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十二章 悪女
232. パイパー
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ショウネシー家の邸宅前に転移魔法で戻る。
そこには既にダーモットが待ち構えており、子供達をそれぞれ強く抱きしめていく。お腹の大きなシャロンに代わり、ヴェリタスをも。
そして、少し離れたところに、赤毛の女性が佇んでいた。パイパーだった。
ライアンとレベッカの無事な姿を見て、涙ぐんでいる。
ダーモットはそっと、ライアンとレベッカの背中を押すと、二人はパイパーの元に駆けていった。パイパーが二人を抱きしめて謝る声が聞こえてくる。
マグダリーナはとても複雑だった。パイパーはヘンリー・オーブリーを裏切り、教国の悪事に加担していたのだ。レベッカの本当の母親を殺したのも彼女だったはず。
だがああやっていると、本当に二人の子供を愛しているかのように見える。
「ただいまー、あーショウネシーで皆んなの顔見ると安心するー。あ、これお土産。メイティア王国付近に生息してる、ドゥドゥ鳥ね。いい出汁取れるし、消化の良い肉団子にしちゃおうか。プラ、蓮根育てられる?」
『ぷ!』
「あ、うちの敷地でお願いね」
『ぷぷ!』
エステラ、ニレル、ヨナス、ついでにドミニクとゼラが、それぞれ大きな鳥を背負って帰って来た。
なんだろう、この図は。お花摘みにも行きませんみたいな美貌のハイエルフ達が、背負って良いものじゃ無い気がする。
仔竜姿のゼラに至っては完全に獲物の腹に埋もれているし、ドミニクは立ってるのもやっとの状態なのに、ニレルは二羽背負っている。
一気に場の空気が緩くなった。
◇◇◇
マグダリーナはゆっくりお風呂に入り、久しぶりに思う存分身体を伸ばして横になることができた。
パイパーの事情は、夕食前には説明された。チグハグだった印象に納得はできたが、パイパーに罪を犯させていたのが、マグダリーナとアンソニーの血を分けた祖母だとすると、ますます頭痛がした。
その件に関しては、ダーモットはしっかりと、オリガはショウネシー家とは関係の無い他人だと言い切った。だからもし今後、彼女や彼女を知る誰かと接触する機会があっても、相手にしないこと、と。
そしてパイパーは、既にエデンの根回しで王様と話を通し、王都の神殿で女神教に改宗してショウネシーの領民になっていた。ひとまずショウネシー家に居てもらっているが、今後どうするかは明日話し合うことになっている。
◇◇◇
「皆さんには、本当に申し訳ない事を致しました」
翌朝、ショウネシー邸サロンでは、パイパーが床に膝をついて頭を下げていた。
ライアンとレベッカは戸惑い、ダーモットを見つめた。そしてダーモットは、マグダリーナを見つめた。
(え? もしかしてこれ、丸投げされてる?)
