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十二章 悪女
233. 先輩……!!
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「心配いたしましてよぉぉ」
学園に行くと、真っ先にヴィヴィアン公爵令嬢が、豪華な縦ロールの髪を揺らして、マグダリーナとレベッカを抱きしめた。
「あたくしは回復薬をいただいて、すぐ元気になりましたのに、お見舞いに来てくださった皆さんが一週間も寝込んでしまったのですものぉ」
ダーモットと公爵の根回しで、そういう設定になっている。
「運悪くうちの魔法使いも諸用で出払っていて……ご心配おかけいたしました」
「元気になったのなら、何よりですわぁ」
ヴィヴィアン公爵令嬢のお声は、可愛らしくよく通る。
中央街での流民の結界は、中が見えないものだったらしく、魔獣が出た後、マグダリーナ達の状況を正確に把握できたものはいない。人々は、ヴィヴィアンの言葉を信じているはず。
「マグダリーナ・ショウネシー嬢!!!」
そこに意外な人物からお声がかかった。
マグダリーナを見つけた、背の高い高等部の男子が駆けてくる。
マグダリーナ達が知っている、高等部の男子生徒など、非常に数少ない。
先輩だ。
名前は知らないが、領地戦で知り合った魔法科の先輩だ。
「お久しぶりです先輩。そんなに慌ててどうしたんですか?」
これあれかな? ディオンヌ商会の魔導具融通して欲しいってやつ?
マグダリーナは一応、そう予想をつけてみる。
「マグダリーナ嬢の友人には、エリック王太子を虜にする程の、美しい少女が居るとか」
「ええ、まあ……」
というか、それ噂になってんの?
先輩は勢いよく、マグダリーナに頭を下げた。
「頼む! その女子を俺に紹介してくれ!!」
「えっと、彼女にはもう結婚を約束した人がいるので、残念ですが……」
紹介してと言うなら、当然男女のお付き合いの事だと思い、マグダリーナはお断り申した。
「そんな……それでもマグダリーナ嬢と同じ年齢ならば、流石にまだ一線は超えて無いはず……いや、美しい女子は……特に平民は蕾のうちでも手折られやすい……かくなる上は」
先輩は、ヴェリタスの肩をワシっと掴んだ。
「うぉ!」
ヴェリタスは仰け反って逃れようとするが、相手も気合が入っているので、逃げられない。
「アスティン、俺のためにドレスを着てくれ!!!」
「………………なんて?」
呆然とするヴェリタスを横目に、マグダリーナは冷静に手を挙げた。
「お化粧も必要でしょうか?」
「ああ、出来るだけ美しい少女が必要なんだ」
「……なんて?」
ヴェリタスはマグダリーナを見た。
「理由はわからないけど、ヴェリタスがドレスを着る機会を逃しちゃダメだと思うの」
「いや、止めてくれよ。そもそも俺、女じゃないし! 流石にユニコニスは騙せないだろう」
「「「「ユニコニス?」」」」
聞き慣れない単語に、マグダリーナとアンソニー、ライアンとレベッカも同時に聞き返えす。
とりあえず授業が始まるので、一旦先輩とは別れて、午後の授業後に詳しい話を聞くことにした。
◇◇◇
「えーと『ユニコニス』、一角魔獣馬の中でも、純白の色をした上位種で、清らかな乙女しか触れることができない、気位の高い魔獣です」
アンソニーが、図書館の魔獣図鑑から調べたことを、説明してくれる。
「清らかな乙女……だから先輩は、蕾がどうとか言ってたのね……流石にニレルはエステラが大人になるまで待つんだろうけど、判定するのはそのユニコニスなのよね? 私達とは感覚の違いとか無いのかしら?」
この世界、貴族なら家門が守ってくれるが、後ろ立てのない平民の、見栄えの良い女子は、残念なことに犯罪の的になり易い。マーシャとメルシャがそうであったように……
