振り払うと、レベッカの元に行った。
アンソニーがもう一体の火蛇に向かう。マグダリーナは慌ててアンソニーとグレイの支援に回った。
レベッカとヴェリタスは、いつの間にか出来ている透明な壁を叩く。どうやら結界も張られたようだ。
「チャー、この結界から、転移で抜けられるか?」
チャーは首を横に振った。
「何処か綻びが出ないと無理そうです」
「そう、じゃあやるしか無いですわ」
レベッカは拳を握り締めた。
ドォォォォンと、レベッカの拳で結界が揺れる。
続けてヴェリタスも、身体強化をして拳を打つけた。
「なんだ?! くそっ」
楽器を演奏していた男の一人が、慌てて剣を取り出した。
「お前らはいつでも撤退出来るよう、準備しておけ!」
残りの男たちにそう指示して、レベッカとヴェリタスのところへ向かう。
「妹の方は、五体満足じゃ無くてもいいらしいからな」
狙いがレベッカと分かって、ライアンは短剣を構える。
「…………っ!!」
ライアンの短剣は、男の剣であっさり折れ……いや斬れた。
「この剣は狙ったものは、なんでも斬ることの出来る魔剣だ。怪我したくなかったら、大人しくしてな!」
男は素早くライアンの胸ぐらを掴むと、踊り子達のとことろに放り投げる。
それを受け止めたのは、笛を操っていた踊り子……パイパーだった。
姿変えの魔法で黒に変えていた髪が、ライアンと同じ赤髪に変化する。
「よし、パイパー。そいつを連れて馬車に戻れ」
「母様……!?」
パイパーはライアンを抱きしめた。
「ごめん……ごめんね……守ってあげる事のできない母親で」
パイパーの手に握られた短剣に気付き、グレイが咄嗟に火蛇から鱗を剥ぎ取り、パイパーに投げる。
パイパーの短剣は急所を外れて、ライアンの胸の横を切り裂いた。
「ぐぁ……っ!」
痛みに傷口を押さえ、ライアンは膝を付いた。その頭から、ヴヴがころんと転がり落ちそうになるのを、なんとか受け止め、胸に抱える。
ぶぅー
ヴヴがライアンを心配するように鳴いた。
火蛇はまだ暴れている。だがグレイとアンソニーなら討伐できるだろう……ライアンはそう判断した。
そしてレベッカとヴェリタスの二人ががりの拳なら、きっとあと数発で、この結界に亀裂を入れれるはず。
パイパーは血の付いたナイフを見て、震えながら呆然としていた。
ライアンの瞳に、怪我に気づいたマグダリーナが駆けてくるのが見えた。
(守らなければ)
ライアンは強く思った。
(最悪、マグダリーナとアンソニーだけでも、どうにか、絶対に!)
となれば、いま一番排除すべきは、魔剣を持った男だろう。
「ライアン兄さん……!!」
「……上手く飛んでくれよ……」
ぶっ ぶーっ
マグダリーナが近づく前に、ライアンは自分にしがみつくヴヴをマグダリーナに向けて投げた。
そして痛みを我慢して、パイパーから己の血が付いた短剣を奪い、魔剣の男に向かう。
マグダリーナがヴヴを受けため時、ヴェリタスに襲いかかる男と、その前に立ちはだかる茶マゴーが見えた。
「チャー!!!!」
ヴェリタスは叫んだ。
チャーは真っ二つに斬られて、その切り口から再生スライム素材で出来た中味を、とろりと流していた……
マグダリーナ達はオーズリー公爵邸を後にすると、中央街へ確認へ向かうことにする。
今度はちゃんと、グレイも連れて。
件の一座の周りには、人だかりが出来ていてすぐにわかった。
年嵩の踊り子の周りを、十七から二十三歳くらいの若く美しい踊り子たちが円になって踊っている。その後ろに楽器を奏でる男たちがいて、中心の年嵩の踊り子は、両手に指輪から鎖で繋がれた球体の飾りを持っている。
あれが笛なのだろう。振り回される度に、鈴とは違う音が、途切れることなく踊りに合わせて音階を奏でている。
「すげぇ……」
ヴェリタスが思わず息を呑む。
マグダリーナとアンソニーも見惚れた。
だが、ライアンとレベッカだけが、静かだった。
「どうしたの?」
マグダリーナは二人の異変に気づいて、振り返る。
ライアンとレベッカは青ざめて震えていた。
「レベッカ?」
マグダリーナはレベッカの手を握った。
「どうして……?! 教国に行ってしまったって……」
その呟きに、マグダリーナの心臓は、一気に速さを増した。
ライアンが、マグダリーナとトニーを庇うように前に出る。ライアンの頭の上のヴヴも、興奮してぶっぶと鳴いた。