ああいや、パイパーがこの場にいる時点で、ダーモットはパイパーの事を許しているのだ。後はマグダリーナ達の気持ちの整理の問題だ。つまり。
(やっぱり丸投げだわ……)
マグダリーナはため息を吐いた。
「謝罪を受け入れます。そのかわり、私の質問に答えて貰えますか?」
「はい、何でもお答え致します」
「どうしてレベッカに、対価無しで回復魔法を使ってはいけないと言いつけていたのですか?」
「魔法は使えば使う程、強く、そして上達します。私はレベッカに聖属性の魔法を使って欲しくなかった……強い聖属性魔力を持つと知られれば、一生教国で聖女として奉仕させられる事になるから……」
なるほど。マグダリーナは心の中で頷いた。
「教国の聖女って、どういう存在なんですか?」
「教国を包む結界の維持をする存在です。聖女は毎日、その為に魔力を捧げます。それは魔法を行使して魔力を高めることと違い、命を吸い上げられるようなもの……苦痛を伴う奉仕です」
「ひどい……」
マグダリーナは思わず呟いてから気づいた。
教国はエリック王太子に、聖女を娶れと言ったけど、それは魔力という生命力を取り尽くした……言い方は悪いが、出涸らし女を当てがおうとしたのだ。
それから、マグダリーナは一旦目を閉じて、深呼吸した。
「パイパーさん、貴女はこれからライアン兄さんやレベッカとどうして行きたいの?」
「それは……」
今度はパイパーが目を閉じた。
「一生ショウネシー家にお仕え致します。どうか、ライアン様とレベッカ様の側にいさせて下さい。次こそは、この身に代えてもお守り致します」
「ダメよ」
キッパリとマグダリーナは言い切った。
その場の全員の視線が、マグダリーナに集まる。
「身代わりなんて誰も望んでないわ! 一緒に戦えるので無ければ、ライアン兄さんとレベッカの側には置けない! 早朝の朝練、そして熊の討伐。挑戦する気はありますか?」
パイパーは目を見開いて、マグダリーナを見た。そして、すっと頭を下げると、恭しく答えた。
「挑戦致します」
今度はライアンが狼狽えた。
「待って、俺は……その……もしかしたら、人では無いかも知れないんでしょう……母……パイパーさん。だったら」
「私が君を欲しいと言ったのだよ。忘れてはいけない、ライアン。何者でも関係ない、君は私の息子だ」
ダーモットは、ゆっくりと良く聞こえるように言った。アンソニーも頷く。
「人じゃないって?」
エステラが首を傾げるので、マグダリーナとレベッカが、踊り子から聞いた、ライアンの父親の話をする。大精霊の器として、歴代の教皇やハイエルフの亡骸から造られたことを。エデンとセレンは、珍しく同じ顰め面をしていた。
パイパーは当時を思い出して語った。
「ライアンは生まれた時、エルフだったんです。私は咄嗟にライアンに姿変えの魔法をかけて誤魔化しました。私がハーフだから、偶然純血が生まれた……ヘンリーは騙されてくれるでしょうが、ベンソンはそうも行かない……途方に暮れていた所に、クレメンティーンが来たのです。ゲインズ領の大魔法使いを頼れと……」
ハイエルフ達の目の色が変わった。
ゲインズ領の大魔法使いとは、エステラの師であるディオンヌのことに他ならない。
「私の生まれる前!」
エステラがニレルを見た。
「僕もその時は、この国に居なかった」
ニレルはエデンを見た。
「んっはは! 俺は何故かゲインズ領に入れなかった! ディオンヌが住んでたのに!」
「お師匠、エデンだけ出禁にする結界張ってたんだ……えっと、それで大魔法使いに、ライアンの姿替えを永続的なものにして貰ったの?」
「え……ええ、そうです。それから魔力の封印も」
食い気味のエステラに狼狽えながら、パイパーが答えた。
気づけば、ライアンは席を立たされて、ルシンに腕を持ち上げられたり、身体を捻ったりされながら、触診されている。
「こいつはディオンヌの本気の魔法がかかっている。聞いていても、さっぱり魔法の気配が分からん」