流民達と過ごした一週間で、マグダリーナは尚更この世界の治安の悪さを実感した。リーン王国はもしかしたら、大陸で一番治安が良い方かも知れない……
◇◇◇
学園のサロンは有料だが、仕切りごとに防音魔法がかかっていて、使い勝手が良い。
先輩とはそこで待ち合わせだ。
先輩と一緒に、なんとドロシー第一王女もいらっしゃった。
サロンに着くと、先輩が席までマグダリーナをエスコートしてくれる。高等部にもなれば、その所作も様になっていた。
テーブルに着くときも自然に椅子を引いて座らせてくれる。
ドロシー王女は、ヴェリタスがエスコートした。
「『ユニコニス』という、一角魔獣馬の中でも最上位種の存在が、王領のとある森に生息していますの」
口火を切ったのは、この中で一番身分の高いドロシー王女だ。
「彼は自身の杖を作る芯材に、ユニコニスの立髪を採取する許可を王宮に申請して、王宮の騎士を同伴に採取の許可が降りました。ユニコニスの命に関わる要請でもありませんでしたし……」
先輩が深く頷く。
「清らかな乙女の手助けが必要ということで、私とアギーも同行しましたの。ユニコニスにまで進化した個体は幻獣と呼ばれるほど。ちょっとこの目で見てみたいではありませんか」
「わかります!」
マグダリーナはドロシー王女の言葉に賛同した。
「それでユニコニスは、美しかったですか?」
ヴェリタスの何気ない疑問に、ドロシー王女は扇子を広げて顔を隠した。微かにをその肩が震えている。
「姿だけは」
「……姿、だけ」
ヴェリタスは繰り返した。
「ええ、姿だけ。あのお馬さん、私とアギーにこう言いましたのよ。『布と宝石で誤魔化した不細工どもめ、私に触れて良いのは、美しく清らかな乙女のみ。その衣服を脱ぎ捨て裸になるなら、私の世話を許そう』ですって……」
「え?! なんですかそのスケベ馬!」
マグダリーナは呆気に取られた。
ブロッサム妃はリーン王国三大美女の一人で、その娘であるドロシー王女とアグネス王女も申し分ない美少女だ。
因みに残り二人はシャロンとクレメンティーンだった。
つまりヴェリタスは三大美女のシャロン伯母様の美貌を受け継いでいるし、先輩がヴェリタスにドレスを着せようとしたのも、あながち間違いではない。性別以外は。
「やっぱり、馬の美的感覚は人と違うと思えば良いのでしょうか……?」
アンソニーが穏便な意見を出す。
ドロシー王女は首を横に振った。
「美貌と言えば、エルフ。私にはまだシーラという切り札があると思っていましたの……そしてシーラを連れて、ユニコニスの元に行きましたわ……ところが、あのお馬さん『美しいが、私が傅く程でもない。服を脱げば、私の世話を許そう』ですって……!」
マグダリーナは冷静に、先輩を見た。
「先輩、いくら幻獣でも品性が下劣なダメダメ馬じゃないですか。そんなのの立髪を大事な杖の素材にしていいんですか? もっと良い素材にしませんか? コッコカトリスの尾羽なんかうちに山ほどありますよ?」
先輩は項垂れた。
「正直そうしたい所だか、コッコカトリスは火属性。水属性の俺とは相性が……」
「リーナちゃん」
ドロシー王女が笑顔で声をかける。だが、その笑顔が珍しく、怖い。
「もうそういう問題ではないの。あのお馬さんは王女たる私達を侮辱したわ。何がなんでも、あの立髪を刈り取るしか無くってよ。エステラちゃんにお願いできるかしら?」
なるほど、表向きは先輩が動いてたが、この一件の本当の依頼者はドロシー王女なのだ。
マグダリーナは思案した。もしユニコニスがエステラにセクハラ発言したら、ニレルとエデンとルシンが口より先に手を出すに違いない。
「ユニコニスの命の保証は、出来ないかも知れません」
マグダリーナは正直にそう言った。
ドロシー王女は、王族の顔で頷いた。