グレイも、直ぐに抜剣出来るように構える。
「母様……」
ライアンが、微かな空気を絞り出すように呟いたとき、笛を持った踊り子の視線が、こちらを向いた。そのくちびるが動く。
――逃 げ て――と。
「帰りましょう!!」
マグダリーナは声を落として、レベッカとアンソニーの手を取った。そしてその場を離れようとした。
だがその時、突然火蛇が二体現れる。
グレイが逃げ出す民衆から、子供達を庇うように覆い被さった。すぐに防御魔法も展開する。
以前、学園に熊師匠が現れた時も、犯人は流民だった……流民には魔獣を召喚する術があるのだ……マグダリーナはそう判断して、タマがうっかり火蛇に潰されないように抱きしめた。
「うわっ、離せよ!!」
いつのまにか若い踊り子達が、ライアンに群がって、連れ去ろうとしている。
「ねぇ、妹はどっち? 青い髪の子? ピンクの髪の子?」
「ライアン様!!」
「俺は大丈夫、グレイは火蛇に集中してくれ!」
ライアンは力任せに踊り子達を振り払うと、レベッカの元に行った。
アンソニーがもう一体の火蛇に向かう。マグダリーナは慌ててアンソニーとグレイの支援に回った。
レベッカとヴェリタスは、いつの間にか出来ている透明な壁を叩く。どうやら結界も張られたようだ。
「チャー、この結界から、転移で抜けられるか?」
チャーは首を横に振った。
「何処か綻びが出ないと無理そうです」
「そう、じゃあやるしか無いですわ」
レベッカは拳を握り締めた。
ドォォォォンと、レベッカの拳で結界が揺れる。
続けてヴェリタスも、身体強化をして拳を打つけた。
「なんだ?! くそっ」
楽器を演奏していた男の一人が、慌てて剣を取り出した。
「お前らはいつでも撤退出来るよう、準備しておけ!」
残りの男たちにそう指示して、レベッカとヴェリタスのところへ向かう。
「妹の方は、五体満足じゃ無くてもいいらしいからな」
狙いがレベッカと分かって、ライアンは短剣を構える。
「…………っ!!」
ライアンの短剣は、男の剣であっさり折れ……いや斬れた。
「この剣は狙ったものは、なんでも斬ることの出来る魔剣だ。怪我したくなかったら、大人しくしてな!」
男は素早くライアンの胸ぐらを掴むと、踊り子達のとことろに放り投げる。
それを受け止めたのは、笛を操っていた踊り子……パイパーだった。
姿変えの魔法で黒に変えていた髪が、ライアンと同じ赤髪に変化する。
「よし、パイパー。そいつを連れて馬車に戻れ」
「母様……!?」
パイパーはライアンを抱きしめた。
「ごめん……ごめんね……守ってあげる事のできない母親で」
パイパーの手に握られた短剣に気付き、グレイが咄嗟に火蛇から鱗を剥ぎ取り、パイパーに投げる。
パイパーの短剣は急所を外れて、ライアンの胸の横を切り裂いた。
「ぐぁ……っ!」
痛みに傷口を押さえ、ライアンは膝を付いた。その頭から、ヴヴがころんと転がり落ちそうになるのを、なんとか受け止め、胸に抱える。
ぶぅー
ヴヴがライアンを心配するように鳴いた。
火蛇はまだ暴れている。だがグレイとアンソニーなら討伐できるだろう……ライアンはそう判断した。
そしてレベッカとヴェリタスの二人ががりの拳なら、きっとあと数発で、この結界に亀裂を入れれるはず。
パイパーは血の付いたナイフを見て、震えながら呆然としていた。
ライアンの瞳に、怪我に気づいたマグダリーナが駆けてくるのが見えた。
(守らなければ)
ライアンは強く思った。
(最悪、マグダリーナとアンソニーだけでも、どうにか、絶対に!)
となれば、いま一番排除すべきは、魔剣を持った男だろう。
「ライアン兄さん……!!」
「……上手く飛んでくれよ……」
ぶっ ぶーっ
マグダリーナが近づく前に、ライアンは自分にしがみつくヴヴをマグダリーナに向けて投げた。
そして痛みを我慢して、パイパーから己の血が付いた短剣を奪い、魔剣の男に向かう。
マグダリーナがヴヴを受けため時、ヴェリタスに襲いかかる男と、その前に立ちはだかる茶マゴーが見えた。
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ヴェリタスは叫んだ。
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