エステラも首を振った。
「ダメ、お師匠から引き継いだ記憶を見ても、ライアンに関しては鍵が掛かってる。でも、リーナとトニーのお母さんの記憶は見つけたわ。自分にかけられた呪いを解呪できないかって訪ねてきてる」
「お母さまが……」
そのとき珍しくダーモットが、話を中断させた。
「この件は一旦保留にしよう。とりあえずライアンは大魔法使いの魔法で守られているのだし。今日は学園に通った方がいい。こんな短期間で帰って来れたのは運が良い。公爵の風邪が移ったで誤魔化せる。きっと女神様の加護だよ」
ダーモットの言葉に、慌てて子供達は学園に行く支度を始めた。
子供達がサロンを後にしたのを確認して、エデンがティーカップを傾ける。
「正直今回、マグダリーナがライアン達に付いて行ったのが一番の功績だな。真っ直ぐ教国へ向かうはずの進路を変えて時間稼ぎをしてくれた。それに捜索には、マグダリーナとタマの繋がりは必須だった……あの子は運を引き寄せる何かを持ってるな。くはは」
それにパイパーがライアンに怪我をさせてしまったおかげで、看病としてレベッカとマグダリーナは荷物も取り上げられず、離れずにいられたのだ……。
そこには既にダーモットが待ち構えており、子供達をそれぞれ強く抱きしめていく。お腹の大きなシャロンに代わり、ヴェリタスをも。
そして、少し離れたところに、赤毛の女性が佇んでいた。パイパーだった。
ライアンとレベッカの無事な姿を見て、涙ぐんでいる。
ダーモットはそっと、ライアンとレベッカの背中を押すと、二人はパイパーの元に駆けていった。パイパーが二人を抱きしめて謝る声が聞こえてくる。
マグダリーナはとても複雑だった。パイパーはヘンリー・オーブリーを裏切り、教国の悪事に加担していたのだ。レベッカの本当の母親を殺したのも彼女だったはず。
だがああやっていると、本当に二人の子供を愛しているかのように見える。
「ただいまー、あーショウネシーで皆んなの顔見ると安心するー。あ、これお土産。メイティア王国付近に生息してる、ドゥドゥ鳥ね。いい出汁取れるし、消化の良い肉団子にしちゃおうか。プラ、蓮根育てられる?」
『ぷ!』
「あ、うちの敷地でお願いね」
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エステラ、ニレル、ヨナス、ついでにドミニクとゼラが、それぞれ大きな鳥を背負って帰って来た。
なんだろう、この図は。お花摘みにも行きませんみたいな美貌のハイエルフ達が、背負って良いものじゃ無い気がする。
仔竜姿のゼラに至っては完全に獲物の腹に埋もれているし、ドミニクは立ってるのもやっとの状態なのに、ニレルは二羽背負っている。
一気に場の空気が緩くなった。
◇◇◇
マグダリーナはゆっくりお風呂に入り、久しぶりに思う存分身体を伸ばして横になることができた。
パイパーの事情は、夕食前には説明された。チグハグだった印象に納得はできたが、パイパーに罪を犯させていたのが、マグダリーナとアンソニーの血を分けた祖母だとすると、ますます頭痛がした。
その件に関しては、ダーモットはしっかりと、オリガはショウネシー家とは関係の無い他人だと言い切った。だからもし今後、彼女や彼女を知る誰かと接触する機会があっても、相手にしないこと、と。
そしてパイパーは、既にエデンの根回しで王様と話を通し、王都の神殿で女神教に改宗してショウネシーの領民になっていた。ひとまずショウネシー家に居てもらっているが、今後どうするかは明日話し合うことになっている。
◇◇◇
「皆さんには、本当に申し訳ない事を致しました」
翌朝、ショウネシー邸サロンでは、パイパーが床に膝をついて頭を下げていた。
ライアンとレベッカは戸惑い、ダーモットを見つめた。そしてダーモットは、マグダリーナを見つめた。
(え? もしかしてこれ、丸投げされてる?)