「その時は、腹黒妖精熊のように、綺麗な剥製にして頂戴」
ドロシー王女は本気だった。
学園に行くと、真っ先にヴィヴィアン公爵令嬢が、豪華な縦ロールの髪を揺らして、マグダリーナとレベッカを抱きしめた。
「あたくしは回復薬をいただいて、すぐ元気になりましたのに、お見舞いに来てくださった皆さんが一週間も寝込んでしまったのですものぉ」
ダーモットと公爵の根回しで、そういう設定になっている。
「運悪くうちの魔法使いも諸用で出払っていて……ご心配おかけいたしました」
「元気になったのなら、何よりですわぁ」
ヴィヴィアン公爵令嬢のお声は、可愛らしくよく通る。
中央街での流民の結界は、中が見えないものだったらしく、魔獣が出た後、マグダリーナ達の状況を正確に把握できたものはいない。人々は、ヴィヴィアンの言葉を信じているはず。
「マグダリーナ・ショウネシー嬢!!!」
そこに意外な人物からお声がかかった。
マグダリーナを見つけた、背の高い高等部の男子が駆けてくる。
マグダリーナ達が知っている、高等部の男子生徒など、非常に数少ない。
先輩だ。
名前は知らないが、領地戦で知り合った魔法科の先輩だ。
「お久しぶりです先輩。そんなに慌ててどうしたんですか?」
これあれかな? ディオンヌ商会の魔導具融通して欲しいってやつ?
マグダリーナは一応、そう予想をつけてみる。
「マグダリーナ嬢の友人には、エリック王太子を虜にする程の、美しい少女が居るとか」
「ええ、まあ……」
というか、それ噂になってんの?
先輩は勢いよく、マグダリーナに頭を下げた。
「頼む! その女子を俺に紹介してくれ!!」
「えっと、彼女にはもう結婚を約束した人がいるので、残念ですが……」
紹介してと言うなら、当然男女のお付き合いの事だと思い、マグダリーナはお断り申した。
「そんな……それでもマグダリーナ嬢と同じ年齢ならば、流石にまだ一線は超えて無いはず……いや、美しい女子は……特に平民は蕾のうちでも手折られやすい……かくなる上は」
先輩は、ヴェリタスの肩をワシっと掴んだ。
「うぉ!」
ヴェリタスは仰け反って逃れようとするが、相手も気合が入っているので、逃げられない。
「アスティン、俺のためにドレスを着てくれ!!!」
「………………なんて?」
呆然とするヴェリタスを横目に、マグダリーナは冷静に手を挙げた。
「お化粧も必要でしょうか?」
「ああ、出来るだけ美しい少女が必要なんだ」
「……なんて?」
ヴェリタスはマグダリーナを見た。
「理由はわからないけど、ヴェリタスがドレスを着る機会を逃しちゃダメだと思うの」
「いや、止めてくれよ。そもそも俺、女じゃないし! 流石にユニコニスは騙せないだろう」
「「「「ユニコニス?」」」」
聞き慣れない単語に、マグダリーナとアンソニー、ライアンとレベッカも同時に聞き返えす。
とりあえず授業が始まるので、一旦先輩とは別れて、午後の授業後に詳しい話を聞くことにした。
◇◇◇
「えーと『ユニコニス』、一角魔獣馬の中でも、純白の色をした上位種で、清らかな乙女しか触れることができない、気位の高い魔獣です」
アンソニーが、図書館の魔獣図鑑から調べたことを、説明してくれる。
「清らかな乙女……だから先輩は、蕾がどうとか言ってたのね……流石にニレルはエステラが大人になるまで待つんだろうけど、判定するのはそのユニコニスなのよね? 私達とは感覚の違いとか無いのかしら?」
この世界、貴族なら家門が守ってくれるが、後ろ立てのない平民の、見栄えの良い女子は、残念なことに犯罪の的になり易い。マーシャとメルシャがそうであったように……
流民達と過ごした一週間で、マグダリーナは尚更この世界の治安の悪さを実感した。リーン王国はもしかしたら、大陸で一番治安が良い方かも知れない……
◇◇◇
