ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

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十二章 悪女

235. ユニコニス

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「また来たのか。懲りもせず」

 夢のように美しい湖の畔に、夢のように美しい、白銀に輝くユニコニスがいた。
 マグダリーナもレベッカも、その美しさに、悔しいが見惚れるしかない。

 そこへ美しい竪琴の音が響く。エステラだ。昨日セレンと一緒に作っていた曲を奏でる。
 エステラの透明な歌声が、竪琴の音と共に風に乗って、光に溶けてゆく。

《深き緑の湖の畔に 孤独なユニコニス
たった一頭で星降る夜を 幾たび過ごす
彼に寄り添う魔獣はおらず
彼の声聞く妖精もない

深き緑の湖の畔の 孤独なユニコニス
ある日白き腕(かいな)の 乙女に出会う
乙女は優しく彼に触れ
やがて彼は乙女の膝に眠る

深き緑の湖の畔の 乙女とユニコニス
乙女は白き腕(かいな)で 彼に手綱をつけた
彼は動けず成すがまま
乙女の白き腕(かいな)は ユニコニスの血に染まる》

 それはユニコニスが、素材狙いの乙女に狩られる歌だったが、当のユニコニスは、歌詞の内容よりもエステラの美貌に見惚れていた。

 エステラは新年に着る白い衣装に、黄金で象嵌された白い竪琴を持ち、女神の光花で髪を飾っている。まさに天使か精霊かという姿で、何故か肩にはタマを乗せていた。
 何故かタマを。

 ヒラとハラとモモは、麻袋を持って、マグダリーナ達の横で待機している。残りの白色竜種トリオはユニコニスを警戒させない為に、ニレルと一緒に王都の工房で待機中だ。

 エステラはユニコニスにゆっくり近づく。明らかにユニコニスはそれを待っていた。そわそわと毛繕いしながら。

「美しき乙女よ。其方になら私の世話をさせてやろう……さあ、服を脱ぐがよい」
 ユニコニスの鼻息は荒い。

 エステラの身につけている物は、全て浄化済みで穢れの心配は一切ない。
 マグダリーナは、タダのダメダメ馬だと判定した。エステラもそうだろう。

 エステラは呆れを含んだ眼差しで、ユニコニスを見た。
「……素っ裸になるのは貴方の方よ」

 エステラが手を掲げると、魔法の光がユニコニスを包み、あっという間に全身の毛を……無くしてしまった。
 そして三色スライムの持つ麻袋に、ととのえるの魔法で綺麗にされたユニコニスの毛がどっさり入る。

 見たか、変態スケベ馬よ。
 これが脱毛魔法の第一人者たる、エステラの力だ。

「なに!?」
 慌てるユニコニスに、タマが飛び付いた。
「かぷっとして、ちうー!!」


「タ、タマちゃん!!」
 心配になってマグダリーナが飛び出そうとするのを、アンソニーとヴェリタスが止める。

「大丈夫です、お姉さま。タマちゃん吸血を覚えてから、かなり丈夫になってますから」
「なんて?」
「吸血だよ。リーナ達を捜索してる間に覚えたスキルな」
「……なんで?!」

 ユニコニスにくっついている、タマの身体がみるみる膨れていく。
 ユニコニスがふらりと膝を付くと、タマは離れた。

「み……漲るぅ~」
 タマは真紅に輝くと、一瞬で元の大きさに戻り、元気にマグダリーナの元へ跳ねて来た。

「リーナ! タマ進化したー」
「え?! 本当だわ。ハイスライムになってる!!」

 マグダリーナは鑑定でタマを確認して、喜んだ。
 だが鑑定画面に気になる表示があったのは、帰ってから確認することにする。

 エステラと入れ替わり、ドロシー王女が伏したユニコニスの側にいく。そしてタマと入れ替わるように、ヒラも。

 ドロシー王女は、ユニコニスの角を踏み付けた。
「私に従いなさい。さもなくば、貴方の醜態が王国中の魔獣に知れ渡ってよ」

 普段嫋やかで優しいドロシー王女だが、怒ると威圧感が半端ない。
 もしかして一番セドリック王に、中身が似ているのはこの王女かもしれない……マグダリーナはエリックとバーナード、二人の王子の顔を頭の中に浮かべてみたが、今のドロシー王女に敵う気はしなかった。

 ユニコニスは悔しげに唸る。
「其方のように凡庸な顔の娘になど……」
 鋭く風を切る音がして、ユニコニスの角が根元から切り落とされた。素晴らしい剣の腕前である。
 剣を手にしたドロシー王女は、そのまま剣先を、ユニコニスの首に向ける。

「この湖の畔にいたのはユニコニスだと思っていたけれど、全く違ったようですわ」

 ポロロンとエステラは竪琴を爪弾く。
 ドロシー王女は、毛も角も無くした哀れなユニコニスを、冷淡に見下す。
「彼女の身につけている物は、全て聖別された清らかなもの。それを脱げとは、本物のユニコニスなら言うわけがなくってよ。しかも、神獣の主に向かって」

 エステラは始めに歌った歌の最後の一節を歌う。
 乙女の白き腕(かいな)は ユニコニスの血に染まる……と。

「それに角を無くして毛も無くした、滑稽な姿の貴方に、人の乙女の容姿を判じる資格は無いはず。王女の名にかけて成敗致しましょう、醜い魔獣よ。それとも命乞いしてみますか? 貴方の態度次第では、私に仕えることを許してあげても、よろしくてよ」

 ユニコニスはブルブル震えて、ドロシー王女とその側にいるヒラを見比べた。
「今晩、馬刺しぃ?」
 ヒラがあどけない仕草で、ユニコニスを見る。

 ――――とうとうユニコニスは、屈服した。ドロシー王女に。
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