ああいや、パイパーがこの場にいる時点で、ダーモットはパイパーの事を許しているのだ。後はマグダリーナ達の気持ちの整理の問題だ。つまり。
(やっぱり丸投げだわ……)
マグダリーナはため息を吐いた。
「謝罪を受け入れます。そのかわり、私の質問に答えて貰えますか?」
「はい、何でもお答え致します」
「どうしてレベッカに、対価無しで回復魔法を使ってはいけないと言いつけていたのですか?」
「魔法は使えば使う程、強く、そして上達します。私はレベッカに聖属性の魔法を使って欲しくなかった……強い聖属性魔力を持つと知られれば、一生教国で聖女として奉仕させられる事になるから……」
なるほど。マグダリーナは心の中で頷いた。
「教国の聖女って、どういう存在なんですか?」
「教国を包む結界の維持をする存在です。聖女は毎日、その為に魔力を捧げます。それは魔法を行使して魔力を高めることと違い、命を吸い上げられるようなもの……苦痛を伴う奉仕です」
「ひどい……」
マグダリーナは思わず呟いてから気づいた。
教国はエリック王太子に、聖女を娶れと言ったけど、それは魔力という生命力を取り尽くした……言い方は悪いが、出涸らし女を当てがおうとしたのだ。
それから、マグダリーナは一旦目を閉じて、深呼吸した。
「パイパーさん、貴女はこれからライアン兄さんやレベッカとどうして行きたいの?」
「それは……」
今度はパイパーが目を閉じた。
「一生ショウネシー家にお仕え致します。どうか、ライアン様とレベッカ様の側にいさせて下さい。次こそは、この身に代えてもお守り致します」
「ダメよ」
キッパリとマグダリーナは言い切った。
その場の全員の視線が、マグダリーナに集まる。
「身代わりなんて誰も望んでないわ! 一緒に戦えるので無ければ、ライアン兄さんとレベッカの側には置けない! 早朝の朝練、そして熊の討伐。挑戦する気はありますか?」
パイパーは目を見開いて、マグダリーナを見た。そして、すっと頭を下げると、恭しく答えた。
「挑戦致します」
今度はライアンが狼狽えた。
「待って、俺は……その……もしかしたら、人では無いかも知れないんでしょう……母……パイパーさん。だったら」
「私が君を欲しいと言ったのだよ。忘れてはいけない、ライアン。何者でも関係ない、君は私の息子だ」
ダーモットは、ゆっくりと良く聞こえるように言った。アンソニーも頷く。
「人じゃないって?」
エステラが首を傾げるので、マグダリーナとレベッカが、踊り子から聞いた、ライアンの父親の話をする。大精霊の器として、歴代の教皇やハイエルフの亡骸から造られたことを。エデンとセレンは、珍しく同じ顰め面をしていた。
パイパーは当時を思い出して語った。
「ライアンは生まれた時、エルフだったんです。私は咄嗟にライアンに姿変えの魔法をかけて誤魔化しました。私がハーフだから、偶然純血が生まれた……ヘンリーは騙されてくれるでしょうが、ベンソンはそうも行かない……途方に暮れていた所に、クレメンティーンが来たのです。ゲインズ領の大魔法使いを頼れと……」
ハイエルフ達の目の色が変わった。
ゲインズ領の大魔法使いとは、エステラの師であるディオンヌのことに他ならない。
「私の生まれる前!」
エステラがニレルを見た。
「僕もその時は、この国に居なかった」
ニレルはエデンを見た。
「んっはは! 俺は何故かゲインズ領に入れなかった! ディオンヌが住んでたのに!」
「お師匠、エデンだけ出禁にする結界張ってたんだ……えっと、それで大魔法使いに、ライアンの姿替えを永続的なものにして貰ったの?」
「え……ええ、そうです。それから魔力の封印も」
食い気味のエステラに狼狽えながら、パイパーが答えた。
気づけば、ライアンは席を立たされて、ルシンに腕を持ち上げられたり、身体を捻ったりされながら、触診されている。
「こいつはディオンヌの本気の魔法がかかっている。聞いていても、さっぱり魔法の気配が分からん」
エステラも首を振った。
「ダメ、お師匠から引き継いだ記憶を見ても、ライアンに関しては鍵が掛かってる。でも、リーナとトニーのお母さんの記憶は見つけたわ。自分にかけられた呪いを解呪できないかって訪ねてきてる」
「お母さまが……」
そのとき珍しくダーモットが、話を中断させた。
「この件は一旦保留にしよう。とりあえずライアンは大魔法使いの魔法で守られているのだし。今日は学園に通った方がいい。こんな短期間で帰って来れたのは運が良い。公爵の風邪が移ったで誤魔化せる。きっと女神様の加護だよ」
ダーモットの言葉に、慌てて子供達は学園に行く支度を始めた。
子供達がサロンを後にしたのを確認して、エデンがティーカップを傾ける。
「正直今回、マグダリーナがライアン達に付いて行ったのが一番の功績だな。真っ直ぐ教国へ向かうはずの進路を変えて時間稼ぎをしてくれた。それに捜索には、マグダリーナとタマの繋がりは必須だった……あの子は運を引き寄せる何かを持ってるな。くはは」
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