学園のサロンは有料だが、仕切りごとに防音魔法がかかっていて、使い勝手が良い。
先輩とはそこで待ち合わせだ。
先輩と一緒に、なんとドロシー第一王女もいらっしゃった。
サロンに着くと、先輩が席までマグダリーナをエスコートしてくれる。高等部にもなれば、その所作も様になっていた。
テーブルに着くときも自然に椅子を引いて座らせてくれる。
ドロシー王女は、ヴェリタスがエスコートした。
「『ユニコニス』という、一角魔獣馬の中でも最上位種の存在が、王領のとある森に生息していますの」
口火を切ったのは、この中で一番身分の高いドロシー王女だ。
「彼は自身の杖を作る芯材に、ユニコニスの立髪を採取する許可を王宮に申請して、王宮の騎士を同伴に採取の許可が降りました。ユニコニスの命に関わる要請でもありませんでしたし……」
先輩が深く頷く。
「清らかな乙女の手助けが必要ということで、私とアギーも同行しましたの。ユニコニスにまで進化した個体は幻獣と呼ばれるほど。ちょっとこの目で見てみたいではありませんか」
「わかります!」
マグダリーナはドロシー王女の言葉に賛同した。
「それでユニコニスは、美しかったですか?」
ヴェリタスの何気ない疑問に、ドロシー王女は扇子を広げて顔を隠した。微かにをその肩が震えている。
「姿だけは」
「……姿、だけ」
ヴェリタスは繰り返した。
「ええ、姿だけ。あのお馬さん、私とアギーにこう言いましたのよ。『布と宝石で誤魔化した不細工どもめ、私に触れて良いのは、美しく清らかな乙女のみ。その衣服を脱ぎ捨て裸になるなら、私の世話を許そう』ですって……」
「え?! なんですかそのスケベ馬!」
マグダリーナは呆気に取られた。
ブロッサム妃はリーン王国三大美女の一人で、その娘であるドロシー王女とアグネス王女も申し分ない美少女だ。
因みに残り二人はシャロンとクレメンティーンだった。
つまりヴェリタスは三大美女のシャロン伯母様の美貌を受け継いでいるし、先輩がヴェリタスにドレスを着せようとしたのも、あながち間違いではない。性別以外は。
「やっぱり、馬の美的感覚は人と違うと思えば良いのでしょうか……?」
アンソニーが穏便な意見を出す。
ドロシー王女は首を横に振った。
「美貌と言えば、エルフ。私にはまだシーラという切り札があると思っていましたの……そしてシーラを連れて、ユニコニスの元に行きましたわ……ところが、あのお馬さん『美しいが、私が傅く程でもない。服を脱げば、私の世話を許そう』ですって……!」
マグダリーナは冷静に、先輩を見た。
「先輩、いくら幻獣でも品性が下劣なダメダメ馬じゃないですか。そんなのの立髪を大事な杖の素材にしていいんですか? もっと良い素材にしませんか? コッコカトリスの尾羽なんかうちに山ほどありますよ?」
先輩は項垂れた。
「正直そうしたい所だか、コッコカトリスは火属性。水属性の俺とは相性が……」
「リーナちゃん」
ドロシー王女が笑顔で声をかける。だが、その笑顔が珍しく、怖い。
「もうそういう問題ではないの。あのお馬さんは王女たる私達を侮辱したわ。何がなんでも、あの立髪を刈り取るしか無くってよ。エステラちゃんにお願いできるかしら?」
なるほど、表向きは先輩が動いてたが、この一件の本当の依頼者はドロシー王女なのだ。
マグダリーナは思案した。もしユニコニスがエステラにセクハラ発言したら、ニレルとエデンとルシンが口より先に手を出すに違いない。
「ユニコニスの命の保証は、出来ないかも知れません」
マグダリーナは正直にそう言った。
ドロシー王女は、王族の顔で頷いた。
「その時は、腹黒妖精熊のように、綺麗な剥製にして頂戴」
ドロシー王女は本気だった。
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